ハーベストハーベスター~踏み台型ラスボス少女と呼ばれた推しを、今世では幸せにしたい!~   作:夏目八尋

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楽しんでもらえてるんだなと実感が沸きます。
誤字報告も助かっています。本当にありがとうございます。

パイセン……九條巡の想いは……!


第177話 あなたの一番になりたい

 

「~~~~~~~~~~~~っっ!!!」

 

 俺の上で馬乗りになってるパイセンが、加湿器みたいに湯気を噴き上げる。

 顔は真っ赤で、今にも泣きだしそうなくらいに瞳を潤ませて。

 

「ちがっ、違うの! 違う……!」

 

 うわ言のように、同じ言葉を繰り返している。

 

(……あー、マジか)

 

 そんな彼女が転ばないよう腰を抱き支えながら、俺は考える。

 

(いやまぁ、もしかしたらくらいは考えてたが。そうか、やっぱりそうなのか)

 

 確信には至ってなかった、その可能性。

 だがそれも、目の前でこうもされれば、さすがに疑いようはなくて。

 

「あのね、終夜。これはその、違うのよ」

「あー。パイセン、パイセン。どうどう……」

 

 半ば以上に冷静さを欠いているパイセンに、大丈夫だとなるべく力を抜いて頭を撫でたら、俺の頬にボタッと生暖かい雫が落ちてきた。

 

 

「「………」」

 

 少し落ち着いたのか俺の言葉を待つモードになったパイセンと、しばし無言で見つめ合う。

 馬乗りマウントポジションはそのままだから、俺が答えない限りこの状況は続くのだろう。

 

(ううー、なるべくパイセンの意に沿う形で穏便に……)

 

 今回、出すつもりのなかった言葉を出したアクシデントなのは明白で。

 だったらここはひとつ、聞かなかったことにするのが――。

 

 

『――――好き』

「………」

 

 

 聞かなかったことに……するのが……。

 

 

「………」

 

 ……緑がかった茶色(ヘーゼルブラウン)の瞳が、俺を見ている。

 

「…………あー」

 

 怯えながらも縋るように、ブレブレなのに、見るべきモノを定めた視線で。

 

 

(……こんなん、マジでどんな言葉をかければいいんだよ!)

 

 さっきの今で、こっちは脳の処理が限界超えてんだよ!

 なんだ今日は!? とんでも異世界インシデントから立て続けに畳みかけて来やがって!!

 

 こちとらめばえちゃん一筋20年強の推し活男子だぞ!? もうちょっと手加減してくれ!!

 っていうか……!

 

(……もうさっきの言葉から今まで、顔があっつくなってんの自覚してんだよ!!)

 

 穏便に穏便に穏便に穏便に! 何言えっての?!

 男の甲斐性イズウェアー!?

 

 

「あー、えっとぉ……」

 

 とにかく会話、会話を続けないと!

 脳に空気が足りない! 何か、何かパイセンに言え、俺!!

 

「パイセン」

「ん……」

 

 

「…………好きって、どういう意味で?」

 

 

 ピシッ。

 

「………」

 

 パイセンが固まった。

 

「ぁ……ぁー」

 

 あ、うん。

 俺これわかる。わかるます。

 

「………………」

 

 俺、やらかしました。

 

 

「…………そう、そうなの」

「ぱ、パイセン?」

「ふ、ふふふ……ふふふふ……!」

 

 背中にゴゴゴゴって背負ってそうなパイセンの口角が、ゆっくりと持ち上がる。

 マウントポジションはそのままで、俺の隊服を握る手に力が込められる。

 

 

「……いい、いいわ。わかったわよ」

 

 一度だけ、顔をくしゃっとしかめたパイセンが再び目を見開けば。

 さっきまでとは打って変わって、ヘーゼルブラウンの瞳に怒りの色が燃えていた。

 

「パイセ……」

「九條巡は!!」

「……っ!?」

 

「九條巡は!! 黒木終夜が!! 異性として!!! 好きなのよ!!!!!」

「!!!」

 

