ハーベストハーベスター~踏み台型ラスボス少女と呼ばれた推しを、今世では幸せにしたい!~   作:夏目八尋

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第189話 キミに届けたい想い

 

「すべてを助けに参りましょう」

 

 建岩命の、さも当然といった様子での宣言は。

 

「「………」」

 

 天2小隊員たちの誰もが望むことであり、同時に、誰もができないと判断していたことだった。

 ゆえに。

 

 

「できるのか、建岩?」

 

 佐々千代麿のその問いかけは当然のことであり、他の隊員たちの総意であり。

 

「……できます。千代麿様」

「っ!」

 

 ワァッ!

 

 秒の間の後に返ってきた答えには、誰もが歓喜した。

 

 

「具体的にはどうしますの?」

「はい。一分一秒が惜しくありますので、まずは手早く説明いたします」

 

 天常輝等羅に促された命は本当に手早く、具体的には一言で、作戦の概要を伝える。

 

 

「これより、天2小隊の皆様は各地へ出撃、各々現場にて“無双”をしていただきます」

 

 

 この場の全員の頭によぎる「無理・無茶・無謀」の3単語。

 しかし、提案者である建岩の姫だけは、それがさも当然に為せるものだと確信していた。

 

 

「それでは、それぞれの配置を提案させていただきますね」

「「………」」

 

 そのまま何事もなかったかのように作戦の詰めの作業へと入った命の様子から、小隊員たちは数拍遅れで現実を呑み込んでいく。

 少なくともこの姫様はやる気で、やれる気でいるのだ、と。

 

 そこからの天2は、早かった。

 

 

「まず本丸である隈本へ送る人材は――」

「福丘の防衛力を考えましたら多少後手に回っても巻き返しが――」

「にゃっほーい、各地の司令部からの情報まとめたメールを――」

「神子島はそれこそ後回しで――」

「空泳ぐクジラの相手って、やっぱり――」

「ねぇ、それならこういう手は――」

 

 先程までも十分な速度で進んでいた会議が、突拍子もない発想を新たに伴いながら加速する。

 どこを切り捨てるかという会議は、気づけば、どうやって救うかという会議に変わっていた。

 

 

(やっぱり、天2はこうじゃないとねぇ)

 

 飛び交う意見を全力で取りまとめながら、六牧百乃介は嫌な顔しつつも心の内に歓迎する。

 彼が改めて思うのは、この小隊が持っている独特の立ち位置。

 

(ここは、ただ人を守るため、土地を守るためなんてスケールじゃ動いてない。動けない)

 

 一騎当千の化物たちが揃っているからこそ、それらが手を結んでいるからこそ届く希望。

 

(ここは、すべてを……世界を救うために動いてこそ120%の力が発揮できるんだ)

 

 誰もが笑うような夢物語を可能にする……それこそが、天2という最強の小隊なのだ、と。

 

 

(だからさぁ。早く戻ってきてくれると、嬉しいんだよねぇ)

 

 このタイミングで駆け落ちなんてかましてる、エースオブエース。

 軍法会議もののやらかしをした女の子を庇って逃げてる、世界最強の一個人。

 

 こんな小隊をとうとう作り上げてしまった、一番の特異点。

 

(とっとと推しの子救っちゃってさ。ついでに世界も救っておくれよ、黒木終夜君)

 

 “緑の風”黒木終夜。

 どんな盤面だろうがひっくり返してしまいそうな希望の光。

 

 その帰還を、百乃介を含む小隊員の全員が、強く強く望んでいた。

 

 

      ※      ※      ※

 

 

「めばえちゃん、聞いて欲しい話が、あるんだ」

 

 言葉と共にゆっくりと振り返り、俺はめばえちゃんと向き合う。

 

「……な、なに?」

 

 砂を踏む音。反射で半歩下がる足。

 

 改めて見ると、身長差がはっきりとする。

 小柄で、華奢で、自然と彼女が俺を見上げるくらいのサイズ感。

 

 薄暗がりの洞窟内。

 土地に根付いた小精霊たちの瞬きと、夜戦技能の夜目で見つめる推しの姿。

 

 

(……やっぱり、可愛いなぁ)

 

 毛量が多くてもさもさの、黒いウェービーロングの髪にまた触れたい。

 不安げにこちらを見つめるほの暗い紫の瞳には、俺だけを映してもらいたい。

 ちょっと不健康なくらいに痩せた体に、美味しいものいっぱい食べさせてぷくぷくさせたい。

 

 一目見るだけで、どんどんと俺の内側にある欲が溢れ出してくる。

 

 彼女を誰にも譲りたくない!

 彼女のすべてを独占したい!

 彼女の歩む道のりの、一番近くに居続けたい!

 

(めばえちゃんが……彼女が、俺はどうしても欲しいっ!)

