ハーベストハーベスター~踏み台型ラスボス少女と呼ばれた推しを、今世では幸せにしたい!~   作:夏目八尋

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クライマックスフェイズ!


第220話 超越界!

 

「作戦、開始っ!!」

 

 六牧司令の号令を合図に、誰もが動き始めた。

 

 

「行きますわよ! 細川!」

「はい、お嬢様!」

 

 響輝に乗った天常さんと細川さんが奏で、歌いだす。

 合奏を超えた合奏、超越合奏と名付けられた歌唱と演奏の複合技術は、精霊だけでなく人の心にまで作用して、非常に高い強化(バフ)を施す。

 

 

「そんじゃ精霊殻、繋いでくよん!」

 

 タマちゃんの号令で、コードで繋がった精霊殻たちが一斉に、超過駆動の緑の燐光を放つ。

 建岩の親衛隊が乗っていたその“無頼”たちには、今。

 

「さぁ、やるッスよ!」

「応! 行くぜ!」

「はぁい! ダーリン!」

 

 天2の、隊員たちが乗っている。

 

「これぇ、本当に乗ってるだけでいいんだよねぇ!?」

「重層同期で起動してるんだ、問題はない!」

「アタシたちとは本当に縁がなかったもんねぇ。でも、記念記念!」

 

 普段は機動歩兵として己が身一つで戦ってきた三羽烏も、今は即席パイロットだ。

 

 それもすべては、図抜けて高い体力・気力を、リソースとして使うため。

 

「Wow! 騎兵隊だぞーぅ!」

「まさか作戦でまた精霊殻に乗ることになるとはな。だが、他ならぬ世界のためならこのボクが、参加しないという道はない!」

 

 鍛えに鍛えたみんなの力を借りて。

 

「束ねます!」

 

 それを新姫様がひとつにしたら。

 

「はぁい!!」

「「「!?!?」」」

 

 瞬間。

 届いた力に、全身の毛が立ち上がる。

 

 

「巡ちゃん! み……虹姫ちゃん!」

「「はい!」」

 

 力を注ぐ新姫様から、力を使う巡と虹姫にバトンが渡る。

 

「詠むわ!」

「合わせます!」

 

 短いやり取りのあいだに、届けられた力を必死に操り方向を整える。

 

 目指すは(ソラ)

 

 けれど目に見える宇宙に向かってではなく……その境界をぶち抜いた向こうへ。

 

 

「掛けまくも畏き建岩龍命(たていわたつのみこと)……九洲見渡す火の山築きし大阿蘇の……禊ぎ祓へ給ひし時に……」

「諸々の禍事、罪、穢、有らむをば……祓へ給ひ清め給へと、白すことを聞こし召せと……」

 

 巡と虹姫。

 世界を越える、その許可を得るための詠唱を重ねる。

 

「「重ねて、祓へ給ひ清め給へと……恐み、恐み白す!!」」

 

 願い、望み、それを二人で、解き放つ!

 

 

「是」

「!?」

 

 

 返事があった。

 そして次の瞬間、夜空に突如、巨大な光の大鳥居が出現する。

 

 “大阿蘇”の文字が刻まれたそれは。

 世界を渡るために必要な、幽世を抜けるための門。

 

 世界を守護する大神にのみ示すことを許された、世界を脱するための道しるべ。

 

 すべての準備が、整った。

 

 

「終夜! みんな! 跳ぶわよ!!」

「応っ!!」

 

 世界を越える。

 その瞬間が来る!

 

「「はぁぁぁぁぁ!!」」

 

 新姫様が、虹姫様が、繋がっているみんなが。

 俺たちを送り出してくれる。

 

 

「いっけぇぇぇぇーーーーーーーーー!!!」

 

 

 次の瞬間。

 俺たちの体は急速に重さをなくし、空へと向かい。

 

「くっ!」

 

 目を開けてられないほどに、視界を真っ白に染める閃光。

 そのまま弾丸の如く勢いよく撃ち出され――。

 

 

「ウオォウフッ!」

「へ?」

 

 

 ――最初の世界の壁を越えた。

 

 

      ※      ※      ※

 

 

 世界の壁を、確かに俺は越えたのだと思う。

 どこからか漏れ聞こえてくる音は、超高速で移動している揺れによるものだろうか。

 

(今の俺は情報体になった……とはいえ、見た目に変わりなし。と……)

 

 目を開け、自分の手足を確かめる。

 コックピットの中も何も変わった様子もなければ、俺は適当に呼朝のコンソールを操作して、メインカメラから外の様子を映し出す。

 

