最強魔法師の壁内生活   作:雅鳳飛恋

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第51話

 ◇ ◇ ◇

 

 ランチェスター学園の西門では攻防が繰り広げられ、東門近くの建物ではジルヴェスターによる蹂躙が行われている頃、レイチェルも行動していた。

 

「やっと見つけましたね」

 

 隣に控えるアビーが呟く。

 

 二人は反魔法主義団体過激派組織ヴァルタンの本部を遂に見つけた。

 ここに至るまで数々の拠点を制圧し、団員を拘束、尋問を繰り返すことでここまで辿り着いていた。

 

 そして二人は現在、ヴァルタンの本部を目視可能な距離にある建物の陰に隠れて様子を窺っている。

 

「ええ。中を探ります」

 

 頷いたレイチェルは、大腿部(だいたいぶ)に取り付けているホルスターから短剣(ダガー)の武装一体型MACを抜き手に取ると、すかさず魔法を行使する。

 

 この短剣(ダガー)の武装一体型MACはジルヴェスターがレイチェル用に設計した物であり、彼女が最も得意にしている風属性の単一型に仕上げている代物だ。

 

 レイチェルが行使した魔法は――『空間探知(エア・マップ)』だ。

 

 この魔法は風属性の第四位階魔法であり、風の動き、声、音を風の流れに乗せて自身に届かせることにより、地形や生物の有無を探ることができる探知魔法だ。行使し続ける限り魔力を消費する。

 

 室外など風のある環境の方が能力を遺憾無く発揮できる魔法だが、室内でも問題なく使える。

 室内でも人が動けば空気が動く。その動きまで察知することができるので、生物がいる時点で見抜ける。窓が開いていれば尚いい。

 

 レイチェルは空間探知(エア・マップ)でヴァルタンの本部を含む周囲を探る。

 彼女から凪ぐように風が出現すると、(なご)やかに舞い指定した範囲に風が広がっていく。

 

(……一人?)

 

 空間探知(エア・マップ)は建物内の状況を知らせてくれて、中には一人の人間の存在が確認できた。

 

(いえ、本部に一人なわけ――)

 

 ランチェスター学園に襲撃を仕掛けている状況なので人手が足りなくなるとはいえ、まさか本部に一人で待機しているわけがないと思ったレイチェルはより注意深く探ろうとしたが、想定外の事態が起こり瞬時に空間探知(エア・マップ)を解除する。

 

「――気付かれました!」

「え!?」

「どうやら相手を侮っていたようです」

 

 本部に座す相手はレイチェルが行使した魔法を察知したようだ。

 レイチェルが瞬時に魔法を解除したのはいい判断であった。あのまま魔法を行使し続けていれば自分たちの存在を完全に感知されてしまっていた。

 

「レイチェル様の魔法を察知したということですか!?」

「ええ。情けないことですがそうなります」

 

 アビーはレイチェルの魔法を察知した相手に驚愕した。

 優れた魔法師が行使する魔法は察知するのが難しい。それだけ優れた技量を有しており、精密な操作も可能だからだ。――高レベルの魔法師の中には、精密という言葉など知らないとばかりに力押しで済ませてしまう者もいるが。

 

 アビーにとってレイチェルは尊敬の念しか抱かない存在だ。それだけ上級魔法師という肩書は大きい。

 そんなレイチェルの魔法を察知した相手には驚愕するしかなかった。

 

「想定していたよりも手練れかもしれません。気を引き締めましょう」

「はい」

 

 二人は相手の実力に対しての認識を改める。

 

「幸い察知されただけで特定まではされていないはずです」

 

 レイチェルの感触では察知されただけで、行使した魔法や術者の存在、場所までは認識されていないと感じた。

 

「ですが、警戒を強めてしまったでしょう。このまま様子を窺っていたら逃げられてしまうかもしれません」

 

 不信感を与えてしまった場合、相手は警戒を強めて相応の反応を示すだろう。

 逃走、臨戦態勢、先取先攻など、取る手段は状況によって様々だ。

 

 しかし、空間探知(エア・マップ)で探知した通りに相手は一人しかいないのであれば、逃走を選択する可能性が最も高い。一人でできることは限られる。冷静な判断を下せる者ならば逃走一択だろう。腕に自信のある者でない限りは。

 

「そうですね。突入しますか?」

 

 アビーの問いにレイチェルは一瞬考える。

 

「……そうしましょう。時間を掛けるほど相手が有利になります」

「わかりました」

「あの建物には裏口があるのを確認しました。アビーさんは裏手に回ってください。私は正面から行きます」

「了解です」

 

 レイチェルは空間探知(エア・マップ)で探知したことで建物の間取りを把握しており、建物には裏口があるのを確認していた。

 アビーに裏手に回ってもらうことで挟撃し、逃走経路を潰す算段だ。

 

「くれぐれも深追いはしないようにしてくださいね」

 

 レイチェルの言葉に頷いたアビーは建物の裏手へと駆け出した。

 

 ◇ ◇ ◇

 

 反魔法主義団体過激派組織ヴァルタンのナンバーツーであるエックスは本部に詰めていた。

 ヴァルタンの代表であるヴォイチェフを始め、団員を送り出した後は必要な後方支援を行っていたが、それも既に完了し手持ち無沙汰になっている。

 

「――ん?」

 

 自分の執務室にあるデスクの椅子に深く腰掛け、コーヒーを片手に休憩していたエックスは違和感を抱き、周囲に視線を彷徨わせる。

 

(見られている?)

 

 何者かに監視されていると悟り、言葉を口にしないように努める。

 言葉を口にすることで自分にとって不利になる情報を与えてしまう恐れがあるからだ。

 

(……潮時か)

 

 そこからのエックスの判断は早かった。

 自分にとって不利になりかねない証拠となり得る物と、欠かせない必要な物を素早く回収し、執務室を出て駆け出す。

 

(初めからランチェスター学園への襲撃が上手く行くとは思っていなかった)

 

 エックスは現在ランチェスター学園で戦っているであろうヴォイチェフたちのことを思い浮かべる。

 

()に喜んでさえ頂ければいい)

 

 敬愛してやまない人物に想いを馳せると、表情が恍惚(こうこつ)していく。

 

(それに奴らは既に手綱が効かなくなってきていたからな。切り捨てるのにはいい頃合いだった。ヴォイチェフたちには悪いが、奴らは所詮道具にすぎない)

 

 エックスにとってヴォイチェフらヴァルタンの団員は、(はな)から目的を果たす為の都合のいい道具にすぎず、いざとなればいつでも切り捨てる腹積もりであった。

 

(後は俺が逃げきれば終わりだ)

 

 自分にとって不利益になり得る証拠物を一つ残さず持ち帰られれば御の字だった。

 

()、すぐに参ります)

 

 まるで自分がこの場を無事に脱することができると確信しているかのようだ。それほど自信があるのだろうか。

 

 エックスは恍惚(こうこつ)した表情で建物の裏口へと近づいていく。

 

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