ハーベストハーベスター~踏み台型ラスボス少女と呼ばれた推しを、今世では幸せにしたい!~   作:夏目八尋

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ラストバトル!!


第205話 ラスボス討伐戦~夜を呼ぶ者~

 

 ゾッとするくらい青白い月の下。

 壊され潰されほぼほぼ砂になった、元市街の残骸を踏みしめて。

 

「オオオオオオオオーーーー!!」

「どっせぇぇぇい!!」

 

 俺はナイトメアとなった白衣の男――ルピタとバチる。

 

 互いの初手はこぶしとこぶし。

 

 片やサイズ20mを越す大型巨人の右こぶし。

 片やサイズ10mの精霊殻の右こぶし。

 

 サイズ差を思えば勝ち目なしのぶつかり合いだが。

 

「ぜぇ、りゃああああーーーーーーー!!!」

「オオオオオッ!?!?!?」

 

 打ち勝ったのは、俺だった。

 

 

「こちとら知ってんだよぉ! お前が見た目ほどの質量持ってないってなぁ!!」

『事前に収集していたデータ以上の威力、なし。むしろ、久遠の闇にて対峙していた時の方が数値的には上です』

『ん。おもったほどじゃ、なかった?』

 

 超過駆動でこぶしを弾き、緑の燐光をばら撒きながら呼朝が跳ぶ。

 高速で処理されていく細かなコマンドを制御、先行入力しながら、俺たちは一気呵成に攻めかかる。

 

「パンチ! キックキャンセル! 姿勢制御! 上体そらし! キックで繋げて回し蹴り!」

 

 機体スペックに任せて、周囲の雑魚を巻き込みながらの高機動戦。

 押し込み、圧し、すり潰す!

 

 

「! ヨシノ! 緊急回避パターンC!」

『入力済みです』

 

 直後。

 前触れなしに呼朝を狙う熱源出現。そこから強烈な光線が放たれる。

 それをギリッギリのところで回避して。

 

「お土産だ! 喰らっとけ!」

 

 距離を取りつつ左手に構えた突撃銃で攻撃。

 こっちを握り潰そうと伸びていた巨人の手を怯ませる。

 

 着地狩りの熱線を回避したら、攻勢を止め、互いに睨み合う。

 

 

「……ふぅー」

『いかがですか、終夜?』

 

 呼朝の中で息を吐いた俺に、ヨシノが気遣う声音で問いかける。

 訊ねられたのは所感。倒すべき敵についての俺の印象だ。

 

「……想定より、遅い。だがその分、タフだ」

『ですね』

 

 モニターの向こう。俺たちが攻撃を加えた部分。

 そこには傷一つ残っていなかった。

 

 

「どっかはイメージと違うだろうと思ってたが、よりにもよって、だな」

 

 考えうる限り3番目くらいに嫌な出目を引いた。

 相手は俺の思った以上に、生きることへの執着をちゃんと持っていたらしい。

 

(ゲーム版HVVのナイトメアに対して、自己修復性能が2段階くらい上、か)

 

 頭に過ぎる“長期戦”という言葉。

 元より長めの戦いになると予想していたが、それを超えた戦いになるのはほぼ確定。

 

「ま、やるしかないよな」

『その通りです。私たちの舞踏で勝利を引き寄せましょう』

『とかげのしっぽきり……!』

 

 それでも俺たちに否やはない。

 俺たちを散々弄んでくれたクソ野郎だ。ぶちのめしタイムが伸びたと思おう。

 

 白衣の男許すまじ、慈悲はない。

 

 

「オオオオオオオオーーーー!!!!」

「うるせぇ! いい加減ちゃんと日本語しゃべれ!!」

 

 ナイトメアが原作ラストバトルでちゃんと喋るの、知ってんだからな俺は!!

 めばえちゃんの悲しみや嘆きがちょくちょく聞こえてメンタルがガリガリ削られるんだぞ!

 

 暴走した振りでもしてんだったら、クソ茶番始める前にぶっ潰してやる!!

 

「あれ黙らせるぞ、ヨシノ! ユメ!」

『はい』

『ん』

 

 余裕ぶっこいてんのかまだ制御できてねぇのか知らないが、殴れるときに殴る。

 ヒーロー補正がない俺は、ダメージを稼げるときに稼がねぇといけないからな!

 

 

「っしゃおらーーーー!!」

 

 削る、削る、削る!