「世界中で誰よりも、私にとってあなたが一番大切な存在なの!!! これで満足っ!?!?」

「はい! ありがとうございますごめんなさいっ!!」

「あ゛あ゛あ゛あ゛~~~~も゛お゛お゛~~~~~~っ!!!」

 

 襟首掴まれ、凄まれて。

 全力で泣かれて怒られながら、俺は本日二人目の告白を叩き込まれた。

 

 

      ※      ※      ※

 

 

 散々喚いたその後で。

 ようやっと起き上がった俺たちは、そのまま屋上で話を続けることにした。

 

 夏の日はようやく傾き、遠くの空が茜色に染まり始めていた。

 

 

「あぁ……もう。最悪だわ……」

 

 金網に背もたれて、体育座りしながらパイセンがボヤく。

 泣き腫らした目はもう自然治癒で回復してて、元の綺麗な顔立ちになっていて。

 

「……なによ?」

 

 ジッと見てたのがバレ、ジト目を向けられる。

 ついでとばかりにいつものごとく、俺の腰にパンチ一発。デュクシされる。

 

「ほんと、最悪、最悪よ」

「うっ、うっ、うっ」

 

 デュクシ、デュクシ、デュクシ……。

 

「ぱ、ぱいせ」

「ふんっ!」

 

 ゴッ!

 

「お゛っ」

 

 パンピーくらいならぶっ飛びそうな一撃が飛んできた。理不尽。

 

 

「ふぅ……ホント、もう。隠し通すつもりだったのに……」

 

 たくさん俺を攻撃して満足したのか、膝に顔をうずめてパイセンが目を閉じる。

 さっきから後悔し通しの言葉が彼女の口から漏れまくってるが、俺にはどうすることも――。

 

「――頭、撫でて」

「はい」

 

 パイセンの頭を撫でる。

 

「ふぅ……そのまましばらく続けてくれる?」

「はい」

 

 言われるがまま撫で続ける。

 加減がわからないなりに髪の流れに沿って撫でてみたが、パイセン気持ちよさそうだしOKっぽかった。

 

 なんで撫でさせられたのかはわからんけど。

 

「……私、自分で思っていた以上に強欲だったのよ」

「ん?」

 

 頭に疑問符を浮かべていたら、パイセンがポツリ、ポツリと語り始めた。

 

 

「あなたにカウンセリング室から引っ張り出されて、鍛えられて。田鶴原様と契約して、生き永らえて。気づけば戦えるようになって、妹たちの未来のために何を残せるのかとか考える余裕すらできて……どんどん、私の世界は広がって、楽しいことや嬉しいこと……そう、生き甲斐を持つことができるようになったわ」

 

 俯いたまま目線だけを前に、パイセンが遠く何かを見つめながら言葉を紡ぐ。

 

「でも、何かができるようになるたびに、私の中でもっとこうしたい、ああしたいって欲がどんどん出てきて、欲しい物が、手に入れたい物が増えてって……止まらなくなった」

「……うん」

 

 言葉の切れ目に相槌を打てば、パイセンは満足げに目を細めた。

 

「……でもね。普通そういうのって、どこかで躓くモノでしょ? どこかで手に入らなかったり、妥協したりして、そうして少しずつ、手に入らないことに慣れていくのよ。そしてその時、これで満足すればちょうどいいんだろうなって思って、落ち着くの」

 

 視線を感じて目を向けると、膝の上で首だけ曲げて、パイセンが俺を見上げていた。

 

「なのに私は、そうならなかったのよ。誰かさんのせいで、ね?」

 

 ほんの少しの恨み節を零したその口元は、言葉とは裏腹に楽しそうだった。

 はらりと頬に垂れた黒髪が、ビックリするくらい艶っぽかった。

 

 

「誰かさんがずーっと、本当にずーっと。私の望みを、欲を、叶え続けるの」

 

 流し目。

 幼気な見た目とのギャップにドキっとする。

 

 小さくてもそれで完成している、そんな美しさをパイセンは持っているから。

 

