ハーベストハーベスター~踏み台型ラスボス少女と呼ばれた推しを、今世では幸せにしたい!~ 作:夏目八尋
感想・評価いただくたびに、やったぜと喜んでいます。
楽しんでもらえてるんだなと実感が沸きます。
誤字報告も助かっています。本当にありがとうございます。
誰でもなく、彼女こそが――。
思い返せば、あの日。
俺の目は確かに、この世界にあり得ざる物を目の当たりにしていた。
『く、黒木終夜!? な、なんで……ここに!?』
初めて思いの丈をぶちまけたあの日。
彼女の手には、それが握られていた。
手に持つタイプの四角い小物。
あの時の彼女は、慌てながらもそれを
この時の俺は気持ちを伝えることでいっぱいいっぱいで、そんな些末な事を気にしている余裕なんてなかった。
それでもこうして思い出すってことは、そこに確かな違和感があったからに他ならない。
ここ数日、何度も開け閉めしたドアをまた、開く。
保健衛生管理室、彼女の職場だ。
「!?!?」
事前に確認した通り、そこに彼女は――黒川めばえはいた。
夕暮れに照らされた彼女の黒く長いウェービーな髪が、さらに濃くなった影のように暗い。
俺の突然の来訪に驚いて、瞳は普段と違い半眼ではなくクッキリと開かれている。
そんな彼女が浮かべる表情は困惑と緊張、そして……恐怖。
今、一番会いたくない人と出会ってしまった。そんな顔をしていた。
「ぇ、ぁ……」
「めばえちゃ……ぅぉなっ!!!!」
そんな顔一秒たりとも長引かせてやるものかと、声をかけようとした俺のすべてが、一瞬で
(なんでそれが……ここにある?!)
それは彼女の手に握られていた。
手に持つタイプの四角い小物……では、ない。そっちは、床に無造作に落ちている。
首の後ろを冷や汗が流れ落ちる。
「ぁ、ぁ……」
めばえちゃんは今、フリーズしている。
本当なら今この瞬間にも最高速で動いて彼女の手からそれを奪い取りたい。
だが、彼女の指はそれをしっかりと握り、押さえて。
怯えながらも、俺にそれを向けていて。
それの正体を知る俺は、そんな状況下では……動けない。
「めばえちゃん……まずは落ち着こう」
だから、努めて平静を装い、優しく声をかける。
「落ち着いて……
スマホとかどうでもいい。
今、彼女の手の中にある、危険極まりないその銃を。
「なっ、めばえちゃん?」
「……っ!」
一刻も早く彼女から、手離させなきゃいけなかった。
※ ※ ※
謎の霊子通信回線の使用痕が見つかった。
そんな連絡を受けて、私はすぐに、それが自分の使っている
『この端末を使えば特別な霊子回線と繋がって、誰にもバレずに話ができるからね』
おじさまの言葉を思い出す。
ラスボスとなる存在が、それに与する連中がどこで動いているかわからないから、必要なんだと言われて納得していた。
でも。
(……どうしよう。どうしようどうしようどうしよう!?)
今、天2のみんなが私を探している。
この世界に干渉してくる上位存在の、その尻尾を掴めるかもしれないからって。
(違うのに。そういうのじゃないのに!)
特別な回線を使ってたって、そういう意味だとは知らなかった。
こんなに騒ぎになるくらいのことをしていただなんて、知らなかった。
(私はただ、おじさまと……一人君と……!)
誰にも知られたくない連絡をしたかったから、この端末を使っていただけ。
私はヒロインで、世界を救わなきゃいけなくて、だから秘密を守らなきゃいけなかったから。
勘違いされてしまっている。
疑われてしまっている。
みんなの考えてるような真実なんて存在しない。
でも今、私と一人君との繋がりを天2のみんなに知られるわけにはいかない。
全部素直に話す? ――信じてもらえるはずがない。
終夜君なら聞いてくれる? ――ううん、彼だって、言いたくても言えないなんてこと、絶対に……ある!
だって!
(天2には、終夜君の近くには、もしかしたら裏で手を引く存在の干渉があるかもしれないのだから……!)
運命に囚われている終夜君の背後で暗躍する上位存在。
きっといるそいつの正体を暴いて、一人君と一緒にそいつを倒して、世界を平和に――。
――PiPiPi!
「ひっ!?」
袋の中の端末が鳴った。
電源を切り忘れていたんだろうか。いつ電源を入れ直したのか覚えてない。
(怖い、怖いっ!)
手に取りたくない。
触れたくない。
だって、何もわからない。
(どうしようどうしようどうしようどうしよう……!)
