君の痴態が忘れられないんだ。   作:雅鳳飛恋

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第95話 逆ナン

「でも確かに怖いってのはその通りかもしれないな」

 

 自分よりも大柄な男と相対した時のことを想像した亮は頷くしかなかった。

 

「それにちーの言う通り、逆ナンしてくる人は手慣れてる感じがして、仮に付き合っても他の男をナンパするんじゃないかと思ってしまうかもしれん」

 

 亮は頭を掻きながら「逆ナンされたことないから想像でしかないけど……」と零す。

 

「そういう訳で、ナンパするなら慎重にやらないと上手くいかないんだ」

 

 励ますように亮の右肩に左手を置く颯真。

 

 ナンパする際は、男遊びをするタイプの女性なのか、それとも身持ちが堅いタイプの人なのかを見極める必要がある。

 その上で自分の目的に沿った相手を怖がらせないように声を掛けなくてはならない。

 ナンパ師への道は険しいのである。

 

「一途な人に逆ナンされたい……」

 

 颯真の言葉に納得した亮は思わず本音を吐露してしまう。

 

「それは現実的じゃないな」

「お前と違って俺は逆ナンされたことすらないんだぞ。少しくらい夢を見たって良いじゃんか」

 

 首を左右に振る颯真に対して、亮は恨みがましい視線を向ける。

 

「そりゃ逆ナンされる時もあるが、サネ程じゃねぇよ」

 

 そう言って肩を竦めた颯真は、実親に視線を向けて「な?」と投げ掛けた。

 

「ここで俺に振るのか……」

 

 友人達の話を黙って見守っていた実親は不意打ちを食らってしまった。

 しかも女性陣の視線が突き刺さり、何も悪いことをしていないのに責められているような錯覚を味わってしまう。

 

「……サネはそんなに逆ナンされるの?」

「私も気になる!」

 

 探るような千歳の問いに唯莉が追従すると、追い打ちを掛けるように慧が「どうなの?」と口にした。

 

 三人とも興味津々だが、真意はそれぞれ異なる。

 

 実親のことが好きなのだと自覚して日の浅い千歳は、純粋に想い人の異性関係が気になって仕方がなかった。

 

 慧は千歳が実親に懸想(けそう)していると勘付いているので援護したのだ。情報を引き出して、いつでも千歳をフォロー出来るようにしておこうという意味合いもある。

 

 そして残る唯莉は単純に色恋沙汰の話題に興味があっただけだ。

 

「たまにされるが、女性ほどではないと思うぞ」

 

 実親は外見的な特徴だけでも目を引くので逆ナンされることは割りと多い。

 彼のようにイケメンで背が高く、足も長いとなれば、放っておかない女性も意外といるということだろう。

 

「逆ナンされたらどうしてるの?」

 

 千歳が最も気にしていることを慧が問う。

 

「全て断っている」

 

 間を置かずに実親が答えると、千歳は安堵して胸中でほっと息を吐いた。

 想いを寄せている相手の異性関係を気にしてしまうのは誰だって同じ筈だ。

 

「もったいねぇ!」

「サネらしいけどな」

 

 羨望の眼差しを向ける亮は自分のことのように残念がり、颯真は呆れながらも納得する。

 

「そういうチャラくないところもサネちーの魅力だよね! 私は好き!!」

 

 相好を崩す唯莉に釣られるように実親も表情が緩み――

 

「俺も唯の天真爛漫なところが可愛くて好きだぞ」

 

 と瞳を見つめながら言った。

 

「えへへー。両想いだねっ!!」

「そうだな」

 

 二人は仲睦まじそうに視線を交わし合う。

 

 唯莉は純粋に友人としての好意を示しているだけだが、こういう小悪魔的なところが世の男を勘違いさせてしまう。しかし自覚が無いまま()でやっているので責めるに責められないのである。

 それこそ相手が実親でなければ十中八九、「もしかして俺のことが好きなのか!?」と思わせてしまい、要らぬ誤解を生んでいたことだろう。

 

 (みな)が一連のやり取りに注視する中、慧だけは千歳の様子を窺っていた。

 

 それは何故か。

 隠すまでもない簡単な理由だ。

 実親と唯莉のやり取りに対する千歳の反応を確認していたのである。

 

 千歳が唯莉に嫉妬していれば、以前から窺っていた「ちーはサネのことが好きなのかな?」という推測が当たっている思ったからだ。

 

 しかし慧の予想に反して千歳は微笑んでいた。

 

(まあ、相手が唯だし、気にするだけ無駄だったかな)

 

 慧は意外感に包まれたが、すぐに考えを改めた。

 

 唯莉は明るくて無邪気であり、裏表のない性格だと慧も千歳もわかっている。

 だから一見すると思わせぶりな態度に見えても、唯莉には他意がないということが千歳にもわかっているのだろう、と慧は結論付けたのだ。

 

 そして慧の結論は正しかった。

 

 千歳は本当に嫉妬などしておらず、純粋に場の雰囲気を楽しんでいた。唯莉のことを微笑ましげに眺めているのがその証拠だ。

 

 恋愛が絡むと友情に(ひび)が入ることも多々あるが、幸いにして千歳と唯莉の間には要らぬ心配であった。

 

「カップルかよ」

「何? 羨ましいの?」

 

 甘ったるい空気に亮が毒づくと、唯莉から揶揄うような口調の問いと視線が飛んで行く。

 

「そんなんじゃねぇけどよ」

 

 思いの(ほか)威力があったのか亮は気圧されてしまい、反射的に視線を逸らした。

 

「肉取って来る!」

 

 居た堪れなくなった亮はそう言うと席を立ち、逃げるようにバーベキューコンロへ足を向けた。

 

 その後ろ姿を五人は苦笑したり、呆れたりしながら見送る。

 

「ちゃんと野菜も食べろよ」

 

 実親だけは去っていく亮の背に向かって言葉を投げ掛けた。

 しかし亮の耳に届いていたかは怪しいところである。

 

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