ハーベストハーベスター~踏み台型ラスボス少女と呼ばれた推しを、今世では幸せにしたい!~   作:夏目八尋

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世界を越える、その方法。


第217話 進むべき道、挑むべき壁、必要なもの

 

 黒木終夜は転生者である。

 前世の記憶を持ち、それを使って今日まで戦ってきた。

 

 20年来の推しの幸せを願い、日ノ本の戦場を駆け人類を優勢に導いた。

 

(じゃあ、その記憶はどこからきたのか)

 

 黒木終夜が持っている前世の記憶において、この世界は創作物として扱われていた。

 現実に存在する戦いではなく、空想上の物語として受け止め、それを消費していた。

 

 つまり。

 

「この世界と、()()()()()()()()()()()()が、少なくともこの世には存在する!」

「はい。そしてその現象が成立するためには、六色世界よりも上位の世界が存在することが条件となります」

「だな!」

 

 だって。

 前世では、六色世界のことすらも把握していた。

 

 それらの知識が不完全ながらもほぼほぼ正しく使える物だったのは、俺の今日まで歩んできた人生が保証してくれる。

 

 

(前世知識の小説版が、今ここにいる虹姫様の辿った歴史なのはほぼ間違いない)

 

 多少の違いはあっても大筋は同じだと、何より虹姫様自身が確信してるみたいだしな。

 

(原作と言われるゲーム版HVVの知識で俺や日ノ本は強くなれたし、戦争に勝てた)

 

 今日までの勝利に次ぐ勝利は、まさしく俺の前世知識のたまものだ。

 

(確かに俺は、この世界の住人では知り得ない情報を所持していた)

 

 それは、この世界の住人にも、六色世界の住人にも成し得ないことで。

 それを、前世の記憶だと、創作物の情報だと、俺が確信しているのだから。

 

 繰り返しになるが、俺の前世が生きた世界は、ハベベ世界とも六色世界とも異なる……“歴史の羅針盤(ワールド・タイム・コンパス)”が定義する、世界の線とは異なる線に存在する世界だ。

 と、“嘯く”ことが出来るのだ。

 

 

「俺という存在が、今必要としている仮説の生きた証拠になるなんてなぁ……」

 

 ここにきて、何かが一周回ったような気がする。

 思えば遠くに来たもんだ。

 

 ただのネームドモブという立場に転生した俺が、気づけば世界を救う鍵的存在になるなんて。

 

 

(まるでどこかの誰かが、俺にこの役目を与えようとしてこの世界に転生させたみたいな……)

 

 …………やっぱりあれか? めばえちゃんか?

 めばえちゃん推しの超上位存在がいたのか?

 あるいは集合的無意識か?

 

 なんにせよいい趣味だ。

 なんだろう、アレだ……風、吹いている。

 

 めばえちゃん幸せにしたい勢からの、熱い熱い追い風(俺調べ)が!

 

 

(原作世界とこの世界。めばえちゃんのため両方を救えってそいつらが言っているのなら、力になるのもやぶさかではないむしろやる!)

 

 俺はこの世界が好きだ。原作世界も好きだ。

 両方を救える可能性を俺が持っている、そして俺もそれができる気がしてる。

 

 

「姫様」

「はい」

「俺は、何をすればいい? 二つの世界を、救うために」

 

 いつも通り。

 やるべきことをやっていく!

 

 

      ※      ※      ※

 

 

「黒木終夜。貴方には“越界(えっかい)”してもらいます」

「越界を?」

「はい」

 

 聞き返した俺を、虹姫様が頷き肯定する。

 突然出てきた単語に反応できたのは、今集まってる中だと新姫様だけだった。

 

「えっかい……って、何?」

「翼様。音の響き、さらには会話の文脈から察するに、海を越えるという意味の越海と同じ類の言葉を言ったものと思われます。つまりは、アレは終夜様に世界を越えろと言ったのでしょう」

「なるほど越界。ってか、姫様あっちの人に対して妙に当たり強くない?」

「気のせいです翼様」

 

 素直に疑問を口にする鏑木さんに、うちの姫様が実に明快に答える。

 あと当たりの強さ俺も感じる。同族嫌悪ならぬ、同人嫌悪……的な?