 原作HVVのラスボス……亜神級“夜を呼ぶ者”との戦いは、こうして幕を開けた。

 

 

      ※      ※      ※

 

 

 “夜を呼ぶ者”ナイトメア。

 原作HVVで恋敗れ絶望しためばえちゃんへ、ユメこと夜闇の精霊が差し伸べた救いの手に対し、ラスボス因子が存在を捻じ曲げ誕生させる“赤の一族”が用意した最終決戦存在。

 緒戦で決着が着かなかった場合の最終手段にして常套手段。同じく“白の一族”が用意した最終決戦存在――ヒーローと相対しこれを撃退することで、世界の支配権を獲得するという、上位存在たちが勝手に決めて勝手に履行する、理不尽なルールの権化だ。

 

 原作ゲームにおけるこいつのスペックは、作中準最強といったくらい。

 Sランククリアのためのイベント戦ということもあり、素の能力はそこまででもない。

 

 ただし。

 

 雑にごり押しできる敵かというと、そうでもない。

 

 

(ナイトメア最大の特徴……それは、プレイヤーの心を折るべく用意された、数多のギミックだ!)

 

 第一に、強制的に夜MAPになる。

 これについてはそのまま。夜戦技能レベルを取ってないとそれだけで不利押し付けられる。

 逆に夜戦技能レベル3なら有利に戦えるし、そこまでじゃない。

 

 第二に、無駄にタフ。

 自己修復なる能力を持っており、放っておくと体力最大値まで回復されてしまう。

 しかも基本10ステップ=1ターンという世界で、1ターンではなく1ステップごとに体力を回復していくというクソ仕様である。

 それでも“明星”が作れるくらいならダメージレースに負けることはそうそうない程度。

 

 第三に、初見殺し攻撃。

 個人的に一番厄介だと思うのが、これだった。

 ナイトメアは夢現の存在ということで、その動きは虚実交じりであるというのが公式設定資料集に書かれている。

 その設定を再現しているのか、ナイトメアは世界のルールであるコマンド入力式バトルをたびたび無視した動きをする。

 具体的には――。

 

『――終夜!』

「っちぃ!」

 

 ヨシノの呼びかけに行動キャンセルからの後方跳躍。

 直後、寸前まで呼朝が立っていたところに、敵の熱線が奔る。

 

「んのやろうぅ!」

 

 見れば、ナイトメアは()()()()()()射撃の構えを取っていた。

 

(ナイトメアは、攻撃に伴う移動や構え、そういった事前行動をすっ飛ばして動くことがある)

 

 これぞ初見殺し。

 相手が攻撃をしようとしたとき、それは既に実行されているのだ。

 

 

(ゲーム的には1ターン内に他の敵キャラと比にならない数の“攻撃”を繰り出してくる上、一瞬でワープして距離を取ったり近づいたりと、狙いをつけたこっちの攻撃を空振りさせてくるっていうクソオブクソのチート能力だ)

 

 それが現実、実際に目の当たりにするとなるとこうも七面倒くさい状況に追い込まれる。

 

「事前に練習できてなかったら、マジに対応できなかったかもしれねぇなぁ!?」

 

 ヨシノ様々。

 心なしか俺と同期してる彼女が、あの美人顔でドヤってる気がした。

 

『ドヤっていますよ?』

 

 ドヤってた。

 

 

      ※      ※      ※

 

 

『……正直に申し上げまして。拍子抜けかと』

 

 都合3度目の打ち合いを終え、ヨシノが零す。

 気づけば周囲をわらわらと賑やかしていた雑魚たちももういない。

 遠目に見える虹姫様も、新姫様をきっちり守ってくれていた。

 

『私たちの想定を超えていたのは回復力のみ。それ以外は火力も、機動力も、すべて私たちがイメージしていた同型の存在以下です』

『ん、ん』

 

 ヨシノと同意見なのだろう、ユメからも力強い声が出る。

 

『このまま攻撃を続ければ、まず間違いなく私たちの勝ちです』

『せかい、すくっちゃう?』

 

 ふんわりと勝利モードに入ろうとしている二人。

 だが俺は、そんな二人とは裏腹に、妙な胸騒ぎを覚えていた。

 

 

「うーん」

『何か懸念点でも?』

「あぁ、すっげぇ~~~~無視できない懸念点が、ある」

 

 正直、あからさま過ぎて。

 だとしたら、あまりにも稚拙すぎて苦虫嚙みそうなくらいなんだが。

 

 それでも。

 無視できない、違和感がある。

 

 

「オオオオオオオオオオーーーー!!!!」

「あいつ、マジで喋らねぇのよ」

 

 話せるはずなのに、話さない。

 ナイトメアとは絶望を振り撒く存在だ。それは見た目、攻撃、そして言葉のすべてを尽くして遂行される。

 

「獣みたいな雄たけびは確かに人を委縮させるかもしれねぇが、あいつがそれで満足するタマかって思うと、絶対違うって確信がある」

『ああ……』

 

 白衣の男、ルピタ・オ・レオル・ユビ。

 この世界をぐちゃぐちゃに掻き回し、原作から大きく逸脱させるほどの戦局を多数用意した、演出家気取りの介入者。

 虹姫様たちが言うには、ここを特異点ってのに変えた張本人。

 

(あれだけより派手に、より激しくなんて言ってた奴が、この状況で獣に堕ちるか?)

