「……申し開きがあるなら、聞きましょう」
なんでだ。どこで間違えた? 血の教祖は強い、だからそれ相応の戦力を貰ったはずだ。ヤツにはミサイルランチャーまで使ったんだ。ドローン爆撃でもなんでもしたはずだ、最低でも300人は兵士がいたはずだ。それが、なぜ俺一人だけになっている!?
咄嗟に走り出し、なにかぬるりとしたものが俺の身体の行く手を塞いだことに気がついたのはそれに触れてから。
「ひっっっ……!」
「ないようですね」
「待ってくれ! 何が望みだ!?」
そこで、目の前のソイツは酷く薄らいだ感情の瞳をかっぴらいて一言、俺に告げる。
「あなたの命」
「……〜っ!! 俺がこんなところで死、死んでたまるかァっ! 俺はカイザーコーポレーションの……!!」
目の前に立つ魔王は笑った。『やっとか』と言わんばかりに。
「やーっぱり、カイザーだ……カイザーコーポレーションだけ、私を狙う理由が
「は……か、カイザーの情報ならいくらでも喋る! 喋るから助けっ」
魔王はにこやかに俺の前に槍を突きつけ、黙れ、としてみせた。
「いいですか? あなたに選択肢はありません……情報を吐き出して楽に死ぬか、犬らしく忠義を守った先で私に死という褒美を願うか……選んでみせろ」
そうして、魔王は極限の二択を突きつけて。
「めぼしい情報はなし……と」
情報をかきあつめた後、横薙ぎに一閃してオートマタの首を断った魔王……朝君アミは、一言。
「次」
朝君アミはブラックマーケットに存在していた自身にターゲットを定めていた身の程知らずたちを単騎で撃破していった。
その日壊滅し、二度と復帰できなかった裏稼業の者たちは実にブラックマーケットの闇依頼を受ける者たちの2割に達したといい、正しくそれはブラックマーケットに対する君主の君臨であったようだ、と後にブラックマーケットの人々は語った。
が、まあそんなことは些事にすぎない。アミにとってはそれくらいは挨拶だ。そして目の前に現れた存在には正しい意味の挨拶を。
「アミ、おはよう」
「先生! おはようございます、朝から会えるなんて嬉しいですね。神に感謝を……!」
翌日、何事も無かったかのように腕を引きちぎって先生に会えた喜びを示し、腕を生やしてからアミは先生の話を聞くに至る。
「で、どうしたんですか? まさかなにかあったわけでは……」
「あーその、うん……一回目の試験、合格は一人だったよ」
「浦和さんですか? やはり彼女、賢いですか「2点」……え?」
瞬間、先生が目を閉じて、深呼吸して、アミを真っ直ぐに見据えて。
「ハナコの得点は、2点だ」
アミは天を仰いだのだった。わざわざ仕込んだ、2度の妨害が根本から無意味なものになっていくのをアミは感じていた。
「……はぁ……そ、そうですか……その様子ではその、大丈夫なのですか……?」
「私に出来ることを私は精一杯やるつもりだよ」
「大丈夫じゃないんですね。わかりました」
アミはそう言ってから、先生に缶コーヒーを手渡す。
「それ、どうぞ。私の好みなんです。ドンのブラック」
「お、ほんとだ……私も好きだよ、ドンのブラック」
先生がプルタブを捻り、コーヒーを流し込む様子をアミは少し恍惚とした様子で眺めてから、んん、と切り替える。
「さて、先生。あとの細かいことはレイに任せてありますが、彼女はどうですか?」
「本当に優れた教師役だと思うよ。掛け値なしで頭のいい子だ……問題があるとすれば君への執着くらい?」
「……育て方を、間違えたんです。アレ忠誠心がバグったバケモノなんです……というかハッキリ言いますと私の教団の司祭の半分くらいは私が間違えたから責任取って面倒見てる人です……」
「……えぇ?」
指折り数えていく。司祭の半分に、教団直属兵『血の指』のメンツを足して……
「うん。見なかったことにしましょう」
「諦めた……」
アミはその先を諦めた。もう既に指が足りなくなっていたから。
「それでは、頑張ってくださいね」
「うん、ありがとうアミ」
「で、今晩いかがですか?」
「うん、ダメ」
「そんなご無体な……」
相変わらずのやりとりに肩を落として去っていくアミは、しかしながら楽しげであった。
その後はアミの関われないことばかりであり、また、ナギサとアミが胃を痛めることばかりであった。
