最強魔法師の壁内生活   作:雅鳳飛恋

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第34話

 ◇ ◇ ◇

 

 訓練室に移動した一同は、各々目的を持って訓練に励んでいた。――もっとも、ジルヴェスターは軽く身体を動かすだけだったが。

 

 壁に寄り掛かってみんなの訓練を眺めていたジルヴェスターは、シズカの訓練に視線を奪われていた。

 視線の先でシズカは木刀を手に訓練に励んでいる。

 

「ジルがシズカのこと見つめてる」

 

 ジルヴェスターの視線に気づいたステラがジト目を向ける。

 

「――ん? ああ、彼女の動きに魅入っていた。さすがシノノメ家の御令嬢だと思ってな」

「そんなに凄いの?」

 

 ジルヴェスターの言葉にステラは首を傾げる。

 

「一つ一つの動きが洗練されていて無駄な動きが一つもない」

 

 ジルヴェスターから見てシズカの剣捌きは洗練されており、剣筋が鋭く、流麗で見る物を魅了する美しさがあると思った。

 

「とはいえ、シノノメ家の御令嬢に対して俺が批評するのは傲慢で失礼な行為だな」

 

 シズカは国で一番の剣術の大家であるシノノメ家の令嬢だ。

 如何(いか)にジルヴェスターが優れた人物であっても、幼い頃から剣術の英才教育を受けてきた者に対して批評を述べるのは烏滸(おこ)がましい行為だ。

 

「ジルより凄いの?」

「そりゃそうだろう。俺と彼女では比較するのも烏滸(おこ)がましい」

 

 ステラの中で、ジルヴェスターはなんでも高次元でこなす超人としてインプットされている。なので、自然と出た疑問だった。

 

「純粋に剣術だけの勝負をしたら手も足も出ないだろうな。力押しでどうにかなる次元でもない」

「ふーん。そんなに凄いんだ」

 

 ジルヴェスターも剣術の心得はある。だが、仮に魔法抜きでの真剣勝負をしたらシズカに軍配が上がるだろう。

 

 女性のシズカより男のジルヴェスターの方が膂力に優れているので、力押しでなんとかなるだろうと思うかもしれないが、それは厳しい。

 実力が拮抗していればジルヴェスターに軍配が上がるだろうが、隔絶した実力差があると膂力の差など無いに等しいものだ。

 

「私たちも少し休憩しようか」

 

 イザベラはそう言うと、一緒に訓練をしていたリリアナと一緒に休憩にする。

 それを合図に、他の面々も続々と休憩に入っていった。

 

「――それにしてもレベッカとシズカが一緒にいるのはなんだか少し意外ね」

 

 休憩に入ったオリヴィアが、先に休んでいたレベッカとシズカに話し掛けた。

 

「うん。わたしもそう思うけど、なんか気が合うんだよね」

 

 笑みを浮かべるレベッカ。

 

「私も不思議に思うのだけれど、何故か居心地がいいのよね」

 

 自己紹介をした時よりも砕けた口調になったシズカも同意を示す。

 

 レベッカとシズカは全く異なるタイプだ。

 レベッカは派手な外見でノリが軽いところがある。対してシズカは礼儀正しく清廉な印象だ。一見交り合うことがなさそうな組み合わせである。

 

「まあ、気の合う相手はそんなものよね。自然と惹かれ合うもの」

「うんうん」

 

 微笑むオリヴィアの言葉にステラが頷く。

 

「とても素敵なことですよね」

「そうだね」

 

 リリアナとイザベラも微笑みを浮かべて同意を示す。

 

「こうして見ると二人一組の構図ができてるよな」

 

 ジルヴェスターの横に移動して肩を並べていたアレックスは、苦笑しながら女性陣のことを見守っていた。

 

「そうだな。(はた)から見たら俺たちもそう映るんだろうな」

 

 肩を竦めたジルヴェスターの冗談交じりに言葉に、アレックスは大袈裟に複雑そうな表情になる。

 

「友人としてなら悪くないが、俺は女が好きだからな」

「それは俺も同じだ」

 

 冗談を言い合う二人は既に仲良しであった。

 

「イザベラはやはり火属性の魔法が得意なんだな」

 

 会話が途切れたところでジルヴェスターがイザベラに声を掛ける。

 

「うん。私も一応エアハート家の一員だからね」

 

 魔法師界屈指の名門であるエアハート家は、代々火属性に高い適正を持ち活躍してきている。

 イザベラにもエアハート家の血がしっかりと流れているようで、火属性に高い適正があるようだ。傍目に見ただけでもすぐにわかるほどだ。

 

「一員って……イザベラは直系でしょう」

 

 イザベラの言葉にリリアナがツッコミを入れる。

 

「うん。まあ、そうなんだけどね」

 

 エアハート家の現当主である女性がイザベラの母親だ。イザベラは間違いなくエアハート家の直系である。

 

「こうして見ると、それぞれの特徴が見えて面白いわよね」

「そうだな」

 

 オリヴィアの言葉にジルヴェスターが頷く。

 

 人それぞれ魔法に対する特徴は異なる。

 個人としてはもちろん、血筋でも特徴に違いが表れるので、研究者肌の人間には面白く映るだろう。

 

「ちょっと飲み物買ってくる」

 

 アレックスは持ち込んだドリンクを飲み干してしまったようだ。

 

「俺も行こう。みんなはここで休んでいてくれ」

 

 ジルヴェスターは全員分の飲み物を用意しようと思い、アレックスと共に訓練室を後にした。

 

 ◇ ◇ ◇

 

 時同じくして、フィルランツェの中で特に人気(ひとけ)の少ない場所に数人の人影があった。住宅街からも表通りからも離れている場所だ。

 

 その中の二人は男性の大人だとわかる。残りの三人はランチェスター学園の制服を着ている。男子生徒二人に女子生徒一人だ。

 

「――わかりました。当日は合図があり次第行動に移ります」

「頼んだぞ」

「はい。同志たちにも伝えておきます」

 

 何やら声を潜めて話をしていたようだが、学生の中の一人が代表して了承の意を伝えている。

 

「成功すればお前たちの立場は今より良くなるはずだ」

 

 大人の一人が学生たちを言い含めるように、落ち着いた声音で言い聞かせている。

 

「そうですね。少しでもそうなれば幸いです」

 

 頷き合っている学生三人の様子を見ると、覚悟を固めているような雰囲気が感じ取れる。

 

「また近況を伝えにくる。お前たちも中を探っておいてくれ」

「わかりました。できることをやっておきます」

 

 どうやら情報共有の為にまた顔を合わせるつもりのようだ。

 

「これでこの国も少しは変わるはずだ。我々の行いはこの国を正しいあり方に変える。共に頑張ろう」

 

 目的に酔っているかのように自分たちの行いを正しいものだと信じて疑わない一同の姿は、周囲に恐怖心を与えることだろう。

 

「ヴァルタンの名の下に」

 

 大人の一人が呟いて締め括ると、他の面々も同じ言葉を復唱した。

 

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