ハーベストハーベスター~踏み台型ラスボス少女と呼ばれた推しを、今世では幸せにしたい!~   作:夏目八尋

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整理整頓。


第213話 二つの歴史を守るため

 

 話がごちゃついてきたから、まとめたい。

 

 俺がめばえちゃんと一緒に天2を脱出したときと同じくして、九洲全土を舞台とした大決戦が発生した。

 めばえちゃんと話をつけたあと、大決戦を知った俺は九洲各地を巡って各部隊の手助けをし、手早く戦いを収束へと向かわせた。

 すべてはその先で、倒すべき敵を誘い出すために。

 

 そして、舞台は神子島。

 俺のラスボス因子とユメを呼び水に、まんまと誘い出した白衣の男――ルピタ・オ・レオル・ユビを核として作った亜神級“ナイトメア”を、俺たちは激闘の末討伐することに成功した。

 それでもしぶとく生き残っていたルピタを、虹姫様の張った時空間を現世と切り分ける結界の中に捕らえ、ヒーロー因子かラスボス因子を持つ者と、その手助けをするヒロインと精霊と共に、最終決戦へと挑む……はずだった。

 

 ところが実際は、戦意を失ったルピタとの対話が始まり、かつ俺たちの世界が抱える別種の大きな問題、歴史改変の話へと話題が移っていく。

 

 

 今、俺たちが生きている世界は、かつて虹姫様たちが戦い抜いた、過去の世界。

 ルピタの歴史介入によって特異点化した結果生まれた、再演世界だった。

 

 この世界は、かつて虹姫様が歩んだ世界とはもはや似ても似つかない世界になった。

 このままだと歴史の収束点ってところで、俺たちの世界が過去の世界の足跡を塗り潰し、これまでの歴史を変えてしまうのだという。

 

 虹姫様の語る過去の世界は、おそらく俺の知る正史小説版HVVに非常に近い物。

 そちらを正史と捉えるならば、俺たちの世界はいわゆる外伝、偽史とでもいうべき存在で。

 とはいえどちらも、人が確かに生きて紡いできた歴史には違いない。

 

 俺は……。

 一人の生きた人間として、たとえ偽史と言われても、今の歴史を、めばえちゃんが幸せを掴めそうなこの世界を大事にしたい。

 けれど同時に、虹姫様とその仲間たちが駆け抜けた、前世の俺が愛し推し続けた世界も失いたくない。

 

 俺の推し活センサーが言っている。

 どっちの歴史も失ってはいけない、と。失わさせてはいけない、と。

 

 そして、こうも言っているんだ。

 俺ならば両方を救う未来を掴み取れる、その可能性があるって。

 

 今はまだ、手段も不確かで何もわからないけれど。

 それでも今、動くのに十分な理由は俺の中にある。

 

 

「黒木終夜……」

 

 虹姫様――正史世界の建岩命がいる。

 彼女はめばえちゃんを踏み台にしたけれど、それは当然望んでそうしたワケじゃない。

 その後も戦い続け、世界を救い、今も多くの人の幸せのために頑張っている、尊敬できる人物だ。

 彼女も、そんな彼女を恋人に選んだ、正史世界の真白一人も。

 

「………」

 

 めばえちゃん――幸せになれそうな黒川めばえがいる。

 彼女は前世の俺が血反吐を吐きながらも求めた、ハッピーエンドに最も近い状態にある。

 そのために俺は戦って、天2を育てて、日ノ本を人類優勢にし、英雄になった。

 彼女の幸せこそが、俺という存在が望む、一番の願いだ。

 

 

(そうだ。ここで片方を選ぶなんて選択肢は俺にはない)

 

 そんな選択は、絶対にしてはいけない。

 なぜならば――。

 

(――それは、選ばなかった方の世界を“踏み台”にするってことだ!)

