ハーベストハーベスター~踏み台型ラスボス少女と呼ばれた推しを、今世では幸せにしたい!~ 作:夏目八尋
物語もいよいよ佳境へと向かっています。
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おじさま。その正体。
ピチョン……――。
鍾乳石から滴り落ちる雫の音が、静寂の洞窟に響き渡る。
「よい、っしょっと」
「……なさい、ごめんなさい……」
座椅子サイズの岩の上にめばえちゃんを座らせ、俺は改めて“隠れ身”をかけ直した。
ユナイトセルの効果範囲拡張のおかげで、俺とめばえちゃんが雑な探査に引っ掛かることはない。
もうしばらくは、俺とめばえちゃん、二人の時間が邪魔されることはないだろう。
「ふぅ……ぅっ」
ようやくひと心地ついた、なんて思ったからか、左脇腹から物凄い痛みを感じる。
見れば抉れた傷口から制服に至るまでぐっちょりと血が広がっていたが、滅現銃“No.9”からもらった一撃の結果がこれだと考えれば、むしろ軽く済んだ方だと思えた。
『『……~~っ!!』』
さっきからヨシノやユメが全力で傷のダメージを肩代わりしようとしてくれてるが、まぁ、そう上手くはいかないだろう。これをどうにかできるのは、それこそ世界を越えた何かの力だけだから。
(現状治しようがない俺の傷のことなんて、大して重要じゃあない。大事なのは今、目の前にいるめばえちゃんのことだ)
視線を向ければ、めばえちゃんはずっと俯いたまま、ぶつぶつと同じ言葉を繰り返している。
「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい……」
震えている。怯えている。
焦って、苦しんで、泣いている。
(俺のするべきことは、決まってる)
傷口を覆うように布を巻いてから、ゆっくりと腰を落とし、目の位置を彼女よりも下にして見上げる姿勢をとる。
そっと手を伸ばし彼女のしだれた前髪をよけ、頬に触れてほんのちょっとだけ前へと向けさせる。
そして――。
「――めばえちゃん」
「……っ」
「俺が見えるか?」
「え?」
「ちゃんと見てくれ。ほら、俺はこの通り、ピンピンしてるよ」
めばえちゃんの瞳の焦点が、少しだけ俺の視線と重なる。
「ぁ、ぁ……ほんとう?」
「おうともさ。黒木終夜はご覧の通り、銃で撃たれた程度じゃビクともしないよ」
魅力、もうちょっと上げときゃよかった。
こういう時の演技の冴えに、ちょっと自信がない。
「……あ、ああ。よか、よかった!」
「お」
ポロポロと、めばえちゃんの瞳から安堵の涙が溢れ出す。
俺のつたない演技でも、めばえちゃんがちょろ……素直なおかげで通じたみたいだ。好き。
「わた、わたし……わたし……!」
「大丈夫大丈夫。危ないのはもうないからな」
「うん、うん……! わたし、もう、なにがなんだか……わからなくて……!」
きっと、彼女なりにたくさんの物を抱えていたんだろう。
溢れ出す想いは、そのまま彼女の口を滑らせていく。
「わたし、わたし……ひろいん、だから」
……うん?
「せかいのために、ひとりくんといっしょ……に、たたわなくちゃいけなく、て……!」
……………うん???