「青春したいって願いも、生きたいって願いも、妹たちの未来も、全部、ぜーんぶ叶えてしまって。そのくせ本人は、できて当然のことをしたくらいにしか思ってないのよ?」

「う……」

 

 図星を突かれると言葉に詰まる。

 俺は俺の望む未来のために、今日まで好き勝手やってた口だから。それにパイセンを巻き込んでたのも事実なワケで、正直そんな大それたことをした気はまったくなく……。

 

「誰かさんのおかげで、私の人生はもうぐっちゃぐちゃなの。世界って、奇跡って起こるものだって、疑いたくても疑えないくらいなのよ? ……責任って、取ってもらえるのかしら?」

「うぐっ……!」

 

 声音からからかい半分だとわかっていても、ダメージががが!!

 責任、責任を取るって……どうすれば……!

 

 

「……ふふっ、あはは!」

「?」

「冗談、冗談よ。あなたに何の責任もありはしないわ。あなたはあなたの思う道を進んで、私はそのおこぼれにあやかっただけ。勝手に助けられて、勝手に救われて、勝手に焦がれただけなのよ」

 

 肩を震わせ笑うパイセンは、少し震えた声でそう言って。

 

「だからね。私のこの想いは、あくまで私の中だけで処理するべきモノだったのよ。そここそが、私にとっての妥協点。幸福の最大値。貰うばかりの私が許される、一番の場所」

 

 再び頭を膝に預けて、こちらをジッと見上げる彼女の、その目は。

 

「……それで我慢できないってんだから、バカなのは私の方なのよ」

 

 直視できない何かを、それでもなんとか見ようとするように。

 

「……あなたの一番になりたいって、思っちゃうんだから」

 

 細く、鋭く俺へと向けられていた。

 

 

      ※      ※      ※

 

 

 気づけば、空はすっかり茜色に染まり切っていた。

 俺とパイセンは隣合わせに座り込んだままぼーっとして、夏の暑さに身を浸す。

 

 湿った空気に汗ばみベッタリと感じる重みが、今はちょうどよかった。

 

「……パイセ」

「終夜」

 

 意を決して口を開いた俺の言葉を、図っていたかのようにパイセンが遮る。

 反射で黙り込む俺に代わって、そのままパイセンが話し始めた。

 

 

「返事はわかってるからいらないわ。あなたが好きな人は黒川めばえ、そうでしょ?」

「………」

「それはわかっているの。だから大丈夫。私は私の想いが成就するとはこれっぽちも考えてなかったから。そもそも言うつもりのなかった想いよ。あなたに受け取る義務はないわ」

 

 珍しく早口でまくし立てるのは、パイセンが自ら幕を引こうとしているからだと、さすがに今日の諸々で俺にもわかるようになった。

 ……改めて、せめて誠実であろうと覚悟を決める。

 

 

「でもね、これだけはちょっと、わからなくて……」

 

 ん?

 

「実は、ここに来る途中で帆乃花と会ったのよ。あの子……すごく晴れやかで、楽しそうで」

「あー……それは」

 

 帆乃花がそうなってるのは……まぁ、彼女らしいというかなんというか。

 

「あの子、フラれたのよね? どうしてあんな顔してたの?」

「えーっと……」

 

 これは、話してもいいことなのだろうか。

 少しだけ考えて。

 

(彼女なら、隠さないよな……)

 

 あの勢いを思えば、むしろもう全部オープンで来そうな気もして、隠す意味もないと思って。

 

「実は――」

 

 俺は、さっきの帆乃花とのやり取りを、パイセンに語った。

 

   ・

 

   ・

 

   ・

 

「――は?」

 

 パイセンはキレた。

 

 

「ちょっと待って。告白もされたしフッたけど、直後にまた告白されて? しかもあなたの行動を引き合いに出して2度目3度目の挑戦をOKにして? あなたがめばえとの恋に決着をつけるまではそのまま、好きなのも継続するしアタックもする? むしろ前よりアタックするつもりな感じ? えぇ……本気でそう言ったの? あの子? はあ!?」