鳴り続ける端末。
部屋の隅っこに座り込んで震える。
毎日のように触って、親しんで、ずっと私の心の支えだったそれが今、とても怖い。
PiPiPi……プツッ。
切れた。
そう思った。
『……大丈夫かね? めばえ君?』
「……おじさま?」
けれど、不思議と相手と繋がってたみたい。
おじさまの心配げな声を聞いた私は……。
「……おじさまっ!」
縋るように端末を取り出し、震える声で話をした。
・
・
・
『なるほど、やはりそうなったか……』
「おじさま?」
私の話を少し聞いたおじさまから出た言葉に、私の体がこわばる。
『事態は私の予想を超えて、悪くなってしまっているようだ』
「そんな……」
続く言葉に、息が詰まる。
『こうならないよう裏で動いていたのだが、やはり止められなかったようだ。すまない、めばえ君。私の力不足だ』
「!? そ、そんな……そんなこと、ない……おじさまっ」
おじさまから出た弱気な言葉が、私をさらに焦らせる。
いつも余裕たっぷりで私を導いてくれるおじさまがこうなるほどの何かが、今起きているのだと理解する。
『時間がない。簡潔に説明しよう。聞いてくれるね?』
「……はいっ!」
それでも。
まだ何かできることがある。そう信じて私は、おじさまの言葉に耳を傾けた。
『私たちの活動が、どうやら向こうの組織にバレてしまったようなんだ』
「!? な、え……!?」
『向こうの組織、そう、すでに名前は知っているね? “赤の一族”……黒木終夜君の背後から、彼をラスボスにしようと暗躍している邪悪な組織だ。彼らに私たちの動きが察知され、向こうの計画が大きく動いてしまったようなのだ。その結果――』
「その、結果?」
『――黒木終夜君は、もう間もなくラスボスと化してしまう』
「!?!?!?」
え?
『もはや一刻の猶予もない。このまま対処せずにいれば、世界を滅ぼす最大最強の災厄となってしまう』
「あ、あの、え、と」
ちょっと、待って……。
『ちゃんと聞くんだ、めばえ君』
「っ!?」
あ、や……。
『これは世界の危機なのだよ。ヒロインであるキミが動かねばならない瞬間が来たのだ』
ちょ……ぁ……ま……。
「あ、の、おじさま……まっ」
『めばえくん!』
「ひっ」
『……キミの作業机の上から2つ目の引き出しを開けたまえ』
「え……?」
意味が、わからない。
頭がぐちゃぐちゃで、なにもわからない。
『作業机の上から2つ目の引き出しだよ、めばえ君』
「さぎょ……ふた……だし……」
繰り返すおじさまの言葉に追い立てられるように、震えながら、ふらふらとした足取りで従う。
言われるがまま開けた引き出しの中には――。
「……えっ」
一丁の銃が入っていた。
「お、じ、さま……?」
『私もこの手は最終手段と決めていたのだがね……こうなってしまった以上、もはやそれ以外に方法がないんだ』
「あ、えと……」
『銃を手に取りたまえ、めばえ君。使い方は教練で習った通りでいい』
「………」
いやだ。
こわい。
何も考えられない。
『めばえ君。時間がないんだ。銃を手に取りたまえ』
「………………はい」
なのに体は、おじさまの言うとおりに動く。
だって、おじさまは私を助けてくれて、私を導いてくれて、間違うことなんて……あるはずがない、から……。
『いい子だ。それでいい』
「……は、い」
手に、ずっしりとした重さを感じる。
もっと重たい物を、医療道具とかを運んだりもしてるのに、今この手に持った銃一丁の方が重く感じる。
理由は、わかる。
だってこれは……誰かの命を、奪うための道具だから。
(この引き金を引いて、吐き出した弾丸を誰かに当てたら……)
放った弾丸を当てられたその誰かは、死ぬのだから。
『その銃は特別製でね。その弾丸ならば、ラスボス候補であり、超人的な能力を持つ黒木終夜君相手であっても……確実に倒すことができるだろう』
「……倒す」
おじさまが、言葉を選んでいるのを感じる。
気遣われているって頭ではわかるけど、なんだかそれが、変に思えて。
だから。
『めばえ君。その銃で黒木終夜君を……撃て』
おじさまからとうとう出てきた決定的な言葉を聞いたとき。
「……ゃ」
『めばえ君?』
「…………いや、です。おじさま」
私は初めて、おじさまからのお願いを断った。
でも……。
※ ※ ※
「めばえちゃん……」
「ぅ、ぁ……」
震えながらNo.9を構えるめばえちゃんを前に話しかけ続けながら、いつでも彼女に飛びかかれるよう俺はゆっくりと腰を落とす。
(
最悪の武器を、最愛の人が手にしている。
その事実だけで、俺のはらわたはマグマのように怒りで煮え滾った。
(様々なチート設定が存在する六色世界における、チートオブチート。その中に“魔銃”と呼ばれる物がある……)
魔銃。
それは六色世界に10丁だけ存在する、それぞれ2つとない力を持った幻のアイテム。
その存在は公式設定資料集の一部と、公式サイトで公開されていたいくつかのSS、そして後年に発売されたHVV世界を舞台に楽しめるTRPG内でのみ、それもいくつかの断片的な設定が開示されているだけの、全容がわからない謎の超アイテム群だ。
(幸い今俺の目の前にあるNo.9は、どういう物なのか明かされていて、俺も知っている)
件の銃はTRPG“Hの儀式陣”で設定公開されたチート銃。
俺の作ったキャラクターも、何度も物語上でこれを手に入れブッパしまくった、ある意味では愛着すら持っている武器。
(だからこそ、その銃のヤバさを知っている!)
