この"沢山の歌声"で、"曲"で、ヒーローを目指します 作:伽華 竜魅
ちびたXtreme様、誤字報告ありがとうございます!
「返せッ!!!」
緑谷は怒り混じりにそう叫ぶ。
それに対しMr.コンプレスは呆気らんとしていた。
「返せ? 妙な話だぜ。爆豪君も天堕ちゃんも誰のモノでもねえ、彼らは彼ら自身のモノだぞ! エゴイストめ!!」
「どけ!」
轟はすぐに前に出て氷結を出し捕らえようとするが、それに対しMr.コンプレスは軽々と身のこなしを見せながら氷結を回避した。
「それだけじゃないよと道を示したいだけだ。今の子らは価値観に道を選ばされている」
「ッ! 常闇もいないぞ!?」
「元々エンターテイナーでね、悪い癖さ。元々常闇君はもらう予定ではなかったけど、ターゲットを抱えてちゃあバレちまうから…ほい!」
Mr.コンプレスはビー玉を1つ、緑谷たちに投げ捨てて指を鳴らすと、そのビー玉から常闇が現れ、そのまま地面に落下した。
「うぅッ!」
「常闇ちゃん!」
「彼もいいと判断したが…あのムーンフィッシュ…『歯刃』の男な? アレでも死刑判決、控訴棄却されるような生粋の殺人鬼なんだがアイツを追い詰める天堕ちゃんのほうがインパクトが良かったから、アドリブなしで予定通りに貰ったよ」
「この野郎! 貰うなよ!!」
「緑谷、落ち着け!」
激昂する緑谷を障子が落ち着かせる中、轟は抱えていたB組生徒を麗日に託してより規模のデカい大氷壁を繰り出した。
この規模は避けられまいと思っていた轟は、口から冷気を吐き出すが、Mr.コンプレスの声が響き渡りすぐに声の方に視線を向けた。
「俺は逃げ足と欺くことだけが取り柄でよ! ヒーロー候補生なんかと戦ってたまるか……開闢行動隊! 目標回収達成だ! 短い間だったがこれにて幕引き!! 予定通り5分以内に『回収地点』へ向かえ!」
Mr.コンプレスは右ポケットにしまった後そのまま耳元に手を当て、事前に仕込んでいた通信機にて他連合メンバーに撤収指示を出した。
「幕引き…だと?」
「ダメだッ!!」
「絶対逃がすな!!」
木々を飛び越えて去って行くMr.コンプレスを見て、全員が後を追い始めた。
「畜生速え! あの仮面……!」
「飯田君がいれば……!」
緑谷達はMr.コンプレスを追いかけるも、「逃げ足と欺くことだけが取り柄」というだけのことはあり、緑谷達との距離は徐々に離されていく一方だった。
「クソ…!」
「諦めちゃ…ダメだ…!! 追いついて…取り返さなきゃ…!」
「しかし、このままでは離される一方だぞ」
障子に背負わされている緑谷は、両腕の痛みに耐えながらも言葉を紡ぐが、障子の言う通り不利な現状であることに変わりない。
だがそんな状況でも緑谷は既に状況を判断し打開策を見出し指示をした。
「麗日さん!! 僕らを浮かして!」
「え?」
「そして浮いた僕らを蛙吹さんの舌で思いっきり投げて! 障子君は腕で軌道を修正しつつ僕らをけん引して! 常闇君は『
「成程、人間弾か」
緑谷の打開策を理解した障子は一言で省略させる。
だがそこで麗日が「まだその怪我で動くの!?」と止めに入り、轟も緑谷の状態は酷すぎると理解していた。
「お前は残ってろ。痛みでそれどころじゃ——」
「——痛みなんか今は知らない…!!!」
轟は緑谷に残るよう言葉を掛けるも、緑谷は気迫のある表情と声を出すことでその場にいる全員が何も言えなくなった。
「動けるよ…だから早くッ!!」
「……デクくんせめてコレを!!」
麗日は足を止めると自身の上着をボタンなどを気にせず強く脱ぎ、そのまま二つにちぎり分ける。
そして近くにある木の枝と合わせて緑谷の腕に添え木として巻き付けさせた。
その間に常闇は
その後緑谷、轟、障子は横並びになり、蛙吹が自身の舌で3人を巻き付けて麗日が"個性"で無重力にした。
「
「今ナラ行ケルゼ!」
「蛙吹!」
「わかったわ。必ず2人を救けてね!」