 

 

「越界とは、今あちらの建岩様が仰られた通り、世界を越える儀式です。それにより私はかつて、この世界から六色世界へと殴り込みをかけました」

 

 知ってる。

 正史小説版HVVで、その話はしっかりと描写されてたからな。

 

(ラスボスとヒーローとの戦いが決した後の世界。人類は多数残った敵残存勢力と終わりの見えない戦いをまだ続けていた。そんな中、再び世界が上位存在の魔の手に襲われないよう、旧隈8小隊の、真白一人を中心としたメンバーが、先手を打って六色世界に殴り込みをかけるんだ)

 

 数多の戦いを経てヒーローとして十全に覚醒していた真白君と、ヒロインとして絶対の絆を結んでいた姫様に、新姫様とクスノキ女史が協力して、その儀式は行われた。

 そこから始まる新章が、原作ゲーム版じゃいよいよもって語られなかった範囲だったから、当時わくわくしたのを覚えている。

 

 

「その越界というのを行えば、世界を救うことができるのか?」

「いいえ。普通の越界では、それは叶わないと思います」

 

 木口君の疑問に答えるのは、新姫様だ。

 彼女は彼の背に立つ軍神様に小さく礼をしてから、言葉を続ける。

 

「世界が被さり続ける箱庭のような構造をしていると仮定した場合、越界はその箱庭を脱する儀式だと言えるでしょう。ですが、我ら白の一族が行なう越界は、あくまで下位世界(このせかい)と六色世界の壁を越えるためのモノ。それよりも上位の世界へと続く壁を越えようというのなら、より強固な越界を……言うなれば、超越界を行なう必要があるでしょう」

「超越界……」

「ま、道理だねぇ?」

 

 腕組み思案顔の木口君、その隣で乃木坂君がうんうんと頷いた。

 

 

(超越界、ねぇ)

 

 今回の話のために新姫様が作った造語につけられたのは“超”の文字。

 それにはただ世界を越えるだけじゃなく、さらに上を目指し、限界を超える必要があるんだと示されている。

 

(原作で世界の枠を超えて飛び出した真白君たちを超えて、それよりもっと大きなスケールのどこかへ乗り込む、か)

 

 俺の前世とも繋がっていると思われる、六色世界の壁すら超えた先にある超上位の世界。

 途方もなさを感じて、思わず伸ばした手を空へとかざす。

 

 かざした手の平よりも大きな青白い月が、柔らかく輝いていた。

 

 

「新姫様。その、超越界をするには何が必要になるんですか?」

 

 真白君の口から出た、当然の疑問に。

 

「それは――」

「――足りないのは出力じゃよ」

 

 答えようとした新姫様のセリフに、声が被さる。

 そんな無体を働いたのは、意外な人で。

 

 

「……巡パイセン?」

 

 思わず聞き返しちまったのは、今この瞬間にも感じる、強烈な違和感のせい。

 そしてその違和感は、実際問題正しかった。

 

「違うのう、シュウヤ。わらわじゃ」

 

 俺の知る限り、わらわなんて一人称を好んで使う人物は、一人だけ。

 

 

「……田鶴原、さま?」

「ほっほっほ。いえーす、わらわじゃよー」

 

 驚き戸惑う俺とは裏腹に。

 巡パイセン……もとい、田鶴原様は。

 

「ぴーすぴーす、なのじゃ!」

 

 まじか☆るーぷが配信でもまずやらない、キャッピキャピのえへ顔ダブルピースを決めていた。

 

 

      ※      ※      ※

 

 

若姫(ねえさん)!?」

「ほっほっほ。そう呼ばれるとくすぐったいのぅ、新姫(いもうと)よ」

 

 目をかっぴらいて驚く新姫様に、巡パイセンの見た目で田鶴原様が笑う。

 

「先んじて言っておくが、わらわは今、わらわの巫女たる九條巡の体を依り代に降臨しておる。そう長くはもたんゆえ、サクサクっと話を進めるぞ」

「お、ウッス」

 

 聞こうとしてたことを先回りされ、思わず言葉に詰まる。

 全部手の平の上だったのか、悪戯に成功した子供みたいなにんまり笑顔を田鶴原様はしてみせた。

 

 さっきのえへ顔といい、普段パイセンがしない表情だから、ちょっとドキッとする。

 

 

「して、新姫よ。超越界じゃったな? お主が界を渡って来た儀式の、ぱわーあっぷ版、じゃな」

「は、はい! そうです!」

「であれば足りぬのは、やはり出力じゃな。ぱわー不足じゃ」

 

 パワー不足。

 儀式自体は間違ってないが、シンプルにそれに使うエネルギーが足りないって感じか。

 

「それじゃな。えねるぎぃ。儀式に注ぎ込む素材が足りぬのじゃ」

「ナチュラルに読心するのがいかにも神じゃん」

 

 田鶴原様そういうところあるよね。

 今も俺の思考をお読みになってドヤ顔をしていらっしゃる、巡パイセンの顔で。

 

 

「あのさぁ、たけポン。あたしもう次元が違いすぎて話に付いていけないや」

「そうか? 筋肉を通じてオレにはわかるぞ」

「それ清正公(せいしょこ)さま補正入ってない?」

 

 仲間たちの中からキャパオーバーになる奴も出てくる状況。

 それでも今は、話を進める方を優先する。

 