その性能解説は、シンプルイズベスト。
(滅現銃No.9は、狙った獲物を逃がさない)
現の法理を滅して斃す。
必中必殺、防御無視かつ確定クリティカル。
“赤の一族”が保有する秘奥の宝。
略奪を旨とするあの一族が、
決して、めばえちゃんみたいな普通の女の子が持っていていい銃では、ない。
「……めばえちゃんは、その銃がどんなアイテムか、知ってるか?」
「………」
「それは普通の銃じゃない。それはとっても危なくて、間違って人に当てたりしたら取り返しがつかないことになるんだ」
「………」
「めばえちゃんが持っていていい銃じゃない」
「!?」
めばえちゃんの肩が震える。
俺を見つめる薄紫色の目には、うっすらと涙が溜まり始めている。
「それに今、そんな危ない物を使う問題とか、何も起こってないだろ? ここにはめばえちゃんを害するモノなんて、何一つないぜ?」
「ぅぁ……」
少しずつ、目の焦点が落ち着いてきている気がする。
焦るな、焦るなよ俺。
ゆっくりでいい。
「っていうか、どうしてそんな物騒なもの、持ってるんだ? もしかして誰かの拾得物だったり?」
「ぅ……ぅぅ……」
「扱いに困るよなぁ、そういうの。俺でよければ相談に乗るぜ。なんなら俺じゃなくても天2の誰かに話してもいい。パイセンとかどう? めばえちゃんも結構話してるんだろ?」
「ぅう……ぅぅ……!」
ゆっくりと、めばえちゃんが首を左右に振る。
誰かを呼んで欲しくない、そう受け取る。
「OK、だったら俺とめばえちゃんの秘密にしよう。誰にも話さない。だから……銃を下ろさないか?」
「ぁ、ぅ……」
「俺は敵じゃない。俺は、めばえちゃんの味方だ」
「………」
ふぅー、と。めばえちゃんがようやく深く息を吐いた。
ほんの少しだけ、落ち着けたようだった。
これなら――。
「――めばえちゃん。俺でよければ話を」
「ごめ、なさい……!」
「え?」
その瞬間。
めばえちゃんの涙のダムが決壊した。
「ごめ、なさい……! ごめん、なさい……!」
銃口が、俺の方へと向けられる。
「めばえちゃん?」
「あ、あな、あなたを……撃たないと……あなたを、撃たないと……!」
泣きながら、懺悔をするかのようにめばえちゃんが声を漏らす。
「あなたを撃たないと……
「!?」
想像だにしていなかった名前が、飛び出した。
「……は?」
自分でも情けないくらい気の抜けた返事をして。
「……でもっ」
そして次の瞬間。
そんな隙だらけの俺を、きっとこの瞬間なら殺せただろうに、彼女は。
「わ、わたし……あ、あなたを撃てな――」
バタンッ!!
「「!?」」
背後で、ドアの開く音がした。
「黒川めばえ!」
「めばえさん! 貴女に秘匿情報漏洩の嫌疑がかけられておりましてよ!」
それと同時に、佐々君と天常さんの声が響いて。
「――――っ!!」
驚愕に強張るめばえちゃんを見た、その瞬間。
俺の感じる時間の流れが、とてつもなく遅くなった。
ドゥーー……ンッ!
放たれた弾丸が響かせる重低音が、俺の耳奥にひどく長ったらしく聞こえていた。
それは、確かに彼を撃ち抜いた。
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