ハーベストハーベスター~踏み台型ラスボス少女と呼ばれた推しを、今世では幸せにしたい!~   作:夏目八尋

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クライマックスフェイズはもう目の前。


第219話 世界を越えろ!

 

「これで、よし……っと! 準備完了だ、黒木!!」

 

 最後の作業を終えて、佐々君から声が届く。

 呼朝のコックピットに展開するカメラモニターからそれを見て。

 

「おお……」

 

 俺は、感嘆の声を上げた。

 

 

「――……」

 

 片膝を付いた姿勢の呼朝から、たくさんの長いコードが伸びている。

 それらはそれぞれ周囲に配置された精霊殻たちと繋げられていて、まるで呼朝を中心に魔方陣を描いているかのよう。

 さらには後方、六牧司令たちが乗ってる指揮車(ガラカブ)とまで繋がっていて、そこまで含むともはや横たえた大樹みたいな文様になっているらしい。

 

(実際、この配列にも意味があるらしいが。俺にはさっぱりだな)

 

 こうするように指示を出したのは新姫様だ。

 

「新姫様」

「はいなんでしょう?」

「新姫様」

「はいはーい」

 

 越界の儀を超えた、超越界の儀を執り行うにあたって、メインとなって動いたのは彼女である。

 この場に二人――正確には三人かもしれないが――いる上位存在として、彼女らしか知らない知識を存分に使っての協力に、感謝の念は絶えない。

 

「新姫ちゃーん」

「はーい!」

「ちゃん様ー」

「はいはーい……って、原形留めてませんよそれは!!」

 

 あれでも建岩の秘中の秘たる存在なのだが、今後はその露出も増えていくかもしれないなんて、思ったりする。

 もしそうなったら、まじか☆るーぷみたいなチャンネルの運用とかどうだろう?

 絶対にウケると思う。

 

 

「終夜、ちょっといい?」

「噂をすればまじか☆るーぷ」

「どつくわよ?」

 

 呼朝にふわふわ取り付いて、まじか☆るーぷこと巡パイセンがやってきた。

 なんでも同期の最終チェックをするから呼朝を起動して欲しいんだとか。

 

「帆乃花、命! そっちも準備はいいかしら?」

「はいはい! 大丈夫!」

「万事抜かりなく」

「めばえと真白君もいいかしら? そっちは、急ごしらえの複座だけど」

「だ、大丈夫……!」

「僕も問題ありません! 現人神様!」

 

 ちょうど呼朝の左後ろと右後ろ。

 3機で三角形を作るように配置されてる帆乃花たちの豪風と、めばえちゃんたちの暗夜。

 

 超越界の儀における、最終出撃メンバーだ。

 正確にはこれら2機と巡パイセンで俺をサポートし、最終的に呼朝一機で超越界に至る。

 

(泣いても笑ってもワンチャンス。ヤルっきゃない)

 

 俺は手元のコンソールを軽く叩いて、ゆっくりと息を整えた。

 

 

      ※      ※      ※

 

 

「感覚的にはの、ロケットによる大気圏突破と同じイメージじゃよ」

 

 巡パイセンの体を借りた田鶴原様が、超越界の儀についてザックリ説明してくれた。

 

黒木終夜(おぬし)という存在を、この世界の上位に属する六色世界をも越えさせるべく、多くの力を束ねて射出するのじゃ」

「ロケットみたいに……」

「そう、ロケットみたいにドーンっと、な?」

 

 語る口の田鶴原様が左手を夜空へ突き上げ、さらにはその腕の周りで右手の平をヒラヒラさせる。

 左手が飛び出すロケットなら、右のそれは、加速に使われたブースターだろうか。

 

 パイセンの小さな体を使って表現するせいで、全体的にファンシーな絵面になっている。

 

 

「だが、実際にお主の肉体を宇宙へぶっ飛ばすわけではない。お主という存在を構築するモノを情報という形に変換し、世界の理を越えて送り出すのじゃ」

「要はワープ……みたいなもの、だな?」

「うむ!」

 

 SFおなじみのワープ概念。

 だがこの世界、それこそハベベ世界においてそれは、言うほど遠くの技術ではない。

 

(超常能力“ゲートドライブ”だって、その手の技術を含んだものだからな)