 

 この世界に来てすぐなら、迷いなく今の世界を選んだだろう。

 けれども俺は、この世界が現実だともう知っている。だからこそ、正史世界も地続きで現実なんだって、信じることができる。

 

(世界のどちらかを踏み台にするなんてことは、俺には出来ない。しちゃいけない)

 

 俺は、両方を救いたい。

 そう思ったから、そうなるように選択する。

 

 そのために――。

 

 

「――なぁ、ルピタ」

「んんっ、なにかな? 黒木終夜?」

 

「お前が一番、今の状況に詳しいんだろ? だったら、もっと面白くするために、お前の知識を寄越せ」

「!!!」

 

 俺は、なんだって利用する。

 

 

      ※      ※      ※

 

 

 現世と切り離された結界の中で、望む未来を手にするために、俺はルピタに問いかける。

 

「そもそも、特異点ってなんだ?」

 

 無知な俺にできるのは、まず正しく情報を把握することからだ。

 

「特異点とは、白の一族の言葉さ。彼らの言う“正しい歴史”が干渉を受け、改変の可能性を孕んだ時点で発生する歪み。白の一族は歴史の流れを一本の線で表現するが、特異点とは既に引かれた線に突如としてぶちまけられた、修正液のフィールドさ」

「ある地点から歴史が形を失い、再びそこから時を刻みだす現象。その始まりを拡散点と言い、その終わりを収束点と呼びます」

「なる、ほど」

 

 虹姫様の補足も聞きつつ理解する。

 

「修正液のフィールドってことは、新たに白で塗られたその上に、ぐちゃぐちゃと線を引き直してるのが今ってワケか」

「その通り。歴史の拡散点から始まった線の引き直し、それこそが歴史改変。それは最終的に歴史の収束点で元の線と合流し、その瞬間、歴史は比較される」

「比較?」

「それが、元の歴史に比べてどれほど違うのかを、ね?」

「………」

 

 けたけたと笑うルピタに対して、虹姫様の表情は暗い。

 今この瞬間にだってこいつを切り捨て御免したいだろうに、我慢してくれている。

 

 そしてきっと、それ以上に今、改変元の歴史に生きる彼女は追い詰められている。

 

 

「新たに引かれた線が元引かれていた線と違えば違うほど、歴史の収束点における新たな線の影響力は強くなる。それは、元の歴史が持つ修正力が及ばなくなるということだからね!」

「逆に元の歴史と重なる部分が多ければ多いほど、本来の歴史……つまりは一度確定された歴史の修正力は強まり、改変を打ち消し、元の歴史へと回帰します」

「あぁ、やっぱりそういう感じなんだな」

 

 正史と外伝。基本的にはその考え方で間違ってなさそうだ。

 でも、だからこそ……。

 

「俺たちが紡いできた歴史は、元の世界が紡いだそれとは全然違う。だからこのまま歴史の収束点に到達すると……虹姫様がいた世界は、俺たちの歴史に塗り潰されちまうってワケだな」

「はい」

「キミの成果だ黒木終夜! キミが望む未来を求めたからこそ、この偉業は成された! かつてのツマらぬ歴史の何倍も派手で有意義で面白」

「撃ちます。お黙りください」

「ぎゃっ!」

 

 パァンッ!!

 

 割り込んできた言葉と同時に、豪風の突撃銃から弾が一発、放たれた。

 地面を抉ったその銃弾は、傍に座ってたルピタを吹っ飛ばし転がす。

 

 ありがとう姫様。お前がやらなきゃ俺が一発カマしてた。

 

 

「ペッ。他国の侵略に合わせて世界を意図的に特異点化し、歴史改変をもって対抗してくる白の一族がよく言ったモノだ。ともあれ、特異点と歴史改変の関係についてはこんなものだとも。歴史が紡ぐ線を一時的に白で塗り潰し、線を引き直す。歴史の再演を経て改変は為されるのさ」

 

 土を吐き、減らず口を言いながら、ルピタはしかし話の軌道を元に戻す。

 

「では、本題だ。歴史改変する前の世界とされた後の世界。それらを両方とも救うことができるのか?」

 

 奴は俺の顔を真っ直ぐに見ながら、気持ち悪いニタッとした表情を浮かべて、告げる。

 

 

「結論から言うと……YESだよ。理論的には、できる可能性があると言える」

 

 それは、いかにも科学者らしい、注釈付きの肯定だった。

 

 

      ※      ※      ※

 

 

