ハーベストハーベスター~踏み台型ラスボス少女と呼ばれた推しを、今世では幸せにしたい!~   作:夏目八尋

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楽しんでもらえてるんだなと実感が沸きます。
誤字報告も助かっています。本当にありがとうございます。


第92話 久遠の闇と朝を呼ぶ声

 

 夢を見ている。

 俺は一人、真っ暗な闇の中を漂っている。

 

 その闇はただの闇じゃない。

 この身のすべてを優しく包み込み、そっと抱き支えてくれる。

 ゆるやかに眠りへと誘う、いつまでも浸っていたくなるような闇だ。

 

 このままただ、意識を手放せば。

 俺はきっと、幸福な終わりを迎えられる。

 

 そう感じさせる、優しい優しい夢――。

 

 

 

「――って、これ絶対寝ちゃダメなやーーーーっつ!!!」

 

 

 眠気は吹っ飛び。

 俺は叫んだ。

 

 夢じゃないかもしれない。

 

 

      ※      ※      ※

 

 

 マテ。

 待て待て待て。

 

 今これどういう状況だ?

 

 俺、確か青の氷狼と戦ってて。

 決死の攻撃で追い詰めようとしたところをフィジカルで押し返されて……。

 

「……そう、噛まれた。コックピットが」

 

 非適合機体でシステムオーバードを無理矢理インストールして使った反動で動けなくなったところを、ガブッとやられちまったんだったか。

 

 

「……ヤバいな」

 

 つまり、今の俺。

 メイビー臨死中、あるいは絶賛走馬灯を見ている状態。

 

 辺り一面真っ暗闇な走馬灯ってなんだよ感あるけど、たぶんそんな感じだ。

 

(現実の俺。今まさにモシャモシャ齧られてるかもしれないのか……)

 

 ちょっと想像したくない絵面だ。

 むしろこの真っ暗闇でよかったと判断しよう。

 

 

「っていうかこの暗闇、いつものとは違う感じか」

 

 俺が普段から夢で見ている久遠の闇イベントの、ゲロマズくさくさダークネスとは全然違う、優しくて温かな、それこそ心地よい夜の月明かりの下にいるかのような空間。

 気を抜いたらすぐにでも意識が解け消えて、ずーっと眠ってしまいたくなるような、優しさをひしひしと感じ取れるような場所。

 

(案外もう現実の俺は死んでて、その魂がここにいるだけなのかもしれない)

 

 なんだっけ?

 どっかの伝承で語られる冥界が、こんな感じで安らかな闇の檻に囲われる感じだったか。

 

 永久の安らぎを与えてくれる、冥界の女主人が作る死後の世界。

 女主人の見た目はもちろん、絶対的な俺の推し、黒川めばえちゃんをベースにした感じでお願いしたい。

 煌びやかな服で、なんかこうちょっとセクシーなレオタードみたいなソシャゲでよくある感じの……むにゃむにゃ……。

 

 

「……んが! そうだよ! めばえちゃん!!!」

 

 っぶねぇー! オチかけてた!!

 

 おいおい、しっかりしろ黒木終夜!

 お前が戦ってきた理由を思い出せ! 生きあがいている理由を思い出せ!

 

(俺は、神推し激推し最推しのめばえちゃんを踏み台にさせないために戦ってんだろ!?)

 

 何こんなところであっさり死んでんだ?!

 運命だとか関係ないってわかったばっかりだろうがよ!!

 

 今この瞬間にも蘇って青の氷狼ぶっちめて、天久佐撤退戦をやりきらなきゃダメだろ!

 

 うおおおお!!

 燃え上がれ魂! 吹き荒べ我が心!! 駆け抜けろ推し活ライフ!!!

 

 

「くっ、じれってーな! 俺ちょっと気合い入れてブッ生き返ります!」

 

 ふんっ!

 ふんぬっ!!

 

 気合い入れたら何とかならねぇかな!?

