ハーベストハーベスター~踏み台型ラスボス少女と呼ばれた推しを、今世では幸せにしたい!~   作:夏目八尋

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感想・評価いただくたびに、やったぜと喜んでいます。
楽しんでもらえてるんだなと実感が沸きます。
誤字報告も助かっています。本当にありがとうございます。

今回は真白君視点でお送りいたします。


第146話 真白一人の見た憧憬

 

 隈本・神子島の県境にある森の中。

 

RR(アールツー)! しっかりして、RRっ!!」

 

 周囲の敵を掃討、しばらくの安全を確保したところで僕は、RRを介抱する。

 

「くっ、酷いケガだ……!」

 

 今、僕の腕の中にいる彼女は大怪我を負っていた。

 右腰から腹にかけバッサリとついた切り傷は、ある人のただの一振りで与えられた傷だった。

 

 その傷は彼女の外套だった赤いコートはもちろん、その中に着込んでいたドラゴンの爪すら弾いた契約鎧の装甲すらもあっさりと切り裂き、刻まれていて。

 

 まさに絶技、というほかない極みがそこに存在した。

 

 

「う……」

「RR! 意識が戻ったの!?」

「う、ん……ひ、とり?」

「そうだよ! 真白一人だ。キミに命を救われた、真白一人だ!」

「いのち……を……」

 

 虚ろな気配を漂わす彼女の手が、そっとこちらへと伸びてきて。

 

「……ぁっ! つ、ぅぅ……!」

 

 けれど何かに気づいてビクッと一度震えれば、伸ばそうとしていた手を引き戻し、今度は痛みに縮こまる。

 それでも彼女は気丈に息を整えて、“精霊纏い”でその手に何かを呼び出した。

 

「これを……傷口に」

「これは、スプレー? わかった!」

 

 差し出されたスプレーを、言われるがまま彼女の傷口に向かって噴射する。

 スプレーから吐き出された細かな白い泡のようなモノが、彼女の傷周りに噴きつけられれば。

 

「う、わ。傷が……!」

 

 それはまるで時を巻き戻していくかのように傷口を塞ぎ、さらには切り裂かれた契約鎧や赤いコートに至るまで、物の見事に修復してしまう。

 それにともないRRの乱れた呼吸も落ち着きを取り戻し、胸元の動きもゆっくりとした物になっていった。

 

 と、そこでハッとなる。

 

 

「はぁー……、はぁー……」

 

 腕の中にRRがいる。

 思えば彼女とこうして触れ合うような事態は、今まで一度たりともなかった。

 

 だからかな、彼女から初めて、女性らしさのようなものを感じてしまって。

 

「ご、ごめんっ!」

「?」

 

 後ろめたさから、つい謝って目を逸らしてしまった。

 恥ずかしさで顔が熱い。ここは戦場奥深くなのに、妙な汗と鼓動が響く。

 

 

「……もう、大丈夫です。真白一人」

「ぁ……」

 

 気づけばいつもの調子を取り戻したRRに、やんわりと押され抱えていた手を放す。

 自分の足でしっかりと立つ彼女は、さっきまで死にかけだったとはとても思えない態度で。

 

「……しくじりました。まさか、黒木終夜があそこまで強くなっていたとは」

「黒木終夜……」

 

 けれども確かに、致命傷となる一太刀を彼女へ浴びせたその人物の名前が出れば。

 

(あれが、黒木終夜。緑の風、人類の希望……いずれラスボスとなる存在、か)

 

 変に湧き上がっていた熱は急速に冷めて。

 僕の心に複雑な、本当に複雑な想いが渦巻くのを感じた。

 

 

      ※      ※      ※

 

 

 黒木終夜。

 僕にとって彼は、憧れの存在だった。

 

 未来に光が見えないこの時代に、年もほとんど変わらない学生の身分で実戦に勝利したなんていう伝説的活躍の立役者に、憧れるなって方が無理だと思う。

 

 彼に関する記事や、彼と関わりの深い天2軍学校関係者の情報を集めたり。

 次々と公開されていく特殊な鍛錬法や、技能レベルアップの指南動画の内容を真似したり。

 