「いやはや、ここに白の一族が一人でもいてくれればもう少し話は早かったのだがねぇ。どうだね? ここはひとつ結界を解除して外のα-10218を――」

「結界は解きません。白と赤の資料には私が一通り目を通しています」

「――そうかい? さすがは虹の姫君だ」

 

 油断なく身構えたままの虹姫様に向かって、ルピタが縛られたまま肩を竦める。

 

「……あれ、逃げるつもりだった、よね?」

「うん。……話に加われない分、僕たちがもっと注意しておこう」

 

 話の聞き役に徹している真白君たちも、改めてルピタに対する警戒レベルを引き上げた。

 そんな二人の様子を一瞥もせず、ルピタは俺を見たまま話を続ける。

 

 

「黒木終夜。“歴史の系統樹”と聞いて、思い当たることはあるかい?」

「む……」

 

 あるといえば、ある。

 タイムリープ物のSF創作じゃそりゃもう有名な奴だ。

 

「確か、世界は選択により次々と分岐していて、それは無限に広がっている木の枝葉のように表現できる、だったか?」

「大雑把に言えばその通り。つまりは歴史改変は改変ではなく、分岐であるという考え方だ。複数の世界を存続させるという観点からすれば、実に希望の持てる考え方だとは思わないかね?」

「……ん? でもそれは」

「さすがは黒木終夜! すぐにその可能性に思い至るとは! 素晴らしい!!」

「うおっ!?」

 

 ゲシッ。

 

「ゴッフッ!!」

 

 縛られたままぴょーんっと跳ねたから、反射的に膝を入れちまった。

 なんか打ち上げられた魚みたいにビチビチしてるけど、これは正当防衛。必要な犠牲だった。コラテラルコラテラル。

 

 

「ふ、ふふふ。まぁ、いいとも。お察しの通り、それはこの世界のシステムとは嚙み合わない! 無限に分岐するならば、果たして歴史の修正とは、特異点の収束とは何なのかとなるのでね!」

 

 こういうの語るの好きなんだろうなってのがわかる語り口。

 ひとまず聞く態度をとれば、ルピタは嬉々としながら話を続ける。

 

「我々には、特に白の一族には、歴史に干渉する力がある。だが、そもそもだ。歴史が変わってしまったとして、どうしてそれを理解できよう? 未来に生きる者たちは、変えられたあとの世界をこそ通常の世界として受け入れるというのに」

「そりゃ、()()()()()からだろ。変えられたかどうかを」

「!?」

 

 即答する俺に、驚きの顔を浮かべたのは虹姫様だった。

 ついでだし、具体的な名前も出しておく。

 

歴史の羅針盤(ワールド・タイム・コンパス)

「素晴らしい!」

 

 俺の回答に、ルピタが感極まった様子で破顔した。

 ついでに、話が早い。とも。

 

 

「白の一族はつまり、歴史の羅針盤を手にした者たちのこと。それにより歴史改変の痕跡を探ることができ、その世界の歴史のどこが修正を受けたのかを観測することができる。いざ実際に歴史改変が起これば、歴史が変わったという事実を理解し、あるいは改変の最中にある特異点へと干渉し、彼らの言うところの“歴史を正す”をしているのだよ」

「………」

 

 まさに、上位存在って奴の所業だ。

 

「同じように、赤の一族もまた世界を略奪する者たるに相応しい道具を持っているのですがね。ここでは割愛しよう! ハハハ!」

 

 HVV世界の上位に位置する六色世界とは、こんなとんでもない奴らが跋扈している世界なのだ。

 

「……さて、ではこの歴史の羅針盤。これが厄介なワケだ。なぜならこれがあることで歴史は観測・干渉でき、これがあるからこそ無限分岐説は否定され、歴史は一本の線だと表現されてしまうのだから。世界が複数あることを、分けられる可能性があることを否定されてしまうのです」

 

 白の一族を白の一族たらしめる秘宝、歴史の羅針盤。

 その存在が俺のこれまでを肯定し、俺のこれからを否定しようとしている。

 

 二つの歴史を守るためには、このどえらい概念をどうにかする必要があった。

 

   ・

 

   ・

 

   ・

 