常闇の合図で蛙吹は舌を大きく振りかざし、緑谷たち3人をMr.コンプレスの元へ投擲した。
「うぉぉぉおおおおお……!!!!」
「……——はぁ!?」
——◆——
回収地点。
「あれェ? まだこんだけですか?」
そこには既に連合の『荼毘』並びに『トゥワイス』がおり、そしてトガヒミコが合流した。
だが襲撃する前に合流した時と比べて、明らかにメンバーの数が少ないことに不思議がっていた。
「イカレ野郎、血は採れたのか? 何人分だ?」
「1人です」
荼毘はトガヒミコの疑問に答えることなく、逆に託された仕事をやり遂げたのか質問をし、トガヒミコは気にせず普通に答えた。
「1人ィ!? 最低3人はって言われてなかったか!?」
「仕方ないのです。殺されるかと思った」
「つーかよ、トガちゃんテンション高くねぇか!? 何か落ち込むことでもあったのか!?」
「お友達ができたのと、気になる男の子がいたのです!」
「それ俺!? ごめんムリ!! 俺も好きだよ!」
トゥワイスのおかしなテンションと質問の問いかけにもトガヒミコは律儀に答える。
そんな会話に荼毘はうんざりし黙るよう声をかけようとしたが、空から聞こえる何かしらの音に気づき、その音のする方向へ視線を見上げさせた。
「おぉぉおおおおぉっ!?」
そして夜空から4人1つの影が降り注ぎ、地面に勢いよく激突したことで衝撃音と土煙が発生した。
「かっちゃんと幻神を返せッ!!!」
土煙が晴れれば、そこにはMr.コンプレスを押さえつける緑谷、障子、轟の計4人がいた。
「知ってるぜこのガキ共!! 誰だ!?」
「Mr.、避けろ」
「
荼毘はすぐにMr.コンプレスを抑えているのがヒーロー候補生と把握し、蒼く燃え上がる蒼炎の"個性"を出し構えながらMr.コンプレスに指示をする。
それを聞いたMr.コンプレスはすぐに察し、己自身を"個性"でビー玉に変えた。
そして次の瞬間、荼毘は蒼炎を3人目掛けて放つ。
それに気づいた3人もすぐに回避するが緑谷は負傷した右腕を、障子は左腕を焼かれてしまい、回避できたのは轟だけだった。
「うあ”ぁ”っ!!!」
「ぐぅっ!?」
「緑谷! 障子!」
轟は2人の心配をするが、そんな轟へトゥワイスは距離を詰めていった。
「死柄木の殺せリストにあった顔だ! そこの地味ボロくんとお前! なかったけどな!」
腕に付けてある腕輪から定規を出し構える。
「くっ!!」
「熱っ!!」
対して轟は着地後すぐに氷結を繰り出し迎撃を始めた。そして緑谷にはトガヒミコが注射器を投擲しながら距離を詰めていく。
「トガです! 出久くん!!」
緑谷は注射器を避けるも、身体へのダメージもあるトガヒミコにあっけなく距離を詰められ抑えられてしまった。
「さっき思ったんですけど、もっと血が出てた方がカッコイイよ! 出久くん!」
トガヒミコはナイフ片手に緑谷へ突き刺そうと振り下ろすも、寸前で障子がトガヒミコを弾き飛ばし、防ぐことができた。
「緑谷、大丈夫か!?」
「うん…なんとか…!!」
障子が緑谷を心配する一方で、トガヒミコは飛ばされた体勢を直して地面に着地する。
だがさきほどまでの笑顔は消えて冷徹な表情で2人を見据えていた。
「そうですか。邪魔するんですか。あなた少しも好みじゃないけど……刺してあげます」
「くっ! イカれてるな!」
殺気を放つトガヒミコに出久と障子は警戒を強める。同時に轟とトゥワイスも対峙しており、混戦模様となっていた。
そしてMr.コンプレスはビー玉から元の身体へと戻り、荼毘の元へ移動した。
「いってて……飛んで追ってくるとは! 発想がとんでる!」
「爆豪と天堕は?」
「勿論……ん?」
Mr.コンプレスは右ポケットに手を入れ、爆豪と天堕、それぞれ確保してあるビー玉を探すも、それがないことに気づく。
それを見た障子は確信し緑谷たちに呼びかけた。
「緑谷、轟、逃げるぞ! 今の行為でハッキリした…! "個性"は分からんが、さっきお前が散々見せびらかしてくれた……右ポケットに入っていたコレが、爆豪、天堕だな? エンターテイナー!」