 

 話を聞いてからずっと、パイセンはお目々ぐるぐるさせながら何度も首を傾げて、開いた口を塞がない。

 

「え、それってアリなの? 許されるの? いいの? 納得なの?」

 

 遂には頭を抱えて唸りだす彼女に、俺も深く同意の頷きを返す。

 

「いやまぁ、あの子らしいといえばあの子らしいけど……ホント、どういう心の強さをしてるのかしらね」

「それはマジでそう」

 

 帆乃花メンタルはマジもんのヒーロー級。

 こと恋愛面においてはとんでもない化け物なんじゃないかと思い知った次第だ。

 

 

「……う゛う゛~~」

「パイセン?」

「ちょっと待って。今、頭の中を整理してるから」

「はい」

 

 正座して待つこと数分。

 

「…………しゅうや、いくつかききたいのだけど、いいかしら?」

「はい」

 

 脳みそフル回転を終えたパイセンと、なんかお見合いみたいな距離感で向かい合う。

 

 

「あなた、帆乃花のそれを受け入れたのよね?」

「はい」

「つまり……めばえのことが好きだけど、それはそれとして帆乃花の気持ちとも向き合い続けるってことよね?」

「……はい」

 

 改めて口に出されると、かなりの難問な気がする。

 ガチの恋愛経験値には自信がない俺である。それでもやれることをやるしかない。

 

「……つまり、あなたの恋が成就するまでは、あなたは誰に想われることも受け入れる……ってこと?」

「あー、まぁ、はい」

 

 アタックがくればその都度対応する。

 それを許さなければ、俺のめばえちゃんへ向ける恋も許されないと思ったから。

 

 

「………」

 

 パイセンが黙り込む。

 目を逸らし、顔を逸らし、どこでもない何かを睨みつけ、口を真一文字にキュッとする。

 

 茜が差す。

 彼女の顔が、真っ赤に染まる。

 

 

「……終夜」

 

 パイセンが口を開く。

 目が合う、向き合う、俺を真っ直ぐに見つめて、勇気のこぶしが胸の前で握られる。

 

 それが、ゾッとするくらい綺麗で。

 俺はそこから、目が離せなくて。

 

 だから。

 

 

「……私。九條巡は、あなたを……黒木終夜を愛しています。私は、あなたの一番になりたい」

 

 

 予測可能で回避不能のその告白を。

 俺は真正面から叩き込まれた。

 

 

「~~~~~~~~~っっ!!!」

 

 自分の気持ちを全力を超えて全開ブッパしたのだろうパイセンが、顔を赤くしてまた顔を逸らす。

 

「……え、えと、その。よかったらだけど、たまには私のこと……巡って、呼んで、ください」

 

 チラッ。チラッ。

 

 けれど視線は何度も、俺に期待のこもった目を向けていた。

 

 

「……以上、よ。わかった?」

「はい」

 

 俺の知ってる、小さくて可愛くて頼りがいのあるパイセンは。

 俺の知らない、ガチ乙女で綺麗であざとくて強欲な九條巡という女の子だった。

 

「……そういうこと、だから」

「はい」

 

 そういうことになった。

 

   ・

 

   ・

 

   ・

 

「それじゃ、今後とも……よろしくね」

「はい」

 

 その後、逃げるようにそそくさと去っていくパイセンを見送って、俺はまた一人になった。

 

(……めばえちゃん。俺、自分の対応が正しかったかどうか、全然自信がねぇよ)

 

 俺の最愛の推しであるめばえちゃんへの想いに揺らぎはない。

 それでも、これだけは……わかる。

 

(俺の……俺の恋心に残された時間はもう、わずかしかない。俺自身がその怠惰を、停滞を許さない)

 

 こんなにも真っ直ぐな、そして輝くような手本を見せられたのだから。

 あとはもう……俺自身の勇気ひとつで決まるのだ、と。

 

(めばえちゃんに……告白する)

 

 その時が近いのだと、現実味を帯びていくのを感じた。




悩ましくも愛おしい、青春の日々よ。

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