「おお……!!」

 

 感動の世界が広がっていた。

 扉絵で見て知っていた光景が、そこにはあった。

 

 小説版ハベベのイラストレーターよしむらじょんこ先生渾身のカラーイラスト通りの世界が、そこに広がっていた。

 

「これが、六色世界……か」

 

 明るくなく、そして暗くもない世界だった。

 薄暗い、あるいは仄明るい、落ち着くような、微妙に座りが悪いような色合いの景色。

 大小さまざまなシャボンが浮かび、触れ合い、果てなく漂っている空間。

 

 このシャボンこそが一つの世界であり、六色世界の住人的には下位世界と呼ばれるものだ。

 

 この一つ一つの中で、それぞれの世界の歴史が紡がれている。

 

(シャボンの表面が、七色に鈍く輝いているな……)

 

 それは現実のシャボン玉と同じような色合いで、表面で揺らぎ踊っている。

 小説版のテキストでは確か、姫様がそれを“世界の鼓動”だと評してたっけか。

 

 

「あのシャボン一つ一つが世界、ですか。であれば、あの表面の色合いの変化は、さながら世界の鼓動のようですね」

「やっぱりそれ言うんだ」

「?」

 

 アニメになってないところのセリフだから、リアルで聞けたのは前世を含めて俺が最初だ。

 っていうか、今更だがボイスがそのままアニメ版の声優さんそのまんまなんだよな、俺が知ってる範囲の人たち。

 

 今までまったく気にしてこなかったが、改めて考えるとそれ、すごいことだぜ。

 この世界の住人、だいたいがいい声してる。

 

 

「ちょっと、ちょっと、終夜!」

「なんだいちょっと低めで艶のある声をした巡パイセン」

「受け取りづらいボケで返すのはやめなさい!」

「はい」

「返事だけはちゃんとしてるのよね……で、感慨深く外の景色を見てるのはいいけど……」

 

 パイセンから呼朝に届けられた通信を開き、モニターを展開する。

 そこに映し出されたのは、どうにかスルー出来ないものかと思った現実が一つ。

 

「結局ついてきちゃったけど、これ、いいの?」

「アォンッ」

 

 よくないと思う!

 そう思ったタイミングで、新たな霊子回線が開く。

 

「黒木くん、あれって本物の亜神級“海渡るオオカミ”……なんだよね?」

「敵、じゃ、ない……の?」

 

 暗夜からの、真白君とマイフェイバリットオールゴッデスめばえちゃんからの通信だ。

 

 

「そうだね、めばえちゃん。敵、じゃあると思う。でも、真白君が言うように、あれが本物の亜神級“海渡るオオカミ”なら……この時点での敵対はないと思っていい」

「そう、なんだ?」

「彼は生粋の戦士なんだ。強者との、己のすべてを賭けた戦いをこそ好む一匹狼」

「終夜君」

「なんだい中性的だけど芯のある男性声をした真白君」

「そのボケは受け取りづらいんだけどそうじゃなくてね」

「はい」

「その、これ、いいのかな?」

「うん?」

 

 真白君から送られてきたデータで開いた映像には。

 

「ちょ、ちょちょちょ、え、どういうこと?」

「アオンッ!」

 

 海渡るオオカミが、ご機嫌な様子で巡パイセンをその背に乗せているところが映されていた。

 

「これ、いいの?」

 

 よくないと思う!

 俺の中の孤高の戦士像が台無しだぜフェンリルさんよぉ!?

 

 それじゃどう見てもワンコロじゃんか!!

 

 

「あー、いいないいなぁ!」

「ふむ……」

 

 さらに繋がった通信から、はしゃぐ帆乃花と何やら考え込む姫様の声がして。

 

「姫様」

「はい、終夜様」

 

 一縷の望みをかけて彼女の意見を求めたら。

 

「とてもモフモフで、座り心地が良さそうです」

「ダメだこりゃ」

 

 考えるだけ無駄なんだと、理解させられた。

 

 

「申し訳ございません、終夜様」

「いや、アレが何を考えてるかなんて、さすがに誰も」

「フェンリルが何を考えてこうしたか、あまりにも自明でしたので」

「え?」

 

 え?