「いやはや難題。そもそもすでに定義され、活用されている理を覆すというのは、どれほどの無理無茶無謀であるか。わかります、黒木終夜? 貴方は、それに挑まんとしている!」

「………」

 

 返事はしない。できない。

 改めて突きつけられる現実に、正直言って言葉がない。

 

 それでも。

 

 

「挑まない理由はない、な」

「すぅばらしぃ!!」

 

 地面に転がり縛られた体をびったんびったんさせ始めるルピタ。

 

「……ん」

 

 他方、俺の答えは望ましいものだったんだろう、虹姫様も表情を緩ませる。

 

 

「「………」」

 

 対して。

 わかりやすく微妙な、というか不可解そうな顔をしているのが……めばえちゃんと真白君だ。

 

「正直、話にまったく付いていけなかった、かも」

「ごめん。僕もだ。僕たちの生きているこの世界が偽物かもしれないっていうのがもう、ちょっと受け入れ難いっていうか……」

「あー」

 

 ごもっともの意見である。

 

 

(ぶっちゃけ、今この世界を生きている人たちにとって、一切関係ない話だもんな)

 

 彼らは今ここで生きて、歴史を紡いでいる。

 歴史の収束点とやらを超えても変わりなく、凡その人がそのまま生き続けるのだから。

 

 観測できない、知りもしない別の歴史を紡いだ世界なんて、どう思い様もないのだ。

 

 

「あーるつ……いや、虹姫様。今までの話から察するに、キミが元の歴史の人だっていうのは、今は何となく理解できたよ。そこにはキミの紡いだ歴史があって、それを守ろうとして今ここにいるってことも」

「………」

 

 かつてタッグを組んでいた真白君と虹姫様が相対する。

 今は、違う陣営として。

 

 彼の腕が、ギュッと。彼の愛する女の子を抱き寄せた。

 

 

「でも。僕たちは僕たちの生きる未来のために進みたい。だからもしも、どちらかしか選べないなら、僕は……」

「それ以上は言わなくていいです。いえ、言わないで下さい。真白一人」

「………」

 

 悲しい対立だ。

 真白君はヒーローだから、救うべきを救おうとする。

 

 定められた世界のルールに則って。優等生として。

 

 

(だから、ここは俺の出番なんだ)

 

 俺はヒーローじゃないから。

 俺は俺の欲望のまま、望む未来に手を伸ば――。

 

 

「――だからこそ、僕はキミの未来も救いたいと思う」

「「!?」」

 

 俺と虹姫様の、息を呑む音が重なった。

 

 

「僕はキミと、黒木君とが共に手を取り合える未来を求めて戦ってきた。これはきっと、それをなすための最後のチャンスなんだと思う。だったら僕は、その未来に全力を賭けて挑みたい」

「!!!」

 

 ま、真白くぅ~~~~~~~~~~ん!!

 

「わ、私も……一番、大勢が救われる未来を、目指したい」

「!!!」

 

 め、めばえちゃ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~んんんん!!!!!

 

 

(これだ。これこそがやっぱり、真のヒーローだ!!)

 

 全部救う! 全部諦めない! とんでもない理想論!

 青くて、向こう見ずで、ノープランで……でも、それでいいって思わせるくらいの、輝き!

 

(その輝きのためだったら、この世界のルールに挑むくらい……やるよなぁ?)

 

 歴史の羅針盤概念何するものぞ!

 それを超えた新しい答えを、俺はこの手で掴み取り、届けてみせる!

 

 

「まだ、僕たちに何ができるかわからないけれど」

「どうか、貴女の世界のためにも……頑張らせて、ください」

「真白一人……黒川、めばえ……はい、よろしくお願い、します……」

 

 ヒーローと、ラスボスと、ヒロイン。

 原作では犠牲を生んでしまった組み合わせが、今。

 

 一つに手を結ぶ瞬間を、俺は見た。 

 

 

 推し活人生において、二度とはないような時間の中。

 そいつが、口を開く。

 

「……黒木終夜」

「うん?」

「私と、組みましょう!」

 

 そいつは、ルピタは。

 一点の曇りもない眼と笑みで俺を見上げて、そう言った。




次回、そいつはどこまでも、そういう奴だった。

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