ハーベストハーベスター~踏み台型ラスボス少女と呼ばれた推しを、今世では幸せにしたい!~ 作:夏目八尋
感想・評価いただくたびに、やったぜと喜んでいます。
楽しんでもらえてるんだなと実感が沸きます。
誤字報告も助かっています。
さぁ、ニューフェイスのエントリーだ!
夜空を彩る花火たちを、俺はパイセンと並んで見上げる。
「ねぇ、終夜」
「あいあい、パイセン」
元より何かを話す気で来たんだろう。
俺の隣に立つパイセンは、花火よりも俺の方ばかりを見て、何度も口をもごもごさせていた。
「……本来なら、この光景を見ることはできなかったはずなのよね」
「そうなるな」
「……もう、老いることもできなくなったけれど。それでも私は、こうして未来を見る機会を得た」
「契約解除したら元の状態に戻るぞ?」
「え? 戻れるの?」
「え? 戻れるよ?」
「「………」」
なにか感慨深げな話が始まりそうだったが、止まってしまった。
「……もう! 話そうとしてたこと頭からすっぽ抜けちゃったじゃない!」
ポコポコッ!
そしていつもの如く、痛くないパンチで叩かれた。
「まったく。アナタはいつもそう。私を驚かせるようなことばっかりして……」
「すいません」
「いいわ。それがアナタなんだし。いちいち突っかかってられないもの」
「すいませぇん」
全身でご不満アピールしているパイセンに平謝りしていると、不意に、彼女の口からクスクスと、なかなか珍しい笑い声が聞こえてきた。
「ほんと、アナタといると退屈しないわ。だから、もう一度だけちゃんと言っておく」
こちらを見つめ、微笑むパイセン。
真っ直ぐ向けられた視線には、いつもの呆れや面倒くさげな感情はなく、代わりに気恥ずかしさや、なにがしかの覚悟めいた意志を感じて。
「………」
ちゃんと聞こうと姿勢を正した俺に、満足そうに頷いて。
「黒木終夜。私に未来を選ばせてくれてありがとう。この恩は忘れないわ」
ドンッ! ドドンッ!!
花火と共に告げられる感謝の言葉は、彼女のはにかんだ笑顔と一緒に俺へと届けられた。
「あああーーーーー!! 巡ちゃん! 抜け駆けはダメーーーー!!」
「しまっ、きゃあ!」
瞬間。
ロケットのように突っ込んできた清白さんに捕まり、パイセンは飛んでいく。
「こちらにいましたのね、黒木さん! 地域の方が特別に用意してくださった屋台があちらにありましてよ! ご挨拶に行かねばなりませんわ!」
「そうだぞ黒木! ボクたちはこの地域を拠点にこれから本格的な戦いへと赴くんだ。地域住民との密で良好な関係は必須と言っていい。キミ自身、わかっているだろう?」
そうして気づけばイツメンが集まってきて。
自分自身、この空間にもだいぶん慣れたななんて考える。
(正直、楽しい。とても楽しい……でも)
それでも俺は、満たされない。
(足りない。大事な大事なピースが……俺の心を満たすのは……)
こうして幸せな時間を感じれば感じるほどに、渇望してしまう。
「……めばえ」
「ん? 何か言ったか、黒木」
「いや……なんでもない」
今、考えても仕方がないというのはわかっている。
でも、ついつい考えてしまう。
(俺はこの世界で、彼女に……黒川めばえに出会えるのか)
会いたい。
めばえちゃんに会いたい。
この世界のどこかにいる推しを探し出し、今すぐにその顔を見て安心したい。
(でも……まだ会えない)
足りない。足りない。
まだ足りない。
俺の世界には黒川めばえが足りないが、今の俺にはまだ、彼女を救いきるだけの力がない。
自信が、ない。
「黒木さん……?」
「佐々君。天常さん。助けたい人を完璧に救ってみせるには、あとどれだけ頑張ればいいんだろうな?」
「っ!」
「黒木、お前はどこまで……」
意味のない問いかけをする。
どうすればいいかなんて、とうにわかっているから。
「まだまだ、俺は、まだまだ……」
「黒木さん……」
やるべきことはごまんとある。
俺にできることも、まだまだある……はずだ。
だから。
「今は一歩ずつ、積み重ねていかないとな」
辿り着くのは平凡な答え。
地道に、積み重ねていくという、当たり前。
推しを救えるその日まで。
俺は何度だって覚悟し直して、歩み続けよう。
ドンッ! ドドンッ!!
そんな俺のありきたりな覚悟を、それでいいんだと肯定するかのように。
夜空には、たくさんの花丸たちが咲いていた……。
※ ※ ※
8月も半ば過ぎ。
ミンミンと至る所でセミがうるさく鳴いている今日この頃。
精霊殻の整備を手伝いに来た俺の目に、驚くべきものが映った。
「整備ドックが拡充されている……!?」
佐々くん、清白さんが乗ってた1番機と、俺が乗ってた2番機の二つに加え、もうひとつ。
新たに3番機なる精霊殻が配備されたドックが増設されていた。
しかも!
