君の痴態が忘れられないんだ。   作:雅鳳飛恋

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第26話 苦言

 再び一週間後。

 期末試験の全科目の答案用紙が返却され、今回も上位五十位まで掲示板に掲載された。

 

 そして放課後、校舎の端にある実親が良く利用するラウンジにいつものメンバーが集まっていた。六人は円形のテーブルを二つ並べて使っている。

 

「いやー、ぎりぎり補習を回避出来たわ」

 

 亮がほっと息を吐いて胸を撫で下ろす。

 

「本当にぎりぎりだったな……」

 

 実親は勉強を教えてやった身として複雑な気分だ。

 補習を免れたのは良かったが、あれだけ教えたのに一歩間違えば赤点だったかもしれない程ぎりぎりの点数には頭が痛くなる。

 

「ま、みんな無事に補習回避出来たし良かったよな」

「お前が言うな」

「いてっ」

 

 実親の苦労など知らんとばかりに飄々としている亮の頭を颯真が(はた)く。

 

「そもそもお前以外は赤点の心配はねぇんだよ」

 

 みんなが一様に頷くので亮は閉口してしまう。

 

 実際問題赤点の心配があったのは亮だけである。

 他の面々は普段から勉強を疎かにしていない。毎日欠かさずしている訳ではないが、試験勉強くらいは確りやっている。

 

「サネはまた五位だったな」

 

 隣にいる颯真が感心と呆れの混ざった複雑な表情で言う。

 

 実親の期末試験の結果は学年五位だった。

 前回の中間試験の時と同じだ。

 

「流石サネちー」

 

 感嘆する唯莉は、普段から実親のことを「サネちー」と呼んでいる。

 ちなみに「サネちー」と呼ぶのは彼女だけだ。

 

「顔も良くて背も高くて頭も良いとか反則だろ」

 

 亮が溜息を吐きながら頭を掻く。

 

「頭が良いのと勉強が出来るのは別物だ」

「……何が違うんだ?」

 

 実親の指摘に亮は首を傾げる。

 

「いくら地頭が良くても勉強しなければ結果はついてこない」

「例えるなら、プロ野球選手になる為に勉強の時間を削って練習した結果プロになれた。でも、そもそもプロになるには頭が良くないとなれないよね。ルールやサインを覚えられないだろうし。例えが正しいかはわからないけど」

 

 慧がわかり易いように補足する。

 

 野球選手でもサッカー選手でも俳優でもなんでも当て嵌まるが、何かを極める為には犠牲にしなければならいこともある。

 その犠牲にする物が勉強だと当然成績が悪くなる。

 だが勉強していないから結果が伴っていないだけで、地頭が良ければ勉強次第で結果はついてくる筈だ。

 

 そもそも頭が悪ければ指導者の言っていることを理解出来ないので身にならない。

 自分で効率よく練習することも出来ないし、戦術を考えたり覚えたりすることも難しい。

 

 野球なら複雑なサインを覚えなくてはならないし、打撃の際は相手バッテリーの配球を読むことも出来ない。 

 

 サッカーなら常に動きながら相手の守備網を崩す為の戦術を考え、守備の際は潰し所やカバーなどを瞬時に判断する必要がある。

 

 俳優なら台本を読み込んで人物の心情を理解しないと役になりきれない。台詞を覚えることも出来ないだろう。

 

 勉強が出来ない(イコール)頭が悪い、とはならない。

 

「学歴が関係ない職業に就きたいなら、その為の努力をすれば良い。必ずしも勉強第一と言う訳ではないと俺は思っている」

 

 野球選手になりたいなら勉強している暇があるなら練習に時間を費やした方が効率が良い。

 

「勿論勉強は出来た方が良いだろうし、大学を出るに越したことはないと思うぞ。将来の選択肢は増えるし、いざという時の保険にもなるからな」

 

 誤解のないように言っておくと、決して勉強をしなくて良いと言っている訳でない。勉強したら脳が鍛えられるので何をするにも役立つ。

 

「要は本人の将来設計と努力次第ってことね」

 

 慧の言う通りである。

 

 自分が思い描く将来を実現する為に必要な努力をすれば良いということだ。

 何事も満遍なく熟せるのも良し、何か一つのことを極めるも良しだ。

 

「なるほど」

 

 納得した亮は喉につっかえていた物が取れてすっきりしたような気持ちなった。

 

「つまり、それだけサネは日頃から努力してるってこと」

「そうだよー。妬むのはお門違いだよ」

 

 亮は千歳と唯莉に鋭い視線を向けられてたじろいでしまう。

 厳しい語調と視線に晒されて居心地が悪くなった。

 

 千歳は真っ当に頑張っている人を悪く言うのが嫌いだ。

 頑張っている人は正当に評価されるべきだと思っている。

 何よりひたむきに努力している人は純粋にかっこいいし、応援したくもなる。

 

 しかも千歳にとって実親は家族だ。

 まだ家族になって日が浅いとはいえ、家族が軽んじられるのは我慢ならない。

 もしかしたら家族以上の特別な感情もあるかもしれないが。

 

 そして唯莉は筋の通らないことを嫌っている。

 正しいことには正当だと、間違いには誤りだとはっきりと指摘するタイプだ。

 亮の発言は努力している人を正当に評価しないで、努力を怠っている自分のことを正当化する為のものとも受け取れる。生まれ持った才能の所為にしていたからだ。

 解釈次第だが、相手を不快にさせる可能性がある以上は見過ごせない。

 故に苦言を呈した。

 

 尤も、亮は深く考えないで発言しているので他意はなかった。

 実親のことを軽んじているつもりは微塵もない。

 

 だが亮は千歳と唯莉に指摘されて自分の発言が軽率だったことに気付き、申し訳なさそうに「すまん」と実親に頭を下げた。

 

 そもそも当の実親は何も気にしていない。

 亮とはお互いに冗談を言い合える仲だ。他意がないのも理解している。

 なので(はな)から不快に思っていないが、千歳と唯莉の気遣いはありがたかった。

 

「今のうちに将来のことを考えておくことだな」

「後から勉強しておけば良かった、なんてことになったら後悔先に立たずだよ」

 

 実親と慧の成績優秀組が言うと説得力が違う。

 

「将来ねぇ……」

 

 亮が後頭部で腕を組んで仰け反り、自分の将来について思い描く。

 

 まだ一年生とは言え、高校生活の三年間はあっという間に過ぎ去る。

 早めに卒業後の進路について考えておいて損はない。寧ろ進路が決まっていた方が有利だ。それだけ準備期間を確保出来るのだから。

 

「お、いたいた」

 

 亮が考え込んでいると突然背後から声が掛かった。

 突然の声に驚くことなく六人は声の主へ視線を向ける。

 するとそこには一人の男子生徒がいた。

 

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