最強魔法師の壁内生活   作:雅鳳飛恋

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入学編
第1話


 その日を境に、人類は滅亡の危機に瀕した。

 

 数多の国がそれぞれの文化を持ち生活を送っていたが、魔興(まこう)歴四七〇年に突如として世界中に魔物が大量に溢れ、人々は魔法や武器を用いて奮戦するも、対応しきれずに生活圏を追われることとなった。

 

 そんな中、ある国が王都を囲っていた壁を利用し、避難して来た自国の民や他国の民など国籍や人種を問わず等しく受け入れ、共に力を合わせて壁内に立て籠ることで安定した生活圏を確保することに成功した。

 

 魔法師と非魔法師が共存して少しずつ生活圏を広げ、円形に四重の壁を築き、壁内(へきない)で安定した暮らしを送れるに至った魔興(まこう)歴一二五五年現在――ウェスペルシュタイン国で生活する一人の少年が、国内に十二校設置されている魔法技能師――魔法師の正式名称――の養成を目的に設立された国立魔法教育高等学校の内の一校であるランチェスター学園に入学する。

 

 少年の入学を境に、雲蒸竜変(うんじょうりょうへん)(ごと)く英傑たちが燦然(さんぜん)と躍動する時代が幕を開ける。

 

 ◇ ◇ ◇

 

 一二五五年一月十五日――この日はウェスペルシュタイン国に十二校設置されている魔法技能師の養成を目的に設立された、国立魔法教育高等学校の十二校全校の入学式が執り行われる日だ。

 

 期待に胸を膨らませ早起きしたのだろうと思われる新入生の姿がちらほらと散見する。――中には余裕を持って早めに登校しただけの新入生もいるかもしれないが。

 

 そして入学式が始まるには幾分か早い時間帯に、一人の長身の少年がランチェスター学園の校門を跨いだ。

 

 ランチェスター学園は国内に十二校存在する国立魔法教育高等学校の中で、三大名門の一つに数えられる学校だ。

 自由な校風を掲げており、生徒の自主性を重んじているのが特徴でもある。人気があり、入学志望者も多い。――無論、定員数に限りがあるので志望者全員が入学できるわけではないが。

 

 まだまだ寒くコートなどで厚着をする必要がある季節にも(かか)わらず、上着を羽織らず上下黒の制服姿の少年は銀色に桃色を混ぜたような綺麗な長髪を(なび)かせ、校内を足取り早く進んでいく。

 

 周りの景色や様子には目もくれず、校内の景観を(いろど)る木々や建物の間をすり抜けて入学式が行われる講堂へ向かって歩みを進めていると、右方向から声が掛かった。

 

「――ジルヴェスター様!」

 

 少年は自分の名を呼ぶ声に応えるように歩みを止めると、身体の向きを声の主の方へと向ける。

 彼の視線の先には、制服の上にコートを着込んでしっかりと防寒対策をしている少女の姿があった。

 

「クラウディアか」

 

 少年改め――ジルヴェスターが少女の名前を呼んだのは、互いに見知った顔だからだ。

 

「申し訳ありません。ちょうど今お迎えにあがるところでした」

「たまたま早く着いたんだ。だから気にするな」

「そうでしたか」

 

 丁寧に頭を下げて謝罪をしたクラウディアは胸を撫で下ろして安堵する。彼女は校門で出迎えるつもりでいたのだが、思いの(ほか)ジルヴェスターが早く登校したので出遅れてしまったのだ。

 

 会話が途切れたところでジルヴェスターはふと疑問に思ったことを尋ねる。

 

「生徒会長がこんなところにいていいのか?」

 

 今日は入学式で色々と忙しいはずなのに、仕事をせずに油を売っていて大丈夫なのか? とジルヴェスターは思ったのだ。

 

「お気遣い頂きありがとうございます。ですが問題ありません。事前に準備は済ませておりますので」

「そうか」

 

 そもそも当日まで慌ただしくしていたらそれこそ問題だろう。しっかりと事前に準備を済ませているのだろうとジルヴェスターは納得した。クラウディアの優秀さを知っているので尚更だ。

