ハーベストハーベスター~踏み台型ラスボス少女と呼ばれた推しを、今世では幸せにしたい!~   作:夏目八尋

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新たな真実を突きつけられた終夜が、次に行なう行動とは。


第202話 今、この世界で起こっていること

 

「今ここにある世界は、すでに私たちが歩んだ世界。過去に過ぎ去ったはずの世界。その再演。あなた方が白衣の男と呼ぶ存在……赤の一族ルピタ・オ・レオル・ユビによって歴史異常空間――特異点へと変えられて、終わったはずの今を再び歩まされている……再演世界なのです」

「……Oh」

 

 姫様そっくり顔のRR……もとい、虹の姫君から告げられた新事実。

 サクッと放り投げられたその情報に、俺の顔は再び鳩豆フェイスを披露した。

 

「特異点と化した世界で再演された新歴史は、歴史の収束点において過去に築かれた旧歴史と比較検証され、より大きな存在質量をもつ側に引っ張られて再構成されます。旧歴史には新歴史に対抗する修正力が元来備わっているのですが、新歴史にて発生した旧歴史との相違点が大きければ大きいほどに対応しきれなくなり、新歴史に旧歴史が浸食、最悪上書きされてしまうのです。そこで私は新歴史に対して」

「ちょ! ちょちょちょちょちょ待ってくれ!!」

 

 ワッと畳みかけるような言葉の洪水に、思わずストップをかける。

 

「はい?」

 

 いやいやそこの虹姫様。

 なんだその「このくらいのペースでしたら簡単に聞き取れますよね」って顔は!

 

 いや聞き取れてるけど! 聞こえたけど!!

 知らん単語がちょくちょく出てきてるし、ワードチョイスがガッチガチにお堅いせいで頭の中を右から左に流れてくんだわ!!

 

 

「……えーっと、雑にまとめるが。この世界はやり直しの世界で、俺たちはその世界の住人、そっちは元の世界の住人。そんで、この世界でめちゃくちゃやった分だけ元の歴史に影響が出て、やりすぎると最終的には元の歴史を乗っ取っちまうってことでOK?」

「はい」

 

 うん。

 なるほど。

 

「……それが事実だとして、はいそうですかって信じられるかって話なんだが!?」

「あなたなら受け止めきれると確信しています」

「あがががが!!」

 

 虹姫様も無茶ぶりが過ぎる!

 言ってる言葉を理解できても、俺の頭も心もそれを吞み込みきれてない。

 

 

(えー、この世界が俺の知ってる世界のやり直し? どの世界の? 虹の姫君がいるってことは正史小説版? でも俺はこんなエピソード知らないぞ? 過去改変? 再演世界?)

 

 知らん知らん知らんぞそんなもん。

 っていうかいきなり話が飛びすぎてマジで脳が処理を拒否ってやがる。

 

(改変、改変。俺はただ、推しが幸せな未来を勝ち取れる世界を作りたかっただけで……だがこの改変は、目の前の虹姫様的には受け入れがたい行動だったってことで……)

 

 俺の歩んできた今日までが、否定された気がする。

 本来ならそこを怒るべきなんだが、誰あろうそれを告げてきたのが俺の知る限り最も時系列が進んだ正史小説版で開示された設定である、“虹の姫君”を名乗る建岩命なワケで。

 

 

(虹の姫君……そうだ、目の前の姫様は虹の姫君なのか)

 

 正史小説版においてHVV世界を救った真白君たちは、その後、六色世界へ殴り込む。

 まず白の一族の協力を得て赤の一族を下し、そこからさらに手の平を返そうとした白の一族をも下し、二つの一族を従えた一大勢力として君臨する。

 

 その際に名乗るのが、虹の一族。

 これは六色世界に自分たちという七番目の色を加えた上で、そのすべてをまとめあげるという意思を込めた宣戦布告だった。

 

(そこで真白君は“虹の王”、姫様は“虹の姫君”とそれぞれ呼ばれるようになる)

 

 俺の知る正史小説版は、そうして虹の一族となってから行なう最初の大戦、青の一族攻略戦の途中までが描かれ、続刊待ちだった。

 

 果たして目の前の姫様は、いったいどんな存在なのか。

 果たして彼女は、いつの時代の彼女なのか。

 

 

「あー、虹の姫君」

「はい」

 

 話を聞いた限りでなんとなく、姫様とも建岩命とも言わない方がいい気がして、そう呼ぶ。

 返事をした虹姫様もそれでいいと目力で訴えてくれたから、今後はありがたくそう呼ばせてもらうと決めて。

 

「ちょっと、確認したいことがあります」

「はい」

 

 前置きを口にするあいだ、今度こそ思考を正しくフル回転。

 聞くべき質問を練り上げる。そして。

 

