君の痴態が忘れられないんだ。   作:雅鳳飛恋

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第100話 距離感

 翌日――午前中に残りの撮影を全て終わらせた一同は、いつでも帰れる準備を済ませた後に、名残惜しむように思い思いの時間を過ごしていた。

 

「あと一時間くらいしたら学校に戻るぞー」

 

 藤堂がキャンプ場内に散らばる生徒達に声を掛けて回る。

 

 すると、ちょうど海から砂浜に上がってきた亮が藤堂の言葉を耳にし、深々と溜息を吐く。

 

「はぁ~、夏休みが終わってしまう……」

「その前にお前は課題を終わらせろよ」

 

 同じく海から上がった颯真が、亮にとっては大変耳が痛い指摘をする。

 

「あー、聞こえない、聞こえない」

「サネみたいに成績優秀ならサボってもそこまで痛くないだろうが、お前はただでさえ劣等生なんだから課題を怠ると留年まっしぐらだぞ」

「……」

 

 耳を塞いで現実逃避していた亮は、颯真の忠告に硬直してピクリとも動かなくなった。

 

「私達のことを先輩と崇めるがいい!」

 

 千歳と慧、いつもの仲良し三人組でのんびりと駄弁っていた唯莉が、腕を胸の下で組みながら仁王立ちし、男二人を出迎える。

 胸が腕に乗っかっていて存在感が増しているが、それを気にする余裕は今の亮には微塵もなかった。一方、女性慣れしている颯真は友人の胸にいちいち浮かれたりはしない。

 

 ちなみに唯莉は上下共に水着姿だ。

 千歳は水着の上に白のロングTシャツを着ている。

 そして慧は水着の上に薄手のカーディガンを羽織り、ジーンズのショートパンツを穿いている。

 

「いいね、それ。ちょうどパシリが欲しかったし」

「女子三人に尽くせるなんて贅沢じゃん」

 

 唯莉に同調する慧と千歳は、挑発的な表情と口調で亮のことを揶揄う。

 その姿はとても愉快そうで、世に言うメスガキというやつがピッタリと当て嵌まる様相だ。

 

「――だ、誰がお前らのパシリになんてなるかよっ!」

 

 硬直から復活した亮が声を荒げる。

 

 しかし――

 

「それが嫌ならちゃんと課題やれよ」

「ぐっ……!」

 

 再び颯真に現実を突きつけられてしまい、反論出来ずに言葉に窮してしまう。

 

「自業自得だよっ!」

「ざまぁ」

「情けない」

 

 唯莉、慧、千歳が立て続けに辛辣な言葉を飛ばす。

 

「ぐ、ぐうの音も出ねぇ……」

 

 案の定、言い返す言葉が見つからない亮はがっくりと肩を落として縮こまる。

 

「やるべきことをちゃんとやらないからモテないんだよ」

「ぐはぁっ!」

 

 唯莉の追撃に心を抉られた亮は砂浜に膝をつく。

 砂浜じゃなければ激痛が走る勢いだったが、怪我はしていないのだろうか……?

 

「責任感のない男は敬遠されるよ」

「クリティカルヒットォオオオ!!」

 

 そして、とどめを刺されてしまった亮は力なく崩れ落ちて四つん這いになった。

 

「モテない云々(うんぬん)は別にしても、冗談抜きで課題はちゃんとやっておけよ」

「う、うす……」

 

 颯真が肩を竦めながら溜息交じりに言うと、亮は涙目になりながら頷いた。

 

「私達のことを先輩って呼びたくなかったら、嫌でもやるしかないよ」

「みんな等しくやってることだからね」

「遊び(ほう)けていたあんたが悪いんだから言い訳は出来ないよ」

 

 唯莉、慧、千歳が容赦なく三度目の追い打ちを掛ける。

 

「も、もう俺の残りHPはゼロだよ……」

 

