ハーベストハーベスター~踏み台型ラスボス少女と呼ばれた推しを、今世では幸せにしたい!~   作:夏目八尋

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楽しんでもらえてるんだなと実感が沸きます。
誤字報告も助かっています。本当にありがとうございます。

黒木終夜の交流会。


第109話 兵器ちゃん

 

「いや~。それにしても、盛大にやらかしたッスね~?」

「マジでごめんなさい」

 

 監視だけじゃなく話し相手になってくれるらしい瓶兆さんと、ありがたく交流する。

 

「やっぱあれッスか? 推しへの想いが抑えきれずにっていう……」

「あぁ、まぁ、そんな感じで」

「はへぇ~、それであんな暴走を。世の中広いッスねぇ」

「ははは……」

 

 直近のやらかしをほじくられるのもまた、宿命!

 生き恥を晒す以上甘んじて受けるしかない。

 

 さぁ、笑ってくれ。推し活の加減を間違えた哀れな男を!

 

 

「……ちょっとだけッスけど、羨ましいッスね」

 

 へ?

 

「羨ましい?」

「はい。ウチはなんていうか、そういうコレしかない! みたいな感覚、あんまりわからないッスから」

「……ふむ」

 

 なんかしっとりしてきたな。

 この世界でも兵器ちゃん、こんな感じなのか。

 

 原作HVVでも、仲良くなるにつれてしっとりしてくるもんな。

 溢れるエッッッさにどれだけのファンが製造されたか。

 

 

「黒木先輩も知ってるッスよね? ウチが白の鳥籠出身だってのは」

「まぁな」

「なら話が早いんでぶっちゃけるッスけど、そこではずーっと訓練と試験ばっかりの日々だったんで、ウチはなーんにも感じられない日常だったんスよ」

 

 知ってる。

 兵器ちゃんにとって、誰かと競う日々は無……どころか、苦痛すらある日々だった。

 

 性根がマイペース気味な彼女にとって、日々急き立てられるのも、他者と争うのも得意ではなくて、それでも彼女には幸運3という才能があったから、管理者たちからは注目され続けてしまう。

 

「そんな毎日じゃ趣味のひとつもできないッスから。自分が何が好きなのかとかもさーっぱりわからないんスよね」

「そうだろうな」

 

 ゲーム版HVVの兵器ちゃんも、最初のうちは好物がわからない。

 交流を重ねた先で次第に彼女の好物が判明し、そしてそのうちの一つが……。

 

 

「……そんな身の上からすると、黒木先輩みたいなドーンでバーンでバンバンババンっての、ちょっと憧れるんスよ」

 

 考え事してる俺の隣にしゃがみ込み、にへへと笑う瓶兆さん。

 彼女の視線はそのまま教室の中にいる、ある一人へと向けられた。

 

「……だから、彼女がああなってるの、本当にビックリで」

 

 彼女の目が向いた先には。

 

「フッ! 我が名は帆乃花! 豪風のパイロットにして第5のハーベストハーベスターなり!」

 

 テンション高くポーズを決める、清白さんがいた。

 

 

      ※      ※      ※

 

 

「アレが“雪姫”とか、マジ意味わかんないッス」

 

 わからない。と言う割に、何か眩しいモノを見つめるかのように目を細め。

 

「……アレって、黒木先輩の影響なんスかね?」

 

 そのまま視線が、再び俺の方へと向けられる。

 

「そこんところ、どうなんスかね? 先輩?」

 

 それは試すような、確かめるかのような、静かで……鈍くずっしりとした視線で。

 

 

「そう、だな……」

「………」

「とりあえず……」

「………」

 

「……“雪姫”って何だ?」

「あ、そこからッスか?」

 

 ガクッ。

 

 あからさまにズッコケた動きをしてみせてから、瓶兆さんが苦笑する。

 どうしたものかと困惑する彼女に、俺は言葉を返した。

 

「いや、そこについては重要じゃないよな。なんとなくわかるし」

「へぇ……」

 

