ハーベストハーベスター~踏み台型ラスボス少女と呼ばれた推しを、今世では幸せにしたい!~   作:夏目八尋

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楽しんでもらえてるんだなと実感が沸きます。
誤字報告も助かっています。本当にありがとうございます。

天常さんから語られる真実、そして……。


第48話 混沌と、気づき

 

「……わかりました。私の話を、どうか聞いてくださいまし」

 

 佐々君に敗北し、俺の介錯を受けた天常さんが、とうとう観念して口を開く。

 

 ここ1ヶ月に及ぶ青春モンスターとしての振る舞いの数々。

 多くの人を巻き込んで、それなりに楽しませてくれた彼女の暴走の……その原因。

 

「……私、聞いてしまったのです。彼女の……巡さんの稼働限界がもう、すぐなのだと」

 

 それは俺の予想を違えない、そして回避不可能な未来の話だった。

 

 

「なっ、九條!? お前……!?」

「……やはり、そうでしたか」

「そっか。だから巡ちゃんは……」

 

 告げられた真実に三様の反応を示す佐々君、細川さん、清白さん。

 そして。

 

「………」

 

 三人からの視線を浴びて。

 少しだけ困ったような、観念したような顔で笑う……巡パイセン。

 

 

「今日までどうにか延命や、救済の方法がないか死に物狂いで探しておりましたが、私ではついぞ、それを見つけること叶いませんでした」

 

 そして続けられる、誰よりも多くを救う頂点になると公言する天常さんからの……敗北宣言。

 

「せめて、せめてこの手で、彼女の望む楽しい日々を描くことができればと思っての行動でしたが……それも、裏目だったみたいですわ」

 

 ポタリ、ポタリ。

 

 雫が床の木目に落ちる。

 

「私は……無力、ですわっ!!」

 

 慟哭と共に幾度も零れ落ちるそれは。

 

 初めて見る、天常さんの涙だった。

 

 そしてそれが。

 俺がすっかり忘れてた、大事なことを思い出させる最初のカギだった。

 

 

      ※      ※      ※

 

 

「う、うぅぅ……」

「お嬢様……」

「天常……」

 

 呻き、蹲ってしまった天常さんに細川さんと佐々君が寄り添う。

 優しく背中をさすり、嗚咽する彼女を温める姿に、ひとまずは預け、目線を外す。

 

 この場で俺が注目するべきは天常さんじゃない。

 

「パイセン」

「………」

 

 俺のすぐそばで苦笑いを浮かべたまま、どうしたものかと思案顔の巡パイセンの方だ。

 隠しておきたかっただろう真実を暴かれて、果たして彼女はどう振る舞うのか。ちょっと予想がつかなかった。

 

 

「巡ちゃん」

「なにかしら、帆乃花」

「ひとつ、確かめたいことがあるの」

 

 少し屈んでパイセンと目線を合わせた清白さんが、真剣な顔で問いかける。

 

「巡ちゃんは、天常さんのことどう思ってるの?」

(……んん?)

 

 なんで今その質問?

 なんて俺が思ってるところで、けれどもその問いの意図はパイセンにはちゃーんと伝わっているらしく。

 

「……そうね。少なくとも、嫌ってはいないわ」

 

 少し考えたあと、穏やかな口調でパイセンは、清白さんへと返答した。

 

 直後。

 

 

 パンッ!!!

 

 

「!?」

 

 パイセンの頬に、清白さんの平手打ちが炸裂した。

 

 

「んなっ!? 清白さ」

「黒木くんはちょっと黙ってて!」

「はい」

 

 見れば清白さんは眼帯を外し、両目を見開きしっかりとパイセンを見ていた。

 

「巡ちゃん。それじゃあ……それじゃああんまりにも不誠実だよ!」

 

 それは一目で分かるほどの怒り様だった。

 本気だった。

 

 

「帆乃花……」

 

 叩かれたパイセンは、頬を押さえながらも呆然とした様子で清白さんを見ている。

 多分、彼女も本気で怒った清白さんを見るのは初めてなんだろう。

 

 清白さんから叩きつけられた言葉と痛みを、どうにか飲み込もうと目を泳がせていた。

 

 

(っていうか、待て待て、待ってくれ……さっきから、どこもかしこも初めての顔尽くしで困惑しっぱなしだぞ、俺!?)

