最強魔法師の壁内生活   作:雅鳳飛恋

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第5話

 ◇ ◇ ◇

 

 ジルヴェスターは整然とした石畳の道を、ステラとオリヴィアの二人と一緒に散策している。しっかりと区画整備された街並みを眺めながら三人連れ立って歩き、和やかな時間が流れていた。

 

 三人がこれから三年間生活の拠点となるフィルランツェを見て回り、今後の暮らしに役立てる良い機会だ。

 

「二人はフィルランツェに来たことあるのか?」

「……何度か」

「わたしもよ」

 

 ステラとオリヴィアがフィルランツェに来たことあるのかと疑問に思ったジルヴェスターが尋ねると、二人は記憶を辿って思い出すように答えた。

 

「入学した時のことを考えて生活環境とかを事前に下見に来ていたから」

「そうか」

 

 ステラの言葉を聞いてジルヴェスターは納得する。

 

 十二校ある魔法教育高等学校の中で、試験を受けた学校の所在する町には事前に下見に行くのは理に適っている。

 入学したら三年間はその町で暮らすことになる。当然生活環境の確認は必要だ。学校を選ぶ判断材料にもなるだろう。

 

「ジルは?」

「俺も何度か来たことはある」

 

 ジルヴェスターもフィルランツェには何度か足を運んだことがある。――プライベートだったり仕事だったり理由は様々だが。

 

「そもそも俺はヴァストフェレッヒェンに住んでいるから比較的近場だしな」

 

 ジルヴェスターの自宅があるのは、ランチェスター区にあるヴァストフェレッヒェンという町だ。

 ヴァストフェレッヒェンはランチェスター区で最も大きく、人口も最も多い町である。区内の行政の中心でもあり、区長が勤める庁舎もある。

 

 三つ目の壁であるウォール・トゥレスと、四つ目の壁であるウォール・クワトロに挟まれた位置にあるランチェスター区の中心から、ウォール・クワトロに近い位置にヴァストフェレッヒェンはある。

 フィルランツェはランチェスター区の中心からウォール・トゥレス寄りに位置している。なので、ヴァストフェレッヒェンとフィルランツェは比較的近隣の町なのだ。

 

 こういった立地もあってジルヴェスターは自宅から通学することになっている。鉄道に乗って移動する必要はあるが、充分通学圏内だ。一応学園の寮とも契約しているので、寮で生活することも可能だ。――もっとも、ジルヴェスターには鉄道などを用いなくても楽に移動する手段はあるのだが。

 

「二人はシャルテリアだから、わざわざフィルランツェまで来る用事は中々ないよな」

「ん」

「そうね。生活するだけならシャルテリアにいるだけで充分だもの」

 

 ジルヴェスターの指摘に頷くステラと苦笑を浮かべるオリヴィア。

 

 ステラとオリヴィアの実家があるのはウォール・トゥレス内の南西に位置し、ウィスリン区、ランチェスター区と並んで最も富裕層が集まる区の一つであるプリム区内のシャルテリアという町だ。

 

 プリム区は十三区の中で最も綺麗な街並みをしていると言われており、最も治安の良い区でもある。その中でもシャルテリアはプリム区を象徴する美しさを備えていると評判だ。

 そしてシャルテリアはプリム区内で最も大きく、人口の最も多い町でもあり、区内の行政の中心地でもある。

 

 シャルテリアはプリム区の中心から北西方向のウォール・クワトロに近い位置にあり、用事がない限りわざわざフィルランツェへ赴くことはないだろう。

 

 オリヴィアの家族はステラの実家であるメルヒオット家の邸宅から、外廊下で繋がった離れに住み込みで勤めているので当然実家は同じだ。

 

「あら、ここに寄って行きましょう」

 

 三人で話しながら歩いていると、オリヴィアは通り掛かった一店の店舗に興味を惹かれた。ステラの手を取って仲良く入店する二人の後にジルヴェスターも続く。

 

 三人が入店したのはこじんまりとした雑貨屋だ。

 雑貨はもちろん、文房具や衣服も陳列されている。衣服の数は少ないので、メイン商品は雑貨なのだと思われる。学園都市ということもあって文房具も取り扱っているのだろう。

 

 店内を見て回っていると、ステラが陳列されているとある商品の前で立ち止まった。

 興味を惹かれたのか、商品に手を伸ばす。手に取った商品を見つめていると、オリヴィアから声が掛かった。

 

「それ、気に入ったの?」

「ん。かわいい」

 

 ステラが手に取ったのはマグカップだ。上部から下部へ行くほど青色が濃くになっているグラデーションが特徴であり、ステラの水色の髪ともマッチしている。

 

「そう。なら買いましょうか」

「ん」

 

 購入を促すオリヴィアの言葉に頷いたステラは、別のマグカップを手に取ってオリヴィアへと手渡す。

 

「これも」

「これも買うのかしら?」

「ん。お揃い」

「ふふ。わかったわ」

 

 ステラが手渡したのは、紫色がグラデーションになっているマグカップ。ステラの選んだマグカップの色違いだ。オリヴィアの紫色の髪ともマッチしている。

 

 ステラはちょうど良い色違いのマグカップがあったので、オリヴィアとお揃いにしたかったのだ。それを察したオリヴィアが慈愛の籠った微笑みを浮かべて了承したのである。

 

 学内にはカフェやレストランなども併設されたおり、飲食には困らないようになっている。

 だが、寮の部屋にはキッチンも設置されているので料理などもできる仕様だ。マグカップも今後の寮生活では大いに活躍することだろう。

 

「それ買うのか?」

 

 少し離れたところで商品を見て回っていたジルヴェスターが二人に歩み寄ると問い掛けた。

 

「ん」

「ええ」

「そうか」

 

 返事を聞いたジルヴェスターは二人が持つマグカップを手に取ると、会計を済ませに歩を進めた。

 

「――ジルくん? いいわよ、自分で買うから」

 

 説明もなしに歩き出したジルヴェスターの意図を察したオリヴィアが慌てて駆け寄る。慌てているにも(かか)わらず、淑女としてはしたなくない動作になっているのはさすがの一言だろう。

 

「いや、俺も買うからついでだ。気にするな」

「……そう。わかったわ。ありがとう」

 

 ジルヴェスターはいくつかの商品を入れている買い物(かご)をオリヴィアに見せる。

 

 男性の折角の厚意を無下にするのはいけないと判断したオリヴィアは、男性であるジルヴェスターを立てることにした。もちろん感謝の言葉を忘れない。

 

「ありがと」

 

 オリヴィアの言葉に続いてステラもしっかりとお礼を告げる。

 

 そうして会計を済ませた三人は雑貨屋を後にした。

 

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