fragment de brouillard グリモア〜私立グリモワール魔法学園〜 作:magenta0827
ーー2014年 8月14日 グリモア付近の山奥 a.m 10:24
山奥で転校生と智花の2人の間には張り詰めた空気が流れている。
その理由は至極簡単。
目の前に《討伐対象》の魔物が現れたからである。
ミノタウロスという名前を聞いていた転校生は神話で語られている通りの《人身牛頭の怪物》をイメージしていたのだが、実際に2人の目の前に現れたのは全高と全長の両方とも数メートルはあるであろう四足歩行で灰色の巨体。
その顔についている口は大きく、白く、鋭利な歯が無駄に綺麗に並んでおり、どこか嘲笑う様な表情を浮かべている。
顔の左右についている牛の角の《様に見えるもの》は軟質で出来ているのか風で靡いている。
「転校生さん……わたしから離れないで下さいね」
「…わかった」
2人は山道を堂々と闊歩しているミノタウロスから木々に身を隠しながら追跡していく。
智花はデバイスの3Dホログラムの地図を見ながら転校生を先導する。
「転校生さん、もう少しで開けた所に出るのでそこで魔物と戦います…!転校生さんは後ろからの指示と魔力供給をお願いしますね」
転校生が智花の言葉に頷いたのを確認すると2人はミノタウロスの後ろを着いていく。
しばらく山道を進むとその先にはデバイスの地図の通り、少し開けた場所に出る。
その開けた場所は山道の木々が薙ぎ倒されて出来た場所であり、今2人が追っているミノタウロスがやったのかは分からないが明らかに自然に倒れたわけではないのは確かだろう。
ミノタウロスはまるで本物の牛の様に自分の近くにある草花の匂いを嗅ぐ様な仕草をする。
あまりにも隙だらけなミノタウロスに転校生は少し呆れた表情になる。
その横で戦う決意をしたのか、智花は自分の頬を両手で叩く。
「転校生さん。準備はいいですか?」
「いいよ」
「じゃあ…行きますっ!!」
転校生の返事に頷くと智花は地面を勢いよく蹴り、木々の影から飛び出す。
魔法使いに覚醒した人間は己が放つ魔法の反動に耐えるため、魔力により肉体が強化される。
それを証明する様に一般的な少女であるハズの智花のその地面を駆ける速さは一般人の陸上世界記録と比べても圧倒的に速い。
走る智花の両の掌の間に炎がゆらめく。
その炎は次第に自然にゆらめく《炎》の形から《火球》と呼ばれる球状のものに形を変えていく。
「やあっ!」
掛け声と共に放たれた火球は呑気に辺りを彷徨いていたミノタウロスの灰色の巨体に命中する。
ミノタウロスは牛の鳴き声の様な悲鳴を上げるとその不気味な形の大きく、青黒い目を智花に向ける。
灰色の巨体は雄叫びを上げながら智花へと突進する。
「(やっぱり、動きは単純…!)」
自分の数倍はある巨体の突進を横に飛んでかわす。
《霧の魔物》は出現当時《出来損ない》と呼ばれていた。
それは何故か?魔物は様々な生き物の形を取ることが多く、真似たその生き物の様に振る舞うがその行動と見た目はどこかおかしく《不完全》だからである。
目の前にいるミノタウロスも牛の様な行動はしているがその見た目はどうみても異形のものである。
智花は一定の距離を保ちながら火球を放っていく。
「(ダメ…このまま魔力を節約したままだと時間がかかっちゃう…!)」
目の前にいる灰色の猛牛は何度も火球を喰らっても声こそは上げるが弱った様子を見せない。
動きが単調で楽勝だと智花は思っていたがミノタウロスの予想外の頑強さに手間取っている。
10度目の突進をかわしたところで智花と転校生の視線が合う。
「そうだ…!転校生さん!魔力をお願いします!」
「!」
咄嗟に自分の力を要求された転校生は戦っている智花に向かって右手を伸ばす。
一瞬、転校生の右手が紫色に光る。
それと同時に智花の体の中に温かい感覚が広がる。
「(凄い…!本当に魔力が…回復してる!)」
本来なら時間をかけて自然に回復するのを待つしかない魔力が充実していく。
「全力で…いきますっ!」
転校生の《魔力譲渡》と《無尽蔵の魔力》が本物であることを確認した智花は全力で魔法を放とうと構える。
智花は魔法使いに覚醒して5年目の学園生の中でもベテランに入る。
そして魔法のコントロールも決して下手ではなく平均以上には出来る。
「えっ…!な、なんでこんなに大きくっ…!?」
