ハーベストハーベスター~踏み台型ラスボス少女と呼ばれた推しを、今世では幸せにしたい!~   作:夏目八尋

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感想・評価いただくたびに、やったぜと喜んでいます。
楽しんでもらえてるんだなと実感が沸きます。
誤字報告も助かっています。本当にありがとうございます。

そいつは、ただの代替品では決してない。


第90話 青の氷狼

 

 イケると、思った。

 

『FOS、準備完了しています!』

「せーのっ!」

 

 迫り来る4体の幻体を相手に大立ち回り。

 1体でギリギリだったはずの敵に対して、仲間の支援がこうも刺さるとは思わなかった。

 

「障壁!」

「精霊拳!!」

 

 ドゴォッ!

 

「ギャゥワァンッッ!!」

 

 精霊拳を打ち込んだ幻体が、魔法少女パイセンの張った障壁とサンドイッチされて、こぶしのダメージを受け流せずに苦悶の声を上げる。

 魔法少女歴数ヶ月とは思えないえっぐい能力の使い方が、実にパイセンらしいなぁ!

 

「グルゥァゥッ!!」

 

 追撃を決める暇はさすがにないが、俺の大技の隙を狙える敵も、居て1体程度。

 

 その理由は。

 

 

「ほらほらこっちこっち!」

『超過駆動、脚部。補正シマス』

 

 新たに殻操特化の精霊と契約した清白さんの、そりゃもう見事な敵のかく乱があったからだ。

 

「こっちに行ったら、こっち!」

 

 まだ契約精霊であるサザンカとの連携が完璧じゃないらしく、ところどころぎこちない動きがあるけれど。

 そこはほら、彼女にはアレがある。

 

 

「おわわっとと、ラッキー!」

 

 幸運4。

 あらゆる判定が推定3割増しで成功するなんていう、超常のチート技能が絶賛大活躍中だ。

 

「ギャウンッ!」

「ギャワンッ!」

 

 今も偶然足を滑らせインシデントで発生した清白さんのしゃがみ込みに対応できず、2体の幻体が衝突事故を起こしているし。

 

「そ、こぉぉー!!」

「グァゥンッ!!」

 

 そんなところにタイミングよくパイセンからのバフを受け取って、精霊拳を起動!

 隙だらけの横っ腹に、綺麗な一撃を叩き込んでいた。

 

 幸運、幸運、幸運の連続だ。

 

 案外と、運命ってのはあれくらいサクッと操作したり味方にできるのかもしれない。

 

 ……マジで欲しいな幸運技能。

 

「あ、いいとこ入った!」

 

 マジで欲しいな幸運技能!

 

 

 ……ともあれ。

 こんな感じでなんだかんだと敵の連携を乱して捌いてやり返し。

 

「な、なんか思ったより……対応できてる?」

「まだ油断はできないわよ。でも……!」

「そろそろぶっ倒れる幻体が出てくるころだ。イケるぞ!」

 

 確実に勝ち筋を辿り、勝利の糸を手繰り寄せている。

 こちらの何を値踏みしているのか知らないが、様子見を続ける本体への注意も忘れない。

 

(最初から自分ごと攻めてこなかったその下策! しっかり食い破らせてもらうぞ!)

 

 位置取り調整!

 すでに2発のクリティカルを叩き込んだ幻体に、おそらくとどめの一撃を放つ!

 

「パイセンのバフも積まれてるんだ! ぶっ飛べぇーーーー!!」

 

 まずは一つ!

 

 正確に狙いを定めたこぶしを、幻体の横っ腹に叩き込み――。

 

 

「――え?」

 

 

 まったくの同時。

 パイセンの真横に突如として現れた“青の氷狼”、()()()()が。

 

「グルァァァァァッ!!!」

 

 ガヂィッッ!!

 

 パイセンの華奢な体に飛びかかるまま容赦なく……食らいついた。

 

 

      ※      ※      ※

 

 

 パイセンが噛みつかれた。

 

「……嘘だろ!?」

 

 俺は即座に青の氷狼の位置を確かめる。

 レーダーにも確かに表示されているし、目視でもそこに確かに奴はいた。

 

 だがそれは……。

 

「……氷像!?」

 

 いったいいつ仕込んだっていうのか。

 精巧に作られた氷像へと入れ替わっていた。

 

 

「な、ん……!」

「巡ちゃん! 逃げてぇー!!」

 

 驚く間もなく、現れた本物の青の氷狼が歯を立て、咥え込んだパイセンを噛み砕こうとして。

 

「こ、のぉ……!!」

 

 バチィッ!!

 

 ガードフォームにチェンジしたパイセンが障壁を張り、寸でのところで抜け出す。

 だが直後。

 

「グルァーーーゥッ!!!」

「あ、ガッ!?!?」

 

 首を振った青の氷狼の頭突きを食らってコンクリートの地面へと叩きつけられ、そのまま何度か跳ねて、転がり、倒れ伏す。

 

 それが始まりだった。

 

 

「巡ちゃん! 大丈夫!?」

「ドッグ1! 目の前の敵に集中しろ!!」

「!? あっ!」

 

 ほんのわずかな、隙。

 コマンド入力が遅れてできた、清白さんの精霊殻の一時停止。

 

「グゥァゥッ!」

「ガァァァゥッ!!」

 

 左腕、そして右脚。

 

「いけないっ、超過駆動、全身! ダメージフィードバックを私に70!!」

『了解』

 

 幻体たちの牙が立ち、しかしすぐさまそれは振り払われこそしたが。

 

 ビシッ!