「おいおいおい、こいつはまさか……後期型か!」
この独特のフォルムを俺が見間違えるはずがない。
「後期型の試作機、精霊殻強襲型……
突然の出会いに興奮を隠しきれないまま、俺はその名を呼んだ。
精霊殻強襲型“
ゲーム版HVVにおいて、もっとも多くのプレイヤーがお世話になったと言っても過言ではない名機中の名機。
機動性と防御力をバランス良く兼ね備えたスペックで、特筆すべきはその武装。後部専用パックから放つ追尾型ミサイルは、世のプレイヤーの多くの撃墜数稼ぎのお供だった。
主人公にしてヒーローである
(これは、タマちゃんとの工作が上手いこといったんだな……!)
俺は内心でしめしめと笑う。
本来ならこの機体は、来年の3月から配備される予定のもの。
そこに開発技能3の俺と情報技能4のタマちゃんとで連携し、機体データをまとめたものをこっそり軍に横流ししていたのだ。
(そんな胡散臭いデータでもしっかり検証して、こうして実物を作り上げる本土の人たちやっぱすごいわ)
小説版でもかなりのマッド集団として描写されてたし、行けるだろうとは踏んでたが、こうして結果で見せられるとやっぱため息出ちまうなぁ。
「おー。しっかりと複座だ。二人乗りだ」
ドックに上り、俺は期待のルーキーを外からあれこれ見学する。
豪風は、追尾型ミサイルを含む高度な電子演算を行うため、二人乗りの機体になっている。
これがまた、HVVにおいて数々のドラマを作り上げる要因にもなっている。
(王道にして初期ペアであるヒーローとヒロインのタッグはもちろん、ゲーム版なら好きな組み合わせでパイロットを乗せることができるから、色んなパターンを楽しめるんだよなぁ)
二人のパイロットを乗せる関係上、そこには掛け合いが発生する。
その辺もしっかり作りこんであるおかげで、膨大なセリフがそこに存在していた。
(あぁ、瞼を閉じれば思い出す……めばえちゃんを複座に乗せてミサイルぶっぱする時の固有セリフ……!)
殻操技能も戦士技能も持たないめばえちゃんに技能を教え、配置換えしてようやく聞けるレアセリフ。
『……あなたに朝は、もう来ない』
鋭く無慈悲な視線とともに冷たく言い放たれる、こ・れ・っ!
誰よりも朝を望むめばえちゃんだからこその説得力を持った言葉と、その後にぶちまけられる大量のミサイルの絵面の良さで、俺の心は張り裂けそうだ!
ここについては他のHVVファンからも好評で「ラスボスの風格」だとか「恨みこもってる」だとか、いろいろな意見が聞けた。貴公らそこに直れ。
「はぁー、いいなぁ」
こうして現物としてゲームに縁のある物を見てしまうと、いよいよ世界を、推しをより強く感じられる。
(着実に一歩ずつ、進んできている実感を得られるな)
いずれ世界はヒーローとラスボスの戦いによって決着する。そう運命づけられている。
だが、そこに至るまでにだって戦いはあるし、そこに意味はある。
(別に最終決戦を人類超優勢で迎えたっていいんだ。その方が安全で後々幸せな日々に繋がるだろうし、目指すはそれっきゃないだろう)
そのための知識チート。
そのための戦果大稼ぎ。
すべてはオールマイティラブイットワン黒川めばえちゃんのため!
俺の世界は彼女のためにある!
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「……しかし、なんでまた、ここにこれが配置されたんだ?」
さんざっぱら豪風を満喫したところで、当然の疑問を俺は思い出した。
「これ、誰が乗るんだ? 現状機体もパイロットも足りてたんだが……」
「黒木ーーーーーー!!」
「黒木さーーーーん!!」
「お? 佐々君、天常さん。俺はここだぞー」
答えを出すよりも先に、状況が動いた。
慌てた様子でドック内に駆け込んできた二人を高所から見下ろし、呼びかける。
「どうした? そんなに慌てて」
「どうしたもこうしたもありませんわ! 来ましたの!」
「来るって?」
「っていうか! そこだ! 黒木!」
「そこ?」
要領を得ない言葉に聞き返した――その時。
プシュッ!
「!?」
誰も乗っていないと思っていた豪風のコックピットが、音を立てて展開した。
カバーが持ち上がり、俺にとっては見慣れた内装と……そして――。
「――は?」
ありえない。
「な、ん……」
どうして?
「黒木!」
「黒木さん!!」
おかしい。
おかしいおかしいおかしいありえないありえないありえないありえない!!
「……ふぅ」
コックピットの中に居たのは……。
「……あら? 貴方様は……」
「う、そ……だろ?」
「?」
乱れた赤い長髪を
「あっ。もしや、貴方様が……なるほど」
彼女は俺を見て柔らかく、無邪気な微笑みを浮かべると、美しい所作で身を起こし居住まいを正す。
ただただ驚愕している俺が見えているのかいないのか、その動作には一滴の淀みもない。
「では、ご挨拶させていただきたく思います」
花のように楚々としていて、どこかふわふわとした佇まい。
そんな、浮世離れした気配を放つ彼女こそ――。
「初めまして。
――世界を救う片割れ。この世界の、ヒロインだった。
巫装束は改造巫女服みたいな奴です。
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