 実際に端末に表示されるステータスの上昇具合に一喜一憂したり、自分なりに考えてアレンジしてみたりなんてこともしてたっけ。

 

 僕も彼らのように日ノ本の未来に、人類の未来に明るい希望を灯したい。

 

 そんな想いで軍への入隊希望届を書いた僕は……それをとうとう、軍に届けることができなかった。

 

 

『残念ながら、君の出番はなくなったのだよ』

 

 今でも思い出す、謎の男の声と、直後に感じた腹部への痛み。

 あのすぐ後にRRからの治療を受けられなかったら、今ここに僕はいない。

 

『黒木終夜では世界を救えない。むしろ、彼がこのまま強くなり、ラスボスとなってしまったそのときこそが、この世界の終焉です』

 

 そんな彼女から聞かされた世界の真実と、およそ信じ難い現実。

 

(僕が世界を救うヒーローで、あの人が世界を滅ぼすラスボスだなんて)

 

 半信半疑で、それでももしもに備えて今日まで僕は自分を鍛えてきたけれど。

 それは、僕の予想とは違った形で信憑性を増すことになった。

 

 

『お前! ヒーローだろ!? 真白一人だろっ!?!? 会いたかったぜぇぇぇ!!!!』

『俺は、キミがヒーローだってことを知っている!』

 

 他でもない、黒木終夜その人からの言葉だ。

 この世界で表立った活躍なんてしていない僕のことを、迷うことなくヒーローと呼んだ彼。

 

 それが意味するところは、彼が世界の真実をすでに知っているってこと。

 

 僕の中でもしもが過ぎる。

 

(もしも、もしも彼が自分がラスボスだと知っていて、その使命に今、殉じようとしているのなら。ヒーローである僕を、殺しに来たっていうのなら……!)

 

 冷静さを欠いた振る舞いだった。

 だって、彼の登場はあまりにも突然で、その言葉はあまりにも衝撃的で、何より。

 

(彼が、笑ってたんだ……)

 

 それが、とてつもなく()()()()()()から。

 

 人類の希望が、もしもラスボスであるのなら。

 その強大さに、未だ何者でもないこの僕が勝てるはずがない。

 

 

(……でも、違った)

 

 彼に、僕と戦う気なんてこれっぽっちもなかった。

 話をしようって自分から武装解除して無防備な姿を晒して、それでも堂々と胸を張り、僕に向き合おうとしてくれた。

 

『俺はラスボス候補だが、ラスボスになる気はゼロなんでな。ラスボスになるくらいなら、キミに殺された方がマシだ』

 

 自分が最悪の災厄(ラスボス)になると知ったうえで、僕が災厄を倒す者(ヒーロー)だとわかったうえで、命を懸けて対話を望んでくれたんだ。

 

 憧れの人は、地獄みたいな運命を前にしても、憧れの人のままだった。

 霊子ネットの記事や、軍学校公式サイトの動画で何度も繰り返し見たのと同じ、特徴的な白いメッシュの入った黒髪が。

 ハーベストハーベスター勲章授与式のインタビューで叫ぶ彼が見せた、爛々と輝く黒い瞳が。

 天久佐奪還戦の出陣式でチラ見した、困惑しつつも人々へ向けた、優しく温かな笑顔が。

 

『さて、そんじゃどこから話そうかね』

 

 確かにそこに、あったのに……。

 

 

「……どうかしましたか、真白一人? 払いの結界はすでに張りましたが、ここで呆けるのは危険ですよ」

「………」

「真白一人?」

「RR」

「はい」

「ちょっと、聞きたいことがあるんだ。さっきのやり取りについて」

「………」

 

 僕と彼との対話する機会を奪った張本人――RR。

 彼女は僕の聞きたいことの中身にいち早く気づいたのか、赤いリップの唇を真一文字に結んだ。

 

 

      ※      ※      ※

 

 

「彼とはまだ、話ができたはずだ。それなのにどうしてそれを待たずに、彼を殺そうとしたんだ?」

 

