fragment de brouillard グリモア〜私立グリモワール魔法学園〜 作:magenta0827
ー初めてのクエストに出るあなた
相手は危険な【霧の魔物】です
どうかくれぐれもお気をつけてー
ーー2014年 8月14日 《私立グリモワール魔法学園》行きのバス内
《私立グリモワール魔法学園》ーー通称《グリモア》は日本の埼玉県風飛市にある魔法学園であり、世界に6つ魔法学園のうち、唯一の私立。
少年が通う事になるこの学園は立地条件的に日本人が多くの割合を占めているが、他の学園からの留学生が多い。
少年は風飛市の中心街からバスでこの学園に向かっていた。
朝早い時間だからか少年以外にバスの乗客は居ない。
初めはビルや整えられた街路樹などが立ち並ぶ都会の風景だったが、学園に近づけば近づくほど風景に緑豊かな自然のものが多くなっていく。
バスに揺られる事約30分。
整備が整った山道を走るバスの中で少年は流れていく木々をボーッと眺めていた。
バスの心地良い揺れに少年の意識が徐々に夢の世界へと近づいていく。
が、そんな少年の目を覚まさせる様に真夏の朝の日差しがバスの窓を貫いた。
「うっ…!」
眩しくて少年の視界が眩む。
眩んだ視界が戻るとバスの窓から古風な城の様な建物が見えた。
「(調べた通りだけど、全然日本らしくないな)」
グリモアのヨーロッパ風の城の外見に関しては《初代学園長がヨーロッパのとある財閥の豪邸をそのまま移設した》という豪快な逸話が残っており、その血を引いている現学園長も齢100近い老人だが相当なやり手だという事が言われている。
学園の前にあるバス停にバスが停まり、少年はバスを降りようと乗降口に近づく。
「君、見ない顔だね?」
「?」
バスの運転手である人の良さそうなおばちゃんが少年に話しかける。
「ひょっとして新しく来た転校生かい?」
「はい、そうです」
「そうかい。魔法使いは女社会だからね。バカやる男友達は中々作りにくいだろうけど頑張るんだよ」
「…ありがとうございます。頑張ります」
遠ざかっていくバスを見えなくなるまで見送ると少年はグリモアへと足を運んでいく。
そうしてグリモアの正門に辿り着いた少年を出迎えたのは……
「私立グリモワール魔法学園にようこそ!君が噂の転校生だな、俺は進路指導官の兎ノ助だ。これからよろしくな」
少年の目線の程の高さに浮かんでいる文字通りの喋る兎のぬいぐるみだった。
「……………は?」
残っていた眠気が驚きで吹き飛んだ少年はそう言うのが精一杯だった。
いや、それよりーー
「進路指導官…?先生ってこと?」
「ん?おおよ!女生徒達のお父さんと呼ばれてる兎ノ助とは俺のことよ!」
「(お父さん…?)」
信じられないがどうやら目の前に浮かんでいる兎のぬいぐるみは学園の教師であるらしい。
それにしても可愛らしい白い兎の見た目に対して低くてダンディーなイケボが相反していて違和感が凄い。
「さて、まずは生徒会室に案内したいんだが…智花のやつ遅いな…なんかあったのか?悪いな転校生、ちょっと待っててくれ」
兎ノ助の言葉に少年ーー《転校生》は頷くと正門を抜けてすぐにある噴水の前にあるベンチに腰を下ろしてボーッと空を眺める。
「(なんか、ボーッとしてて眠そうなヤツだな…大丈夫か?)」
「…ちょっと聞いていい?」
「ん?なんだ、転校生」
「ぬいぐるみ?それともロボットかなにかなの?」
転校生が兎ノ助について大雑把に質問する。
魔法が当たり前に浸透しているこの世界でも《喋るぬいぐるみ》のインパクトは大きいのだ。
「俺か?俺は昔死んだ魔法使いの人格を移植された機械だ」
「……はぃぃ?」
兎ノ助のあまりにSFじみた解答に転校生の口から間抜けな声がでる。
「そんな古臭い漫画じゃあるまいし……」
「って、俺もそう思うんだけど俺がここに居るのは事実だしなぁ…50年はここで進路指導官してるし」
「ごじゅう…!?(全然大人っぽくないな…)」
転校生が兎ノ助に対して失礼な事を思っていると2人の後ろから駆け寄って来てるであろう足音が聞こえてくる。
「はぁっ…はぁっ…!兎ノ助さーん!!」
「ん…おっ、智花!案内役なのに遅れるなよな!」
オレンジ色の大きなリボンが特徴的な女の子が息を切らしながらやって来た。
グリモアの特徴的ともいえる青を基調とした軍服の様な制服を着ていることから生徒の1人なのだろう。
「す、すいません。その…クエストが発令されちゃって」
「え?マジで?」
「はい。今から魔物退治に行かないといけないんですが…」
魔物退治という言葉に眠そうな表情でボーッとしていた転校生の表情が真面目なものに変わる。
「ふーん。ちょうどいいや。クエスト案内がてら、転校生も連れてけよ」
「ええっ!?そんな、危険ですよ!まだ魔法の使い方を知らないのに…」
「まぁまぁ。そんな強い魔物じゃないんだろ?」
「はぁ、えっと…だ、大丈夫なんですか?」
「遠くから見てるだけでもいい。クエスト行くのは早い方がいいからな。それに……」
兎ノ助が転校生の方に顔を向ける。
それに対して転校生は「ん?」と首を傾げる。
「智花も聞いてるだろ?コイツの体質。魔法が使えるとかは気にしなくて大丈夫だ」
「う、うぅ……わかりました」
「よし……転校生!」
「?」
咳払い(どう見てもぬいぐるみなのにどうやって咳をするのかは謎)をして兎ノ助は話し出す。