 

 そこに感じるとてつもない違和感。

 俺たちの策が想定以上に決まったってんならいいが、どうもそうだと思えない。

 

 ここまでの攻撃は割と単調で、それこそゲームのCPUめいた決められた動きを雑に繰り返すだけのような、自動で迎撃してるだけのような……。

 

 と。

 

 

「……いや、まさかな?」

『んう?』

『どうかしましたか、終夜?』

 

 今、ちょっとだけ。

 ほんのちょびっとだけ、思い至ったことがある。

 

「……あー? いや、うーん」

 

 確証はない。

 今頭に浮かんでいるのは、ゲーマーであった俺の前世知識と、白衣の男に対する人読みだ。

 

 

「……ヨシノ。限界突破駆動(システムオーバード)準備」

『え? 事前相談では長期戦となるので温存と』

「いや……俺の読みが合ってたなら、使わないとダメだ」

『!? 了解!』

 

 嫌な予感がする。

 

『限界突破駆動! 開始!』

「……外れててくれ! うおおおおおお!!!」

 

 胸にモヤモヤを抱えたまま、俺たちの呼朝はナイトメアに突撃する。

 

 

「オオオオオオオオーーーー!!!!」

「しゃらくせぇ!!」

 

 迫りくる両腕をかわし、潜り抜けて懐の内へ。

 狙いは巨人のど真ん中! 無防備に曝け出されている、その腹だ!

 

「喰らえ!」

 

 呼朝のこぶしに緑の輝き。

 放て勝利の精霊拳!!

 

「どっせぇぇぇぇーーーーい!!」

 

 ドゴッ!!

 

 筋肉質な物を殴った音と共に、巨人の腹にこぶしをめり込ませて。

 

「ふんっ!」

 

 即座に引き抜きローラー展開。

 脇の下をすり抜けて距離を取り、直後!

 

 

「爆、破!!」

 

 ドゥンッ!!!

 

 決めポーズと共に、追撃発動!

 フィナーレ・オブ・バーンの爆発が、ナイトメアの腹の中で発動する。

 

 

「オオオオオオオオーーーーーーーー!!」

 

 衝撃を受けくの字に身を折るナイトメアは、その場に片膝をついて身悶え……ああ、やっぱり。

 

「……嫌な予感が当たったか」

 

 的中して欲しくなかった現実を目の当たりにして、ため息が出た。

 

 

「……ニィィ」

 

 強烈な一撃を受け、それなりに体力を削られたナイトメアが――嗤っていた。

 その身に纏っていた布巻き衣装が形を変え、ゆっくりと――丈の長い白衣めいた姿を取る。

 

 巨人の見た目も段々と、いつか見たあの男に似た姿になって。

 

 

「おめでとうございます。()()()()、突破ですねぇ?」

 

 その巨人の声帯から発せられたとはとても思えない、よく通る聞きやすい声でそれは言う。

 

「私をヤキモキさせてから、断れない誘いをかけて現場に引きずり出し、派手な演出で罠にかけ、ナイトメアのコアの役を押し付ける。んー、これは、ラスボス因子が赤の一族由来である点も把握しているのでしょうかぁ? 本当に、本当に本当に本当に、どこまで掌握し、どこまで理解し、どこまで私を魅了しようというので?」

 

 賞賛、歓喜、恍惚。

 隠しようのない明るさを伴って、けれどそいつは「ですが」と繋ぐ。

 

「……ですが。これで化物となった私を倒して終わりなど、そんな結末ではツマらないと、もちろん貴方もお考えでしょう? 何しろ、ラスボス因子を持つ現地人ではなく、明確に、上位存在たる私を核として運用するラスボス……なのだからねぇ?」

「………」

 

 もう、な。

 この時点でいろいろと察しちゃうよな?

 

 原作にも史実にも、ラスボスの第二形態なんざ、ないワケで。

 

 

「……ラスボスシステムなんてのは、当然、理解しているとも! 解析、掌握、貴方のためにルゥゥナティックに再設定!」

「……へっ」

 

 戦いは、ここから未知の領域に入るのだ、と。

 同時に、本当の意味で長い戦いになりそうだ、って。

 

「さぁ!! 楽しい最終決戦は!! まだまだここからだ!!! 黒木終夜ぁぁぁっ!!!

「クソゲーがよぉぉ!!」

 

 悪態の叫びと共に、俺は戦闘を続行した。




長い長い、戦いが始まる。

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