ハーベストハーベスター~踏み台型ラスボス少女と呼ばれた推しを、今世では幸せにしたい!~   作:夏目八尋

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いつも応援ありがとうございます。

感想・評価いただくたびに、やったぜと喜んでいます。
楽しんでもらえてるんだなと実感が沸きます。
誤字報告も助かっています。本当にありがとうございます。

シリアス、続いてます。


第78話 より確実な未来へ向けた準備

 

「なんだ、黒木。ボクと細川だけを呼ぶなんて」

「私たちを呼ぶ、ということはお嬢様に関することだとは思うのですが……なんでしょう?」

 

 天久佐撤退戦に向けた準備中。

 俺は整備ドックの裏手に、佐々君と細川さんを呼び出した。

 

「まさか、天常相手に悪だくみか? いやいや、さすがに黒木の頼みでも時期をだな……」

「いや、そうじゃない。二人には、頼みたいことがあるんだ」

「頼みたいこと、ですか?」

 

 この先、俺が迎えるかもしれない運命。

 その結末が訪れても、なおこの世界が続いていくのなら。

 

「あぁ、実は……」

「実は?」

 

 そんな未来の希望のために。

 

「もし、天久佐撤退戦で亜神級が出現したなら……その時は、二人に天常さんを連れて逃げて欲しいんだ」

「「!?」」

 

 俺は、俺にできることをしておこうと決めた。

 

 

      ※      ※      ※

 

 

「黒木。冗談でも言っていいことと悪いことがあるんだぞ?」

「いや、冗談では……」

「なら尚のこと悪い!」

 

 ピシャリッ!

 

 俺の言葉は案の定、佐々君に切り捨てられる。

 その顔は、さっきまでの穏やかさとは打って変わって、怒りの色に染まっていた。

 

「聞いてくれ、佐々君」

「聞く意味などないだろう! 黒木のそれは、まるで……まるで……!」

 

 嫌がるようにそっぽを向いた彼は、肩を震わせ、拳を握り。

 

「初めから負けると決めてかかっているようなものじゃないか!」

 

 賢く察しがいい彼らしく、俺の言わんとすることを完璧に理解して、声を張り上げた。

 

 

「確かにボクたち天2はあの日、亜神級を打ち倒すことができなかった。だが! 打ち倒すことができなかっただけで、決して後れを取っていたわけじゃない!」

 

 そっぽを向いたまま熱弁をふるう佐々君の言葉に、隣の細川さんも頷く。

 

「想定外の状況で準備もままならないまま交戦し、引き分けた。であれば、私たちが次に遭遇した際に対応できない相手だとは思いません」

「細川の言うとおりだ。亜神級何するものぞ! このボクが整備したキミの精霊殻が、二度(ふたど)と土をつけられることなどありはしない!」

 

 これまでの積み重ねの先にある、揺らがぬ自信。

 このおかげで俺は今日まで、最善な状態でいつも戦場に向かうことができた。

 

 整備技能4レベル、そしてみんなを導く強いリーダーシップ。

 これからの人類の未来に、絶対に必要な人材だと、改めて思う。

 

 だから。

 

「……佐々君なら、気づいてるだろ? 豪風じゃ、フェンリルを相手にするには機動力不足だって」

「うっ」

 

 現実を突きつける。

 

 

「確かに戦い方を工夫すれば、何とかなる相手かもしれない。だが、それを成功させるには、間違いなく時間がかかりすぎる。それこそ討伐に躍起になって下手な時間をかけてしまったら、豪風の殲滅力がまったく活かせなくなる」

「ぐ、ぬぬぬ……」

 

 撤退戦は敵の戦力をどれだけ削れるかが鍵だ。

 基本的には大将首を取ることよりも、無駄に突撃してくる数多の雑魚を消し飛ばす方に注力しないといけない。

 

 それに。

 

(天久佐撤退戦で豪風は……使えない)

 

 豪風は、ここで使い潰していい機体じゃない。

 

 