 

 普段からめっちゃ便利に使ってるあの技術も、空間に作用する超常の力だ。

 

(だから、受け入れられる)

 

 正史世界の存在という、世界を越えた前例だってある。

 だったら、それを超えた力でその先の世界に飛び出すことだってできる……はずだ。

 

 だが。

 

 

「今、この世界って特異点ってのになってて、歴史が確定してない状態なんだよな?」

 

 そう、特異点。

 歴史が一度白紙に戻り、新たな歴史を創造しようとしている真っただ中。

 

「その状態で六色世界に飛び出したら、歴史的なバグみたいなのが起こるんじゃないか?」

「その懸念はもっともじゃな」

 

 俺の疑問に対し、田鶴原様も大きく頷く。

 説明が必要な部分だと、彼女も最初から考えていたのだろう。

 

 続けてさっくりと解説してくれた。

 

「結論から言えば大丈夫じゃよ。飛び出した先、お主らが視ることになる六色世界は、言葉通りに“幻の世界”じゃからな」

「幻……」

「見えはするがそこにないもの、じゃな。お主とブースター役の者らは、共に情報体としてハベベ世界を越え六色世界へと至る。じゃが、通常の越界の儀と違い最終目的地はその先の世界ゆえ、六色世界に辿り着いた時点で情報体から元の形に戻ることはない。お主はそのまま六色世界を通過し、ブースター役の者らはお主を切り離した後はそのまま元のハベベ世界へと戻る。その際に六色世界を視ることはできても、触れることはできんのじゃ。つまり、この儀における六色世界は、見えはするが触れられない、あるかないかを確かめられない、不確かなものとして扱われるのじゃ」

「なるほど」

 

 要は、飛び出した先で目に映るそれは幻覚と一緒。

 あるかないかわからないものだから現実とは言えない。

 実際に六色世界に出たかどうかもわからないから特異点的にもセーフ。

 

「……だいぶ無茶じゃね?」

「ほっほっほ! 無茶じゃよ! じゃが、()()()()()。わらわたちでな?」

「!」

 

 田鶴原様の不敵な笑み。

 通す、と断言した彼女からは、青春スイッチが入った天常さんみたいな、道理すら捻じ曲げようとする気概を感じた。

 

 

「同質同位のものですがフィクションです。実際のものとは違います、か」

「そうじゃ。そうやって世界の理を騙す。じゃがそれを成立させるには、ただの越界の儀よりばちくそにえねるぎぃを使うのじゃ。より多くの手が必要じゃし、お主自身にもそりゃもう体力気力を充実させる必要がある。わかったか?」

「わかりやすい説明をありがとう田鶴原様!」

 

 わーおわかりやすい!

 しかもなんか、それだけ聞いたら何とかなりそうな気がすごくしてくる。

 

 俺、鍛えてますんで!

 

「気合を入れるんじゃぞ。おそらく現在時点で六色世界を飛び越えられるのは、異世界の記憶を持ったお主をおいて他におらんのじゃからな」

「モチのロンだぜ!」

 

 世界を越えた先で何があるのかとか、どうしたら世界を分けられるのかとか、そういうのが一切わからないままここにいる。

 何もかもがぶっつけ本番。前例もなけりゃ考察する余地もない。

 

(それでも、俺たちはそうしたいと願ったから、今ここで、準備を整えている)

 

 かつて、未知に挑んだ偉人たちも、同じ気持ちだったんだろうか。

 何もかもわからないまま、それでもわずかな確信と、残り全部を勢いとノリに託して、ただただ自分のすべてを賭けて挑戦する。

 

 俺がその人たちに並べているとは一切思わないが、それでも、心意気だけは負けてないと自負しよう。

 

 

(……だって、この世界には推しがいる)

 

 俺の最推し黒川めばえちゃんが、生きることを、幸せになることを許されている。

 俺の大好きな人が、かつて得られなかった明るい未来へ向かおうとしている。

 

 そんな世界に生きる彼女が、元の世界も……“自分が踏み台にされた世界も”救って欲しいと望んでくれた。

 俺のやりたいことを、肯定してくれた。

 

(そりゃあ、勇気100倍ア〇パン〇ンよ!)