 僕は、聞かずにはいられなかった。

 不意打ちを仕掛けてまで、対話を望むあの人の命を狙った、そのワケを知りたくて。

 

 

「答えて欲しい、RR」

「………」

 

 そんな僕の問いかけを、彼女は意図して無視したようだった。

 こちらに背を向けた姿からは、何も聞かないで欲しいという思いがすぐに読み取れた。

 

 でも。

 

「RR」

 

 僕は、何度だってその名を呼ぶ。

 R・R(レディ・レッド)――全身真っ赤な彼女に僕が名づけた、仮初めの名前を。

 

 

「………」

「RR」

「………」

「RR!」

「…………わかりました。お答えします」

 

 再度再度の呼びかけで、とうとう彼女は折れてくれた。

 けど、帽子とサングラスでは隠し切れない彼女の口元には、少なくない焦燥があるように思えた。

 

 

「彼は、黒木終夜は世界を救うためには一も二もなく殺さねばなりません。でなければ、たとえ彼がラスボスとならずとも、世界は危機を迎えます」

「えっ!?」

 

 搾り出すようにして吐き出された言葉に、今度は僕が驚かされる。

 

「それは」

「それは彼が強いラスボスになり得るから、などという段の話ではなく、彼の存在そのものが、もはや世界に与える影響が大きすぎるがゆえのこと。彼がこうして生きている、それだけで、世界には負荷がかかっているのです」

「そんな……」

 

 新たに語られた話は、やっぱりというかすぐには信じ難いものだった。

 それでも語り部たるRRの態度は、これまで見た中でも一番と言っていいくらいに真剣だった。

 

 ただ――。

 

「この世界の未来のため、彼はなんとしても、討ち取らなければならないのです。たとえそれが、今の人類にとって大きな痛手となるのだとしても」

(……まただ)

「黒木終夜をラスボスにしてはいけません。そして、可能であればいち早くこの世界から抹消しなければならないのです」

 

 ――その言葉を素直に受け取るワケには、もういかない。

 

 

「RR」

「はい」

「キミの言葉には、含みがある」

「………」

 

 彼と出会って、ほんの少しだけど触れ合えた今だからこそ気づく、堆積していた違和感。

 

「キミの言葉から、彼を何としてでも倒さなきゃって気持ちはすごく伝わってくる。けどでも、それとキミが言う“世界の未来のため”って言葉が、僕には繋がっているように聞こえない」

 

 感じているそれを、言葉にして吐き出す。

 僕なりに考えた答えと一緒に。

 

 

「“黒木終夜を倒すこと”と“世界が救われること”……もしかしてそこって、()()()()()()()()()()()んじゃない?」

「……っ!」

 

 RRの口元が、歪んだ。

 何かを堪えるように、耐え忍ぶかのように、さっき以上にきつく結ばれる。

 

 図星、なんだね。

 

 

「だったら、ちゃんと教えて欲しい。どうして彼を倒さないといけないのか、彼を倒すことで何が起こるのか、その先で僕は……何をすることになるのか」 

「………」

「キミの言う世界の未来は、いったいどんな形をしているの?」

 

 妙な予感があった。

 多分だけど、僕のこの問いの答えは……きっと、あの人も知っている。

 

 だから彼女は、僕と彼を対話させなかったんだって。

 

 

「彼は自分がラスボス候補だって言ってた。候補ってことは他にもいるの? 全員倒さないといけないの? 倒さないで決着させる方法はあるの? 彼はあるような風に言ってたよ。だったら僕も――」

「――真白一人!!」

「!?」

 

 

 遮るように吐き出されたRRの声は。

 

「どうか、どうかそれ以上を尋ねるのは、やめてください……!」

 

 あまりにも悲痛で、弱々しくて。

 

「あなたに疑われるのは、辛い……」

「っ!」

 

 あまりにも彼女らしくなくて。

 

「どうか、どうか……」

「………」

 

 祈るように繰り返されるRRからの懇願に、気づけば僕は、言葉を失っていた。

 それ以上、何かを彼女に問いかけることなんて。

 

(そんなことをしたら、すぐにも彼女が消えてしまいそうで……)

 