合宿に向かうことになった補習授業部。目付け役にレイをつけたのに、みんなで楽しく遊ぶさまがレイの定期報告で確認されたり。
水着パーティーなるトチ狂った行いをレイも巻き込んで行ったなどとやはり報告されたり。
美食研究会がトリニティに侵入したのを『たまたま』深夜巡回中のハスミたちが撃破したという報告の裏に、先生の影が見えたり。
「あの方たちは……なにをされているのですか……!」
「私たちがまず最初に面倒事に巻き込むようなことをしたとはいえ、巻き込まれすぎです……少し、手を緩めますか?」
「……いえ、アミさんの方はそのままで。むしろ、2度目を確実に落とさせて3度目に対する態度で測りましょう」
ナギサの言葉に頷いてみせて、2度目の妨害に彼女は全力を尽くしていた。
その結果、ゲヘナに用意された試験場に命からがらといった様子で辿り着いた補習授業部は美食研究会及び風紀委員会の戦闘の余波でテスト用紙紛失のため0点、ということになる。
これには、先生からもレイからも大きな抗議がされることとなった。
「教祖様……アレは、問題です。あんなことが許されているのですか!?」
「レイ。入れ込みすぎです……あなたの役目は目付け役であって、全員合格を目指す先生役になれとは言った記憶がありません。気にするな、と言っておきます」
「っ……! はい……すべては、御心のままに……」
「よろしい……下がりなさい。……全てが終われば、あなたにはしっかりと説明の責務を果たします。あなたは今を全うしなさい」
レイからの抗議は穏当だったが、先生からの抗議に関してはナギサは相当大変だったようで。
「疑心暗鬼の闇の中から救い出してみせる、とまで言われてしまいました……」
ナギサはこの時にはアミと甘いスイーツを嗜むようになっており、すっかり『友人』としての立場を確立したアミに、ナギサは微笑みまで見せるようになっていた。
「それはそれは、熱烈なお言葉ですね。私も言われてみたいなー、いいなー、とはなりませんが」
「ふふ、違いありません。さて……大詰めに入りますね」
「そうですね、ミカさんが動くなら、間違いなくここ。事実、私のネットワークがミカさんの外出量の増加を記録しています」
ナギサは頭を抱えながらも、それでもアミにあとを託した。
「どうかお願いします、アミさん。ミカさんがもはや裏切り者であると、状況的に考えざるを得ないこの盤面下。あなただけが私を守りうる存在です」
「……ツルギね……んんっ! ツルギ委員長もたぶんティーパーティーの権限による戒厳令で動けなくなりますからね。やってみましょう……ですが、あとあと大変ですよ? これ」
楽しそうにアミは笑う。ナギサが自分に頼む、ということがどういうことか理解しているのか? と冗談めかして笑ってやると、ナギサは致し方のないことですし、とぼやいた。
「私だって立場的には頼りたくないところですので……そうですね、借りひとつとか?」
「ふふ、じゃあ今度先生をお茶会に誘っておいてください。私が勝手に乱入した体で飛び込みます」
「おや、それでいいのですか? もっとえげつないことを頼まれると思っていたのですが」
アミはにこやかに笑って、一言。
「
ナギサはそこに込められたどろりとした熱情に、ふと補習授業部の現在の部長、ヒフミへとナギサが向ける偏愛に近いものを感じ、こう呟いたのである。
「……付き合ってみないと分からないものですね。人間味だらけじゃないですか」
さて、ここでナギサとアミが立案した作戦を見ていこう。
ナギサは第79番セーフハウスにてローテーション通りに待機し、襲撃を待つ。侵入しうる経路は3つ、ひとつの経路はティーパーティーの人員を多めに割いて強行突破を難しく。ひとつの経路は人員をあえて極めて少なくし、誘いを感じさせて躊躇わせる。そして、最後の経路は脱出路……その場を作ったナギサと、そして彼女に最も近い友でもあったミカとセイア……今はもう、ミカとナギサだけが知る、秘密の経路は、開けておいた。
ナギサの他にはミカだけが知っているこの通路を開く暗号が用いられた時、アミの仕込んだ『血の蝿』が通報装置として起動する。