だからこそ今の自分の炎の大きさに戸惑う。
さっきよりも少し大きめの火球程度の大きさに魔法を組んだ筈なのに自分が想定した数倍の大きさの火球が智花の掌から発生する。
その火球は火球というよりは小さな恒星の様だった。
「…っ!もう…これ以上は…きゃああっ!!」
豪炎が智花の手中から半ば強引に放たれる。
その凄まじい熱は5メートル程離れた所で戦いを見守っている転校生にも届くほどの高熱。
「うっ……!」
転校生が思わず熱さから目を腕で覆う。
視界を覆う直前、転校生が見たのは豪炎を前になすすべもなく立ち尽くしているミノタウロスの姿だった。
「オォォォォォ……!!!!」
豪炎が命中すると牛の様な断末魔が山奥に谺する。
「やった…って、うひゃあああ!!!」
智花が魔法が命中した事に喜んだのも束の間、巨体に命中した事で発生した熱風に智花の体が浮かび、後ろに飛ばされる。
「っ!」
それを見た転校生は咄嗟に智花の方へ駆け出す。
「うぅ…あれ?」
数メートル飛ばされた智花はどこも痛くない事に首を傾げる。
「(って、なんだか地面が柔らかい様な…?)」
「ぐふぅ…」
「わ、わぁぁぁ!!?て、てて転校生さん!?」
智花が目を開けると転校生の中性的な顔で視界が埋まっており、側から見れば智花が転校生を押し倒してる様に見える体制になっていた。
この状況を理解した智花はさっき放った炎のごとく顔を赤くして飛び起きた。
「ご、ごめんなさい!大丈夫ですか?」
「う、うん。大丈夫…それより魔物は?」
2人がミノタウロスを見るとガクリと電源が切れた機械の様に項垂れており、その体にはまだ先程の炎が纏わりついている。
まだ生きているのか?と2人は警戒するが、灰色の巨体が徐々に紫色の《霧》になり散っていく。
そしてミノタウロスは2人の前から跡形も無く姿を消した。
「と、討伐完了です!お疲れ様でした!転校生さん」
「お疲れ様。智花」
「それにしても…凄いですね、転校生さんの体質。念の為ですけど体に不調とかはありませんか?」
「僕はなんともないよ」
「そうですか…ならいいんですけど…」
智花がミノタウロスに放った最後の一撃は転校生の体質を確かめるために智花自身の魔力の殆どを込めて放ったのだが……。
魔法使い約1人分の魔力を渡したはずの転校生の様子は何も変わっておらず、ケロリとしている。
「転校生さん、わたしが倒れちゃうくらいの量使ってるんです。びっくりしました!全力で魔法を使えてすごく気持ちいいです!…まぁ、制御できなくて吹き飛んじゃったんですけど…」
「………」
智花の言葉に転校生は俯き、考える。
無尽蔵の魔力にそれを他人に受け渡す力ーーあまりにも魔法使いにとって都合が良い。
この力が原因で自分はこれから色々面倒な事に巻き込まれるのだろう。
「(…実験体とかになるよりはマシか)」
「…よし!じゃあ学園に帰りましょう!兎ノ助さんが心配して待ってると思いますし」
帰路に就く2人、山道を歩いていると転校生がふと足を止める。
転校生が感じたのは何かに見つめられている様な感覚。
「……」
「転校生さん?」
「ごめん、気のせいだったみたい」
ーー転校生が感じてた視線。
それは気のせいなどではなく、その視線の主は転校生と智花の2人を数十メートル上空から見下ろしていた。
「いやいや、まさか気づかれるとは…」
ゴスロリ風な衣装に身を包み、長い白髪を靡かせながらその《少女》は呟く。
「(光を曲げ、姿を透明にしていた妾に気づくとは…カンのいいヤツよ)」
空中で足を組み、少女は転校生に向けて哀れむような視線を向ける。
「(少年も大変じゃのう…これから苦労するじゃろうて。宍戸結希と武田虎千代が守っているとはいえ狙われるのは避けられないじゃろう…)」
「仕方ない…妾も力を貸してやるとするか。どう接触しようかの…やはり妾のこの合法ロリぼでーを生かして……ぐふふっ」
ニヤニヤと悪戯っ子っぽい笑顔を浮かべながら少女は身につけている戦闘服の腰に付いている黒い羽を羽ばたかせ、グリモアの方へと飛び去って行った。
転校生君の戦闘服のデザインですが、某有名アクションRPGの某機関みたいにフード付きの黒いコートを着ています。
履いてるブーツや着けている手袋も真っ黒のまっくろくろすけです。
…多分、魔法使いの戦闘服の中では地味な方だと思います。