最強魔法師の壁内生活   作:雅鳳飛恋

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第3話

 ◇ ◇ ◇

 

 入学式は滞りなく進み、無事終了した。

 

 強いて問題があったとすれば、新入生代表の答辞で注目を集めたことだろう。ジルヴェスターとしては不本意な結果であった。

 

「仕方ないわよ。ただでさえ首席合格者は注目されやすいのに、ジル君は容姿も優れているから」

「ん」

 

 ジルヴェスターを宥めるようにフォローするオリヴィアの言葉に、ステラも同意するように頷く。

 

「魔法師はみな優れた容姿をしているだろう。俺だけ特別なわけじゃない」

 

 嘆息するジルヴェスターは肩を竦める。

 

 魔法師は一部の魔法選民主義者――魔法師は進化した人類であり、非魔法師よりも優れた上位に位置する存在だと定義する思想を持つ者たちの総称――による扇動により進化した人類と呼ばれており、事実魔法師は非魔法師より優れた容姿やスタイルをしている傾向にある。その為、優れた魔法師であればあるほど整った容姿や優れたスタイルを持って生まれてくる。――無論、絶対ではない。

 また、魔法師は非魔法師よりも少々寿命が長く、保有魔力量が豊富な者ほど寿命が長いのも特徴だ。

 

 結果、ジルヴェスターは女性たちを中心に黄色い視線を集めることになったのだ。

 

(魔法師の中でも特に優れた容姿をしているのだけれど、これは言わない方がいいわね)

 

 オリヴィアは内心思ったことを口に出さず心の中に(とど)めた。

 話を掘り下げて面倒を(こうむ)る必要もないと判断したのだ。

 

 優秀な魔法師は男女ともに自然と人気や注目を集める傾向にある。

 魔法師として歴史の古い家門や、名門と謳われる家門などからは特に注目を集める。

 魔法師の家門としての家格を上げたり保ったりする為に優秀な魔法師を引き入れ、言い方は悪いが優秀な魔法師の遺伝子を受け継ぐ道具として利用される一面もある。優秀な魔法師が生まれてきてくれれば未来は明るいからだ。

 

 そのような理由によってジルヴェスターは注目を集めることになった。

 無論、上記した理由で注目を集めたのは参列者である家門を統べる者たちからが大半であり、生徒からの注目は純粋な好奇心がほとんどだろう。

 

 入学式が終わった後は、事務員に身分証を渡して情報を更新してもらう必要がある。

 

 身分証は『国民証明書』の通称である。

 身分証は戸籍を持つ者に等しく配布される自身の身分を証明、保証する大切な物だ。身分証には預金口座の機能も備わっている為、国民の生活にはなくてはならない必須アイテムでもある。支払いも身分証で済ませることができる便利な代物だ。

 

 そして今回は身分証にランチェスター学園の生徒であることを記載してもらう。その時に自分のクラスが判明する仕組みでもある。

 

 この身分証を発行、更新する技術は、世界中に溢れた魔物によって人類の生活圏を奪われてしまう以前の技術を用いている。なので、現在では完全にブラックボックスの技術だ。惜しいことに失われた技術や文化などは数多存在する。

 

 壁外へ遠征した魔法師が遺物――書物や陶器など壁外に取り残された物全てを指す総称――を回収して持ち帰って来ることがある。それらは貴重な文献として国が厳重に管理し、専門家による研究が行われている。また、一部博物館で展示している物も存在する。

 

 身分証の更新は事務員が勤める本部棟へと移動する必要がある。

 故にジルヴェスターたちは他の生徒で殺到する密集地を避ける為、人混みが落ち着くまで待つことにした。

 

 談笑しながら待機していると、ジルヴェスターは目の前を通りすぎた一人の少年の後ろ姿を視線で追った。

 

「どうしたの?」

 

 そんなジルヴェスターの様子に疑問を(いだ)いたステラが小首を傾げて問い掛ける。

 

「いや、今通りすぎた金髪の奴、中々できると思ってな」

「どのくらい?」

「例年なら首席は確実だっただろうな」

 

 優れた魔法師は人の力量を見極める技術にも秀でている。

 なので、ジルヴェスターが優れた魔法師であることを知っている二人は、金髪の少年が如何(いか)に優秀なのかを理解した。

 

 残念ながら今年はジルヴェスターがいる所為で首席にはなれなかったが、例年通りなら首席合格は確実だっただろう。――とはいえ、入学試験には実技だけではなく筆記もあるので確証はないが。

 

「おそらく実戦も経験済みか」

「え」

「へえ」

 