 

 やりたいことをやらいでか!

 ここまできたら、全力全開で進むっきゃない!

 

 

「大丈夫じゃ! 旅立つのはお主一人ではない。途中までは仲間もおる」

 

 ありがたいことに、世界を越えるロケットのブースター役として、たくさんの仲間がそれを買って出てくれた。

 いくらか魂を同期させるって繊細な工程がある以上、その数に限りは出てしまったが。

 

「いいか黒木、お前の機体の整備は完璧にしてやる。だから、必ず帰ってこい!」

「ダイジョーブ。信じて待ってるよ! Take it easy. ねっ?」

「足りないエネルギーとやらは私と細川で十二分にブーストいたしましてよ! 存分にぶっ飛んでお行きなさいな!」

「黒木様のことですし、どうせ無事に帰られるでしょう、くらいに思ってお待ちしておりますね」

「そうそう。終夜くんそのくらいできるでしょ。応援してるからねっ!」

「だねぇ。サクッと別の世界とやらも救って、戻ってきてね」

「黒木千剣長! 限界を超えたのはお前だけじゃない。ぜひとも帰還次第、オレとの手合わせを頼むぞ! 筋肉はすべてを超越する!」

「ウチからはまぁー……帆乃花ちゃんのこと、よろしくお願いするッスよ」

「世界すら越えるゴッドスピード、見せてくれよな!」

「だぁりんと一緒に、待ってまぁす♪」

 

 たくさんの、本当にたくさんのエールを貰った。

 どれだけ事情を把握してるかもバラバラで、みんなそれぞれに生きている。

 

 そんな彼ら彼女らが、等しく俺に、行って来いと言ってくれた。

 

(こんなにも推せる世界を、俺は知らない……!)

 

 前世の記憶にある世界のことも、きっと前世の俺は嫌いじゃなかったとは思う。

 けれど今、俺が生きているこの世界のことは、その何倍も好きだって今の俺は胸を張って言える。

 

 

(だからこそ、もう一つの……元の歴史を辿った世界も、俺は救いたい)

 

 俺にとってはこの世界こそが理想だが、別の誰かにとっては元の歴史を辿った世界が理想だったりもするから。

 その全部を救わなきゃ、俺は俺を許せない。

 

(どっちも、踏み台になんてさせはしない!)

 

 何度だって心に誓う。

 ハッピーエンドってのは、全部を救ってこそだからな!

 

 

      ※      ※      ※

 

 

「はいはい。準備は完了したようだね。本作戦の指揮を執る、六牧百乃介だよ」

 

 ガラカブ内の司令部から、六牧司令の通信が飛ぶ。

 彼が音頭を取るのは、なんだかんだ建岩派であることも含めて、今回の作戦の指揮を執るのにふさわしいと判断されたからだ。

 

「……うん。聞かされた話の半分も理解できないけど、指揮を執るよ! っていうか、真っ当に考えたら何もしないでタイムアップさせて平和にこの世界守るのが一番じゃない? どうしてそこから縁もゆかりも……あるっちゃあるんだろうけど基本関係がない別の歴史を救うって話になっちゃうのかな!? かな!?」

 

 うーん。相変わらずの冷静な判断。

 さすがは司令の中の司令だ。

 

「この期に及んでそれ言っちゃうところが、そういう仕事を任される原因だっていい加減気付くべきじゃにゃい?」

「あーあーあーあー! 手果伸通信士は正論パンチでボクを殴らないように!」

 

 司令に隠れてこっそりタマちゃんが撮影した写真が、裏から送られる。

 苦悩の表情を浮かべる六牧司令の、まさしく絵になる一瞬が切り取られた奇跡の一枚に、繋げっぱなしの通信回線の向こうから何人かの噴き出す音が聞こえた。

 

 

「ともかく! これから行なう作戦は前代未聞にして未知数を含む超常の作戦だ。ボクにできることはいつも通りGOサインを出すことと、世間一般に向けた後付けの言い訳づくりくらいだから、君たちは“いつも通り”、好き勝手やっておいで」

 

 いつも通り。

 もう何度言われたかわからない言葉だ。

 

 やりたい放題の免罪符にもしたし、ちょっと気合が足りない時の鼓舞にも使った。

 

