君の痴態が忘れられないんだ。   作:雅鳳飛恋

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第34話 滑稽

 目的地である多目的室に辿り着いた三人は室内に足を踏み入れる。

 するとそこには既に複数の人影があり、扉を開く音に気付いて一様に出入口へ視線を向けた。

 三人に鋭い視線が突き刺さる。

 

「待ち侘びたぞ。山縣部長!」

 

 室内にいる一人の男子生徒が芝居がかった仕草と口調で声を発する。

 

「宮原さん……まだ開始時間前ですよ」

 

 時計に視線を向けた宰は頭を掻く。

 

 宮原と呼ばれた男子生徒の名前は宮原(みやはら)斗真(とうま)と言う。

 テレビドラマに出演しているイケメン俳優のように端整な顔立ちをしている。

 髪型は少々長めのマッシュスタイルに束感を施したクラウドマッシュだ。金髪だが毳毳(けばけば)しくはなく、清潔感があって爽やかな印象がある。

 百八十センチを超える長身にスラっとした体型で、制服は気崩すことなく確りと着こなしていた。

 芝居がかった態度と言動も相まって貴公子然とした男だ。

 

「細かいことは気にするな」

「いや、時間を守ってるのに責められる謂れはないですから……」

 

 宰は目の前にいる斗真のことが苦手だ。

 芝居がかった仕草と口調もだが、自分の世界観の中で生きている感じがどうにも肌に合わない。皮肉が通じない上に面倒なところがあるので余計に苦手意識を植え付けていた。

 

 絡まれている宰のことを放置して実親と真帆は端に並べられている折り畳み式の長方形のテーブルに移動し、パイプ椅子に腰を下ろしていた。

 

「部長、大人しくして下さい」

 

 宰のことを助けてくれたのは凛々しい女子生徒であった。

 斗真の首根っこを掴んで引き摺って行く。

 

「不破……すまん。助かる」

「いやいや、こっちこそうちの部長がすまないね」

「お前も大変なんだな……」

 

 暴走する斗真の手綱を握って制御する姿を見た宰は同情の籠った視線を向ける。

 

「はは、慣れてしまったよ」

 

 乾いた笑いを漏らす女子生徒の苦労が察せられた。

 

 彼女の名前は不破(ふわ)(なつめ)と言い、宰と同じ二年生だ。

 目鼻立ちのはっきりとした顔立ちをしており、黒髪をマニッシュショートにしている。ラフなカットが男性的な雰囲気を演出していた。

 男性の中に交ざっても見劣りしない高めの身長と長い手足が凛々しさを際立たせており、総じて中性的な印象だ。

 少しだけ胸元を開いており、スカートは膝が隠れる長さにしていてタイツを穿いている。

 女性からの人気が高そうな所謂イケメン女子だ。

 

「扱いが雑じゃないかい!? 私は部長だぞ!」

「なら部長らしくして下さい」

 

 引き摺られながら抗議する斗真には部長の威厳など全くなかった。

 

 斗真から解放された宰は疲労困憊と言った表情だ。

 折り畳み式のテーブルのもとに移動して実親の隣の椅子に腰を下ろす。

 実親と真帆に挟まれる形だ。

 

「キャラの濃い人だな」

「そうなんだよ……」

 

 実親が斗真に抱いた第一印象だった。

 

「残念なイケメンだ」

「本当にな。黙ってれば良い男なんだよあの人」

 

 視線の先では斗真が棗に叱られていた。

 先輩であり尚且つ部長でもあるが、完全に立場が逆転している。

 

「宮原ってほんと面白いよねー」

 

 脱力して上半身をテーブルに預けている真帆が顔だけ斗真に向けて笑っていた。

 

「滑稽で見ていて飽きない」

「本人は至って真面目なんですけどね」

 

 真帆の辛辣な言葉に宰は苦笑するしかなかった。

 

 棗に叱られて肩を落としている斗真の姿を見ても室内にいる他の人達は完全にスルーしている。

 すっかり見慣れた光景なのか、始めからいないものとして扱っているようだ。

 

「それでも何故か人気があるんだよな」

 

 宰は腕を組んで首を傾げる。

 