既知の機械ならば対策されうるそれでも、未知の祈祷によるものならば対策のうちようはあるまいとは、悪い顔をしたアミの言葉であった。
「祈祷が発動しさえすれば、それで特定は済んでます。私はじめ、血炎教団で応戦しましょう」
「……やはりあなた、なにかと便利ですよね……」
「こればかりは神に感謝を、と言わざるを得ません……万能ではありませんが、十徳ナイフと比較できるくらいには手札の量がありますからね……」
このふたりだけの会議の裏で、当然補習授業部による『作戦会議』も行われていた。
アズサが己の罪を告白し、皆がそれを許し、アリウスという存在がついにその存在をアズサの手によって暴かれ、その襲撃を阻止せんと勇士達が立ち上がる。
その一連の会話を全て『血の偵察兵』によって聞いていたレイは静かに立ち上がり、外に出ようとして……
「動くな」
「…………っ!」
後頭部にアサルトライフルの銃口をぐりっと押し付けられていた。振り向かずとも分かる、アズサの気配。これにすら気付かなかったのか、とレイは己の未熟を恥じた。
アミは血の偵察兵から視界を獲得できるが、レイにはそれはできない。集めた声を聞くこと以外にレイにできることはなかった。それでもアミ曰く『異常な才能』なのだが。
「こそこそと、なんのつもりだったんだ?」
「私は血炎教団の司祭です……アミ様にお伝えできることはしませんと」
「すまないが、今だけは報告は避けてくれると助かるな……会話を聞いていたなら分かるだろう?」
アズサはハナコが会議の最中、紙に書き付けた『アズサちゃん、レイさんの様子を見てください』という文字列に反応し、あまり発言しない性質もあって自然にかつ内密に離席。
ハナコとコハルの
「そうですか……アズサさん、私に協力できることはありますか?」
「……なにをするつもりだ?」
「お話はここで聞いていました。敵はアリウス、血炎教団全体を動かす訳にもいかないでしょうが、私もひとかどの戦力であるという自負はあります」
アズサはその言葉を聞いて、仕方ないとばかりため息をついた。
「私には判断しにくいところだ……電話でもしてみようか」
その後、ハナコと先生の意見として参加してもらうということになり、レイもまた補習授業部の副担任としてその身を投じることとなって、いよいよナギサのセーフハウスへ突貫の時が近付いていた。
「使うルートは……ここだ。サオリ……スクワッド、私の元いたところのリーダーが言っていた。この裏の脱出路から進行する」
「罠の可能性は?」
「信頼できる情報源からの情報、だそうだ。罠はない」
かくして、翌日の夜。
裏口の脱出路へと向かい、サオリに告げられた暗号を用いようとした補習授業部の面々は、レイがそれを静止することでその動きを止めた。
「教祖様の気配を感じます……それに、大いなる神の気配……間違いありません、これは『血の祈祷』……どうして? 何をされているのですか、教祖様……?」
レイは、口から漏れる教祖への疑念を信仰の一心に塗り潰そうとしながらも、皆へ警告した。
「教祖様とナギサ様は協力関係にあるのかもしれませんが……ひとまず、この祈祷は私が解除します。これは血の教団で用いる発動すると祈祷の祈り手に特殊な感覚を与える祈祷でして、ようは通報装置の役割を果たします」
「なるほど……ナギサの身を守っているのでしょうか」
「分かりません……ですが、私たちがやることに意義があります」
そうして、安全に通知なくその場を突破した面々は、ナギサの前にハナコだけが姿を見せる。
「そんなにセーフハウスをとっかえひっかえ……夜も眠れないほど不安ですか?」
「……浦和、ハナコさん……? ここへは、どのように? 外には兵も立てたはずですが」
「排除させていただきました」
「裏切り者は、二人いた……?」
「二人……アズサさんには気付いておられるのですね」
ナギサが微妙にハナコとすれ違う会話をし、だがそのすれ違いに誰も気付くことはなく。
「ナギサ……悪いけど、来てもらう」
「我々のボスからは伝言があるのです。『あはは……楽しかったですよ、ナギサ様とのお友達ごっこ』と♪」
「な……!!」
バカな、補習授業部全員が裏切り者なのか? そんなわけは無い、とナギサは頭を回転させる。精神的な余裕をヒフミ以外にも持てていた今のナギサにしかできない、高速な脳の回転。
