fragment de brouillard グリモア〜私立グリモワール魔法学園〜 作:magenta0827
ひっじょうに遅れました……m(._.)m。なにぶん仕事が忙しくて……。
大分落ち着いてきたので早めのペースで投稿できると思います。
あ、あと遅ればせながらグリモア10周年本当におめでとうございます!パチパチ。
これからもグリモアを愛し続けたいと思いますm(_ _)m。
ーー2014年 8月14日 グリモア校内 p.m 1:44
智花と転校生の2人はクエストを終えて学園の廊下を歩いていた。
クエスト帰りの車両内で智花が「転校生を連れて《生徒会室》に来る様に」と《生徒会》からのメッセージを受け取ったからである。
転校生は日本の学校ではまず見られない石目調の壁をツーッと指で擦ったりトントンと叩いたりしながら智花の後ろを着いていく。
前を歩いている智花は緊張しているのかどこか動きが固い。
そうしてしばらく歩いていると他の教室に比べて大きく、豪華な装飾が飾られている扉の前に2人はたどり着いた。
「ここが?」
「はい。ここが生徒会室です…じゃあ、行きますよ」
智花がその扉を3回おずおずとノックする。
「入れ。鍵はいつでも開いているぞ」
「し、失礼します…!」
返ってきた凛々しい声に従って2人は生徒会室に入る。
部屋の中にはロの字型に並べられている机、事務連絡が書かれたホワイトボード、様々な書類が敷き詰められている本棚などが目に入る。
そして部屋の1番奥にある一際豪華で煌びやかな椅子に座っている女子生徒が2人に話しかける。
「散らかっていてすまないな…最近仕事が立て込んでいてな」
並べられた机の上に積まれている書類の塔を見ながら女子生徒はその長い金髪を揺らし、大きく溜息を吐いた。
「南、そんなに時間を取らせないから、少し転校生と話をさせてくれ」
「あ、はい…わかりました。それでは、外で待ってます」
頭を下げると智花は静かに生徒会室から出て行った。
「南のやつ緊張しすぎだろう…。さて…改めて、ようこそ私立グリモワール魔法学園へ。アタシが生徒会長の武田虎千代だ。適当にかけてくれ」
「わかりました」
奥に座っている虎千代と向かい合う様に転校生は1番手前の椅子に座る。
虎千代の表情は柔らかいが《カリスマ》とも呼べるその存在感のせいなのか2人の間にピリッとした空気が流れる。
転校生のどこか厳しい表情を見て虎千代がクスッと笑う。
「そんな顔をするな、少しアタシと面談をしてもらうだけだ」
「面談?」
「あぁ、転校生や編入生は入り次第、順次行っているんだ。これも生徒会長としてのアタシの仕事でな…さて、ではこれからお前と、生徒会長面談を行う。そんなに難しいことは尋ねん。プライバシーにも踏み込まん。安心してくれ」
そこで虎千代が咳払いを1つすると転校生の目を真っ直ぐ見つめ、改めて話し出す。
「このグリモアは生徒自治を行っている。普通の学校にはないシステムだな」
「生徒自治?」
聞き慣れない言葉に転校生は首を傾げる。
「まぁ簡単に、自分たちのことは自分たちでなんとかすると考えてくれ。教師も運営者も、アタシたちの学園生活に口を出さない」
笑いながら大雑把に話す虎千代に転校生は目の前にいる会長はその立場と存在感に相反してフランクで気楽な人間という事に気づいた。
「そのかわり、アタシたちは魔法使いとして正しく生きる義務がある。その範囲内なら、生徒会の責任において何をするのも自由というわけだ。おいおいいろんな生徒と知り合うと思うが、皆いろんな事情を抱えている。年齢も幅広い。それらをまとめるのがアタシたち生徒会だ。」
「事情か……」
体内の魔素が活性化するという条件を満たし、未だ全て解明されていない超常の力である《魔法》を扱える様に覚醒した《魔法使い》。
多感な10代、20代前半で覚醒することが多いため魔法使いの中には他人には言えない複雑な悩みを抱えていることがほとんどである。
悩みのスケールは個人一人の努力次第で解決できる小さなものもあれば……
「特に伝えておきたいのは…お前はその体質のせいで、とても注目されている」
「そうでしょうね」
転校生の様に個人ではどうにもならないものもある。
虎千代は椅子に深く座り直すと言葉を続ける。
「学園の大人から、身柄を預かるとか言われるかもしれん。だがそれに応じる必要はない。そのための生徒自治だ」
「……なるほど」
「困ったら生徒会を頼れ。必ず守ってやる。お前も、学園の生徒だからな。…この生徒自治は少し複雑でな。慣れるまで時間がかかると思う。わからないことがあったら、他の生徒にいつでも聞いてくれ。もちろん、側にいるのがアタシのときはアタシでも構わない。有意義な学園生活を送れるように、バックアップするからな」
「うん。ありがとう、会長」
「よし、今回は簡単だが、これで済ませよう。転校初日からクエストご苦労だった。後は南に着いていくといい。寮まで案内してくれる」
「わかりました」
軽く会釈をすると転校生が生徒会室から退出する。
