ハーベストハーベスター~踏み台型ラスボス少女と呼ばれた推しを、今世では幸せにしたい!~   作:夏目八尋

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人読み。


第203話 ラスボス、降臨

 

 金峯山、山頂。

 

「ふむ……」

 

 後に、日ノ本最終決戦と呼ばれる戦いのその最中。

 すべてを俯瞰できる位置からゆうゆうと、移り変わる戦いを見守る者が一人。

 

 “赤の一族”白衣の男――ルピタ・オ・レオル・ユビ。

 

「……ふぅむ」

 

 己の勝利を目前にして、己の饗した祭りを眺めて。

 

「……こう、何かが違うんですよねぇ?」

 

 それでもなお、彼は不満を口にしていた。

 

 

「確かに最大限に派手に、そして激しい変化は起こしました。そのための最後の舞台である九洲全土をまたにかけた大決戦が、今まさに行われている……いるのですが、なーにかが違う」

 

 中空に展開する数多のモニター一つひとつは、どれをとっても熱戦・烈戦・大激戦。

 少年心をくすぐられ、歴史マニアが涎を垂らす、素晴らしい戦いが紡がれている。

 

「うーん、うーーーーん……」

 

 だというのに。

 

「こう、こう、こーう、思っていたのと違う、といいますか? なんでしょう?」

 

 ルピタの表情は曇り、悩ましげに腕を抱き、くねくねと身を捩っていて。

 

「盛り上がる、盛り上がるんですよ。……でも、でも、なんですよねぇ」

 

 不満の原因を探りながら、煮え切らない己の心に問いかける。

 これだけの大舞台を目にしながら、自分はいったいどこの何が不満なのか、と。

 

 望むモノを得ているはずなのに、何かを物足りなく感じている。

 この世界を演出してきた者として、こんな締まりの悪い最終盤は、ちょっといただけない。

 

 

「ああ、終わってしまった……うぅむ」

 

 軽く弄った“空泳ぐクジラ”が討伐され、最後の柱である神子島の柱も倒壊する。

 各地を騒がす大決戦が、自分の用意した最後の舞台が、終わりを迎えた。

 

「最高のパーティーになる……はずだったのですが……」

 

 言いようのない不完全燃焼感。

 やり切ったはずなのに、望んだ報酬を得ることができなかった。

 

 

「……あぁ、そうですね。そうなんですよ」

 

 それで答えに辿り着く。

 

「盛り上がりきらなかった。これは、あなたの意図ですか、黒木終夜?」

 

 確かめたのは、時間。想定より余りにも早く決着したことによる、不満。

 そして同時に気づく。

 

「人命的な犠牲が、まったくなかった……これは、なんとも」

 

 この戦いで起こるはずだった、人的被害の余りの少なさに対する、落胆。

 

 

「こんなのは、戦争ではない。英雄譚ですらない。こんなのは……ただの物語未満です」

 

 英雄はいる。勝者もいる。だが、苦戦も犠牲も存在しない。

 ただ強者が強者であり、当然のように勝つ。ただそれだけの、面白みもない話だった。

 

 

「……こちらは柱も出して亜神級も出した。その上、九洲全土を戦場にもしたのです。だというのにこれは、これでは……片手落ちもいいところだ!!」

 

 つまらない!

 最大最高の戦力を投入してこの結果という事実を、ルピタは受け入れられない。

 楽しい遊びの最後の最後に水を差された、そんな台無し感に頭を掻きむしる。

 

「くだらない、くだらない! いくら強いと言ってもそれではダメだ! 苦戦のない戦いなどただの処理! それこそストーリースキップで戦いそのものを無視されてしまう! それでは面白くない!! 戦いというのは苦戦と苦境、多くの犠牲とピンチを乗り越えた先に勝利を手にしてこそドラマチックと呼べるものでしょう?!」

 

 怒りをあらわにしながら、彼の目は件の人物――黒木終夜を追う。

 

 

(彼は、黒木終夜はこれまでだってずっと私を楽しませてくれた。それがこんなにもつまらない締まらないくだらない形で終わりを迎えさせるなど、そんな興の削がれることをする奴ではないはず!)