 ジルヴェスターの推測に驚くステラと、意外感を表すオリヴィアは、既に小さくなった金髪の少年の後ろ姿に視線を向ける。

 

「実戦と言っても壁外に出たことあるのかはわからんが、少なくとも壁内では経験済みだろう」

「壁内で?」

「ああ。何も魔法師の仕事は壁外だけではないからな。もっとも、壁内だと仕事も限られるが」

 

 魔法師の活躍の舞台はなんといっても壁外がメインだ。

 しかし、魔法師は壁外だけで活動しているわけではない。犯罪者の確保やトラブルの仲裁に駆り出されることもある。表だった仕事だけではなく、後ろ暗い仕事もある。グレーな仕事や、完全に非合法なブラックな仕事まである。――もっとも、非合法な仕事は魔法協会が関与していないので犯罪行為にあたるが。

 

「ならライセンスを持っているってことかしら?」

「そうだろうな」

 

 オリヴィアの疑問にジルヴェスターは首肯した。

 

 魔法師には魔法協会が定めている魔法技能師ライセンスが存在する。

 魔法技能師とは、『魔法師』の略称で呼ばれ魔法を実用レベルで行使できる人間を指す言葉だ。魔法師はライセンス制によって管理されており、国内ではライセンスを持った魔法師は社会的ステータスが高いエリートとされる。

 

 魔法師はライセンスを取得していないと、魔法師として仕事をすることができない。

 壁外に出られるのは原則魔法師だけなので、当然壁外に出ることもできなければ、決められた状況下以外で魔法を行使することもできない。これらは違法行為にあたる。

 

 ライセンスを所持していなくても魔法を行使して大丈夫な状況は、自分が所有している敷地内、又は敷地の所有者の了承を得た場合、そして魔法教育高等学校内に限られる。例外は存在するが、原則この三つだ。

 

 魔法師とはライセンスを所持している者を指す言葉であり、魔法を使えても、魔法の素質を有していてもライセンスを所持していない者は魔法師ではない。

 だが、魔法を扱える者――魔法的資質を有する者――と魔法を使用できない――魔法的資質を持たない者――を区別する為に、ライセンスを所持していなくても魔法的資質を有する者は総じて魔法師と呼ばれる傾向にある。

 

 魔法技能師ライセンスには階級があり、各階級は以下の通りだ。下位の階級から表記する。

 

 初級五等魔法師

 初級四等魔法師

 初級三等魔法師

 初級二等魔法師

 初級一等魔法師

 下級五等魔法師

 下級四等魔法師

 下級三等魔法師

 下級二等魔法師

 下級一等魔法師

 中級五等魔法師

 中級四等魔法師

 中級三等魔法師

 中級二等魔法師

 中級一等魔法師

 上級五等魔法師

 上級四等魔法師

 上級三等魔法師

 上級二等魔法師

 上級一等魔法師

 準特級魔法師

 特級魔法師

 

 初級魔法師は所謂見習いのような立場で、下級魔法師になって初めて一人前と見なされる。

 中級魔法師は前線で活躍できる一線級の魔法師だ。

 上級魔法師は更に優れた精鋭中の精鋭であり、実質上級一等魔法師が最上位の階級である。

 そして特級魔法師は超人、化け物、怪物、人外などと呼ばれることもある超越者であり、特級魔法師には席次が与えられる。

 準特級魔法師は特級魔法師と同等の地位であり、一線を退き席次を返上した特級魔法師や、なんらかの事情で席次を与えられない者たちである。

 

 なので、金髪の少年はジルヴェスターの推測通り実戦経験を積んでいるのならば、最低でも初級五等魔法師のライセンスを所持しているということだ。

 

 在学中にライセンスを取得する者はいるが、在学前からライセンスを取得している者は少ない。

 

 魔法教育高等学校を卒業さえすれば自動的に初級五等魔法師のライセンスを取得できる。

 だが、個人の判断で在学中や在学前からライセンスを取得することも可能だ。極論、魔法教育高等学校に入学しなくてもライセンスを取得することは可能である。

 

 入学した方が実技と筆記両方で様々なことを勉強できるので圧倒的に有利だが、中には家庭の事情や個人の事情などで国立魔法教育高等学校に入学できない者もいる。

 

「さて、俺たちもそろそろ行くか」

「ん」

「そうね」

 

 周囲を見回して人混みが落ち着いたのを確認したジルヴェスターが席を立って歩き出すと、ステラとオリヴィアもジルヴェスターの後を追って歩を進めた。

 

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