 絞り出すようにそう呟いた亮は、顔面から砂浜に崩れ落ちて(しかばね)のように動かなくなった。

 

 そんな彼のことを完全に放置して、颯真が女性陣に尋ねる。

 

「そういえば、サネは何してんだ?」

「向こうで読書してる」

「キャンプ場まで来て読書かよ……」

 

 千歳がキャンプサイトの方に顔を向けながら答えると、颯真は呆れたように溜息を吐いた。

 

「サネは本の虫だからね」

「キャンプで読書する人は結構いるらしいよ」

 

 反射的に苦笑する千歳に続いて、慧が実親のフォローをするように言う。

 

「まあ、読書する人は基本ソロキャンの人だと思うけどね」

 

 ソロでキャンプしている人は時間を潰す為に読書に耽ることもあるだろう。自然の中で読書するのもまた一興だ。

 

 しかし、グループでキャンプしているのにわざわざ本を読む人はいないだろう。絶対にいないとは言い切れないが、一人で読書するよりも、仲間と一緒に楽しむことを優先する人の方が多い筈だ。

 

 絶対とは言い切れないが故に、慧は肩を竦めながら折角のフォローをなかったことにするような台詞を零してしまったのだろう。いや、もしかしたら始めからフォローする気はなかったのかもしれない。

 

「久世さんと映画研究部の部長さんも一緒だったけど、なんか仲良さげで輪に入り(にく)い雰囲気があったよ」

「わかる。なんか独特な空気感があったよね」

 

 ビーチに来る前に目撃した実親達の姿を思い出しながら唯莉が呟くと、同じ感想を抱いた千歳が頷いた。

 

「あ、ちーでもそう思うんだ?」

「うん。なんて言ったら良いのかわからないけど、三人とも遠慮せずに身を委ねているような感じがした」

 

 意外感をあらわにして首を傾げる唯莉に向かって、千歳が所感を述べる。

 

「身内みたいって言ったら良いのかな……。なんかそんな感じ」

「サネちーと部長さんは幼馴染なんだよね?」

「うん。そう言ってた」

「なら、その二人が家族同然の関係だったとしても理解出来るね」

 

 唯莉は納得して頷くが――

 

「でも、サネと久世さんの距離があそこまで近いのは何故?」

「んん~? なんでだろう?」

 

 慧が呟いた言葉に再び首を傾げてしまう。

 

 彼女達はサネと紫苑の物理的、心理的、両方の距離感が近いと思った。

 

 そこまで親しい間柄じゃなくても物理的距離感が近い人は存在する。やたらボディタッチが多かったり、グイグイ近寄ってきたりなど、距離感がバグっている人だ。

 なので、千歳達は紫苑が元から他人との物理的距離感が近い人なのだろうな、と結論付けて納得出来た。

 

 しかし、心理的距離感は交流を重ねないと近くならない。無遠慮に心の扉を開こうとしてくる者も存在するが、仮に侵入を許してしまっても、いきなり心理的距離感が近くなることはない筈だ。徐々に近寄っていくか、無遠慮な態度に嫌気が差して拒絶するかのどちらかだろう。

 

 故に、幼馴染である実親と宰の心理的距離感が近いのは不思議なことではない。寧ろ近くて当然だ。

 

 だが、千歳達は実親と紫苑の心理的距離感が近いのは腑に落ちなかった。

離れたところから見てもわかるほど、実親と紫苑は互いに気を許しているように感じたからである。

 

 紫苑よりも彼女達の方が実親との付き合いは長い。にも(かか)わらず、実親との心理的距離感が自分達よりも紫苑の方が近い気がして不思議でならなかったのだ。

 

「サネは天然ジゴロだからな」

 

 三人揃って首を傾げているところに、颯真が至極真面目な顔で口を挟むと――

 

「「「あぁ~」」」

 

 女性陣は深く納得してしまい、諸々の疑問について考えるのが馬鹿らしくなってしまった。

 

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