 

 清白さんの精霊殻から、装甲のひび割れる音がした。

 

「ぅぁあああああ!!!」

 

 通信越しに聞こえる清白さんの叫び。

 響く苦痛の声からは、払った代償が決して少なくないことを理解させられる。

 

「チッ!」

 

 だがしかし。

 その叫びを聞くころにはもう、俺は次の決断を迫られていて。

 

「パイセン!!」

 

 そして迷わずコマンド入力を終えていた。

 

 

      ※      ※      ※

 

 

 倒れ伏すパイセンに向かって、本体がとどめを刺すべく腕を振り上げていた。

 

「グルァァァ……」

「やらせるか!」

 

 今にも振り下ろされようとしてたその腕を、大太刀で切り払おうと距離を詰め。

 

「……グルルッ」

「! しま……!」

 

 3歩。

 踏み込みすぎたところでようやっと。

 

 ()()()()()()ことに気がついた。

 

 

「ヨシノ! 姿勢制御!」

『合わせます!』

 

 無理な動きは承知の上で、無理矢理に体をひねって振るいかけの太刀を引く。

 

「グルァァァッ!!」

「んぎっ!?」

 

 その直後。

 初めからこちら狙いでフルスイングされた青の氷狼の爪撃が太刀を穿ち、刃の真ん中からボッキリ二つに叩き割る。

 

 ドッ!! ヂリリリッ!!

 

 それでも殺しきれなかった勢いで爪がコックピット前の胸部装甲に届けば、不快な擦過音とともに振り抜かれ、その威力だけで不安定な姿勢だった精霊殻が跳ね上げられた。

 

『終夜!』

「やらいでかぁ!!」

 

 地に足がついていない状態で、機体の関節からギシギシと異音をさせてでも、全力全速で体の向きを青の氷狼に合わせる!

 超過駆動の緑の燐光を全開に噴き出させ正面に奴を捉えたそのときには……だぁぁ!!!

 

「グァッ!」

「や、ばっ!」

 

 大口を開けた青の氷狼から、凍結のブレスが吐き出され、俺たちの機体を呑み込んだ。

 

「うおおおおおおおお!!」

 

 突風のような勢いに吹き飛ばされ、パキパキと装甲表面が凍る音を聞きながら、俺たちの精霊殻もあえなくコンクリートを転がされてしまう。

 

 

 ビー! ビー!

 

『警告。機体損傷、ダメージ分類小破。凍結防御成功、運動性が大きく低下しています』

「ぐ、ぁっ」

 

 ダメージのいくらかをフィードバックで請け負って、その上でなおこの機体損傷かよ。

 まだ腕や足がもげてないだけマシって思わないとダメな奴だなこれは……!

 

「…………グルル」

 

 そして。

 このタイミングで距離を取って、警戒……な。

 

 入力済みの精霊拳、無駄発動させる前にキャンセルしておく。

 

 

「っぱ、アレは別個体だな」

 

 俺の知ってる、そして戦った“海渡るオオカミ”なら、ここは攻めてくる場面だ。

 たとえ罠でも粉砕するくらいの気概があいつにはあった。

 

(対してこっちは徹頭徹尾、勝つための狩りをしてる印象だ)

 

 冷静に、冷徹に。

 狩ると決めた存在を、静かに、けれど確実に仕留めるために詰めてくる。

 ただその中に、わざわざ氷像を作ってこっちを欺くだとか、テクニカルな手を使って罠にはめるような悪辣さは、こいつ個人の気質だろうか。

 

「自分の手足のように指示でき、かつ個体としてもドラゴン以上の強さを持った幻体を、本当に群れのように伴ってるんだな……」

 

 設定資料集でその生態がほんの少し語られるだけだった青の氷狼。

 その現実的な恐ろしさを目の当たりにして、俺の馴染み深い相手だった亜神級の彼が、やっぱり特別な個体だったんだなってのを実感する。

 

 

「……アオォォーーーーン!」

「アオォォーーーーン!」

「アオォォーーーーン!」

 

 本体の遠吠えに応えて、幻体たちが鳴きながら奴の周囲にずらりと隊列を作る。

 

 その数、本体1に対して幻体……5。

 

 俺がさっき倒した奴と、たぶん、天久佐本島で倒した奴。

 その不足分が補充されていた。

 

 

「く、ぅ……」

「パイセン! 気がついたか?」

「だいじょうぶ……まだ、やれるわ」

「わ、私も……だいじょうぶっ」

『本機体のダメージ分類小破。戦闘継続可能です』

 

 ふらふらのパイセンが、俺の精霊殻の肩にとまる。

 清白さんも、敵が引いたおかげでどうにか態勢を整え俺たちの近くへ戻ってきた。

 

(……こっちがゲームに登場してたら、まずあのゲームシステムじゃ勝てなかったな)

 

 倒しても復活する幻体。

 本体はどこまでも冷静なハンターとして、ハイスペックを余すことなく使って襲ってくる。

 

 疑いようのないクソボスっぷりだ。

 

「……勢いだけじゃ、やっぱりどうにもならないわね」

「でも、こんなところで諦めたりなんて、できないよ!」

「……そうだな。だが」

 

 白状しよう。

 

「……やべぇな、これ」

 

 絶体絶命だ。




味方も強けりゃ敵も強い。

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