ハーベストハーベスター~踏み台型ラスボス少女と呼ばれた推しを、今世では幸せにしたい!~   作:夏目八尋

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いつも応援ありがとうございます。


第23話 たとえどんな過去があったとしても

 

「……あなたの知りうる限りで、私たちは、どうなるの?」

 

 そう俺に問う(めぐる)先輩の瞳は。

 これまでのように冷めたものとは違い、より深く、奥まったところに熱があるように見えた。

 

「!?」

 

 その熱にはどこか。

 縋りつくような懸命さが隠れているように、俺には感じられた。

 

 

「……それ、は」

 

 何か答えないといけない。

 急かされるようにして口を開いた俺に。

 

「待って」

 

 巡先輩は手を突き出して制止して、首を横に振る。

 

「ごめんなさい。今のは聞かなかったことにしてくれる?」

「え?」

「少なくとも、事情を知ってる可能性があるあなたに問うべき問いじゃなかったわ」

 

 そう言う彼女の表情は、幼く愛らしい見た目に反して険しくて。

 続けて静かに吐き出されたため息は、ゆっくりと、そして長かった。

 

 

「何、聞いてるのよ。よね」

 

 椅子に座り直して姿勢を正しながら、巡先輩が苦笑を浮かべる。

 

「あなたの言葉が本当だったとして。あなたが未来を知っているのだとして。それを私が聞いたところで、何が変わるわけでもないもの」

 

 こぼした言葉から、深い深い諦観があるのを感じた。

 

 

「……私、あなたの言う通り、九條シリーズの第3世代型なの」

 

 ポツリ、ポツリと。

 再び口を開いた巡先輩から、彼女の身の上話が始まる。

 

「稼働してから今年で8年。耐用年数的にはすでにちょっとオーバーしてる。いつ終わってもおかしくない、半分以上、役割を終えた個体。それが私、九條巡」

 

 稼働してから。

 耐用年数。

 個体。

 

 そのどれもが、彼女の人生においては当たり前の言葉だ。

 

「ここに配属される前は、神子島(かごしま)の前線にいたわ。そこで大勢の人が戦うのを見送って、大勢の人の亡骸を出迎えたの。生き残った人を励まして、慰めて。そしてまた戦場に送り出す……それをずっと、繰り返してきた」

 

 ここではないどこかを見つめる瞳。

 その黒い瞳からはどんな感情も読み取れず、ただただ、深く濁っていて。

 

「耐用年数ギリギリまで戦場にいたけど、最新型(いもうと)と入れ替わる形でお役御免。あとは廃棄されるまで研究所(ラボ)で余生を過ごすか、前線未満の場所で教材として使われるかだったのだけど……御三家だかの箔付のために呼ばれて、今ここなの。最新型じゃなくて私が呼ばれた理由は“人道的見地”ですって。ふふっ」

「………」

 

 彼女が教室に来ない理由を、察した。

 もう十分すぎるくらいに、巡先輩は戦場を、戦争を知っていた。

 

 

「……ほんと、驚くわ。今の話を聞いて、()()って顔してるんだもの」

「まぁ、うん」

 

 九條シリーズに関する顛末は、番外編小説が出るくらいに前世で詳細に語られている。

 第6世代にまで続く彼女たちの、苦痛と困難に満ちた物語は、前世令和の時代にも語り草だった。

 

(特に第3~第5世代は消耗が激しく、前線で無残に命を散らす彼女達の描写は、多くのHVVファンの心を抉りまくったからな)

 

 マジで公式に、人の心とかないんか? って思う案件である。

 まぁだからこそ、第6世代で辿り着く“救済”が、キラキラ輝いているわけなんだけども。

 

 

「あなたは、どこまで知ってるのかしらね。案外、何もかもを知った上で、今日ここに顔を見せに来たんじゃない?」

 

 重い話を語り終え、けれども巡先輩は軽いノリを崩さない。

 

「ともあれ、私はロートルよ。とっくに全盛期を過ぎた壊れかけ。小隊全体を強化することも、動き回って愛想を振りまくことも、出来やしないしやる気もないの」

 

 ここが私のすべて。

 ここが私の終の棲家。

 

 そう、彼女は言い放つ。

 

 

