ハーベストハーベスター~踏み台型ラスボス少女と呼ばれた推しを、今世では幸せにしたい!~   作:夏目八尋

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世界を救った、しかし……。


第222話 帰還

 

 どこか、夢の中にいるような心地だった。

 

『……――っ』

『………』

 

 誰かが俺を呼んでいる。

 けれど、今の俺は何もかもが浮ついていて、目も耳も大して働かないままで――。

 

『……やりますか』

『んっ』

 

 バチンッ!!

 

「んぐひぃんっ!!」

 

 強制的に目が覚める。

 無理矢理覚醒させられた反動の、とてつもない頭痛と、吐き気に顔を顰める。

 

 

 曇っていた視界がハッキリとしたら。

 

「……呼朝の、コクピット?」

『お目覚めになりましたか、終夜』

『ん、おはよ』

 

 そこに、にゅうっと、二つの人影が覆い被さってきた。

 

 桜色の和服美人と、銀河褐色な黒ワンピ美少女。

 

「ヨシノ、ユメ?」

 

 俺と契約してくれている精霊の二人が。

 

『まずは状況を把握しましょう』

『計器をチェック』

「お、おう」

 

 ぼんやりではなくハッキリとした輪郭をもって、俺の傍に立っていた。

 

 

      ※      ※      ※

 

 

「えーっと、ここがどこかはわからない、と」

『はい。座標も圏外を示すばかりで、他の機器も呼朝以外をサーチできません』

『外、でるの、あぶない』

「なるほど……」

 

 簡潔に言えば。

 どうやら俺たちは、異世界に漂流しているらしかった。

 

「ほへー……」

 

 カメラモニターで周囲を映しても、そこに見えるのは光のない真っ暗な世界。

 ヴォイドっていうんだっけ? 星の光も届かない宇宙の何もない超空洞。

 

 まじで上下左右前後なーんもなし。

 

「これ、詰んでないか?」

 

 何をどうしたらいいのかもわからない。

 距離感も何もないただただ真っ暗闇の中、ポツンと呼朝が一軒家していた。

 

 

「なーんもわからん、なーんもできない」

『一応探査はしていますが、呼朝のそれはそこまで優秀ではありませんので……』

『んー、みえない』

 

 目を覚ましてからそろそろ一時間が経とうしても、状況は何も変わらない。

 

 呼朝をちょっと動かしてもダメ。

 通信を試みようとしてもダメ。

 ワンチャン“ゲートドライブ”なら……って思ったけどこれもダメ。

 

「どうしようもないなぁ、こりゃ」

 

 完全にお手上げ侍である。

 

 

「世界は、たぶん救った」

 

 もうふんわりとしか覚えてないが、確かに俺は、HVV世界の、六色世界の外に触れた。

 そこで何かと交流して、望む答えを引き出した……と思う。

 

「だから、あれだなぁ」

 

 もしかすると、俺はバグかもしれない、なんてことを考える。

 

(世界を救った俺は、あのあと、ちゃんと元の世界に戻った。あるいは初めからこんなところには来なかった扱いになった。けれどそれとは別に、この世界に来た俺って情報は消去しきれなかったから、こうして残留してしまった、みたいな)

 

 そんな風に考えたことを二人に語って聞かせたら。

 

『なるほど、ありえますね』

『しんじつはやみのなか』

 

 二人もおおむね同意してくれた。

 

 

「そうなるともう、俺たちはただこの先、消えるのを待つだけってことになるな」

『すべてをやり切って、最期にこうして孤立してしまったというのは、何とも寂しくはありますね』

『ここ、闇じゃない、なにもない、無』

 

 諦めムードが漂う中、それでも俺の心にはまだ余裕があった。

 それは世界を、推しのいる未来を守った達成感と……。

 

「……二人がいてくれるおかげだな」

 

 ここにこうして、孤独をいやす相棒たちが居てくれたから。

 

「――……」

「お。そうだな。お前もいるよな」

 

 なんとなく呼朝も自己主張してる気がして、頷きを返す。

 そこでふと、会話が途切れた。

 