 そう、本題はそこじゃない。

 

「……兵器ちゃんが知りたいのは、清白さんの在り方についてだよな?」

「そうそう、それッス」

「清白さんのアレは、多分、こっちが彼女の素なんだと思う。どっちかっていうと、その雪姫って呼ばれてた時の方が、偽りの姿だったんだと思うよ」

「ほほぉー」

()()()()()()()()()()()

「………」

 

 瓶兆さんの顔から、表情が消えた。

 

 

「……どうして、そう思ったんスか?」

 

 さっき以上の警戒と、探るような気配。

 手負いの獣が傷口を狙われているときに取る態度のような、必死さの滲む抵抗感。

 

「そりゃまぁ、見てればわかるというか」

 

 前提として、知識を持っているか否かは大きいが。

 知ったうえで彼女を見ると、その態度はむしろわかりやすい。

 

「めちゃくちゃ周りに気を使ってるよな。波風立たないように、目立たないように」

「………」

 

 この辺は、保健ちゃんだった頃の清白さんとも似ている。

 なずなさんの言葉に縛られてた清白さんに対して、彼女の場合は――。

 

「――それが、処世術だったんだもんな」

「……ッスね」

 

 そう、処世術。

 白の鳥籠で必要以上に注目されないように、必要以上に自分のペースを崩されないために身に着けた技である。

 

 

「身に染みた習慣って、中々抜けないよな。頭でわかってても、ついやっちゃうんだ」

「そうッスそうッス。もう、ここは白の鳥籠(あそこ)じゃないってわかってんスけどね」

 

 癖みたいなモノで、繰り返す度に備わって、固まって、そうあることが普通になる行為。

 

「俺の推し活みたいなもんだな」

「それは違うと思うッス」

 

 即答だった。

 

「………」

「でも、そうッスね。確かに、こうやって周りに気を使ってばっかだからこそ、自分がやりたいことってのが見えてきてないのかも……」

「なら」

「趣味だとしても推し活は遠慮するッス」

 

 即答だった。

 

 

「んでも、もうこの習慣まで含めてウチみたいなもんッスから。そうすると、趣味とかがないのもウチってことになるんスかねぇ?」

 

 瓶兆さんの目が、再び清白さんを追う。

 やいのやいのと騒がしく、その中心で面白おかしく過ごす……雪姫を見て。

 

「……変われば、変わるもんなんスねぇ」

 

 遠く遠く、手の届かない遥か遠くを見るかのように。

 同郷の、そして同じ幸運(チート)持ちの存在と己とを見比べて。

 

 

「でも、変われる人と変われない人が、世の中には――」

「おすすめは月刊リトルレディース」

「――はい?」

 

 

 ふんわりと、何かを諦めそうになっていた彼女に。

 俺はちょっとだけ、前世知識(チート)を使うことにした。

 

 

      ※      ※      ※

 

 

「月刊リトルレディース?」

「少女漫画。買って読んでみるといい。ハマるぜ?」

「えー……漫画ッスか?」

 

 子供っぽくないッスか?

 と、顔に出ている瓶兆さんに、それでもとゴリ押す。

 

「わかった、わかったッス。試しに買ってみるッスから」

 

 正座を解こうとした俺を止め、首を何度も縦に振り、根負けした彼女は頷いた。

 

 

「漫画、漫画ねぇ……」

「ハマったら、清白さんに話題振ってみるといい。気が合うと思うぞ」

「え? ……あぁ、マジで言ってるんスね、それ」

「ああ」

 

 だって俺は知っている。

 原作HVVで瓶兆さんが好きな物、その一つが少女漫画だということを。

 

 そして。

 清白さんもまた、少女漫画が好きだということを。

 

 

「……りょーかいッス。そういうことなら、試してみるッス」

 

 しばらく考えるような仕草をしてから、頷きと共に瓶兆さんが言った。

 

「あ、でも。趣味合わなくっても怒らないでくださいッスよ?」

「怒らない怒らない」

 