「戦いの目的は、なるべく多くの敵を倒しつつ、生きて逃げ切ることだ。だから、確実な撤退ラインってのが必要になる。これはその提案だってことをわかって欲しい」

「それは……」

「いいか? 天常さんは、そして佐々君、キミは、これからの日ノ本に無くてはならない存在だ」

 

 ここでいったん言葉を切り、細川さんに視線を送る。

 彼女なら、俺の言葉の意図をしっかりと理解してくれると信じて。

 

「隈本御三家の未来を担う存在に、万が一があっちゃいけない。日ノ本の明日は、キミたちに掛かっているんだ」

「黒木……」

 

 自分の肩に背負っている責任については、きっと佐々君が誰よりも理解している。

 だが、それでも彼は……。

 

「黒木。だが、ボクは……ボクは最前線でキミと肩を並べると、そう誓ったじゃないか!」

 

 ……そう言うと思っていた。

 

 

「そうだな。だからこそ頼むんだ」

「!?」

「あのわがままで、けれど誰よりも情け深くて他人を放っておけない天常さんを土壇場で戦場から連れ出せるのは……彼女の従者である細川さんと、彼女がライバルだと認めている佐々君しかいない」

「それは……」

「それに、こんなことを俺から頼めるのは、佐々君をおいて他にはいない。そうだろ?」

 

 だから、俺は卑怯な手を使う。

 彼が俺を心から慕ってくれているのを理解した上で。わかった上で。

 

 この言葉を使う。

 

 

「だって、佐々君は。俺にとって唯一無二な、親友なんだからな?」

「!? 黒木!」

 

 

 驚きとも、怒りとも、悲しみともつかない顔で、佐々君が口を開く。

 

「それは……それは……それは、卑怯だろう……」

 

 ああ、俺もそう思う。

 ()()()()()()()()()を口にして、いいように扱って。

 

 とんだ悪党だ。

 

 

「だから、頼んだ」

「………」

 

 積み上げてきた信頼を失ってもいい。

 そのくらいの覚悟はしないと、このわがままは通せない。

 

「黒木様……」

「細川さんも、頼む。あのお嬢様は日ノ本の、いや、真面目に人類の未来のために必須な人だ」

 

 頭を下げて、真摯に乞い願う。

 

 

「……わかりました。お嬢様は私たちで、必ず」

「ありがとう」

 

 強い返事をもらって、少しだけホッとした。

 

「礼なんか言うな。これは、人類の未来のために必要なこと、なんだろう?」

「……ああ」

 

 続く佐々君の不機嫌そうな言葉には、少しだけ胸が痛んだ。

 

 

「ボクは……いや、用件は理解した。だから、一人にさせてくれ」

 

 そう言って去っていく佐々君の背中を、俺はただ見送る。

 今の彼に掛ける言葉を、俺は持ち合わせていなかった。

 

「黒木様」

「なんだ?」

「……私は、あなたがずっと怖かった。怖かったんです」

「………」

 

 続く細川さんの言葉にも、俺は何も言い返せないで。

 

 

「それでは、私も失礼いたします」

「ああ……」

 

 ただ、二人が去るのを見送ったあと。

 

「……思ったより、キツいな」

 

 自分勝手に傷ついた自分を、前よりも少し嫌いになった。

 

 

      ※      ※      ※

 

 

 それから俺は。

 何かに急き立てられるかのように足早に、天2のみんなを順繰りに、それぞれ頼みごとをして回った。

 

 返ってきた反応は、いろいろだった。

 

「うい、OKOK。終夜ちゃんがそうしろってんなら、そうするよん」

「いいよ。むしろその指示自体は歓迎だし? カケルちゃんも死ぬわけにはいかないからねぇ」

「No problem! 負けないための作戦。理解できるから、了解だねっ」

 

 軽く受け止めて流してくれる人もいれば。

 

「……いいけど、変なこと考えてないよね? 翼ちゃんその辺ちょーっと気になっちゃうかなー?」

「別にいいぞ。俺だって好んで巻き込まれてるわけじゃないからな。いや、マジでな? フリじゃねぇぞ!? 俺みたいな凡人を表舞台に出すんじゃねぇ!」

「黒木がその手の策を弄するときは大概ロクなことをしないからな。いざとなったらちゃんと、己の筋肉に相談するんだぞ!」

 