「障子君!」
「ホホウ! あの短時間でよく……さすが6本腕!! まさぐり上手め!」
障子が左手を掲げると、その手にはMr.コンプレスが持っていた2つのビー玉が握られていた。
それに対しMr.コンプレスは奪われたにも関わらず、障子の手際を純粋に褒め称えた。
「っし! でかした障子!」
緑谷と障子は背を向けて森へ走り出し、轟もまたトゥワイスに向かって大きめの氷結を出し2人に続いて走り逃げ始める。
それを止めようと荼毘は腕を構えるが、Mr.コンプレスはそれを止めた。
「!?」
「あいつは、脳無!?」
それは緑谷たちの進行方向に荼毘用に作られた脳無がいたからだ。
「こっちだ!」
3人はすぐに逃走先を変えるが、そんな3人の目の前に黒い霧が現れた。
「こいつは…!」
「USJにいた…!」
「ワープの…!」
USJ事件にて現れた、『ワープゲート』という希少な"個性"を持つ
「合図から5分経ちました。行きますよ、荼毘」
各連合メンバーの目の前にも、それぞれ黒霧のゲートが開かれており、トガヒミコとトゥワイスは一足先にゲートへ入って撤収した。
「まて、まだ目標が……」
「あぁ……アレはどうやら走り出す程嬉しかったみたいなんでプレゼントしよう」
荼毘は目標が取り返されたことで達成できていない。だからまだと言うがMr.コンプレスは気にもせず、むしろ余裕を見せている。
そしてその余裕の理由を明かした。
「癖だよ。マジックの基本でね、モノを見せびらかす時ってのは……見せたくないモノがある時だぜ?」
そう言いながら仮面をはずし、口に隠していたビー玉を2つ見せびらかせた。
そのビー玉には、障子が取り返したはずの爆豪と天堕がそれぞれ捕らわれていた。
同時に指を鳴らせば障子の手にあったビー玉が解除され、そこから氷結が飛び出した。
「——俺の氷を!?」
「そう、氷結攻撃の際にダミーを用意し、右ポケットに入れておいた」
「クソッ!! (圧縮して閉じ込める的な"個性"か!!)」
緑谷たちはすぐに向きを変え、再び荼毘とMr.コンプレスの元へ駆け出す。
「右手に持ってたモンが右ポケットに入ってんの発見したら、そりゃぁ嬉しくて走り出すさ」
だが荼毘とMr.コンプレスは黒霧のゲートへ徐々に入っていき、逃走を始める。
「そんじゃ、お後がよろしいよう——」
Mr.コンプレスはお礼をするかのようにお辞儀したがその瞬間、もMr.コンプレスの顔に青白く輝く光線が伸びていき、命中したことで仮面を破壊した。
緑谷は咄嗟にその伸びて来た先を見れば、そこには青山がいた。
「青山君…!!」
「ぐは…!」
そしてMr.コンプレスは不意を突かれたことで、口に含んでいた2つのビー玉を両方とも外に出してしまい、ビー玉は宙へと飛んだ。
それを見逃さなかった障子と轟はそれぞれ手を伸ばすも、緑谷だけは折れている腕への痛みが急激に伝わり、バランスを崩し倒れてしまう。
そして2人の手はそれぞれビー玉へ届きそうになり、あと少し掴める瞬間——
「ッ!」
轟のほうは荼毘が先に掴んだ。
「哀しいなあ、轟…焦凍…」
その手が届かなかったことに対してか、荼毘は轟を嘲笑っていた。
「ッ!」
そして障子の方はなぜか稲妻が横切り、同時にビー玉も消えた。
「……どうやら、
黒霧はボソッと呟く。
咄嗟に障子は横を見ればそこには、赤一色の髪に左側でまとめて、髪は肩より下あたりまで伸びたサイドテールをしている、緑谷あたりと同じ身長の少女がいた。
「——こいつが歌姫であってるかい?」
振り返り、ギザ歯が見える口で喋りながらビー玉を見せるマグニールがいた。
「職場体験の…!?」
「……Mr.、念のため確認だ」
「っだよ今のレーザー……俺のショウが台無しだ!」
荼毘の指示に従いMr.コンプレスは"個性"を解除する。その際先の青山の『ネビルレーザー』に対し文句を言っていた。