「イケメンは何をしても目の保養になるってことかね。まあ、本人の性格の良さもあるんだろうが」

「宮原は男子からの人気もあるけどね」

 

 イケメン憎しで同性から目の敵にされないのは斗真の人徳故なのかもしれない。

 顔が良い上に面白く、尚且つ性格も良いとなれば愛されるのは納得出来る。

 

「愉快な人だということはわかった」

 

 実親は斗真とは面識がないので為人(ひととなり)はわからない。なので宰と真帆の言葉から窺い知ることしか出来なかった。

 

 会話が一段落すると多目的室の扉が開く。まるでタイミングを見計らっていたかのようだ。

 

「お待たせしましたー」

 

 やって来たのは紫苑だ。

 陸上部のジャージを着ている伊吹を伴っている。

 

「失礼します」

 

 恐縮している伊吹は紫苑の後を追うように多目的室に足を踏み入れる。

 

 紫苑は真帆の隣の椅子に腰を下ろし、伊吹は紫苑の隣に腰掛けた。

 対面から見て伊吹、紫苑、真帆、宰、実親の並びだ。

 

「あの、私は場違いな気がします。部員でもないですし……」

 

 伊吹は身体が縮こまって居心地悪そうにしている。

 それでも隣にいる紫苑と目線の位置があまり変わらないのは身長差があるからだ。

 

「何言ってんの。伊吹はこれの主人公のモデルなんだから同席する資格あるでしょ」

「でも私には何をどう見て判断したら良いのかわからないよ」

 

 紫苑はテーブルに置いてある脚本を指し示す。

 しかし伊吹は困り顔だ。

 

 困惑している伊吹のことを見かねたのか、真帆が口を開く。

 相変わらずテーブルに上半身を預けたままだ。顔だけ伊吹に向けている。

 

「難しいことは考えずになんとなくでも良いから、この人にやって欲しいな、って思った人を選べば良いよ。小難しいことはこっちが考えるから。主にうちの部長が」

「いや、丸投げですか……」

 

 他力本願な真帆の態度に呆れた宰は二の句が継げなかった。

 

「それなら俺も部員じゃないんだけどな」

 

 実親が肩を竦める。

 彼は映画研究部の面々と共にいることが多いので勘違いされることが多々あるが、活動に協力しているだけで部員ではない。

 

「黛君は脚本書いてるから部外者ではないでしょ? でも私はモデルにしてもらっただけで全く関与してないよ」

 

 確かに実親は脚本を書いているので立場が異なる。

 伊吹はモデルにされただけで映画研究部の活動には参加していない。

 なので実親と同じ扱いをするのは酷だろう。

 

「まあ、先輩が言ったように難しいことは考えずに素直に感じたことを言ってくれれば良いよ」

 

 二の句が継げずにいた宰が復活し、諭すように語り掛ける。

 折角なら後ろ向きな気持ちではなく、前向きに楽しんでほしいと思ったからだ。

 

「誰でも経験出来ることではないから楽しまないと勿体無いよ」

「そうですね……わかりました。私なりに向き合ってみたいと思います」

「うん。よろしくね」

 

 どうやら伊吹は前向きになってくれたようで、縮こまっていた背筋が伸びた。

 その様子に宰が笑みを浮かべる。

 

 彼女は元々後ろ向きだった訳ではない。場違いな気がして居た堪れなかったのだ。

 だが映画研究部の面々が歓迎してくれているので気が楽になった。純粋に楽しもうと思えるくらいには。

 

「それより部活は良いのか?」

 

 実親はずっと疑問に思っていたことを尋ねる。

 インターハイが間近に迫っているので練習する時間は惜しい筈だ。

 

「うん。今日はもう終わったから」

 

 しかし余計な心配だったようだ。

 シャワーで汗を流してからこの場に来ている。

 シャワー後の火照った顔とシャンプーの香りでいつものスポーティな感じとのギャップがあって妙に色っぽく見えたが、流石の実親も「本人には言わない方が良さそうだ」と思い自重した。

 伊吹はそういったことを男に言われるのは耐性が無さそうだと思ったからだ。

 

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