 ちょっと疑ったり、探りを入れたりしてくる奴もいる。

 それでも概ね受け入れてもらえて、改めて天2メンバーの懐の深さを実感した。

 

 俺は彼らのこういう部分に助けられて、利用してきたんだと自覚する。

 

 そして。

 

 

「……ふぅーん。なるほど」

「ふむふむ」

 

 食堂兼調理場で。

 ある意味最難関の二人……パイセンと清白さんと向き合う。

 

「万が一って時を考えたら、どのタイミングで撤退するかのライン引きって大事だからな」

「そうね」

「そうだね」

「特にパイセンには、基地の非戦闘員の人たちを誘導してもらいたいしな。いざって時には清白さんにそれのサポートをしてもらうってのがいいと思うんだ。なずなさんのこともあるしな」

「うんうん……なんでお母さんは名前呼びなのに私は名字呼びなの?」

 

 清白さんには近接主体ではなく、撤退しやすい遠距離主体で戦ってもらいたいと伝える。

 直接戦場にはこないパイセンには、その隠し能力も含めて基地の守りと避難誘導を改めて頼んでおく。

 

 

(この二人、俺と同じで個人プレーが得意な分、いざ動くって時に予想できない動きをしがちだからな)

 

 今回は事前に打ち合わせして撤退ラインを引くことで、少しでも動きを制御したい。

 白の鳥籠のトップエースとその母親、そして神格と契約した現人神は、間違いなくこの先の未来においても大きな力になるだろうから。

 

 せっかく手に入れた自由を、見守ると決めた未来を、こんなところで失わせるわけにはいかない。

 

「殿は俺がしっかり務めるから、その時が来たらさっさと撤退してくれると、俺もやりやすくなるぜ」

「「………」」

 

 ジッ、と。

 二人の視線が不意に俺を射抜くように向けられる。

 

 何かを確かめようとするその視線に対し。

 

「……ん?」

 

 隠密技能+話術技能を使ったポーカーフェイスで、俺は努めて真面目な顔を取り繕いながら、首を傾げてみせた。

 

 

(嘘はついてない。すべて本心を前提に話した。だから、パイセンの超常能力には引っかからない)

 

 ステ上げして同調技能もMAX3まで上げてるパイセンの、超常能力対策もバッチリだ。

 隠し事をしていること自体はバレても、その中身までは覗かせない。

 

 

「……そう。わかったわ」

 

 頷いて、パイセンが清白さんの方を見る。

 

「帆乃花」

「うん、わかった」

「?」

 

 何やら通じ合った様子の二人は、さっさと座っていた椅子から立ち上がり。

 

「話は終わったわよね? それじゃ、私たちにもすることがあるからこれで」

「またね、黒木くん!」

 

 そう言うや否やすたこらさっさと外へと出て行ってしまった。

 

 

「お、おう」

 

 もう少しゴネられるかと思っていたから、この結果はちょいとばかし拍子抜けだった。

 

(いや、難関があっさり終わったことを今は喜ぼう)

 

 二人を見送り、俺はいそいそとネットリンカーを起動する。

 

 もう一件。

 俺には絶対に外せない、意地でも俺の意思を通さねばならない相手がいるから。

 

 

 ヴンッ。

 

「……あーあー、もしもし」

 

 俺はその人物に、個人通信を飛ばす。

 

「はい」

 

 繋がって、返ってきたのは彼女らしい短い返事。

 

「姫様。今から会って話がしたいんだが、いいか?」

「問題ありません。贄の時間は貴方様のためにあります」

 

 今回の件で、天常さんと同じか、それ以上に重要な人物へのコンタクト。

 

 

「それじゃ、A組の教室で待ってるから来てくれ」

「はい。すぐに参ります」

 

 この世界におけるメインヒロイン――建岩命。

 ラスボスを倒すため、絶対に欠かすことのできない存在と、俺は再び向き合う。




傷つけて、傷ついて。

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