最強魔法師の壁内生活   作:雅鳳飛恋

55 / 131
第55話

 ◇ ◇ ◇

 

 レイチェルとアビーの二人から逃れたエックスは無事逃走に成功していた。

 そのエックスは現在ある女性の前で(ひざまず)いている。

 

()、只今戻りました」

 

 エックスは(ひざまず)いたまま深々と頭を下げる。

 

「ええ。良く戻ったわね、フランコ。怪我はないかしら?」

「はい。ご覧の通り五体満足です」

「ふふ。相変わらず大袈裟な言い回しね」

 

 女は微笑みを浮かべて労いの言葉を掛ける。

 

「詳しい話を聞きたいのだけれど、まずは約束を果たしましょうか」

 

 女が足を組み替えると、スリットの入ったスカートから素肌があらわになり太股が顔を出す。

 

「ありがとうございます。ですが、()のご期待に沿える結果とは行きませんでした。申し訳ありません」

 

 神妙な顔つきで頭を下げるエックスの姿は忠誠心の厚さが窺える。

 

「あら、そうなの?」

 

 コテンと首を傾げる女。

 

「始めから奴らは捨て駒だったのだから気にしなくていいのよ。所詮暇潰しの道具にすぎないわ」

「それは承知しております。ですが、せっかく姫が()()()()()()玩具をふいにしてしまい、ただただ申し訳なく思います」

 

 自分のことが許せないのか、エックスはより一層神妙な顔を深めてしまう。

 

「本当に気にしなくていいのよ? それでもあなたの気が済まないと言うのなら、これからもわたくしの為に誠心誠意尽くしなさい」

 

 女は本当に気にしていないと伝えるが、エックスは納得しない。

 

「それにわたくしにとっては、あなたが無事に帰ってきてくれたことが何よりも嬉しい結果よ」

「もったいなき御言葉」

 

 女は自分の為に身も心も尽くしてくれるエックスのことが愛おしくて堪らない。そばに侍る数多くの男の中でも、エックスのことは特別な存在に思っていた。

 

 エックスは恍惚(こうこつ)した表情を隠すことなく、感動冷めやらずといった具合である。

 

「――さあ、約束通り今晩はあなた一人だけを愛してあげるわ」

 

 そう言って女は立ち上がる。

 

「まずは一緒に汗を流しましょう」

 

 女は側仕えの男性に湯の準備をするように指示を出すと、エックスを伴って奥の私室へと歩を進めた。

 

 その後二人は共に浴室で汗を流すと、離れていた期間の埋め合わせをするかのように激しく愛し合うのであった。

 

 ◇ ◇ ◇

 

 一月二十六日――反魔法主義団体過激派組織ヴァルタンによる襲撃があった翌日、ランチェスター学園はいつも通りの日常を取り戻していた。

 生徒たちは各々いつも通りの生活を送っている。

 

 そんな中、ジルヴェスターの姿は学園長室にあった。

 学園長室にある応接用のソファに腰掛けている。

 

「二人共、昨日はご苦労様。任せっきりで悪かったわね」

 

 ジルヴェスターの対面のソファに腰掛けているレティが労いの言葉を紡ぐ。

 

「いえ、私は何もしていませんので」

 

 ジルヴェスターと同じソファに腰掛けているクラウディアが苦笑する。

 ジルヴェスターが右側で、クラウディアが左側の並びだ。

 

「気にするな。お前の立場なら人付き合いも大事だろう」

「そうです。学園長は替えの利かない御身なのですから」

 

 ジルヴェスターの言葉にクラウディアが同調する。

 

 昨日、レティは対抗戦についての会議の為、セントラル区にある魔法協会本部に赴いていた。

 会議だけではなく、魔法師界のお歴々との晩餐などもあり、泊まり掛けの用事になっていたのだ。

 

「本当にタイミングが悪かったわね」

 

 レティが溜息を吐く。

 

「仕方ないだろう。生徒の中にヴァルタンの一員がいたんだ」

「学園長のスケジュールが筒抜けになっていましたから」

 

 ジルヴェスターの言う通り、ランチェスター学園の生徒の中にはヴァルタンに加わっている者がいた。

 その為、レティのスケジュールはヴァルタンに筒抜けになっていた。

 

「全く頭が痛いわ」

 

 一層深く溜息を吐くレティ。

 

昨日(さくじつ)、その生徒たちをキサラギ風紀委員長が拘束しました。現在は謹慎処分になっております」

 

 昨日、風紀委員と統轄連の一部の者が共闘して襲撃者を撃退し拘束した後、カオルは一人で内通者の存在を探っていた。

 その後、見事に内通者の一人を発見して拘束し、尋問の後に関与した生徒を全て捕らえることに成功していた。

 生徒会、風紀委員会、統轄連が事実関係を査問し、謹慎処分を言い渡して現在に至る。

 

「学園長には改めて処罰を検討して頂きたく存じます」

「そうね。一度その子たちには私も直接会って話すことにするわ。処分はその後に改めて通達します。今はそのまま謹慎処分にしておいてちょうだい」

「畏まりました」

 

 昨日は不在だったレティに改めて内通者の処分を検討してもらうことにする。

 ランチェスター学園が如何(いか)に生徒の自主性を重んじる校風とはいえ、今回の件に関しては学園内だけの問題で収まる話ではない。ヴァルタンなどの反魔法思想者はもちろん、魔法師界や国政にも関わる問題だ。生徒間で安易に済ませていい問題の域を超えている。

