ハーベストハーベスター~踏み台型ラスボス少女と呼ばれた推しを、今世では幸せにしたい!~   作:夏目八尋

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感想・評価いただくたびに、やったぜと喜んでいます。
楽しんでもらえてるんだなと実感が沸きます。
誤字報告も助かっています。本当にありがとうございます。

主に暴れてます。


第83話 待っていたモノ

 

「司令! どうして今の黒木くんを行かせたんですかっ!!」

 

 バンッ!

 

 っと力強くテーブルを叩き、清白帆乃花が吠える。

 眼帯を付けた彼女の瞳は、あからさまにオドオドした……仕草の六牧百乃介に突き刺さる。

 

「いやぁ、そう言われてもねぇ……?」

「GOサイン出したのは司令だよね!?」

 

 バンッ!

 

「ひぇっ。ちょ、ちょっと落ち着こう? 清白君?」

「こんな状況で落ち着いてられるわけないじゃないですか!」

「いやいや落ち着いてー。今せっかく前線から交代して休憩してるんだからさぁ」

「あう……」

 

 自分でも荒れていたのに気づいて、帆乃花が息を整え始める。

 それをお手上げポーズで恐々と見つめながら、百乃介は言葉を続けた。

 

「黒木君の行動は本作戦を達成する上で非常に価値が高い動きだ。現に今、彼が敵陣深くに切り込んでそこここでマーキングを破壊してくれているおかげで、僕たちの担当する前線での敵の勢いは削減されている。それに実際問題として、亜神級の干渉があるようならば作戦は大きく変更を余儀なくされる。その存在の有無は早くにわかることに越したこたぁないでしょう?」

「そんなの、ただの理屈です……!」

 

 抗議する帆乃花の目には、明らかな不満の色が宿っている。

 そんな彼女の意思を助ける、今この瞬間も彼女にこちらのバイタル情報を送っているであろうオーバーテクノロジーな眼帯に、百乃介はやりにくさを感じてため息をこぼした。

 

 

「……彼が出来ると言ったんだ。なら、出来るんだろうし勝算もあるんだろう。実際、彼が僕にくれた作戦詳細、そこに使う技能、行動中の危険予測は十分に安全性を保障するものだった。敵陣ど真ん中を突っ切る作戦なのに安全性が保障されてるってのも化け物すぎだけどさ」

 

 天久佐の壁崩壊以後。

 黒木終夜の様子がおかしいことは、天2における周知の事実だった。

 

 天常輝等羅が懸念し、佐々千代麿が心配し、九條巡がケアに回って、清白帆乃花が、建岩命がどうにかその心の内を暴こうとしたが、果たせなかった。

 あくまで彼は変わらず彼であろうとしていたし、戦いでも後れを取るようなことはなかった。

 

 表向き、彼はいつも通りに人類の希望だった。

 

 

(だからこそ、建岩命は彼の指示に従い大阿蘇神社へ、建岩家へと帰ったんだ)

 

 天久佐の壁の敗戦を経てもなお、人類の希望は健在である。

 黒木終夜の今に、どんな葛藤や考えがあったかなんて、推し量ることはできない。

 ハーベストハーベスターの称号を通過点だなんて言い切る生粋の怪物の言動を、どう理解すればいいのかなんて誰にもわかるはずはないと、百乃介は結論付けていた。

 

「そんなの、そんなのだってただの理屈です!!」

 

 だが、少なくとも目の前の恋する乙女(すずしろほのか)は。

 そのことが気に入らないらしい。

 

 

「黒木くんを行かせるべきじゃなかった! 今の黒木くんは、きっと、無茶しちゃうから」

「無茶、ねぇ。彼からしてみたらお散歩みたいなものでしょう? たとえ豪風じゃない旧式の精霊殻だろうと、パパパッと亜神級の有無をチェックして、報告してくれるよ」

 

 いないだろう、を。

 いませんでした、にするだけの任務だ。

 

 彼にしかできない任務だが、彼ならば必ずやれる任務だ。

 そこに心配など――。

 

 

「――いたらどうするんですか?」

「………」

「あの時戦った“海渡るオオカミ”が、まだそこにいたとしたら。黒木くんはどうすると思いますか?」

「………」

 

 百乃介は迷わず沈黙を選んだ。

 務めて冷静に、冷酷に、無感動を装って、己を律した。

 

「……やっぱり、司令もわかってるじゃない」

「……なんのことかな?」

「黒木くんなら、本当にそれを見つけたら……そのままにしておかないって」

「………」

「豪風じゃなきゃ太刀打ちできないあの化け物を、私が乗ってるのと同じ精霊殻で、それでも何とかしようとするって! わかってるのに行かせたんだ!」

 