 

「……ふぅー」

 

 背もたれに深く体を預けて、ゆっくりと息を吐く。

 最後の最後までやりきった俺は、今。

 

「……なんか、すっげぇ重い肩の荷が降りたみたいな感覚だ」

 

 ちょっとだけ、疲れていた。

 

「あー、このままちょっと寝ちまうか」

『寝てしまうのですか?』

『おねむ?』

 

 思ったよりも心配げな二人の声に、クスクスと笑う。

 

「ちょっとだけ、ちょっとだけ」

 

 どうせ寝て起きても状況は変わらないし、頭をリセットするためにも寝た方がいいだろう。

 

「ここ2日は動きっぱなしだったし、気絶するみたいな寝方しかしてなかったからな」

『そう、ですね……終夜、あなたはとても良く頑張られました』

『すごかった』

「俺もそう思う」

 

 だから、いったんぜーんぶ投げ出して、深い深い眠りにつこう。やるべきことはやりきった。

 もしも俺が偽物だとか、俺という存在の残滓だったら、それで消えてしまってもまぁ、悪くない。

 

 

「ふああ……おやすみ、ヨシノ、ユメ、呼朝」

『………』

 

 返事はない。

 あるいは、言われたけど聞こえなかったか。

 

 思ったよりも疲労は溜まってたみたいで、体がズシンと重くなる。

 

 ……いや、これ物理的に重いな?

 

「ん?」

『少しだけ、少しだけです。どうか、ご一緒させてください……』

『ん、んっ』

「おー? うん、まぁ、いいっちゃいいが……」

 

 寄り添うように、ヨシノとユメが乗っかっていた。

 ギチギチだったが狭さを感じないのは、二人が消えかかっているからだろうか。

 

 呼朝がほんのり暖かく、俺たちを支えてくれているのを感じる。

 また、すべての感覚がぼやけていく。

 

 

「……すぅー……ふぅー」

 

 ゆっくりと、深く、呼吸をする。

 意識を、深い眠りの底へと向かうために手放し――。

 

 

 

「黒木「黒木「終夜「終夜「終夜!」様!」君!」終夜!」君!」

 

「――うるせぇ!!」

 

 突如として頭にガツンと響く、大勢の声に無理矢理覚醒させられて。

 

「ウルゥオオオオオオーーーーーーーーー!!!」

 

 さらに続けて耳をつんざく派手な吠え声を聞いたところで。

 

「う、お、おおおおお!?!?」

『これは!』

『ひっぱられれれれ』

 

 呼朝や精霊たちをひっくるめ、むにゃむにゃしていた俺の世界は一気に白く輝いて。

 

『『「おあーーーーー!?!?」』』

 

 無理矢理どこぞへと、引っ張られていくのだった。

 

 

      ※      ※      ※

 

 

「こーんなこともあろうかと!」

『作ってましたよ! “アンカープログラム”!!』

 

 二つのモニター越しに、二人の天才が胸を張る。

 片や天2が誇る序列3位のサイズ感の通信士と、片や実にマニア受けが狙える発明家と。

 

「ガラカブに搭載した新型超演算機の機能をフルに使用して、上位世界にぶっ飛んだみんなの情報との繋がりを維持するプログラム!」

『タマちゃんの出してくれたアイデアを基に、アタシの白の一族の技術を使って可能な限りブーストした、即興即席出たとこ勝負の一点もの!』

「いやぁ、さすがに六色世界より外は対象外だったのは予想通りでどうしようもないかなぁって思ったんだけど」

『神様の力ベースの中継器に、青の世界の住人……“上位存在”のブースターなんてくっついてくれたおかげでねぇ。なんとかなっちゃったんだよねぇ~?』

 

 と、いうことで。

 世界の外のそのまた外を漂っていた俺は、無事に回収されたのだとか。

 

 