 

「――それでジル君、ヴァルタンの首魁は捕らえたのよね?」

 

 レティは紅茶を一口啜った後、ジルヴェスターに視線を向けて問い掛ける。

 

「ああ。面倒だから事後処理は(じじい)に丸投げしたが」

「……」

 

 ジルヴェスターの返答にレティはジト目を向ける。

 隣でクラウディアが苦笑している。

 

「そう。フェルディナンド殿も大変ね……」

 

 ジルヴェスターが(じじい)と呼んだ人物は、七賢人のフェルディナンド・グランクヴィストのことであった。

 

「でも、フェルディナンド殿に任せておけば上手いことやってくれるのも確かね」

「だろ?」

「ええ」

 

 レティも苦笑してはいるが、ジルヴェスターの処置には納得する。

 

「ついでに襲撃してきた連中の件も丸投げしておいた。レイにアウグスティンソン隊との間を取り持つように言っておいたからな」

 

 昨日ランチェスター学園を襲撃した者たちのことも、フェルディナンドに丸投げしたと軽い口調で言う。

 

 昨晩遅くにフェルディナンドに念話(テレパシー)を飛ばして魔法協会本部に呼び出し、事後処理を全て丸投げしていた。細かい事情はレイチェルに尋ねるようにと、(ろく)に説明もせずにだ。

 

 丸投げされたフェルディナンドは深々と溜息を吐いて苦言を呈したが、全てを請け負ってくれた。

 海千山千のフェルディナンドもなんだかんだ言ってジルヴェスターには甘いところがある好々爺(こうこうや)であった。

 

 現在、捕らえた者たちは全員魔法協会本部の地下牢に入れられている。

 魔法協会本部の職員は忙しなくしていると思われる。魔法協会だけではなく、七賢人を始め政治家たちも汗を流していることだろう。

 

「レイチェルのことをこき使ってばかりいないで少しは労ってあげなさい。そして休ませてあげなさいな」

 

 レイチェルはジルヴェスターに酷使されているのではないか、と心配になったレティが苦言を呈す。深く溜息を吐いて額に手を当てる仕草は、心底頭が痛いと言っているように見受けられる。

 

「ああ」

 

 ジルヴェスターは素直に頷くが、本当にわかっているのかと疑いたくなる軽さだった。

 

「今回は風紀委員会と統轄連の尽力により何事もなく済みましたが、今後は体制を見直す必要があるかと存じます」

「そうね。それは私の方でも取り掛かっておくわ」

 

 話が止まったタイミングを見計らってクラウディアが意見を提示した。

 

 今回は何事もなく済んだが、今後同じ轍を踏まないとも限らない。

 襲撃を許したということは、セキュリティ面など何かしらに見直すべきところがある証拠でもある。

 

「すぐにできることと言えばカウンセラーを増員することね。伝手を当たってみるわ」

 

 ヴァルタンの一員に加わる生徒がいた。

 魔法師でありながらヴァルタンに組するということは、何かしらの事情があったのは明らかだ。十代の若者は精神的に不安定なところがある。悩みや葛藤などを抱え込むこともあるだろう。

 

 その為、生徒の精神面のケアを怠れないのがわかった。既に学園にはカウンセラーは常勤しているが、人員を増員する必要があるだろう。

 

「生徒会でも改善点を洗い出してみます」

「ええ。お願いね」

 

 より良い学園にするのはそれこそ生徒会の役目だ。

 生徒がより快適に勉学に励める環境を構築する必要がある。寮暮らししている生徒にとっては生活の場でもある。安心して暮らせる環境は必須だ。生活に不安を抱えたままでは勉学にも悪影響が出る。

 

 その後も三人で報告や意見交換をし、最後には世間話で談笑してその場はお開きとなった。

 

 ◇ ◇ ◇

 

 連日国内を騒がせていた一連の事件は、反魔法主義団体過激派組織ヴァルタンによるのもであったと政府から公的に発表された。

 

 一月二十五日にヴァルタンがランチェスター学園を襲撃したことなども説明され、新聞にも内容を記載されて市井にも認知されることとなった。

 

 無事にヴァルタンが壊滅し、代表のヴォイチェフを始め、団員たちが拘束されたと知った国民は様々な感想を抱いた。

 

 ただただ安心した者。

 魔法師の活躍に心躍った者。

 ランチェスター学園の生徒の身を案じる者。

 拘束された者たちの処遇を気にする者。

 反魔法思想を一層強めた者。

 この他にも人それぞれ様々な感想を抱いた。

 

 地下牢に捕らえられている者たちの処遇はまだ決まっていない。

 全ての団員を一律に刑に処すわけにはいかないからだ。まずは各人が犯してきた罪や思想を洗いざらい精査しなくてはならない。その後、各々に適した刑を処すことになる。――最も重い刑になるのはヴォイチェフで間違いないだろうが。

 

 全ての刑が確定するまで紙面を賑やかす日々は終わらないだろう。

 

 壁外には魔物が闊歩(かっぽ)している。

 魔法師、非魔法師問わず、せめて壁内でくらいは平穏でみんな安心して暮らせる日常になることを願う者が大半だ。

 

 この事件を皮切りに、ウェスペルシュタイン国は大きな変革の時を迎え、激動の時代が幕を開けることになるのであった。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。