 僕には、できそうもなかった。

 

   ・

 

   ・

 

   ・

 

「私の言葉が信じられないのは、わかります。私の行動が本当に世界の未来に繋がっているのか、むしろ世界を()しへ導いているのではないかと不安になる気持ちもわかります。ですが……」

 

 落ち着きを取り戻したRRが、そっと手を持ち上げる。

 掲げられたその手に寄り添うように、黒い精霊殻が腕を下ろして……触れ合った。

 

 あの機体はきっと、僕より彼女とより深く繋がっている。

 

「……ですが、この身のすべては世界の未来のため。使い潰す覚悟で私はここにいます。そのための力を、皆が正しき未来へ向かうためのお力添えを、どうか、よろしくお願いします」

「………」

 

 僕が戦うための力は、武器も、精霊殻も、彼女から与えられたもので。

 僕が今日まで生き残ってこれたのも、彼女が僕に施してくれたもののおかげで。

 

 けれど彼女は、僕の知らない何かを知っていて。

 僕の知らない何かのせいで、苦しみながらここに立っている。

 

 

(彼女のことを信じて、身を任せて、前に進むのは簡単だ)

 

 直感が言っている。

 彼女の言葉を信じていい、と。

 

 でも。

 

 

『それじゃあ、彼女は救えない』

 

 

 なんだかそれは、酷く他人任せな気がして。

 

(僕は……僕自身の意志で、彼女に、世界にできることが……したい!)

 

 ずっと叫び続けてる、僕の中に湧き上がってくるこの心に従って、言葉を吐いた。

 

 

「RR。僕は、もう一度彼に、黒木終夜に会いたいと思ってる。キミを連れて」

「………」

「けれど今、僕たちがそのまま一夜志基地に出向いたところで、きっとまともに話なんてできないと思うから……」

 

 覚悟を決めて、一歩を踏み出す。

 

 

「キミに協力して欲しい。彼を……黒木終夜を、倒したい!」

「!?!?」

 

 

 今、僕に選べる最善に向かって。

 

 

「彼を倒して、戦えなくして、その上で彼と改めて話をするんだ。きっと、そうでもしないと彼とキミは、殺し合ってしまうんだろうし」

「………」

「キミたちの事情を僕は知らない。だからこれが、今の僕にできる、キミに協力するための最大の譲歩だ。RR」

 

 僕の言葉に、彼女はそれでも首を縦に振らない。

 そこにある懸念はわかりきっている。

 

(ただ単純に、僕の技量が彼に対して圧倒的に及ばないって話だ)

 

 でも、不思議と不安はない。

 むしろ今は、これまでにないくらい晴れ晴れとした気分だった。

 

 

「大丈夫。だって僕は、世界を救うヒーローなんでしょ?」

「ぁ……」

「だったらこのくらいの逆境は、きっと跳ね除けてみせるよ。ヒーローなんだから!」

 

 未だ何者でもないなんて、もう言わない。

 彼が、僕を認めてくれたのだから。

 

 

「僕が彼に勝つために必要なことを教えて欲しい。なるべく早く、どれだけ困難でもいいから」

「………」

 

 だってヒーローは、あらゆる逆境を乗り越えて、物語をハッピーエンドへ導くのだから。

 

「最善を尽くして、彼に勝つ。そうしたらキミも、ちゃんと彼と話をして欲しい」

「………」

「RR」

 

 これ以上の譲歩はできないって、想いを乗せて名前を呼ぶ。

 

 

「…………はい」

「ありがとう」

 

 望んだ返事がきたことに、僕は安堵しながら礼を言う。

 彼女はきっと約束を守ってくれる。そう、信じたいから。

 

 だったらあとは、勝つだけだ。

 

 

(僕も彼も、そしてきっと彼女も世界を救いたいんだ。なら……対話する余地はきっと……!)

 

 同じ未来を願う者同士。

 すべてを掴んで、一番いい未来へと辿り着いてみせる!

 

 それくらいやってみせなきゃ……ヒーローなんて、名乗れないよね!




真白一人はヒーローである。

応援、高評価してもらえると更新にますます力が入ります!
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