最強魔法師の壁内生活   作:雅鳳飛恋

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第28話

 ◇ ◇ ◇

 

 翌日の四月二日――リンドレイクにある魔法協会支部の一室にジルヴェスターはいた。

 職員用の休憩室として用いられている部屋だが、建物の隅にあり利便性が悪く普段はあまり使われていない。それでもソファとテーブルはしっかりと設置されているので、休憩室としての役割は果たしている。

 

 ジルヴェスターは時間を潰す為に趣味の読書に勤しんでいた。

 テーブルにはコーヒーと菓子が置かれている。支部長が用意してくれた物だ。気を遣わせてしまい申し訳ない気持ちもあったが、厚意に甘えることにした。

 

 支部長としては特級魔法師第一席であるジルヴェスターに粗相のないようにと精一杯の歓待を心掛けていた。

 

「――んん……」

 

 ジルヴェスターの対面のソファから吐息が聞こえてくる。

 

「起きたか」

「ここは……?」

 

 対面のソファで横になったままレアルが目を覚ます。

 

「リンドレイクの魔法協会支部だ」

「――ジル!?」

 

 自分の独り言に対して言葉が返ってくるとは思っていなかったレアルが瞠目する。

 慌てて上半身を起こしてソファに座り直す。

 

 ジルヴェスターは本を異空間収納(アイテム・ボックス)にしまうと、テーブルに置いてあるティーポットを手に取り、中身が空の新しいカップにコーヒーを注ぐ。

 

「とりあえず落ち着け」

 

 そう言いながらコーヒーを注いだカップをレアルの手前に差し出す。

 

「あ、ありがとう」

 

 一先ずカップを手に取ってコーヒーを一口啜ると、ほっと一息吐いて落ち着きを取り戻す。

 

「昨日のことは覚えているか?」

 

 様子を見守っていたジルヴェスターがタイミングを見計らって尋ねる。

 

「うん……」

 

 レアルは相槌を打つと、顔を下げて悲壮感漂う表情になった。

 

「なんかデジャヴ……」

 

 つい最近にも同じような場面があったなと思い、自然と口から言葉が漏れた。

 

「そうだな。お前が壁外で倒れた時と重なるな」

「はは、それか……」

 

 レアルは既視感の正体がわかり苦笑する。

 

 以前レアルは体調不良にも(かか)わらず壁外に赴いた。

 その際に迂闊にも気を失うという失態を犯し、偶然出くわしたジルヴェスターが救助したお陰で事なきを得たが、非常に危険な状態だった。

 そして気がついた時には寮の自室におり、ジルヴェスターに事情を説明してもらった経緯がある。

 現在の状況は正にその時と酷似したシチュエーションであった。

 

「――まさかジルが『守護神(ガーディアン)』様だったなんて……」

 

 ジルヴェスターは本名を公表していないので世間には知られていないが、『守護神(ガーディアン)』という異名は国内に轟いている。この国には知らぬ者はいないと言っても過言ではないだろう。

 

 レアルは昨日(さくじつ)、特級魔法師の証であるコートを羽織ったジルヴェスターと対面している。その時の光景ははっきりと覚えていた。

 

「――それで、何故お前が暗殺などと柄にもないことをしていたんだ?」

 

 ジルヴェスターの目的とは別の話題になったので、本来の疑問を単刀直入に尋ねる。

 この為にレアルが起きるのを待っていた。

 

 昨日の光景を頭の中で思い浮かべていたレアルは、ジルヴェスターの質問に冷水を浴びせられたかのように頭が冴えて冷静になった。

 そして現在自分が置かれている状況を改めて理解した。

 

「それは……」

 

 レアルは唇を噛んで言い淀む。

 眉間に皺を寄せ、胸中で葛藤しているのが犇々(ひしひし)と伝わってくる。

 それも無理はないだろう。

 

 レアルも大勢の人と同じで特級魔法師には憧れを抱いている。それも第一席ともなれば憧憬(しょうけい)を抱くのも烏滸(おこ)がましいと思ってしまうほどの存在だ。

 

 そのような人物に自分が暗殺という不道徳なことを行っていると知られてしまった。

 一魔法師として顔向けできず、恥じや情けなさなどの負の感情が胸中を占める。憧れの存在に軽蔑されてしまうのではないかと恐れを抱いてしまう。

 

 特級魔法師という肩書を抜きにしてもジルヴェスターは友人だ。

 単純に友人には軽蔑されたくない。

 何よりも友人を暗殺者の友人にはしたくなかった。

 

「お前のことだ。何か事情があるんだろ?」

 

 ジルヴェスターとレアルの付き合いはまだ短い。

 だが、その短い付き合いでもジルヴェスターはレアルの人柄を理解している。彼は真面目で誠実、そして努力家だ。

 そのレアルが暗殺という不道徳なことをするとは思えない。やむを得ない事情がない限りは。

 

 レアルはジルヴェスターの言葉に心が救われた気がした。

 罪悪感などの負の感情で心が押し潰されそうになっていたレアルには、軽蔑せずに寄り添おうとをしてくれていることが何よりも嬉しくて心が軽くなる。

 

「何も遠慮することはない。気にせず話せ」

 

 レアルは友人を厄介事に巻き込んでしまうと思い、口が重くなっていた。

 一度ジルヴェスターと視線を合わせてから深呼吸をして心を落ち着かせる。

 

 改めて考えると、特級魔法師であるジルヴェスターには大した障害にはならないのかもしれないと思い至り、観念したのか、覚悟を決めたのか、はたまた自棄(やけ)になったのかはわからないが、重い口を開いた。

 

「――実は……」

 

 ぽつりぽつりと現在自分が置かれている状況を語り始めた。

 

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