「……なるほど。からくりは理解した」

「いぇーい! タマちゃん超ファインプレー! 上位世界があるって聞いてた時から考えてたアイデアが使えて大満足ー」

『ガチモンの天才ってこういう子のことをいうんだねぇ……第一声が、下位世界に人を送ってきてるんなら帰還する技術があるんだよね? だったからねぇ……』

「まぁ二人にはマジで感謝って奴なんだが……」

 

 うん、まぁ、そこはいいんだそこは。

 問題は――。

 

 

「――これ、なんとかしてくれない?」

 

 俺の言葉に画面越しにこちらを見つめる二人。

 そのどちらもが、我関せずとばかりにニッコリとした笑みを浮かべて。

 

「無理にゃ!」

『無理だねぇ』

 

 すげなく断る、その状況。

 

 

「しゅう゛やぐぅ~~~~~ん!!!」

「ぐぇぇ」

 

 首を絞めてくる帆乃花。

 

「ばかっ! ばかっ! ばかっ!!」

「ぐぇぇ」

 

 腹をポコポコ叩く巡。

 

「よがっだよぉぉほ~~~~~!!」

「ばかっ! ばかっ! ばかっ!!」

「ぐえ、ぐえ、ぐぇぇ……!」

 

 呼朝のコックピットから起き上がることすら許されぬまま。

 俺は二人にシバかれていた。

 

 この二人が乗り込んでくるときに開けられたハッチの、その向こうには。

 

「「「終夜!!」」」

 

 雁首揃えた天2のみんなが、顔を出して見つめている。

 

 

「ひ、ひめさま……!」

「はい。なんでしょう終夜様」

「た、助けてくれ……」

 

 その中の一人、コックピットの中に入ってる姫様に手を伸ばし、俺は懇願する。

 姫様は俺の言葉ににっこりと微笑み、まだ潜り込める余地があった巡パイセンの側から近づくと。

 

「ご無事で何よりです。さすがは贄の終夜様」

「は?!」

 

 ぴとっ。

 と、帆乃花とは反対側から寄り添うように引っ付いてきた。

 

「……ふふっ」

 

 その笑顔、確・信・犯。

 

 

「Wow! 選り取り見取り、ダネ!」

「く、黒木!? お前まさか……もうすでに!?」

「一夫多妻、やっぱりありなのではありませんこと?」

「お嬢様。例外措置として通した方が手早いかと」

「ちょっとお嬢、勝手に外堀埋めようとしない! 細川さんも出来そうなライン出さない!」

「終夜ちゃーん。ボクみたいに一途じゃないと、そっぽ向かれるよ~?」

「迷ったときは筋肉で選べ! 黒木千剣長!」

 

 わらわら、わらわら。

 

「お、あの様子ならワンチャンありそうッスね~」

「まぁやたちみたいなラブラブカップル、また増えちゃう感じぃ~?」

「モテるってのは男の夢だぜだだだだだ摩耶、いだいいだい!」

「これは、ちょっと声を掛けられなさそうだね?」

「うん……今は、私たちの出番じゃ、ないわ」

 

 がやがや、がやがや。

 

「ってことで、新姫様、虹姫様。もう少々お待ちいただけたら」

「大丈夫ですよ、百乃介。今は皆で寿ぎましょう! 彼の、彼らの帰還を」

「感謝を伝える時間は、ありがたいことに沢山ありますので」

 

 

 モニターに表示される時間は、0時7分。

 

「終夜! こらバカ! あなたまさかっ! 本当に!?」

「終夜君終夜君! いったいいつ! どこで!? 全然知らなかったんだけど!?」

「贄はただ、贄の終夜様と口にしただけですよ?」

『そうです。終夜と最後までともにある決意を表明しただけ。私と同じですね』

『んっ。ずっと、一緒……!』

 

「……今ここで、俺にできることは、ない。がくっ」

 

 もみくちゃにされながら、一切の抵抗を放棄する。

 

(収束した世界に、姫様が二人いる。それが答えだよな)

 

 歴史の収束点を超えて確定した未来には……確かに二つの、歴史が紡がれていた。




終夜の推し活が世界を救った。そして……。

原稿、最後まで仕上がってます!
ぜひぜひ最後まで、よろしくお願いします!!
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