 同じ少女漫画好きでも、流派が違う可能性は否めない。

 清白さんの好きな“爆裂少女道”と“LOVEドキッ”が、瓶兆さんに刺さるかどうかは俺には予測できないのだ。

 

(ゲームや設定資料集じゃ、少女漫画が好きって情報しか出てなかったし……)

 

 これもある種の賭けで、現実のままならなさだな。

 だからその結果がどうなったとしても、ゲームと違ったとしても、それはそれ。

 

 

「兵器ちゃんの今は、兵器ちゃんの物なんだからな」

「!? ……ッス」

 

 

 納得してくれた様子で、瓶兆さんもまた頷く。

 照れくさそうに頭を掻いていたが、その顔はどこか晴れやかそうにも見えた。

 

 

「……それじゃ。そろそろ監視も終わりなんで、ウチはこれで」

 

 にわかに廊下側が騒がしくなってきたのを感じて、瓶兆さんが立ち上がる。

 

「了解。ありがとう兵器ちゃん。誰かと話したおかげで頭もスッキリした」

「そりゃどうもッス。ウチでよければ話し相手くらいにはなるッスから。またお気軽にどうぞ」

 

 愛想よく手を振ってから、瓶兆さんはゆるりとした足取りで離れていく。

 

「……」

「?」

 

 途中、こっちに向かってきていた清白さんと二言三言話してから、彼女は会場から出て行った。

 

 

「黒木くん黒木くん。一二三ちゃんと何話してたの?」

「大した話はしてないな。趣味がないらしいから、いくつかお勧めしただけだ」

 

 入れ替わりにてってこやってきた清白さんからの質問に答えつつ、ふと、思いつくまま言ってみる。

 

「清白さん。鳥籠時代に雪姫って呼ばれてたんだって?」

「えっ? なにそれ!? わ、私そんなの知らないよ! そんな風に呼ばれてたの!?」

「清白さんが姫なら、建岩の姫様とセットでいい感じじゃないか? 帆乃花姫?」

「ひゃぇっ!? ……も、もー! からかわなくていいよぉ~!」

 

 顔を真っ赤にしたり、バタバタしたり。

 今日も清白さんは忙しい。

 

「そうだなぁ。今の清白さんは、どっちかっていうと姫より勇者とかだよなぁ」

「勇者? そう、そう見える?」

「見える見える。訓練頑張ってるもんな」

「あ……えへへ~」

 

 昔お姫様、今勇者様。

 フリーダムな清白さんらしい、見事なジョブ遍歴だと感心する。

 

 

(清白さんがこんな感じ。じゃあ、兵器ちゃんはここで、どんな奴になるんだろうな?)

 

 できれば俺は。

 変化した彼女が、清白さんと仲良く少女漫画雑誌を読むような未来があればいいと思う。

 

   ・

 

   ・

 

   ・

 

 ちなみに。

 

「ごめんなさい!!」

「………」

 

 改めて、パイセンたちが連れてきてくれためばえちゃんへの謝罪の機会。

 

「笑ってくれるかと思って全力出したけど、やりすぎだった。怖がらせてしまって本当にごめん!」

 

 土下座して。全力で謝罪する俺に。

 

「……あれが、全力?」

「いや、もっと全力出そうと思ったら出せるとは思う」

「えっ……そう、なの? 具体的、には……?」

「ご説明させていただきます」

 

 めばえちゃんは俺に、いくつかの問いを投げてから。

 

「黒木終夜、今はまだ……無理」

「ごはぁっ!!」

「あ、推しに真っ向から切られた」

「残当」

 

 キッチリと、俺にトドメを刺してくださりましたとさ。




爆裂少女道→少女道を極めんとする乙女たちの熱き青春バトル漫画。
LOVEドキッ→ヒロインが数話ごとに代わるメイン相手にその場その場でドキシチュこなすご長寿ラブコメ漫画。

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ぜひぜひよろしくお願いします!!

次回は兵器ちゃんこと瓶兆さん視点です。
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