 

 己の盤上を盛り上げてくれた立役者の裏切りを認められない。

 ここにきてそんな詰まらない駒に成り下がるはずがないと、一方的な信頼を向ける。

 

(何か、何か何か何か何か何かしてくれたまえよ! 私の描いてきたHVV戦役が、その最後の大決戦が、こんな終わりでいいはずがないのだから!!)

 

 今は神子島にて何事か話をしている彼の姿を目に映し、ジッとその言葉に耳を傾ける。

 

 その時だった。

 

 

「……おーい! ルピターーーーーー!!」

「!?」

 

 画面越しに届く観測対象からの呼び声に、ルピタはびくりと身を震わせる。

 お互いに知己であり、そしてこの状況を観測されているのに相手が自覚的なのは既に知っていた。

 

 だからこんなこともあるだろうと、そこまでは思っていた。

 

 だが。

 

 

「今から俺、()()()()()()()()()。ちょっと赤の一族の手ぇ貸してくれーーーー!」

「なぁっ?!?!」

 

 ()()は、予想の範囲外も範囲外だった。

 退屈と焦燥と期待とに満ちていた身体が、油を塗りたくった木材に火を点したかのようにごうと勢いよく燃え上がる。

 

 驚く間にも、彼は契約を結んでいた闇の精霊と繋がり、心を明け渡し闇色に染まっていく。

 

「あ、ああ……なんとっ!? なんとぉ!!」

 

 それは確かに、赤と白の抗争におけるラスボスを呼び出すための条件を揃えていて。

 

(あぁ、キミは! キミはいったいこれから何をしようと言うのだね?! 黒木終夜!!)

 

 気づけばルピタの表情は、満面の恍惚に染め上げられていた。

 

 

 

「俺には絶望が足りねぇ! だからその分、ラスボス因子を活性化させる!」

「!?」

 

 ルピタの脳裏に、ここまでのすべてが誘導だったという確信と“罠”という一文字がよぎる。

 

 だが、しかし。

 

「俺の手を取れ、最後の赤の生き残り!」

 

 そう言って、自分に向かって差し伸べられた手を。

 

「あぁ、あぁ、ああああああぁぁぁぁあぁぁぁああああっ!!」

 

 ()()()を食らっていたその魂が、我慢できるはずもなく。

 

 

「……もちろんだとも! 最高だよキミはぁ!!」

 

 彼はまんまと釣り出され、その手を掴む。

 

 

「ははっ! はははっ! ははははははははっ!!!!」

 

 自らもまた闇へと取り込まれていきながら。

 

(見せてくれ! さぁ、見せてくれ、黒木終夜! 私に! 最高の“悪夢(ドラマ)”を!!!)

 

 全身を歓喜と興奮に沸き立たせ、笑顔を浮かべていた。

 

 

      ※      ※      ※

 

 

 俺たちは、事前に決めていた通りに行動した。

 

 

      ※      ※      ※

 

 

 神子島、元・市街地。

 それは月明かりに照らされて、星屑のような煌きを放っていた。

 

「………………………」

「そん、な……!!」

「な、ぜ、なん、で……?!」

 

 事の次第を見ていた新姫と虹の姫君の口から、困惑と絶望の声が漏れる。

 彼女たちの見上げる先に在るモノ。 

 

「“夜を呼ぶモノ(ナイトメア)”……!」

 

 全身に星々のヴェールを纏ったかのような、黒髪短髪の一体の巨人。

 その体高20m程にして、放つ圧力はこれまで見合ったいかなる敵とも比にならない。

 

 夜闇の支配者。赤の一族が此度の戦役で用意した、最強最期の敵(ラスボス)

 

 

「命さん……?!」

「はい。ですがこれは……私たちが戦ったものとはまったく別の……あぶないっ!」

 

 言葉を交わすその最中、咄嗟に新姫を抱きかかえ、虹の姫君は跳ぶ。

 

「へぁうっ! むぎゅっ!」

「がぅっ!!」

 

 無理矢理な超常能力の行使。短距離跳躍。

 着地すら正しく行なう暇のなかった緊急回避。

 

 ズズンッ!!