 

「おや、お気づきでなかったのですか? この中で()()()()()()()()()()()()()()()貴方様が」

「あ?」

 

 画面越しの姫様が、誇らしげに笑っていた。

 

 

「あの方は、終夜様を見送りついでに、()()()()()()()()()()()()()()()つもりなのですよ」

「ヴォウッ!!」

 

 まるでその通りだと肯定するかのように、孤狼は一声吠え上げて。

 

「さぁ、皆々様。贄たちの役目を果たしましょう」

 

 それを受けた姫様が、高らかに宣言する。

 

「終夜様を、ここより先の世界へ……超越界の儀、次段をここに!」

 

 

       ※      ※      ※

 

 

「皆々様、終夜様を送りましょう!」

 

 姫様の号令に、場の空気がグッと引き締まった。

 

「手を貸してくれるってことでいいのね? じゃあ、力を借りるわよ!」

「ヴォウッ!」

 

 パイセンの呼びかけに、フェンリルが応える。

 いつだったか彼女を猛獣使いと評する奴らがいたが、今の彼女の姿はまさにそれ。

 

 白銀狼に跨る虹羽衣の乙女とか、ちょっと出来すぎだよな。

 

 

「正直、使えるリソースはいくらあっても足りなかったから助かるわ! 命! 帆乃花!」

「はい。祝詞、参ります……!」

「私も! 合わせるよ!」

 

 そんな巡パイセンの求めに応え、姫様と帆乃花が祝詞を唱えだす。

 さっきも聞いた、大阿蘇様への呼びかける奴だ。

 

「「掛けまくも畏き建岩龍命(たていわたつのみこと)……九洲見渡す火の山築きし大阿蘇の……禊ぎ祓へ給ひし時に……諸々の禍事、罪、穢、有らむをば……祓へ給ひ清め給へと、白すことを聞こし召せと……重ねて、祓へ給ひ清め給へと……恐み、恐み白す!」」

 

 二人の声が寸分違わず重なって、膨大な力を引き出していく。

 

『豪風、出力上昇! 大阿蘇様の神力、贈ります!』

「受け取って、巡ちゃん!」

「巡様!」

 

 そうして練り上げたリソースを、巡に渡す。

 同じ情報体として一塊になっている今、その伝達自体はたやすく行われるのだが――。

 

 

「つぅっ!」

 

 力を受け取った巡パイセンの表情に、苦悶の色が浮かぶ。

 受け渡しを行う回路の役目を負った彼女に、負荷がかかっているのだ。

 

「巡ちゃん!」

「こ、の、くらい……!」

 

 田鶴原様と繋がりを持つ彼女にしかできない役目だが、目に見えて無理をしているのがわかる。

 だがそれを、彼が支えてくれた。

 

 

「アオオオオオオンッ!!」

 

 咆哮。

 それは海渡るオオカミが……青の氷狼という種が元来持っている、群れを束ねるための力。

 幻体を作れなかった孤高の狼が、初めて群れの仲間と認めたものへと贈る鼓舞。

 

 即ち、司令官補正(バフ)

 

 

「こ・れ・な・らぁっ! ……真白君! めばえ! お願い!」

「任せて! 行こうめばえちゃん!」

「うん!」

 

 どうにか堪えきった巡パイセンの指示に、暗夜が動く。

 呼朝の前に移動して、その両手の平をガッチリと組み合わせ、前方に突き出す。

 

「めばえちゃん、行こう!」

「あなたとならどこまでも……!」

 

 瞬間。

 暗夜全体が青白い輝きを放ち、特に組み合わせたこぶしにその燐光が濃く溢れ出す。

 

 あれこそが真白君(ヒーロー)めばえちゃん(ヒロイン)が、この世界で見出した希望の光。

 世界の定めた運命すらもねじ伏せる、理不尽(チート)の極み!

 

 名付けて――!

 

 

「「――精霊愛拳(せいれいあいけん)!」」

 

 青白い輝きが、真っ直ぐに打ち出される。

 俺が行くべき道を切り拓いていく。

 

 どこまでもバカバカしくて、チープな光景。

 でも、これこそが……俺が望んで勝ち取った、推しの幸せな未来の形だ!!

 

 

『終夜』

「わぁーってらい! これは涙じゃない、魂の歓喜だ!」

『そうではなく、準備を』

「はい」

 

 どうやら感動に浸る間もないらしい。

 今、二人が打ち出した一撃は、言うなれば道なき道の中から、進むべき方角を指し示すコンパスを向けた様なもの。

 

 その先に、世界を越える道があると定義づけするためのもの。

 

「っしゃあ! んじゃ俺たちも覚悟決めるか!」

『ん!』

『こちらはすでに、いつでも共に舞う用意をしてあります』

 

 俺たちは呼朝を操作し、今まさに青白く輝く光の道へ進めるよう、姿勢を整える。

 胸にともった熱い思いは、今はまだ燃やさない。

 

「巡パイセン! 頼む!」

 

 押し出してくれる仲間が、まだいる!

