ハーベストハーベスター~踏み台型ラスボス少女と呼ばれた推しを、今世では幸せにしたい!~   作:夏目八尋

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いつも応援ありがとうございます。

感想・評価いただくたびに、やったぜと喜んでいます。
楽しんでもらえてるんだなと実感が沸きます。
誤字報告も助かっています。本当にありがとうございます。

今回の締めはパイセン視点。


第103話 すべてはこれからの物語

 

 3月中旬。

 追加人員が天2基地に配属されてから、1週間が経ち。

 

「うおおおおーーーーーー!! めぇばぁえぇーーーーーーー!!」

「ひゃあああーーーーー……!!」

「いっしょに、おひる、たべ、よう、ぜぇ~~~~~~~~~~!!!」

「いぃ~~~やぁ~~~~~~~~っ!!!」

 

 この鬼ごっこも、隊員たちの見慣れたものになり始めていた。

 

 

「……なぁ、九條。つまりアレは、結局どういうことなんだ?」

「少なくとも、終夜ちゃんがガチでめばえちゃん推してるってのは理解したわけだけどさぁ」

「推してるっていうか、圧してるって感じだけど。むしろ、狩りみたいになってない?」

 

 三羽烏から向けられる疑問の言葉に、私は手に持った缶コーヒーを静かに一口飲んでから口を開く。

 

「見ての通りよ。私の時と同じ。終夜にロックオンされたのよ、彼女」

「「「ああ~」」」

 

 揃って納得の声を上げる3人をよそに、私は少しだけ目を細めて、終夜たちのやり取りを眺める。

 私の時と同じだけど、私の時とは少しだけ違うあの絡みに、どことなく不満を感じながら。

 

 

 あの日。

 有給取って自宅に引きこもった終夜のお見舞いに行って、その日の内にぶっ飛んでいった彼が派手にやらかしたおかげで、彼の黒川めばえへの推し活(きもち)は多くの人に周知されることになった。

 幸い、彼のアプローチを拒絶した黒川めばえの方は、一般女性という扱いで表立っては秘匿され、霊子ネット上に拡散されたりといった状況にはなっていない。

 

「にしても、終夜ちゃんがたびたび叫んでためばえが、彼女のことだとはねぇ? いざ知ってしまった衝撃の真実に、カケルちゃん地味ぃ~にドン引きです」

「希望の芽生えを謳っていた、ということでこれからも通すと六牧司令からのお達しだ」

 

 司令部関係はカバーストーリーの流布に四苦八苦しているそう。

 焚きつけた自分が言うことではないけれど、もっと密やかに段階を踏むと思っていた彼がここまでアクセル全開になってしまっているのには、少しだけ罪悪感を持っている。

 

 

「大丈夫だ、我が最高最愛の推し黒川めばえちゃん! ただ俺と一緒にお昼を食べて、弁当の中身を交換したり、趣味の話をしたり、そういう青春っぽいことをしようってだけなんだからなぁ~~~!!」

「や、やらない……! そう、言った……はず……!?」

「俺が怖いかい? 大丈夫、すべては相互理解から始まるんだ! 対話しよう!」

「は、話に……ならない……!?」

 

 フィジカルの差が明確な二人の鬼ごっこ。

 入隊したてでまだまだ未熟な今の黒川めばえに、逃れるすべがない。

 

 でも。

 

「黒木の奴、手加減してるな」

「してるねぇ」

「あ、逃がした。泣き崩れて倒れるフリして、めばえちゃんが逃げ終えるの待ってる」

「………」

 

 私を鍛えようとしていた時と違って、彼が明確に彼女を気遣っているのを見ると。

 

「なんか、プロレスっぽいよね。あのやり取りってさ」

「だな」

「だねぇ」

 

 そしてそれを、黒川めばえ自身もわかってそうな節があるのを感じると。

 

「……むぅ」

 

 これも、体力の訓練ってことでいいんじゃないかしら。って、止める気が薄れてしまって。

 

(何よりも、誰よりも、推しの幸せを望んでいる。ねぇ?)

