この"沢山の歌声"で、"曲"で、ヒーローを目指します   作:伽華 竜魅

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どうか生きて…『わたし』のヒーロー……

 

 

 

 

翼を広げて美音へと向かって行く幻神。

対して美音は苦しみ交じりの悲鳴を上げながら歪な手を新しい標的である幻神へ振り下ろしていく。

そしてすべての歪な手が幻神を取り込むように掴んだ。

 

「…あぁ?」

 

だが青と白銀の輝きが隙間から漏れ出し、次の瞬間には爆発。

歪な手が切り刻まれ、天羽々斬(アメノハバキリ)アガートラームのアームドギアを片手ずつに握っている幻神が飛び出し、美音へと羽ばたき抜ける。

 

アァァァアアアッ!!!!」

 

「うっ…!」

 

美音の雄叫びに幻神は"個性"を通し共鳴している故に、胸の奥底から痛みが身体中へ広がり伝わる。

だが幻神はすぐに2つのアームドギアを逆手に持ち、それぞれの持ち手をドッキングさせる。

すると変形を遂げ、イガリマのアームドギアへとなった。

そんな幻神に再生した歪な手は再び向かって行くが、対する幻神はアームドギアの先端にシュルシャガナを集中させて、刃を変形。

『ザババ』の刃を重ねた。

そして自身ごと回転しながら切り刻んで進んでいく。

 

だが美音はそうされて黙っているわけではない。

無差別に振るっていた全ての歪な手を幻神へと差し向け始め、振るい始める。

その全てを相手していく幻神だが、ついにアームドギアが限界を迎え、砕かれ朽ちてしまう。

 

「くっ…!!」

 

幻神は翼を広げて大きく上へと羽ばたく。

歪な手はそんな幻神を追いかける。

それはまるでドックファイトのように。

そして幻神は腰にイチイバルの装甲を具現化させ、ミサイルを展開して全弾発射した。

歪な手はそれでも関係なく幻神を追いかけるが、ミサイルに被弾し爆破することで歪な手は崩れていった。だが同時に、幻神の身体から稲妻が漏れ出す。

 

「(『シンフォギア』以前に『私』の身体が先に限界を迎える……!! お願い、もう少しだけ保って…!!!)」

 

幻神は歯を食いしばりながら美音を見る。

その視線に気づいた美音は血涙を流している黒い眼球で幻神を睨むが、その顔は一瞬で驚愕に染まった。それは、幻神が笑っていたからだ。

そして今、彼女は胸に流れる歌を奏でる…!!!

 

 

♪【ヨミガエレ】♪

 

 

♪ 絶対 無理だって 逃げてばっかりの ♪

♪ 走馬灯になったら 嫌じゃない? ♪

♪ 人生 二度三度 挫けたくらいじゃ ♪

♪ 一度死んだような 顔できないわ ♪

 

幻神は【ヨミガエレ】を歌い奏でる。

今想っている気持ちが、意志が重なる最高の歌を。

その歌に呼応し、ガングニールが無限なる色鮮やかな輝きを、オーラとして身体から出し始める。

同時に美音の振り回す歪な手の勢いが弱まって来ている。だがそれだけであり、攻撃自体が止まることはない。

 

♪ 無垢で眩しい あの瞳には ど ♪

♪ 進め 例え ドコか 失くしても wow wow ♪

 

歪な手を避けたり弾き返したりして行くが、それでも手数は美音のほうが上であり、幻神は1本の腕に叩かれ、地面へ落とされる。

強い衝撃で激突するが、幻神は土煙の中すぐに立ち上がり駆け出す。

 

♪ 何  れ ♪

♪ 諦る ♪

♪ 残  で ♪

♪ 立 り ♪

♪ 新う ♪

♪ ヨミガエレ… ♪

 

上から降り注ぐ歪な手と赤黒い輝きの流星を避け、弾き返しながら腰部の片方だけ無事なスラスターを全開で噴射させて加速する。

そして不思議と彼女の駆け抜けた場所は、地面から光の粒がゆっくりと浮き上がり、今となってはその現場は輝きが溢れてきていた。

 

「これは…?」

 

「なんだっ!? 何が起きている!?」

 

「(……歌?)」

 

ヒーローたちが困惑している中、エンデヴァーの腕の中で薄っすらと意識を戻すギアは1人、それが歌であることに気づいた。

そして視線を不器用なように動かし、現場の中央を見る。そこには2人の義娘がいた。

 

♪ その花は 腐り落ちたけど ♪

♪ 終イ... ♪

♪ 大地をめくり また目覚める ♪

 

「……綺麗…」

 

「ッ! ギア、目を覚ましたか!?」

 

「えぇ…義娘(むすめ)の歌声でね……」

 

ギアが目を覚ましたことにエンデヴァーはホッとするが、すぐに視線を幻神へと戻す。

幻神は翼があるにもかかわらず地を駆け巡り、反撃せずただ攻撃を避けて弾いてだけを繰り返している。全員がなぜと、それほどまでにあの攻撃はマズいのかと考えるが、義母であるギアはだけは違う考えをしていた。

 

「(伝えようとしているんだ…今歌ってる歌で、自分の想いを全部……)」

 

血の繋がりがなくとも、親子として過ごしてきた時間は、日々は決して偽りではないからこその答えだったのだ。

 

♪ 天  せ ♪

♪ ボ ル ♪

♪ 限  て ♪

♪ 首 に ♪

♪ 全う ♪

♪ ハイアガレェ!!! ♪

 

やがて幻神から溢れ出す6色の輝きはその量を、勢いを膨大に膨れ、増させる。

それは翼へと広がっていき、虹とも言えるような輝きを放ちながら幻神は遥か上空へ羽ばたく。

そして美音やAFOよりも遥か上に移動した時、幻神は翼を大きく、大きくさせて、虹色に輝く翼を、月を逆光という名の背景にして広げさせた。

同時に、幻神の脳、心、精神、魂と言ったものだろう…彼女に問いかける言葉が幻神だけにハッキリと聞こえていた。

 

『——あなたは何を望む? どうしたい?』

 

——『美音』を救けたい…繋ぎ合いたい…!