「私に何かを求めるのなら諦めなさい、刈り取るものを(ハーベスト)刈り取る者(ハーベスター)。何の役にも立たないどころか、いつ壊れて足を引っ張るかわからないポンコツなんて、関わっても百害あって一利なしよ?」

 

 本心からの言葉。

 そう確信できるだけの自然さが、巡先輩の所作に、飾らない微笑に滲んでいた。

 

「………」

 

 だから、俺は――。

 

 

「――とりあえず、体力と気力をSに上げるまで一緒に訓練しよっか。パイセンっ」

「これだから狂人の相手はしたくないのよ」

 

 

 当初の目的通り、備品の整備を開始した。

 

 

      ※      ※      ※

 

 

「ぜっ、ぜっ、ぜはっ、ぜひっ……!」

 

 ヨタヨタと。

 体操服姿の巡パイセンがグラウンドを走っている。

 

 ミニマムサイズと元々の運動力の低さが相まって、彼女の走るペースは歩きとほぼ変わらない。

 

「ぜはっ、ぁっ、はぁっ、も、むり……!」

「大丈夫大丈夫! まだまだイケる! しっかり俺が見てるから信じて!」

 

 そんなパイセンと並走しながら、俺は逐一彼女のステータスをチェックしていた。

 

 

(お。ちゃんと蛇模様の指輪の効果出てるな。さっきよりも気力の上昇値が増してる)

 

 本当はダッシュシューズも履かせて運動力にも補正入れたいところだったが、あいにくとパイセンに合うサイズの靴を持ってなかった。

 休憩時間に裏マーケットに行って買っておこう。

 

「わた、わたし……このままじゃ、あっ、こわれ……こわれちゃ……!」

「大丈夫大丈夫壊れない壊れない。人間そんな弱くないよー!」

 

 気絶ラインである体力・気力2割ラインはもちろん。

 病気の予兆や状態異常の一つだって見逃すつもりはない。

 

 どころか彼女の仕事場にしっかりと救急セットと勝守を置いてるし、バステ対策は完璧だ。

 

 

「パイセン! 最終日まで俺が付き合うから、限界を超えて強くなろうな!」

「ひゅっ……ほん、この……! おぼえて……な、はぁっ……はぁっ……!!」

 

 よしよし、悪態吐けるだけの余裕も確認。

 

「あ、パイセン。フォームはこう! こうやるともっと効率よく鍛えられるからやってくれ!」

「~~~~~っっ!!!」

 

 バシバシッ!

 

 いって! いってぇ!! 叩かれた! なんで!?

 

「パイセン、ふざけてないで鍛えよう? 体力気力はすべての基本だってばよ」

「~~~~~~~っっっ!!!!」

 

 バシバシバシッ!!

 

「いったぁい! 大丈夫だって! パイセンが気絶しないようにちゃんと見てるし、3日もあれば目標の体力・気力Sなんてすーぐ到達させるから! なっ?」

 

 バシバシバシバシッ!! スカッ!

 

「っとと、大丈夫かパイセン。ちゃんとフォームに集中しないと。ほら、こうして、こう!」

「!?!?」

 

 パイセンの後ろに回ってフォームの指導。

 腕の振り方、太ももの持ち上げ方、一つ一つのコツを教える。

 

 

「あ、ぁ……~~~~~っ!!」

 

 バシバシバシバシッ!!

 

「いたっ! いたぁっ!? なんで!? 強くなってるステで殴ってくるのなんで!?」

 

 その後も俺の指導の何が気に入らないのか。

 パイセンは顔を真っ赤にしながら何度も何度も俺のことを叩いてきた。

 

「大丈夫だって、パイセン! これまでサボってきた分、青春取り戻そう、なっ?」

「これの、どこが……せいしゅん、なのよっ!?」

 

 

 そんなこんなで訓練は続き。

 最終日のスポーツテストを迎え、終えて。

 

「Aクラス、Bクラス。両クラス全員の生徒の体力・気力Sの突破を確認した! 運動力に関しては何人かの未達成者がいるが、今後も精進し、目標を達成しておくように!」

 

 心なしか嬉しそうな揚津見(あがつみ)先生の宣言通り。

 『学校行事を建前にみんなのステ上げ強制しよう大作戦』は、凡その成功を修めたのだった。




巡パイセンをよろしくお願いします。

応援、高評価してもらえると更新にますます力が入ります!
ぜひぜひよろしくお願いします!!
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