 

 

「……行くわ、力を貸して!」

「ヴォウッ!」

 

 フェンリルに跨ったまま、巡パイセンが力を解き放つ。

 ここに来るまで束ねに束ねたみんなの力。その小さな体に過剰なまでに注がれた力を開放する。

 

「ぶっ飛ばすわよ、終夜!」

「よろしく!」

 

 直後。

 呼朝の後ろから強烈な押し出す力が加わり、ものすごいGが全身に掛かった。

 

 

「お、おおおおおおおおおお!!」

『フォローします』

『ころばない、ように……!』

 

 これまで受け止めたことのない強烈な衝撃、そして圧。

 それでもコントロールを失わないよう、注がれた力を少しでも散らさないよう、ヨシノとユメの手を借りながら全力で姿勢制御を行なう。

 

 撃ち出された。

 モニターにはもう、真白君たちが作ってくれた青白い道の輝きしか見えない。

 

 が。

 

 

「ぐぉえあ!!」

 

 すぐさま何かに衝突する!

 正面。目に見えない何かにぶつかって、呼朝の前進が止まった。

 掛かり続ける後ろからの力を受け止め機体が震える。

 

「こ、れ、は……!?」

『かべ……』

『終夜、これこそが……六色世界の壁です!』

「!」

 

 こいつが……!

 

 

「だったらこれをぶち抜けば……!」

『はい!』

『ん!』

 

 姿勢制御を二人に任せ、俺は攻撃コマンドを叩き込む。

 

「コマンド入力SOF! 精霊、拳!」

 

 呼朝のこぶしが振るわれる。

 

 ガンッ!

 

 それは確かに何かを穿ち、けれどぶち抜くまでには至らない。

 

 

「んなくそっ!」

 

 打つ! 打つ! 打つ! 打つ!

 足りない! 足りない! 足りない! 足りない!

 

「んなぁぁぁぁろぉぉぉぉーーーーーーー!!」

 

 打つ打つ打つ打つ打つ打つ打つ打つ!!

 足りない足りない足りない足りない!!

 

 

(……ここまで、来たのに!!)

 

 六色世界を越える壁はあった。

 ここさえぶち抜けば、可能性の道が繋がる!

 

 ギギギッ!

 

 呼朝が軋む。

 体力気力が削られていく。

 

 こんなにも力を束ねたのに。

 こんなにも力を注いでるのに。

 

「まだ、足りねぇってのかよぉぉぉーーーーーーーーー!!」

 

 叫ぶ!

 こういうのは気合で負けたらお終いだって、先人たちの教えがある!

 

 そして。

 先人たちはこうも言っている!

 

 

「終夜くん! 行ってぇぇぇぇーーーーーーー!!!」

 

 絆こそ、パワーだ!

 

 

「!?」

 

 直後。

 呼朝の背中を追い越して、世界を覆いつくすほどのミサイルが、次々に見えない壁へと着弾する。

 

 その向こう。

 

 パキンッ!

 

 空間に、どこか見慣れたヒビが入ったのが見えた。

 

 

「ヨシノ! ユメ!」

『はい!』

『ん!』

 

 気合を超えた気迫を込めて、掛かるGを押し返し、前へと進む!

 

「うおおおおおお!!!」

『限界突破駆動、起動!』

『コマンド入力、SONB……!』

「ぶちかませ!」

 

 呼朝必殺の一撃!

 

 

『『「スピリットオブナイトブレイク!!!」』』

 

 

 一荒の緑の風になって、俺たちは押し通る!

 道理も、条理も、合理も無視した、ただただ強い意志による一点突破!

 

 パキッ、パキッ!!

 バリンッ!!

 

「!?」

 

 瞬間。

 突如として世界を覆っていた闇が、ガラスのように砕け散り。

 

「うおおおおーーーーーー!!」

 

 砕けた先から差し込んだ、真っ白い光の中へと俺は呑み込まれ――。

 

   ・

 

   ・

 

   ・

 

 ――ピピピピピピ……。

 

「んおっ!?」

 

 俺は目を覚ました。




巡(意外と乗り心地いいわね……)
帆乃花「……ものの」
命「それ以上はいけません」

原稿、最後まで仕上がってます!
ぜひぜひ最後まで、よろしくお願いします!!
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