そして"個性"が解除されると荼毘の掴んでいたビー玉には爆豪、マグニールの方からはボロボロの重傷で気絶している幻神が現れた。
「問題、なし」
「もう行きますよ、あなたも早く入ってくださいマグニール」
「へいへい」
黒霧がそう言えば、マグニールは横抱きしている幻神を連れて、荼毘たちが入ろうとしているゲートの傍へと移動し、同じように入ろうとした。
「そっちも問題なし、だな」
それを見た荼毘は笑みを浮かべながら爆豪の首を掴み、そのままゲートへ入っていく。
「かっちゃん!! 幻神ァ!!!」
そんな中、立ち上がった緑谷は2人を救け出そうと、2人の名を叫びながら駆け出していた。
「来んな…デク……!」
爆豪の言い放ったその言葉を最後に、『ワープゲート』は閉じられ、飛び出した緑谷は地面に受け身も取れずに倒れ込む。
すぐにさっきまでいたところを見るも、そこにはもう誰もおらず、いるのは自身を含めた轟と障子のみであり、ただ近くの森が蒼炎によって燃え広がっているだけだった。
「あ…あぁ…あぁぁあ……っ」
認めたくない。
だがその事実を突きつけるのが現実。
緑谷たちの表情には絶望だけが塗られ、最後には——
「あ……っ…あぁぁああぁッ!!!!」
——緑谷が、悔しさの余りにその場で雄たけびを上げた。
——◆——
その後、ブラドキングの通報によって警察並び救急と消防が到着。
生徒41名のうち、
重、軽症者11名。無傷で済んだのは13名。
そして……行方不明者2名。
6人のプロヒーローは1名が頭の傷で重体。
1名が大量の血痕を残して行方不明。
そして
他、
——◆——
施設のような薄暗い部屋。
そこに黒霧の『ワープゲート』が現れ、中からマグニールと抱えられている幻神が現れた。
「例のメインヒロインを連れて来たぜ? ご主人」
ゲートが閉じるのも見ることなくマグニールはその足を動かして進み、暗い空間で映っているモニターを見る後姿の男性に声をかける。
すると椅子が回り、口しかなく何本ものチューブが付けられている顔をしたスーツ姿の男性が立ち上がり歩み寄った。
「よくやったよマグニール。あぁだが…やっぱり無傷とはいかなかったようだね……」
「マスキュラーあたりとやり合ったんだと思うぜ?」
「そうか…なら一時的に『超再生』を与えて回復させるとしよう」
すると薄暗い部屋の一部に照明が付けられる。
その照明で明るくなっている場所にはベットと大きめのフィッティングルームが設置されていた。
「メドゥーゴルにはドクターが完成させた装置を取りに行かせている。戻ってきたら彼女と共に取り掛かってほしい」
「おう、わかった」
マグニールは主の指示に従い、幻神をベットへ移動させそっと優しく寝かせた。
一方で男性は片手を宙にかざすと、宙から何故か泥のようなものが発生し、そこから黒い脳無が1体現れる。そしてその脳無の頭部を触れてから、男性は幻神の傍に近寄り、その手を幻神の顔へ撫でるように触れた。すると次の瞬間、幻神のボロボロだった身体が尋常じゃない速度で回復しだした。
「このまま与えておくのか?」
「いや? さっきも言っただろう? 一時的にと、完治したらすぐに脳無へ戻すよ」
回復していく幻神を見ながら男性は口角をニヤリと上げる。
「すべてが整ったら始めよう……僕たちの最高の晴れ舞台を…!!」
男性がそう呟く中、幻神の閉ざされたその片目から、涙が一滴流れた。
林間合宿編が終わり、次回からついに神野の悪夢編が始まります。
初回から考えてたけどいろいろと言われそうで自分の中で怖いですが、ここまで来たからにはやってやりますよ。あらすじにも書いてある通り、今後の展開が好めなかったりするならブラウザバックをオススメします。
何度も言っている通り【何でも許せる人向け】なので!そこをご理解していただけるととっても幸いです!!
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