 

 直後。

 二人が立っていた場所は、巨人の足が踏み潰していた。

 

 

「……ぷはっ! 今のは……!?」

「ナイトメアの攻撃は、初動が見えないのです! 始まりがなく、ただ終わりを告げる一撃。ですがこれは、私たちが戦った時よりも速い!」

 

 すでに一度戦った経験があったのが、不幸中の幸いだった。

 初見殺しの一撃を回避した虹の姫君は、そこからさらに跳躍を重ね距離を取る。

 

「あの、あのあの!」

「疑問は承知しております。あれは間違いなく……赤の一族が擁したラスボスにして、黒木終夜が成ったがゆえの強さを持つ個体であると確信しております」

「!!!」

 

 天才の確信をもって告げられた言葉に、新姫が泣きそうな顔をする。

 それもそのはず。彼女は今、かつて結んだ約束を破られたのだから。

 

「そんな、終夜さん! ラスボスになんかならないって!! 私たち、裏切られたのですか!?」

「それは……」

 

 答えに窮する虹の姫君を見て、新姫もハッとし、心を落ち着ける。

 平常心を失っていい場面ではないと、両者共に理解していた。

 

 

「ともあれ、黒木終夜は自分の意志であの姿を取りました。それを、私たちはどう受け止めるべきか……」

「どう受け止めるも何も、ラスボスになったらそのままこの世界を赤に染めていくだけでは!?」

 

 新姫の言葉通り、星屑を纏った巨人の周りには、自然と赤い霧が漂い始める。

 それは柱や空泳ぐクジラと似たように、一定量を染めればマーキングとして作用するモノで。

 

「ああもう! なんで! どうして! 何もかもわからない!!」

「新姫様、どうか心をお鎮めください。今はあれにどう対処するかを考えなければ」

 

 再びパニックになりかける新姫を宥めすかしながらも。

 その内心では彼女と同じように、困惑と混乱とが、虹の姫君の思考を埋め尽くしていた。

 

(いったいどんな意図があってあなたはこんな姿になったのですか? 確かにルピタを引きずり出しましたが、これでは世界が滅んでしまいます!)

 

 この世界は今、過去最大の危機を迎えている。

 誰よりもこの世界を守るために貢献してきた男の、奇行によって。

 

 

(こんな状況を投げられて、私たちはいったい、どうしたらいいのですか……黒木終夜!!)

 

 混沌を極める戦場。

 思わず叫びたくなるような状況で、それでも虹の姫君は打開策を導き出そうと考えを巡らせ――。

 

 

「っしゃ。作戦成功!」

 

 

 不意に、そんな声を聞いた。

 

 

「……は?」

「あ・と・は、アレをぶっ飛ばしたらOKだな!」

『ですね』

『んっ……ふぅ……』

 

 気がつくと。

 二人の傍にもう一人、男が立っていた。

 

「え、はえ? ……終夜、さん?」

「はい。新姫様。黒木終夜です。本物です」

 

 呆けた様子で投げられた問いに、男はニコリと笑い、手まで振る。

 そこに立っていたのは、さっきラスボスになるとかほざいた黒木終夜その人だった。

 

 

「は、え? じゃあアレは?」

「……新姫様。そして、虹の姫君」

「「!?」」

「今から俺がやることの口裏合わせ、よろしくな?」

 

 そう口にした終夜は、ナイトメアを見上げつつ、今度は手首の端末に声を送る。

 

「あーあー、司令部に緊急報告、司令部に緊急報告。こちらアンチェイン。神子島戦区にて新たな亜神級を発見。同地区にて合流した建岩家重鎮の方より聞いた亜神級の名は“ナイトメア”。繰り返す、亜神級の名はナイトメア……例の上位存在(クソやろう)が用意した“最悪の敵(ラスボス)”のお出ましだそうです。これより交戦する。オーバー。……ってな感じで。へっへっへ」

「な、な、なぁ~~~!?!?」

 

 さもこれが、通常運転であるかのように。

 さもこれが、いつも通りであるかのように。

 

「……ってぇことで、やろうぜ! ラスボス討伐!! すぐそこにあるけど、来いっ! 呼朝ぉぉーーーー!!」

 

 はた迷惑な満面の笑顔で、彼は、決着をつけるべく自らの愛機を呼び出した。




ルピタ「罠でもいいんだ。……罠でも、いいんだ! おおおおおおおお!!」

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