「うむ。時間もないからの。わらわがこうして顔を出したのは、そのえねるぎぃの出し方について、伝授しにきたゆえじゃ」

「方法があるのですか?」

「うむ」

 

 姫様の問いに、大きく頷きを返して田鶴原様が言う。

 

「神格と、それに準ずる者たちの力を使うのじゃよ」

「神格、と……」

「それに準ずる者……精霊の、力?」

「うむ!」

 

 真白君とめばえちゃんが答えに至ったのを聞いて、田鶴原様は満足げに胸を張った。

 

 

「よりハッキリと言うなれば、人、精霊、器物、3つの力を足しに足して、力と為す御業」

「人、精霊、器物の力を、足す……」

「そうじゃ! 三つの異なる理を持つ魂たちを重ね、大いなる力とする技じゃ!」

 

 続く神様のお言葉には。

 どうにもこうにも、聞き覚えがあって。

 

 

「……限界突破駆動(システムオーバード)?」

 

 ポロっと零した俺の言葉に。

 

「いかにも」

 

 我が意を得たり。

 そんな感じで高らかに、田鶴原様はふんぞり返る。

 

「それこそがかつて、神代の英雄が用いたこの世界において最も力を引き出す秘術! “三位一体の法”じゃ! そして、超越界にはそれをさらに応用させた、“魂縄の法”を用いる!」

「根性?」

「魂の縄と書いて、こんじょうじゃ!」

 

 三位一体、魂縄……。

 ふんわりとだが、イメージはできる。

 

 

「シュウヤよ。お主ならば気づいておろう? これらの法は、すでに、お主らの手の届くところにあると」

「……ああ」

 

 三位一体がシステムオーバードなら。

 魂縄は……。

 

「んう?」

「はい」

 

 俺が視線を向けた先。

 キョトンとする帆乃花と、頷いてみせる姫様。

 

「あの二人がやってのけたっていう、人間同士での魂の同期!」

「うむ!」

「え!? 私たちがやってる限界突破駆動ってなんか違ったの!?」

「贄たちが人として一括りになってる時点で特殊事例でございましたね」

「ええー!?」

 

 ……なんっつーか。

 帆乃花がヒーローってわかったおかげで、この辺のとんでもなさにも納得が先に来るようになったな。

 それに、言われてみたらどこか真白君に似てるところもちょこちょこあるし。

 どっちもワンコ系で可愛い。

 

 

「帆乃花、ちょっといいか?」

「ひょあっ!? ど、どうしたの終夜君!?」

「豪風を使って限界突破駆動したら、複座の姫様とも同期したんだよな? あれって、どんな感覚なんだ?」

「どんな感覚……うーん。隠し事なしで、向き合う感じ……かな?」

「失敗すれば個を形成する魂すら混ざりかねない、危険な行為ではあるかと」

 

 相応にリスクはある、か。

 

「ほっほっほ、そこは大丈夫じゃ」

「田鶴原様?」

「そこな二人がやっておるのは魂縄の法の真似事じゃよ。正しき作法を通せば、互いの魂の形を保ちながら、力を足すこともできよう」

「おお!」

 

 ここにきて、田鶴原様の頼り甲斐が半端ない!

 俺たちのわからない領分の情報を持ってきてくれたばかりか、そこへ至る道筋すら作ってくれるなんて!

 

「巡には、楽しませてもらっておるからの! これくらいはさぁびすなのじゃ!」

 

 パイセンの功績かぁ。

 そこも改めて感謝しかない。

 

 

「さ、わらわの介入できる時間も残り少ない。三位一体の法と魂縄の法の正しき手順を教えるゆえな。しかとみな、聞くのじゃぞ」

「「はい!」」

 

 六色世界よりも外の世界。

 俺たちは今、そんな未知の空間へ、確証もないまま挑もうとしている。

 

(それでも、あると信じるしかない。その先にしか、俺の目指すハッピーエンドはないのだから)

 

 俺が転生者であるという、確信。

 たったそれだけのか細い可能性を、一番根っこの標にして。

 

「黒木君」

「真白君」

「……大丈夫。きっと、なんとかなるよ。僕たちは、信じてる」

「……んっ」

「めばえちゃん……ああ! きっとなんとかなる! してみせる!」

 

 俺に勇気をくれるヒーローと、その傍らで一緒に頷いてくれる、最推し。

 二人の幸せのためにも、そんな二人が生きる、この世界のためにも。

 

(世界の理なんざ、飛び越えてやるさ!)

 

 俺は、気持ちも新たに目の前の難題へと思考を巡らせるのだった。




田鶴原様(パイセンのすがた)「わらわ、見参じゃ!」
パイセン(主導権を奪われた)「あー! あー!! ここにきてそういうことをするの!?」

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