ドアが閉じると虎千代は「ふぅ…」と一呼吸して自分の椅子に座る。
そして自分の机の引き出しからあるものを取り出す。
それは転校生に関する書類。
そこには転校生の名前や経歴などが詳しく書かれており、その内容は至って平凡な日本人男子学生のそれであり、特筆するような所は何一つない。
が、あまりにも平凡すぎる。
「(初めて魔物を目にした生徒は基本的には怯えていたり、もっと消耗しているものなんだがな。遊佐の様に腹に何か抱えているのか…水無月みたいに本心を出さないタイプなのか…)」
「しばらくは様子見だな。とりあえず今は……」
横に積まれている書類の塔を見て虎千代は見下ろされている様な気持ちになり、また溜息を吐く。
「コレを片付けないとな…全く、魔物の方がまだいいな」
呟くと虎千代は黙々と書類に向かって万年筆を走らせだした。
「ふぅ……」
「あ、転校生さん!面談は終わりました?」
「うん、終わったよ。このあとは?」
「あとは報告すればお疲れ様、ですね!報告は書面と口頭で…あと、校長先生から一言。難しくはありません。じゃあ校長室にーー」
「こんにちは」
突然別の方向から聞こえてきたその声に転校生と智花は視線を向けた。2人の背後に虎千代と同じ白い制服に身を包んでいる少女が立っていた。
長い黒髪を靡かせているその少女はやけに色気があり、大人びて見える。
少女の一歩後ろには転校生と智花と同じ青い制服に青いベレー帽、眼鏡を掛けている少女が厳しい表情をして転校生を見ている。
「貴様が新しい転校生か。私たちは生徒会役員だ」
眼鏡を掛けている方の少女がハキハキとした少しキツイ口調で2人に話しかける。
そして次に白い制服の方の少女が穏やかな口調で語りかける。
「副会長の水瀬薫子です」
「会計の結城聖奈だ」
「聞きましたよ、転校生さん。転校初日からクエストをこなしたとか」
「うん。なんとかね」
「なるほど…またいずれ。あなたの【体質】見せていただきますよ。じっくりと。南さん、転校生さんの案内はお任せしますね。」
転校生に艶やかな表情で笑いかけ、智花に軽くお辞儀をすると薫子は生徒会室へと入っていく。
「転校生、他の生徒はどうか知らないが、私は怠け者を学園生とは認めない。そのかわり会計として、働きに応じた妥当な報酬を用意する。魔物討伐のクエスト遂行ももちろん対象だ。よく励むように。忘れるな、労働には対価、だ。」
「うん。わかったよ」
「ならいい」
変わらず厳しい声で話し終えると薫子の後に続いて聖奈もまた生徒会室に入り、扉が閉められた。
2人が生徒会室の中へと入ったのを確認すると智花は緊張が解けたのか口から息を吐いた。
「ふぅ……。今のが生徒会の人達です。ちょっと怖いですけど、頼もしい人たちですよ。じゃあ、校長室に行きましょう!」
その後、校長先生への報告を終えた2人は学園を出て歩く。
そして、学園から5分ほど歩くと住宅街が見えてきた。
「ここは?」
「ここは《学生街》って呼ばれてます。《学生寮》があるから正式な地名よりもそう呼ばれることが定着してるんですよ。もう転校生さんにも振り込まれてると思いますが…グリモアの生徒はクエストをこなすと報奨金が入るんです。だから普通の学生よりちょっとお金持ちなんです」
転校生はデバイスで自分の口座を確認する。
クエスト前の金額より数万円増えており、確かに普通の学生のバイトに比べると遥かに高い報酬だろう。
「学園生をターゲットにしたお店がいっぱいあるので風飛まで行かなくても生活は全然出来ちゃいますね。娯楽施設は流石に風飛より全然少ないですけど」
「へぇ〜……」
「あ、ここが男子寮ですよ!」
智花が指差した方を見ると整備が行き届いてるのがよくわかる綺麗な建物が建っている。
それを見た転校生が横に視線をやると男子寮の数倍はある似たような建物が聳え建っていた。
恐らく女子寮だろう。
建物の大きさから魔法使いの男女比が2:8というのがよく分かる。
「じゃあ、転校生さん。今日は私はこれで失礼しますね」
「うん。ありがとう智花」
「はい!あ、そうだ。明日一緒に登校しませんか?私、転校生さんとクラスが同じなので教室の場所も教えたいですし」
「そっか、ならお願いしようかな」
転校生の返事に智花がパァッと笑顔になる。
「じゃあ、明日迎えに来ますね!今日はお疲れ様でした!ゆっくり休んでくださいね」
「うん。お疲れ様、智花」
用意された部屋はバストイレ付の1Kで《事前》に聞いていた通り、暮らすために必要な家具は一通り用意されていた。これなら生活に困ることは無いだろう。
「(寮というよりは、ほぼマンションだな)」
鞄を、床に置くと転校生はベッドに横になる。
横になると意識していなかったが疲れがどっと出てきたような気がしてきて体が重い。
その内、瞼がどんどん下がってくる。
「(眠い、だるい〜……)」
「(よりにもよって僕が魔法使いになるなんて…皮肉だな)」
遅れないようにデバイスのアラームをセットすると転校生の意識はすぐに夢の中へと沈んでいった。