しかし、『実は補習授業部に潜入中のアリウスだった生徒がいて、補習授業部が先にナギサの身柄を抑えることで安全を保証する作戦を立てており、最初の罠の解除など、レイもそれに加担したが故に教祖アミは今の状況に気付いていない』という盤面を正確に把握することはさすがの彼女にも不可能だった。
或いは、ミカが敵かもしれないと考える余地がなければ、もっと余裕のできたナギサは、結論にたどりつけたのかもしれない。
だが、それはたらればでしかなく。
ナギサの推論は、『裏切り者の勢力に、補習授業部が全員加担していた』という結論に終わる。
「……あぁ、私は……」
「アズサちゃん」
「あぁ、任せてくれ」
ワンマガジン分の弾丸を叩き込まれ、大人しくナギサは意識を手放した。
(すみません、アミさん。事態は想定の上を行くようです……)
倒れたナギサを運び出し、外に連れていく補習授業部の面々を見ながら、先生はふとひとつの事柄を思い出した。
「マーキング、か」
己の左肩に今なおついているそれを。
「なるほど」
アミは、セーフハウス近くに新たに築いた地下儀式場で、頷いていた。
「気付かれましたね」
マーキングには、もうひとつ意味がある。それは、『血の偵察兵』のロケーション、というものだ。『血の偵察兵』はこちらから操ってやることができない。また、頭脳は虫だけあって劣悪だ。
だから事前に、マーキングをどこかしらに刻んでおいて、その周辺に蚊たちを撒く、といったことでアミは情報を得ていた。
そして、マーキングを先生の身体に刻み込んだ、ということは蚊たちの道標として先生は登録されているということ。
彼女達の行動は1から10まで、アミに認識された上で見逃されていたのだった。
「ごめんなさいナギサ……私は使えるものはなんでも使う主義なんですよ。直接の防衛は私がやることじゃなくなった、都合がいい……このまま、私はアリウスとやらを迎撃する……いや、あえてピンチヒッターとして飛び出してみましょうか。うん。それがいい……その方が、都合がいい」
アミの最も恐るべきところ。それは、躊躇いのないことだ。死ぬかもしれない、多くの血が流れるかもしれない、アミはそれを許容する。死ね、血を流せ、数多崩れ折れ散りゆくもの達の道の果て、神は待っているのだから。
恐れることは、なにひとつない。それが、例え他人の命でも、自分の命でも、彼女にとって命とは神より優先するものでは無い。
痛みなど、あえて語る必要もあるまい。彼女に、なるべく被害を抑えるという気持ちは微塵も存在しない。その血が、その命が、神に捧げる供物となる。
「さあ、『血の指』たち。私が目をかけた大バカ共。仕事の時間です……辺りをうろつくアリウスとやら、みんな掃き捨ててしまうといいです」
「「「はっ!」」」
翁面を身につけた女、竜の意匠の施された仮面を纏う女、妙におぞましい全身を黒のローブで染め上げた女。『血の指』、彼女の誇るべき私兵にしてアミが育てるのをまたミスった3人が、3人共に声を上げ、その場で立ち上がり、各々の方面に歩み出したのを見届けてから、アミもまた歩み出す。
「私が、あなたを焼くか。あなたが、私を討つか。楽しみです……」
その網膜の裏、血の偵察兵が齎す情報内。
指揮者のように悠然と、白いコートにガスマスクの生徒たちの前を行く一人の女。
「聖園ミカ!」
情報の内の魔女が、こちらを見つめているような。そんな気がした。
ギッチギチにイベントを詰め込む者
今日の設定コーナーは2本立て!
・血の偵察兵
練度不足だと視界までは無理、なのではなく、そもそも視界が使えるのがおかしいだけ。深谷レイは悪くない……!
・血の指
まあ翁とエレオノーラとカラス山なんですけど、深掘りはないです。便利に出てきては便利に活躍して特にあんまり説明もなく帰るタイプの戦闘狂3名です。基本的には今回のようにアミの露払いをしています。はい。
次回更新、お時間をいただく可能性があります。仕事がヤバいので。
それでもお待ちいただける方はついでに感想とか評価とか貰えるとモチベによって仕事の合間合間の休憩とかで書き進めることができるので助かります。
それでは今回もありがとうございました。