 

「……青の一族攻略戦ってどうなりました?」

「――……この特異点を解決後、実行される予定でした」

 

 ポーカーフェイスにガチ目の警戒を滲ませながらの虹姫様からのお返事に。

 

「……なるほど。どうやらここは本編における番外編、あるいは劇場版的な奴なんだな?」

 

 俺は、自分が思ってたよりとんでもない場所に立って踊っていたのだということを確信した。

 

 

      ※       ※      ※

 

 

 OKOK。

 なんとなく理解してきた。

 

(今、この世界で起こっていること。新劇場版HVV。それは白衣の男による歴史改変だ)

 

 本来、正史世界に存在しないか不干渉だった存在による歴史干渉。

 それによって過去の世界が特異点化し、歴史改変が行われる恐れが出た。

 

「虹の姫君はそれを止めるため、この世界へとやってきた」

「はい。特異点の解決は、時空秩序の管理者たる白の一族の役目。その責務は私たち虹の一族も背負うのが約定ですから」

 

 歴史の収束点と呼ばれるところに至る前に、元の歴史に戻れるようにズレた事象を修正する。

 それこそが、虹姫様がここにいる理由。

 

 そしてあの日、俺を殺してめばえちゃんを殺すと口にしたその真意ってワケだ。

 

 

「あのときは、あなたにとって許されざる発言をしたこと、誠に申し訳なく思います。ですがそれでも、私は間違ったことはしていないと今も考えています。叶うなら、今この瞬間にもまた歴史を正していく努力をするべきではないかと、そうも思っているのです」

 

 正直に自分の本音を吐露する虹姫様。

 今ならその気持ちに、理解を示すことができた。

 

「……そりゃあ自分や、自分にとって一番大事な人が、似て非なる誰かに変わっちまうかもって思ったら、どうせ修正されるぐちゃぐちゃになった世界の他人や過去の人なんて気にしてられないよな」

 

 しかも、歴史が変わっちまうってことは、変わったって事実にすら気づけないってワケで。

 そうなる前に最大限あがこうとするのは、何も間違っちゃいないって俺も思う。

 

 特に建岩命ってのは世界救済の贄になることをよしとするような少女だったワケで。

 その辺りの割り切りは人一倍できるタイプだろう。

 

 乱された歴史の修正者としては、この上ない人選だったと言える。

 

 

「だが、それはうまくいかなかった、と」

「……はい」

 

 敗残兵。

 虹姫様が自分をそう呼んだ意味も、理解する。

 

「歴史の収束点はもうすぐそこ。なのにこの世界は、私の歩んできたそれとは似ても似つかない道を辿り、今もなお、それを全力で更新し続けています」

「そう、だなぁ」

 

 正史小説版とこの世界。

 まず人類が超優勢だし、赤の一族が用意した亜神級もその尽くを討ち果たした。

 元の赤の一族は推定全処理済だし、天久佐は奪われなかったし、神子島も奪還してしまった。

 今回の九洲全土での戦いも含め、戦いの規模こそ大きいが、歴史的に見て人死にはかなり少ない。

 

 そして何よりこの世界には……あの隈8小隊が存在しない。

 

 

「それもこれも、白衣の男(ルピタ)の暗躍と、あなたの活躍の結果です」

「………」

 

 そうです。私が歴史改変者です。

 推しの明るい未来のために、何もかもをぶっ飛ばしてここまで来ました。

 

 ……いや、悪いことはしてないよ!? してないよな!?

 

「あなたのそれは、あなた自身の努力によって勝ち取った今なのですから、私はその行ないを悪などと言うつもりはありません。この世界を特異点化させたルピタとあなたは、違います」

 

 こちらの気持ちを察してか、虹姫様から心配りされる。

 そうは言っても忸怩(じくじ)たる思いはあるのだろう。彼女の細められた眼差しからは、隠しきれない悔しさが滲んでいて。

 

「あぁ。せめて予定通り、2014年から干渉できていれば……」

 

 想定通りに動けなかったところがあるのだろう。

 その口からはポソリ、悔恨の呟きが漏れ出ていた。

 

 

      ※      ※      ※

 

 

(それにしても、まさかこの世界がやり直しの再演世界だったとは、な)

 

 口を閉ざしてしまった虹姫様の横で、俺は聞いた話をまとめていく。

 

(すでに一度歴史は完成していて、それは俺の知る正史小説版の通りに進んでいた。だが、白衣の男……ルピタの手により再びHVV戦役が繰り返され、特異点として新たな歴史を紡ぐことになった。俺はそこに現れ、推しのために行動し、結果、白衣の野郎の歴史改変の片棒を担いでしまったってワケ、か)