 

 クラウディア・ジェニングス――このランチェスター学園で生徒会長を務める女生徒の名だ。

 ジルヴェスターも白い肌をしているが、それよりも白くて日焼けしていないように見える綺麗な肌をしている。透き通るような白い肌と表現するのがわかりやすいかもしれない。

 

 長いエメラルドグリーンの髪は途中から脱力したように緩くウェーブしていて色気と可愛らしさが内包しており、髪色と同じ色の瞳が幻想的な雰囲気を演出している。

 

 鼻筋の通った美少女――いや、美女と表現した方が正しいかもしれない――であり、凹凸(おうとつ)のはっきりとした身体つきをしているスタイル抜群の女性だ。

 

 文武両道、容姿端麗を体現したような才媛で、上下白の制服が彼女の美しさを際立出せている。

 そして彼女の実家であるジェニングス家は、魔法師界でも随一の名家の一つに数えられる名門だ。

 

「それよりクラウディア、俺とお前は今日から先輩と後輩だ。そんな畏まった態度を取らずに先輩として接してくれ。周りの目もあるしな」

「いえ、しかし……」

 

 クラウディアのジルヴェスターに対する接し方は明らかに丁寧すぎる。確かに本来の二人の立場を考えれば彼女の態度は正しいのだが、これから先輩後輩になる関係を考えると如何(いかが)なものかとジルヴェスターは思った。

 

 だがクラウディアの反応は芳しくなく、困ったような表情を浮かべて口籠る。

 

「それに俺も学生生活はなるべく穏やかに過ごしたいんだ。俺からの頼みだと思って受け入れてくれ」

 

 クラウディアが態度を改めるのは難しいと思っていたジルヴェスターは、彼女が断れないのをわかって自分の頼み事として提案した。

 

「ジルヴェスター様、それは狡いです」

 

 困った表情を崩さないクラウディアは、根負けしたのか溜め息を吐いて了承する。

 

「ジルヴェスター君。これでよろしいでしょうか? 言葉遣いはこれ以上崩せません。これが最大限の譲歩です」

「ああ。構わないよ」

 

 クラウディアは最後の抵抗とばかりに言葉遣いを崩すことはなく、敬称を様から君に改めるに(とど)めた。

 

 彼女の譲歩を認めたジルヴェスターは、口許に控え目な笑みを浮かべて悪戯(いたずら)をするように口を開く。

 

「なら俺も後輩として接しないといけませんね。クラウディア先輩」

「――!?」

 

 後輩として接するジルヴェスターの悪戯(いたずら)瞠目(どうもく)するクラウディアは、ふと我に返り慌てて詰め寄る。

 

「そ、それはお止めください! ジルヴェスター様は――いえ、ジルヴェスター君は今まで通り接してくださいっ。お願いします。これだけは譲れません!!」

「お、おう。わかったわかった。すまん。ちょっと揶揄(からか)っただけだ」

 

 ジルヴェスターはクラウディアのあまりの剣幕に圧倒されながら揶揄(からか)ったことを詫びる。

 彼女にとっては拒絶反応を起こすほど譲れない一線だったのだろう。ジルヴェスターに対する敬称を変えただけでも彼女にとっては本当に譲歩できるぎりぎりの境界だったのだ。

 

「もうっ。悪戯(いたずら)は程々にしてくださいね」

 

 肩を竦めて溜め息を吐くクラウディアは、姿勢を正して真面目な表情を浮かべる。

 

「それではジルヴェスター君、新入生代表の答辞について最終確認をするのでついて来てください」

「了解」

 

 ジルヴェスターはクラウディアの後に続いて講堂へと足を向けた。

 

 入学式で行われる答辞は首席合格した新入生が行う仕来たりになっている。なので、ジルヴェスターは首席合格した新入生ということだ。事前に何度か打ち合わせは行っていたが、最終確認を行う為に彼は早めに登校していたのである。

 

 ジルヴェスターの正直な心境としては答辞はやりたくなかったのだが、クラウディアを始め周囲の人間に説得されて渋々引き受けた次第だ。

 

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