 

 一人だけVSイベント見たさで首突っ込んだせいで、場違い感が半端ない。

 てっきり勝負を決めてサクッと話が決着するもんだと思ってたから、完全に読みを外して居心地が悪いことこの上ない。

 

(なんだこの状況。VSイベントからの派生? 仲間内での好感値の乱高下? 連鎖?)

 

 何が起こっているのか考えようとしても、答えが見つからない。

 

(それともあれか、ゲーム的に考えて何らかのエピソード的なのが始まってるとかか?)

 

 何もかもがわからない。

 ただただあまりにも居た堪れない、気まずい雰囲気に歯噛みする。

 

 

(でも、でもだ……)

 

 混乱が止まらない。困惑が抜けきらない。

 けれどなぜだか俺は、ここから立ち去ろうとだけは思わなかった。

 

(天常さんは泣いていて、清白さんは怒っていて、巡パイセンが困っている)

 

 混迷を極めたこの状況から、逃げちゃダメだと俺の何かが心と体に錨を下ろしている。

 

 踏みとどまって、見極めて。

 ()()()()()()って、言われている気がして。

 

 

「……あ」

 

 そこまで思って、俺は気づく。

 ずっと、ずっと間違えた色眼鏡を掛けていたことに。

 

 

(そうだ。そうだよ……何を勘違いしている)

 

 この世界、この場所は――。

 

(俺の知ってるHVV(ハベベ)の世界なんじゃなく、ただそこにある、HVVと似た仕様の別世界……今、俺が生きている――)

 

 ――創作物ではない、()()()()()なのだと。

 

 

(俺の知ってるそれっぽいイベントや感情の揺れ動き、ステータスなんてのがあったとしても、それはゲームの仕様なんかじゃなく、この世界の持つ常識。今まさにこの世界で生きている人たちが積み重ねていく現実なんじゃないのか!?)

 

 いったい何年俺はこの世界で生きてきた?

 どれだけの人と関わって、どれだけの事をやってきた?

 

 そのうちの何をゲームの仕様と割り切って、どれだけの行動を重ねてきた?

 

(何がFESだ。何がVSイベントだ。今ここに見えないものを理由に、俺は何をやってきた?)

 

 それらを参考にして行動するのはいい。

 だが、それに囚われて、大事な何かを見落としちゃいなかったか?

 

 その結果が、目の前で起こっているこの混沌じゃあないのか?

 それを理解できないで困惑している、俺自身の不足じゃあないのか?

 

 

「ああ……」

 

 気づいたら。

 色々なものが見えてきた。

 

 天常さんは、悲しさ、無力感、そして誰よりも自分に対する怒りで泣いている。

 寄り添う細川さんと佐々君も、その表情から気遣いや無念、たくさんの感情が読み取れる。

 

 怒る清白さんの言葉を思い出せ。彼女の怒りは自分の感情だけで発露したものじゃないよな?

 呆ける巡パイセンの瞳の揺れ動きにあるのは、本当に諦観だけなのか?

 

 よく観ろ、感じ取れ。

 

 複雑で、底知れない。

 AIや仕様なんかじゃ制御できない、操るなんておこがましい、心がそこにあるだろう?

 

 

「――……」

 

 天を仰ぐ。

 体育館を照らす明り取りの窓から差し込む日の光に、温かさと冷たさを同時に感じ取る。

 

(俺は、間違うところだった)

 

 この世界は単純で、易しくて。

 持ちうる力で、解決できるだけやったらそれで十分足りるんだと思っていた。

 

 

(でも、それじゃ足りなかったんだ)

 

 行動だけでは、理解ができない。

 それだけじゃ今この世界で生きる人の、本当の意味で力になることなんてできやしない。

 

 マイフェイバリットエターナルヒロイン。

 我が最愛の推し……黒川めばえの助けになれない。

 

 

「……ははっ」

 

 俺自身の心、そして相手の心を感じて、理解して。

 そうしてようやく、本当の意味でその人の力になれるんだ。

 

 だから。

 

 

「巡ちゃん。天常さんの気持ちを知りながら、これだけ想われてるってわかっていながら、本音で向き合わないなんて酷いよ!」

「それは……」

「そこまでだ、清白さん」

「止めないで黒木くん! 巡ちゃんは……!」

 

「これでもパイセンは、精一杯天常さんと向き合ってたんだよ」

「っ!?」

「え……!?」

 

「な、パイセン?」

「………」

「そう、なの……?」

 

 

 俺はこの世界に来て、初めて。

 自分の意志で、自分と推し以外の誰かの心を考えながら、行動を起こした。




次回! パイセン死す?!

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