 

 それが、どれだけ取り繕っても消しきれない、俺の中の一番の感情だった。

 

 

「めばえちゃん。どうして俺が、キミを前から知ってたか……話すよ」

 

 だから俺は、めばえちゃんに“真実”を伝える。

 

「実は俺、前世の記憶があるんだ」

「!?」

 

 俺という存在の、一番根っこにある物を、彼女へ差し出すために。

 

 

「……転生者って言えば、めばえちゃんならわかってくれるかな? 前世、ここじゃない世界で生きた記憶が俺にはある。そこはここと違って平和なところでさ。俺は普通に学生やって、普通にダチと遊んで、普通に社会人して生きてたんだ」

「………」

「でさ。その世界ではめばえちゃんや真白君、姫様とかみんながいるこの世界のことが、物語……創作物として存在してたんだ。俺はそれにどっぷりハマってる、一人のファンだった」

「ぇ……っ!?」

「ゲーム、アニメ、映画、たくさんの書籍たち……俺はそれらの物語を通じてこの世界のことを知ったり、疑似体験したりして、そんな中でめばえちゃんを、キミを見つけて……今日まで推し続けている。それが、俺がめばえちゃんを以前から知っていた理由だ」

「………」

 

 ざっくりとだが、俺は俺の事情を語った。

 伝えられた真実に対し、めばえちゃんの顔に浮かぶのは……困惑。

 

 俺の口から語られるおよそ信じられない言葉の数々に対して、どう受け止めたらいいのかわからないのか、唇がすぼまり眉が八の字になっていた。

 

 ゲームで見たことがある顔だった。

 大好きだけど、長々させていい顔じゃあない。

 

 

「めばえちゃん。久遠の闇って言ってたけど、それが起きてたのって2,3年前くらいのことだろ? 夜寝るたびにすっごく不快な夢見せられて、臭いわ暗いわ動けないわで大変な奴」

「えっ!?」

 

 どうしてそれを? なんて、分かり易く驚く彼女に、俺は畳みかけていく。

 

「終わりのない闇の夢。それは、俺の知ってる物語でも描かれていたんだよ。だから俺は、知っている」

「そんな……」

「あとはそうだな、その頃にコーヒーがぶ飲みして寝不足気味になって、おかげで施設じゃ他の子に怖がられて距離取られて、ますます一人で本を読む時間が増えた、とか?」

「あ、え、えっ!?」

「他にも」

「ま、待って! わか、わかった……! 信じる、信じる、わ……!」

 

 制服を掴まれて、話を遮られる。

 驚きと羞恥に染まった表情に思わず心が沸き立つも……揺らがず、話を進める。

 

 大切な言葉が、この先にあるから。

 

 

「そんなワケで。俺は前世の知識として、この世界、HVV(ハベベ)世界について知っていた。だからその知識を使って自分を鍛えて、天2のパイロットになって、戦ってきたんだ」

「……そう、だったのね」

()()()()()()()()()()()

「――っ!」

 

 ビクリ、と。

 俺の服を掴んでいためばえちゃんの手に、緊張が足された。

 

 きっと、今日までわからないでいただろう。

 どうしてキミを俺が手助けしていたのか、なぜ推しと呼ぶのか。

 

 その問いに対する答えを、想いも込めた“真実”を、俺はめばえちゃんに伝えた。

 

 だからもう、止められない。

 

 

「俺にとってめばえちゃんは、元々は物語上の存在、現実じゃない作り物の存在だった。でも今、こうして俺の目の前に、確かな実物としてキミがいる。そんな奇跡みたいな運命を、俺は体感している。キミと直接話ができて、なんならこうして今も触れ合えてるし、それこそさっきまで膝枕なんてされたりもして、大事な人だって言ってもらえて、嬉しくて、嬉しくて、胸が張り裂けそうなくらい幸せにしてもらった」

 

 推し活なら、これ以上を望むのは間違っているだろう。

 

「でも」

 

 でも。

 

「それだけじゃ、足りないんだ。足りないって、思うようになったんだ」

 

 この胸の想いは、その先を望んでいる。

 

 

「めばえちゃん」

 

 俺の服を掴んだままの彼女の手を、両手で包んでほぐし、離させる。

 そのまま持ち上げ、繋いだままで、俺は真っ直ぐに視線を向けて、めばえちゃんを見る。

 

 揺れる紫色の瞳は、それでも俺を見てくれていた。

 

「キミは、俺の知ってる物語のキミとはいろいろ違ってて、顔を合わせるたびに新しい発見があって、どんどん更新されていって、ずっと目が離せない存在だった。キミのいいところも悪いところもたっくさん知れて、もう俺の知ってた前世のキミとは段違いの姿で、俺の目には映ってる」

「………」

「それでも、ずっと俺の中で変わらない気持ちがあった。それは……」

「それは……?」

 

 告げる。

 

「……キミのことが、大好きだってこと」

「っ!」

 

 告げる。

 

「めばえちゃん。いや、黒川めばえさん」

「ぁ、ぇ、と……」

 

 告げる!

 

 

「……ずっと変わらず、好きです。どうか俺の、恋人になってください」

「~~~~~~っ!!!」

 

 

 俺がキミに届けたい想い。

 俺が選んだ、答え。

 

 それは、キミの信じているものを否定せず、その上で、キミを手に入れるという道。

 俺のこれまでを、キミに見せてきたすべてを賭して、差し出して。

 

 キミに、手を伸ばす。

 

 

「俺、黒木終夜は。黒川めばえさんのことが、世界中で誰よりも、大好きです」

 

 

 手の平に感じる彼女の熱を。

 真っ赤に染まる彼女の顔を。

 驚きに揺らめく口元を。

 ふわりと広がる黒髪を。

 

 きっと、それ以上の熱量で、俺は見つめていた。

 返事を待つこの瞬間、一秒が何倍にも長く感じられて、永遠の在り処を理解する。

 

 俺は祈りながら、静かに頭を下げた。

 

 

「……ぁ」

 

 はくはくと、金魚の口みたいに動いてためばえちゃんの喉から、遂に音が漏れ出した。

 彼女からの返答が、くる。

 

「……ぁ、の」

「っ!」

 

 顔を上げる。

 めばえちゃんは………………今にも、泣きそうな顔をしていた。




次回はめばえちゃん視点です。

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