「君の魔法使いとしての人生はここから始まる!頑張れよ!応援してるぜ!」
「うん。ありがとう、出来る限り頑張るよ」
「そ、それじゃあ行きましょうか!」
兎ノ助に見送られながら智花と転校生の2人はグリモアを背にして歩き出す。
「あ、そうそう…!転校生さん!」
「ん?」
「私立グリモワール魔法学園にようこそ!よろしくお願いしますね!」
「うん。こっちこそよろしく智花」
屈託のない笑顔で手を差し出した智花とそれにつられて口元に笑みを浮かべた転校生は握手を交わした。
「えーっ、コホン!……本当ならわたしが学園のするはずだったんですが、ちょっと順番が変わっちゃって…すみません、いきなりクエストになっちゃいました。クエストは独特な授業なので、行きながら説明しますね」
「うん。お願いします」
「でも出発する前に、クエストは受注する必要があります。
手順を案内するので、デバイスを出してもらえますか?」
「デバイス……?」
「…あ、デバイスって要するにケータイのことで…」
「僕、そんなの貰ってないけど…」
「え?ま、まだ支給されてないんですか!?」
「うん」
「デバイスが無いとクエストを受注することができないんです。どうしよう…」
智花がアワアワと、転校生が立ちながらウトウトしていると2人の後ろから近づく人が。
「南さん。彼のデバイスを持ってきたわ」
「あっ、宍戸さん!」
制服のシャツの上から羽織っている白衣と眼鏡に耳に付けているインカムが特徴的な女子生徒が2人に話しかけてきた。
その女子生徒は好奇心を宿した目で転校生の顔を見つめる。
「あなたが転校生ね」
「うん。そうだよ」
「開発局の宍戸結希よ。兎ノ助からクエストに出ると聞いて、持ってきたの。はい」
結希が転校生にデバイスを手渡す。
デバイスの外見自体は背面にグリモアの校章が描かれている事以外は普通のスマートフォンと変わらない。
転校生がデバイスの電源を入れるとーー
「おおっ…!」
3Dホログラム映像で現在地付近の地図らしきものがデバイスから浮かび上がる。
デバイスを新しい玩具を手に入れた子供の様に触っている転校生に結希は警告する。
「高価なものだから無くさないように注意して。…無尽蔵の魔力、興味深いわ。お願いだから、間違っても…最初のクエストで、死んだりしないでね」
「……わかった。気をつけるよ」
転校生の返答を聞くと結希は踵を返して戻って行った。
「…あ、あはは…だ、大丈夫ですよ! クエストはわたしたちの力量に合うようになってるんで…さ、さぁ、行きましょう!」
転校生が頷くと2人は改めて魔物討伐へ向かうために歩き出した
2人は並んで歩いてグリモアの駐車場へと向かっていた。
グリモアは軍隊でもあるため、駐車場には魔物討伐へと向かう学園生達を運ぶ為の車両が停めてある。
「(広いな……無駄に)」
転校生が心の中でボヤく。
グリモアの生徒数は約250人と平均的な学校と比較すると少なく、そしてグリモアの敷地はその少ない生徒数とは真逆でかなり広大で兎に角だだっ広い。
ヨーロッパ風の外見の建物も相まって異国にやって来た気分になる。
2人が駐車場に着くと車両と運転手が2人を待っていた。
トラックの様な形をした軍用車両に乗り込み、約15分ほど揺られる。
グリモアからさほど遠く離れていない山奥。
そこで2人は車両から降りる。
「着きましたよ!転校生さん!」
「うん」
2人が降りたのを確認すると車両はグリモア方面へと戻って行く。
魔物がいるからだろうか?8月の半ばの山奥は蝉を始めとする虫達や動物が騒いでいる筈なのにそれらの生き物の気配が薄い。
時折、蚊が目の前を通り過ぎては行くが。
「(鬱陶しい…!)」
転校生が蚊と格闘している横で智花がデバイスを操作する。
智花が何度かデバイスの画面をタッチすると、智花の制服が緑色の粒子に変わっていく。
制服《だった》粒子は制服とは違う形へと変わっていき、最終的にはピンク色のワンピース風の服装になった。
「おお〜〜……」
「転校生さんも変身してみて下さい!あ、操作はですね……」
智花の指示通りに転校生もデバイスを操作していく。
そして、転校生の制服も形を変えていく。
変わった自分の服装を見た転校生と智花の感想はーー
「……この季節には合ってないね」
「あ、あはは…確かに…暑そうです」
変身した転校生の服装は黒のロングコートにズボンにブーツ。
更にダメ押しにグローブと、とにかく黒い。
真夏という今の季節に全く適していない服装である。
「(だけど格好の割には不思議と暑くないな……)」
魔法学園の制服が特別性なのは有名な話だが、ここまで摩訶不思議なものだとは…と転校生は関心する。
「じゃあ、行きましょうか。今回の討伐対象はミノタウロスです!」
「うん。わかった(ミノタウロス…?気持ち悪い見た目してるんだろうな…)」
神話で語られるミノタウロスの姿を想像して今から相対するであろう魔物の見た目を想像しながら転校生は智花の後ろを着いて行った。
そんな2人を上空から小型のドローンが追跡していた。
そのドローンを通してグリモアにある自分の研究室から結希は2人をモニターしている。
「貴方の体質、見せてもらうわ転校生君」
普段、あまり感情を出さない天才の目は珍しく好奇心という名の光で輝いていた。