 

 こう、ヨシノを精霊纏いで身にまとったみたいな感じですごいパワー出して……!

 

「ふんっ! ふんっ! ふんっ!」

「………」

 

 くっ! 難しい!

 もともと難しい技だってのに、お風呂みたいに気持ちいいこの空間で気合入れるのめっちゃ難しい!

 

「ふんぬぅー! ふんぬぅーーーーー!!」

「………」

「んぬぐぅーーーーー!! んぬっぶらぁぁぁぁーーーーーーー!!」

 

 体の内側に熱を感じる。

 まだやれる。まだ舞える!

 

 俺は死んだかもしれないが死んでない!

 生きてる! 生きようとしている!

 

 だからまだ死んでない!

 やるぞ! やらねばならぬ! やるしかない! やるんだ!!

 

 

「ぐぬぉぉぉーーーーーーーーーーーーーーー!!!!」

「!?」

 

 バキッ、バキッ!!

 

「あ」

 

 来た来たキタキターーーーーーーーーーー!!

 いつもの奴だ!

 

 バキッ、バキキッ!!!

 

「ぐぬぅぉ! うおおおおーーーーーーーーーー!!!」

 

 ポキンッ。

 

 かってぇ?!

 くっそ硬い!!

 

 ブチ破れねぇ!!!

 

 いつもみたいにバリンッてならねぇ!!

 しかもこのヒビ、ボサッとしてると修繕されていきやがる!

 

「うおおおおおお!!」

 

 バキバキッバキバキッ!!

 シュウゥゥ……。

 

 ぐあああああ!! 砕いても砕いても修繕されちまう!!

 

(なんだ、何かが足りない!?)

 

 今の俺に欠けているものが、ある?

 今の俺に足りないものが、ある?

 

「クッ。あと少し、あと少しなんだ……! あと少しで俺はこの壁をぶち壊して……!」

「………」

 

 ここまで来たんだ!

 ここまでようやく辿り着いたんだ!

 

 この先に進んでいいって、進めるってわかったんだ!!

 

 こんなところで終われるかよ!!

 

 

「推しの生きてる姿も見ないまま! 終われるかって言ってんだよぉぉーーーー!!!」

「………」

「そしてさっきから近くにいるお前は誰なんだよぉぉぉーーーーーーーーー!?!?!?!?」

「!?!?!?」

 

 

 誰ぇ!?

 なんか知らんのがいる!

 

 姿かたちは見えないが、なんかいるってのだけわかる!

 

「なんだよさっきから、俺の服の裾クイクイクイクイ引っ張りやがってぇぇ!」

「………」

「俺は今それどころじゃないの! この世界をぶち壊して元の世界に帰らなきゃいけないの!」

「………」

「うおおおおおお!! めぇばぁえぇーーーーー!!」

 

 バキバキバキッ!

 

 ヨッシャアッ! また割れて来たぞ!!

 この調子でぶっ壊す!

 

「………」

「だーかーら! 裾クイクイされてもわからねぇしそれどころじゃないって言ってるだろ!?」

「……っ」

 

 むぎゅっ。

 

 ぐおおおおお!!

 なんか知らんがめっちゃギュってしてきた!?

 

 マジでなんなんだぁこいつは!?

 

 

「お前まさか、俺を邪魔しようってんじゃないだろうな?」

「………」

「む」

 

 スッ、と抱きしめる力が抜ける。

 多分、否定。

 

「あ、もしかして付いてきたいとかそういうのか?」

「………」

 

 ギュッ。

 

「む」

 

 多分、肯定。

 

 

(なんかわからん。なんもわからん。だが、こいつに構ってるとこの世界から脱出できねぇ!)

 

 今この瞬間にもなんか魂が削られている気がする。

 

 迷っている暇はねぇ!

 

 だったら!