 

 どんな形であれ、ずっと持ち続けてきた想いに勝る強さはないと、彼自身がもうすでに証明してしまっているのもあって。

 

(……前世からの想いなんて、それこそ運命みたいなモノじゃないの)

 

 その深さと重さに、私の足は動かなかった。

 

 

「いやー、にしても。これは中々波乱が起こりそうだねぇ? ね? ね?」

「……そうね」

 

 隣に並んで小突いてくる翼に、静かに同意する。

 

「我らがエースオブエースの黒木くんが、一人の女の子にご執心。ゴシップ的なノリもそうだけど、天2そのものにとっても、ちょっと穏やかじゃあないよねぇ~?」

「そうね。幸い……というかなんというか、渦中のあの子は、今は自分を鍛え上げるのに必死でそれどころじゃないのだけれど」

「……ふーん?」

 

 渦中のあの子、清白帆乃花(すずしろほのか)

 最近妙に安定してる千代麿と違い特にメンタルに影響がありそうだった彼女は、今日も命と一緒にシミュレーターに籠もって、豪風の連携操作訓練に勤しんでいる。

 

『そりゃ、気になるよ? 二人のことを考えたら、もしも明日にでもくっついちゃったらって思ったら、何も手につかなくなりそうになるもん。でもね……』

 

 私よりも何倍も強いあの子は。

 

『今、ここで。私が強くならないと……本当の意味で、黒木君の隣には立てないから』

 

 今にも荒れ狂いそうなその心を、望む未来を掴むために使いこなそうとしている。

 

『あ、だからね! 私の分まで、巡ちゃんが二人のこと、見ててね! お願いね!』

『そろそろ訓練の続きをしますよ、帆乃花』

『ぎゃあ! 命ちゃん待ってスカーフ掴まないで首絞まっちゃう!』

『終夜様のお役に立ちたいのでしょう? ならば死力を尽くして、贄に付いてきてください』

『うわぅっ! あ、あっ、巡ちゃん! ほんと、ほんとほんとほんとお願いだから! 二人をおねがーーーい!!』

 

 私はそれを、心から尊敬する。

 私にはできない。

 

 

「ま、少なくとも今は……めばえっちの反応を見る限り芽は出なさそうだよねぇ」

「そうね、でも……」

 

 それはそれで、なんだか心がモヤモヤするのを感じる。

 

(黒川めばえ。確かに彼女は、終夜のことを拒絶している。しているのだけれど……)

 

 私の中の直観のようなものが働いている。

 

(彼が……終夜が言った通り、あの子が心の底から誰かと関わることを拒絶するようなタイプには、思えないのよね)

 

 何か大きな壁が彼女には確かにあるけれど。

 その壁はきっと、壊せないものじゃないから。

 

 だから、いつかは……。

 

 

「……すべてはこれから、かしらね」

「だねっ!」

 

 呟いた言葉を拾われて、視線を向ければ翼が笑っている。

 

「これからだよ、これから!」

「………」

 

 煽りは聞かなかったことにして視線を逸らし、彼を見る。

 と。

 

「うおおおおおん! 兵器ちゃん! めばえちゃんが塩対応なんだぁぁぁ!!」

「ぎゃ~~~~ッス!? なんスかなんスか!? ウチには何もできないッスよー!?」

 

 いつも通りの馬鹿を始めていた。

 

 

「あれはウザ絡みだな」

「今日は一二三ちゃんが犠牲者かぁ~。カワイソカワイソ。で、どうする巡ちゃん?」

「そうね。ちょっとシバいてくるわ」

「行ってら~」

 

 近くのごみ箱に飲み干した缶を捨て、駆け出す。

 

「こら、終夜! 新人にウザ絡みしないの!」

「あっ! 聞いてくれよパイセン! めばえちゃんが塩対応でぐべぇっ!」

「ひぇっ、天下のハベベ様がきりもみしながら飛んでったッス。これが現人神の一撃……」

 

 呼び出した羽衣でほどよく手加減しながら吹き飛ばし、お説教を始める。

 

「まったく、アナタは毎日毎日毎日毎日……!」

「にゃぁ……さーせん」

 

 その様子をずっと遠くからこっそり見つめる、()()()の視線に気づかないフリをして。

 

「罰として、基地の全部のトイレ掃除、やっておきなさい!」

「マジで!? めばえちゃんの手伝いじゃん! やるやるやります! やらせてください!」

「~~~~っ!! 少しは反省しなさいなっ!」

 

 今だけは、私の青春の時間を味わわさせてもらうのだった。




新しい仲間、新しい日常。

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