 天2のいつも通り。

 無理・無茶・無謀をぶち抜いて、不可能を可能にしてきた。

 

 それを俺たちは、信じて実行してきた。

 

 

「ってことで、あとは任せたよ。手果伸通信士」

「はーい! それじゃあみんな、覚悟の準備はできた? わたしはできてる!」

 

 タマちゃん謹製のプログラムが奔り、繋がれた精霊殻たちが起動していく。

 事情を聴いた彼女が1時間くらいで組み上げた、機械同士の繋がりをスムーズにするシステムだ。

 

「人力で頑張る部分はよろしく頼むにゃ! 筆頭モブの西野君!」

「だぁぁぁ! 最後までこういう役割かよ! うおおおお!!」

 

 多くを参加させられない作戦だから、足りない人手を埋めてくれる西野君に感謝しながら、俺は改めてコンソールに手を置いた。

 

 

「作戦内容は至ってシンプル。みんなの力を束ねてぶつけて我らがエースオブエース、黒木終夜ちゃんを世界の外のそのまま外までぶっ飛ばすって内容です。それするためにクッソ面倒な演算とか超神秘的なあれこれとかいろいろやるけれど、知ってようが知らなかろうがどうでもいいんで説明は省きます!」

「あはは!」

「ぶっちゃけすぎだろ!」

「実際助かるッスねー」

 

 思ったよりも和気あいあいとした雰囲気の中、話が進む。

 

「まず最初に、ガラカブを起点に建岩さんところの各精霊殻を同時起動、それらの力を新姫様が束ねたら、次に、豪風、暗夜、そして呼朝にそれらを送信。そこのコントロールは田鶴原様から指導を受けたパイセンと、虹姫様にお願いするよん」

「大丈夫です!」

「任せなさいな。やってみせるわ」

「正しく送り出します」

「OK。そうしたら、呼朝、豪風、暗夜とパイセンを一塊として射出。最初の世界越え、越界を行うよ!」

「わ、私たちも異世界に行っちゃうんだね?」

「はい。六色世界、確かにこの目に入れてまいりましょう」

「ちょっと、怖い……かも」

「大丈夫。一緒に乗り越えよう!」

「……ふっ」

『笑顔が少々気持ち悪くなってますよ、終夜』

 

 ごほん、えふんっ!

 ここまでの規模感は、原作でも実行された越界の儀の範囲だ。

 

 原作だと暗夜……もとい明星単機で最初殴り込みに行くんだが、改めて思うと正史世界の真白君&姫様って相当ロックなことしてるな?

 

 

「そしたらそこで、豪風、暗夜、パイセンをパージ! 呼朝をさらに弾き出して、さらなる世界へ射出します! あ、パイセンが新姫様とアンカー繋いでるから、パージされたみんなはこの世界に帰還するから安心してね!」

「みんなのことは私が責任をもって還すから」

「ご安心を、必ず受け止めます!」

「頼んだぜ、二人とも」

「何言ってるのよ終夜。アナタこそ、ここから先が本番よ?」

 

 パイセンに言われてしまったが、実際そう。

 

(そこから先、六色世界を越えた先は、完全な未知の領域……)

 

 本当の本当に、何が起こるかわからない。

 けれど、必ずそれは、ある。

 

 

「二つの世界を分けて、両立させるための道を……この手で切り拓く!」

 

 俺のこの言葉を合図に、状況が動き出す。

 

 

「それでは、30秒後に結界を解きます……26,25」

 

 カウントダウンが始まる。

 ぎりぎりまで時間を稼ぐため、結界で止めていた時が動き出す。

 

 後戻りはもうできない。

 チャンスもたった一度だけ。

 

 けれど。

 

 

推し(せかい)を救うなんてのは、もう何度だってやってきたんだ」

 

 いつも通り。

 俺たちの日常も、非日常も含んだその言葉を胸に、俺の心は落ち着いていた。

 

 

「3,2,1……解!」

 

 結界が解ける。時が進み始める。

 

「作戦、開始っ!!」

 

 六牧司令の号令がとび、誰もが動き始めた。




……世界へ、挑め!

原稿、最後まで仕上がってます!
ぜひぜひ最後まで、よろしくお願いします!!
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