「あなたを、たすけたかったのに……!」
「………」
……OK。
もうちょっと気合いを入れろ、俺。
最推しヒロインめばえちゃんの言葉。俺の大大大大大好きな女の子の言葉だ。
その一言一句を、これまで以上に聞き受けろ。
※ ※ ※
それから俺は、めばえちゃんの言葉を一言一句正確に聞き取った。
聞いた言葉の中から嗚咽や泣き声などを脳内保管庫に一時移動させて、残った言葉を精査し意味の通じる文章に直すと、次のようになった。
「わ、私。世界を救うために必要なヒロイン因子を持った存在なんだって言われて、いつかヒーローと出会い、一緒に協力してラスボスを倒すんだって教えられて、天2には、ラスボスであるあなたを倒すために、やってきたの」
「いったい誰にそんな事を言われたんだ?」
「……おじさま」
「おじさまって、めばえちゃんを児童養護施設から引き取ってくれた、母方の親戚の?」
「うん……えっと、何で知って」
「それでそのおじさまはなんて?」
「あ、うん。もう少ししたら建岩の人が、私を天2に推薦するから、それに従って所属しなさいって、そこにいる黒木終夜が、倒すべきラスボスだ、って……」
「なるほど」
めばえちゃんは、姫様が推薦して連れてきた。
おじさまとやらは、そういう流れになることをわかっていたってことだ。
(めばえちゃんが“おじさま”と呼ぶ人物。俺は、いや、俺たちは彼のことを知っている)
めばえちゃん入隊後に、めばえちゃん周りに問題がないかどうかは当然チェックした。
それも、俺と姫様によるダブルチェックだ。
(この人は、俺の原作知識にはいない人だった)
めばえちゃんの母方の祖父の弟、彼女からすると大叔父に当たる人物である。
彼は実家から勘当扱いのめばえちゃんママを心配し、陰ながら支援していた。だが、めばえちゃんパパママが痴情の縺れで事件を起こし亡くなってしまった際、関連するゴタゴタのうちにめばえちゃんのことを見失ってしまった。
その後も彼はめばえちゃんを探そうとしていたが大病を患い頓挫し、それがどうにかこうにか快癒した頃、さらにはちょうど人類が優勢になったことで人探しがやりやすくなった結果、正史と違いめばえちゃんを無事発見、保護したという流れで、彼女の後援者となった。
……そういう人物の、はずだった。
(っていうか、直接面談に向かった姫様に付き添う形で、俺も明日葉さんには会いに行ったんだよ。めばえちゃんに悪い虫がついてないか、しっかり確かめようってつもりでな!)
直接顔を合わせた明日葉さんは、50代後半の老け始めのおじさんだった。
目元にめばえちゃんの面影も感じて、当時はめっちゃ感動したのを覚えている。
(応対時の態度や超常的なチェックにも、不審な点は見当たらなかった。ガチのマジで普通の、ちょっと幸薄そうな優しいおじさんだった……だが)
直感する。
おそらくそれは、カモフラージュだったのだ。
あの時点じゃ上位存在の空間すら操る情報改ざん技術に対して、俺たちに対応策がなかった。
今ならクスノキ女史の助けがあるから何とかなるが、当時の俺たちはまんまと騙されてしまったというワケだ。
(本当の明日葉怜王さんはきっと、もういない……)
おそらくは殺されたか、あるいは大病を患った際、そのままお亡くなりになったのかもしれない。
設定資料集にも存在しない人物のこれまでは、ただ想像することしかできない。
(いずれにしても、俺たちが面談したあの明日葉さんは……本人じゃあなかったんだ)
俺と姫様を騙くらかした張本人。
あの優しそうなおじさんの皮を奪って被り、悪趣味にも堂々と、俺たちの前に出て狸演技をキメやがったクソ上位存在野郎……。
その正体は十中八九、あのサイコパス愉快犯――白衣の男だっ!
(クソッ、そういうことなら明日葉さんに会いに行ったとき、タマちゃんの監視用小型ドローンくっつけとくんだった!)
最初からタマちゃんを巻き込んでおけば……なんて、考えても後の祭りか。
当時の浮かれた頭でそこまで考えが及ばなかった時点で、俺の落ち度でしかない。
そんな俺の落ち度が、彼女の手に銃を握らせ、俺を撃たせるなんて結果を招いた。
(……悔しいな)
(いつか……いや、必ず。必ずだ!)
あの邪知暴虐の権化、白衣の野郎を全力でぶん殴る。報いを受けさせる。
そう決めた。
※ ※ ※
「……さっき、おじさまは、すぐにでもあなたがラスボスになる……って、言ってたの……でも……」
「俺は今も、そうなっていない、と」
神妙な顔でめばえちゃんが頷く。
少しずつだが、めばえちゃんの心に落ち着きが見えてきた。
(口を挟むなら、今か……?)