 沈黙を選んでも。

 彼女の目をごまかすことはできなかった。

 

 最悪の想定が、実現に至る。

 

 

「……私」

「ダメだよ」

「!?」

「その選択は、したらダメだ。彼はそれを望んでない」

 

 帆乃花が何かを言う前に、百乃介は言葉を封じ込めにかかる。

 悪い大人の、あくどさを出してでも。

 

「キミは……彼の言葉を信じないのかい? キミの大好きな彼が出来ると言った、その言葉を」

「!? それは……!」

「キミは、彼を裏切ってまで自分のしたいことをするのかい?」

「っ! そんな言い方!!」

「だ・か・ら! 今は、信じて待ってあげようじゃないか。黒木君がちゃーんと生きて帰ってくることを、ね?」

「ぅ……」

「はい、議論終わり。ちゃんと仮眠とって、次の当番で120%頑張ってねぇ~」

 

 言い返せず、黙り込んだ帆乃花にしっしっと手を振って、指揮車から追い払う。

 そこで黙ってくれるだけ彼女は他より素晴らしいと、百乃介は帆乃花に対する評価を上げた。

 

「私が、弱い……から……」

 

 だから最後のつぶやきは、聞こえなかったことにした。

 

 

「さて、さて。ご苦労様。後は任せて」

「ハッ!」

 

 役割を預けていた他小隊の参謀から引き継いで、定位置へ。

 戦局を映すスクリーンに目をやりつつ、“天久佐撤退戦総司令”六牧百乃介は、絶えず送られてくる情報の雨にも意識を向ける。

 

 せめて己の役割をまっとうしなければ、あの怪物に対して文句を言う資格すら失ってしまうと、彼は知っている。

 

「ん? ……はいはい、緊急入電ねぇ」

 

 そして。

 本日何度目かの赤ランプ警告のメッセージを展開しながら、彼もまた、彼の戦場へと舞い戻った。

 

 

      ※      ※      ※

 

 

 天久佐市本戸(ほんど)町。

 上島と本島を渡すという意味で、かつて“本渡”と呼ばれていた場所。

 

 天久佐本島の玄関口であり、多くの都市機能を有する天久佐最大の都市区画。

 そこは、天久佐の壁防衛戦における天久佐市民の一時避難先だった場所であり、壁の崩壊後には幾度も戦場となり激戦を重ね、遂にはハーベストの領地とされてしまった場所だった。

 幸か不幸か、それでも未だ街の面影を色濃く残している市街には、今は多数のハーベストたちが蠢いていた。

 

 そんな中。

 日ノ本軍の拠点として使われていた、天久佐工業高等学校の校庭に。

 

「いた、な?」

『居マス、ネ……』

 

 そいつは我が物顔で陣取っていた。

 

「……“海渡るオオカミ”」

 

 青と白、二種の毛並みの氷の毛皮。

 ハイライトオフの真紅の瞳は血の色よりも濃く。

 

 予定外に現れて。

 天久佐の壁をぶっ壊してくれやがった。

 

 憎いあん畜生が、そこにいた。

 

「……っすぅー」

 

 見つけてしまった。

 

  ・

 

  ・

 

  ・

 

 建物の陰に隠れて、こそこそと観察する。

 

「野郎……ドヤ顔で待機してやがる」

 

 人類様が使ってた元学校の前線基地に、我が物顔で居座る“海渡るオオカミ”こと、フェンリル。

 改めて見てもただそこに佇んでいるだけで、他者を圧倒するような存在感が……。

 

「?」

『終夜? ドウカシマシタカ?』

 

 ん?

 あれ?

 

「なにか違和感が……」

 

 脳裏をよぎる思考に気を向けようとした……瞬間。

 

 

『警告! 対象に本機を感知されました。終夜!』

「……っと! さすがにバレるか!」

 

 やはりというかなんというか。

 悠長に考え事をさせてもらえたりはしないらしい。

 

「アオォォーーーーーーーーーーーーーーーーーーーンッッッッ!!」

 

 響く咆哮。

 呼応するようにそこかしこから聞こえてくる、ハーベストたちの声。

 

『終夜!』

「わかってる! 予定通りに!」

 

 既に入力は完了済み!

 つまりは、タイミングもばっちり!

 

「せーのっ!」

 

 事前に精霊殻の手に持たせていたそれを、俺は放り投げる。

 

 ブシュッ!

 

 直後、宙を舞うそれから大量の煙が噴き出すと、辺りを一気に包み込んだ。




海渡るオオカミ「待ってたよ☆」

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