 

 どうりで白衣の野郎が俺のことを推しなんて呼ぶワケだよ。

 あいつにとって俺は、新しい歴史をボンガボンガ生み出す面白ユニットだったってワケだ。

 

 

(……正直。ショックじゃなかったって言ったら嘘になる)

 

 俺は黒川めばえちゃんが大好きだ。

 だが同時に、ハーベストハーベスターという作品が大好きでもある。

 

 HVVの世界が実際に存在し、歴史を紡いできたって事実に感動した。

 だがその歴史を、ほかならぬ俺自身が塗り替え、今、別の歴史へと変えようとしている。

 

 大好きな人を救うためとはいえ、大好きな世界を上書きしそうになっているなんて、長年その世界を愛した者として耐え難いものがある。

 

(でも。だからと言ってこの世界をなかったことになんて、したくない)

 

 この世界もまた、俺が愛するHVV世界だ。

 俺が望んでやまなかっためばえちゃんが幸せになれるかもしれない世界だ。

 

 俺自身にとっても、積み重ねてきた大切な物がいっぱいある世界なんだ。

 

(何かいい手はないか? 元の世界もこっちの世界も両方助けられる手は、ないのか?)

 

 このままでは、俺の大好きだった元のHVV世界がなくなってしまう。

 だがその世界を守るために、歴史を元に戻すために、俺が死んだり、ましてやめばえちゃんを死なせるなんて以ての外だ。

 

 と。

 

 

「虹の姫君! 終夜さんっ!」

「「!」」

 

 考え事をしていたら、不意に声をかけられた。

 見れば、小さくて白い女の子……新姫様が、着物の裾をパタパタさせながら、こっちへ向かって駆け寄ってきてた。

 

「その様子だと、お話はできたのですね!」

「はい。新姫様」

「それで、解決策は何か浮かびましたか?」

 

 虹姫様に体当たりして、顔はこっちへと向ける新姫様。

 期待の眼差しから察するに、彼女も事情はおおよそ理解しているのだろう。

 

 そしてその解決を丸っと俺に投げようとしていることも、容易に伝わってきた。

 

 

「終夜さんならなんとかできると、命が言っていましたから!」

「えぇ……」

 

 どうやら新姫様がキラキラお目々な原因は、うちの姫様だったらしい。

 これはアレだ。いつもの無茶ぶりだ。

 

 ここにはいないくせに大層な存在感があるな、あんの俺に全賭けお姫様。

 あの天才様には、ほんと一体何が見えているのやら、だ。

 

(んでも、あの姫様が俺ならなんとかできるって言ってんだよな?)

 

 だったら、本当になんとかできるのかもしれない。

 俺には見えない何かが見えている彼女からの、強い期待。

 

 俺にはわからない何かがそこにあると言うのなら。

 

 

「……だったら。できることから始めよう」

 

 ひとまず俺は、いつも通りに。

 

「虹の姫君、それと新姫様」

「はい」

「はいっ!」

 

 当初の予定していた通り、考えてたことを実行に移す。

 

「今からここに、()()()()()()()()()()

「「はい…………はい!?」」

 

 幸い、思ったよりもカードが揃った。

 だから。

 

 

「……おーい! ルピターーーーーー!!」

 

 腹に力を入れながら、夜空に向かって声を張り、俺は今も覗いてるだろう奴に届けと呼びかける。

 

「今から俺、()()()()()()()()()。ちょっと赤の一族の手ぇ貸してくれーーーー!」

「「…………はぁぁぁ!?!?!?」」

 

 

 驚く二人をよそに、俺は傍に漂うユメを呼び。

 

『ん』

「ほい」

 

 彼女の手を取り、同化させ。

 

「黒木終夜!?」

「終夜さんっ?!」

 

 全身に黒い輝きを纏って心の闇を広げれば。

 

 

「俺には絶望が足りねぇ! だからその分、ラスボス因子を活性化させる! 俺の手を取れ、最後の赤の生き残り!」

 

 何もない場所に手を伸ばし、直後。

 

 

「もちろんだとも! 最高だよキミはぁ!!」

 

 邪悪な笑みを浮かべて現れた、白衣の男の手を握り。

 

 

「うおおおおお!!」

 

 ドクンッ!

 

 体内の赤の一族由来のラスボス因子を活性化させ、夜闇の精と同期して。

 

 

「本当に、何を……!?」

「終夜さんっ! 終夜さーーーーーん!?!?」

 

 叫ぶ二人の声を、どこか遠くに聞きながら。

 

「おおおお――……」

 

 俺は意識を、深い、深い闇の底へと沈めていった。




終夜「世界がヤバいのはわかった! んじゃ、俺ラスボスになるね!!」

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