めばえちゃんがおじさま――いや、明日葉さんの名誉にかけてそうは呼ぶまい――白衣の男の存在に違和感を覚えている今。
少なくとももうこれ以上、めばえちゃんと白衣の男との妙な繋がりを残す必要はないだろう。
悪縁ってのは断ち切っておくに越したことはない。
「めばえちゃん。気を確かにして聞いて欲しい。おそらく、いや……この分だと確実に、キミのおじさま……明日葉怜王さんは、もうこの世にいない」
「えっ!?」
「めばえちゃんが
「そんな……!」
信じられない、という顔をするめばえちゃん。
やっぱりっていうか、真実ってのはどうしたって人を傷つける物だと思う。
……こんな状況を作り出しやがった、白衣の男が心底憎い。
「おじさまが私たちの敵、だったら……私、は……?」
「めばえちゃん?」
「わたし、は……」
「……あっ!」
まずいっ! めばえちゃんの瞳から輝きが消えた!
思った以上にめばえちゃんのショックが大きい!
「わた、わたし……おじさまが……ヒロインって……でも、でも……!」
ってか、そうか!
めばえちゃんは今日まで、気に食わないが白衣の男の言葉を信じてここまで来たんだ。
それを根底から揺るがす言葉を俺は、掛けちまったことになる!
「ぁ、ぅ……ぁ!」
「しっかりしろ、めばえちゃん!」
震えるめばえちゃんの肩を抱いて落ち着かせようとするも、彼女の表情は憔悴しきっている。
彼女の周囲に黒いオーラが漂い始めて――。
(――ダメだ、ステイッ! ユメ!)
『ん……でも』
(ステイッ!)
『………』
無意識にユメが手を伸ばそうとしたのを、圧をかけて止めた。
たとえそれが優しい寄り添いだったとしても、そのトリガーだけは絶対に踏ませられない。
無理矢理気を張って抑え込んだせいか、傷口の痛みが増した気がした。
(っていうか、どうする!? どうしたら……!)
考えろ。考えろ考えろ俺!
めばえちゃんにいつまでこんな顔をさせている! 彼女を救うのがお前の至上命題だろ!
頭を、回せぇぇぇーーーーーーーー!!!
「……めばえちゃん!」
「っ!」
「明日葉さんと最後に連絡とったの、いつ!?」
「ぇ、ぁ…えっと……」
予想じゃ最低でも1週間以上、もしかしたらそれ以上……!
「……2ヶ月くらい、連絡……なく、て」
「そ、うか」
ビンゴ! だったら……!
「めばえちゃん。明日葉さんはきっと、
「え……?」
話術技能レベル3の口は、スラスラと騙る。
「明日葉さんはその瞬間まで、めばえちゃんのために頑張ってた」
「………」
真実に、薄いヴェールを被せて。
「でもそこを敵に見つかり、利用されてしまった。そういうことなんだ……と、思う」
俺は、
「そう、なの……?」
その言葉を受け止めためばえちゃんは。
「そう、だったんだ……」
頷く俺を見て、心底ホッとしたような顔をして。
「あぁ、間違いない。この俺が、日ノ本最強のハーベストハーベスター黒木終夜が、保証する」
だからこの瞬間。
「めばえちゃんは間違いなく“ヒロイン”だ。キミの助力が世界を救うってのも間違いない。めばえちゃんは、世界に必要とされている……絶対に。キミは、特別な存在なんだ」
俺は墓まで嘘を守り通すと、心に誓った。
ズキリと脇腹が痛みを訴えてきたが、むしろその痛みが、俺にはちょうどいいと思えた。
「だからめばえちゃん。今は祈ろう……最期まで戦ってくれた、キミのおじさんのために」
「……うん、うん。ありがとう、黒木終夜。ありがとう、ごめんなさい……おじさま」
今は亡きおじさまを想い涙を流すめばえちゃんを支えながら、俺も黙祷を捧げる。
せめて……全部が全部、白衣の男が語った嘘ではないと信じて。
明日葉さんが、きっと最後まで彼女を想ってくれていたに違いないと、そう信じて。
決して裏切りたくない人に告げる、守るための、嘘。
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