 

 

「おい、お前」

「………」

「くっついてたいならそのままくっついてろ。ギューッとして、そのまま動くな」

「!」

「出たいんだろ? 連れてってやる。だから、もし力が何かあるなら俺に貸してくれ」

「………」

「一緒にここから飛び出して! やりたいことやりに行こうぜ!」

 

 なんでもいい。

 この世界をぶっ飛ばし、あの場所へ還れるなら。

 最愛の推しのいる未来へ、また行けるなら!

 

 

「………」

 

 ギュッ。

 返ってきたのは、肯定。

 

「んじゃ行くぞ!」

「!」

「せーのっ!」

 

 俺は自分からこのよくわからない何かを抱きしめて、もう一方のこぶしを突き上げる。

 

 

「あの子の絶望の夜を払い、穏やかな朝を取り戻すその日まで! 俺はまだ、終われねぇんだよぉぉーーーーーーーーーーーー!!!」

 

 

 バキッ、バキッ!!

 バリンッ!!

 

 

 喉が千切れそうなくらいに張り上げた声と想い。

 それが優しく圧し掛かってきていた重い何かを弾き返して。

 

「うおおおーーーーーーーー!!」

 

 闇を払い、真っ白い光を呼び込んで。

 

 俺たちはこの暗く暖かな世界から脱出した。

 

 

      ※      ※      ※

 

 

「終夜!」

「黒木くん!!」

終夜(コントラクター)! 脱出を……!』

 

 声が重なる。

 だがそれと同時に。

 

「ガァウッ!!」

 

 青の氷狼の牙が、精霊殻の胸部装甲へと突き立てられる音を聞いた――。

 

 ――から。

 

 

 ()()()()()()()()()

 

 

「ガッ!?」

「ぶっ飛べ、氷狼」

 

 ドゥッ!!

 

 コックピットを噛み破った牙が、俺の体を捉える前に。

 

「ギャワォンッ!?!?!?」

 

 その無防備な口の中へと。

 生身で放った“精霊空拳”の気弾が、真っ直ぐ真っ直ぐドストレートに吸い込まれ、爆ぜた。

 

 

「えっ!?」

「な、何が起こったの?!」

『終夜。その光は……?』

「え? 光?」

 

 言われて自分の体を確かめたが、別に何も光ったりはしていない。

 

「?」

『いえ、なんでもありません』

「???」

 

 よくわからないが、今はそれどころじゃないから置いておく。

 

 

「さて……と、よっ!」

 

 壊され剥がれた胸部装甲の向こう。冬の落ち始めの太陽が、茜に染めた空が見える。

 コックピットからゆっくりと立ち上がり、開けっ放しになったハッチに片足立てて外へ出る。

 

「ガルルルゥゥゥッ!!」

 

 予想外に本体が吹き飛ばされたのもあって、幻体ともども一斉に俺を警戒しているらしい。

 獣たちの注目を一身に浴びながら、俺は――。

 

 

「――まだだ、まだ勝負はついてねぇぞ。俺は……ここだ!」

 

 

 生きてる実感を噛み締めながら、心臓を叩いて啖呵を切った。

 

 その次の瞬間。

 

 

「おーーーーーーーーっほっほっほっほ!!!!」

 

 

 とんでもない大音量の。

 なんかめっちゃ聞き覚えのあるお嬢様的高笑いが、戦場に響き渡る。

 

 と、同時に。

 

 

 バルバルバルバルバル……!!

 

 

 けたたましいプロペラ音がして。

 

「おーう! 英雄様よぅ!」

「終夜様。貴方に力を、お届けに上がりました……!」

 

 マイク越しの音声で、これまた聞き覚えのあるおやっさん的ボイスと姫様的ボイスが轟けば。

 

「どうか、勝利をお納めください!」

 

 続く言葉と、突如として低空で飛んできた輸送機から。

 

 

「貴方のための、機体です!」

 

 

 巨大な影……真新しい精霊殻が、投下された。




新機体「コンニチハ!」

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