 

『——それはヒーローを目指すから?』

 

——違う…今は夢とかヒーローとか関係ない! 『私』のわがまま剥きだして、『美音』をッ!!!

 

『——じゃあ手を伸ばし続けて!』

 

幻神は感じる。

 

『——その手は必ず繋ぎ合えるはずだよ!』

 

自身の背中に数人の手が置かれ、背中を押そうとしているのを…押してくれるのを。

 

()()()()()()()()()()…そして()()()()…——」

 

 

 

「——()()()()()()ィィイイッ!!!!」

 

 

 

一人はみんなのために(One for all)みんなは未来のために(All for one)

 

今この瞬間、幻神の翼だけではない。

白炎に燃え上がる裾は、その白炎をお日様のような橙色へと変わる。

それはまるで、()()()()()()()()()()()()()()()()()同時に右腕のガントレットが変形しひし形のクリスタルを出す。

すると周辺に輝いていた光の粒がそのクリスタルへ集まっていった。

それを見た美音は暴走しているにも関わらず、再び声が出た。

 

「いや…来ないで…」

 

否定。

 

「やめて…!!」

 

恐怖。

 

「お願い…これ以上…——」

 

だがそれは殺されるなどではない…ただただ…——

 

「——これ以上、『わたし』の心に入り込んでこないでェ!!!」

 

——本当の自分を見られるのが嫌なだけだったのだ。

 

「だとしてもォォオオッ!!!!」

 

美音は否定、拒否などと言った拒む想いを込めてすべての力を幻神へ差し向ける。

だが幻神はとても膨大で、綺麗な輝きを纏って美音へと向かって行った。

 

♪ 何  せ ♪

♪ 誰 る ♪

 

天羽々斬(アメノハバキリ)が断ち切りイチイバルが撃ち抜く。

 

♪ 一 く ♪

♪ こ と ♪

 

イガリマシュルシャガナが切り裂いていく。

 

♪ 目… ♪

 

アガートラームが妨害する禍々しい壁を——

 

ぶち壊してェッ!!!!♪

 

——一発で砕き、一気に美音へと一直線に向かっていく。

 

♪ 何  れ ♪

♪ 諦る ♪

 

美音はエネルギーの一部をシェム・ハの腕輪に集中させ、赤いオーラを纏う漆黒の光束の刀剣を生み出す。同時にシェンショウジンのビットを出し、分解しようと紫の輝きを放つ。

 

♪ 残  で ♪

♪ 立 り ♪

 

それを幻神は全て避けていき、美音へその拳を開き美音へと伸ばす。

そしてガングニールが全てを繋いだ。

 

♪ 新う ♪

 

「……ウァァァアアアッ!!!!」

 

  

 

美音は血涙に交じり普通の涙を流しながら漆黒の光束の刀剣の先を幻神へと伸ばした。

 

♪ ヨ!!!!!!! ♪

 

そして幻神の手は……——

美音の光束の刀剣は……——

 

 

 

 

「——ゴホッ!!

 

 

「——……ぇ」

 

 

 

 

美音の手を取り、そして()()()()()()()()()()()

光束の刀剣の刀身は赤い液体がこびり付いており、地面へ水滴として1つ、また1つと落下している。

それでも幻神の右手は、美音の左手をしっかりと握り、ギュッと強く離さなかった。逆に開いている左手を美音の背中に回し抱き寄せる。

 

「やっと…掴めた……繋ぎ合えた…」

 

「…ぁ…ぁあ…」

 

耳元に聞こえる血を吐きながらの途切れ途切れの声。それを聞いた美音は、激しく動揺する。

それによって歪な手も、魔王の歌もいつの間にか止まっていた。

 

「うっ、うぅ…!」

 

美音は光束の刀剣を消そうと、抜こうとするが、抜くことも、消えることもない。

自分の意志とは裏腹に"個性"は従わなかったのだ。

 

「…ごめん、ね……?」

 

「…ッ!?」

 

そんな中、幻神は途切れ途切れの中、謝罪をした。

それに美音は驚き、思わず動きを止めてしまう。

 

「今まで、ずっと、ずっと…救けを求めてたのに……気づいてあげられなくて、ごめんね? 凄く遅れたけど…やっと、繋げられたよ……」

 

「……ぁ」

 

美音は、血涙が止まったその瞳から普通の涙を漏れ始める。そして思い出す。

(ヴィラン)として堕ちたが、それでも()()()()()()()()()

 

本来であれば『黒換美音』はそのまま転生者の人格が現れ、2つの人格は混ざり第三的人格者として転生を果たすはずだった。

だが、幻神の人格が覚醒する前から記憶は、幻神が前世でたくさん聞いて来た歌は既に美音の中に流れ込んでいた。

亡き家族と過ごした日々でも、(ヴィラン)に連れられ、閉じ込められた施設でも、幻神の前世の世界で、人々が世界へ広げた歌が美音の精神を完全とは言えないが、それでも支えていたのだ。

だからこそ美音は気づく。自分は最初から……——

 

 

——『天堕幻神(転生者)』に救けられていたのだ。

 

 

それに気づいた美音は、涙が次々に溢れ出る。

そして震える口を開いた。

 

「あぁ…ぁあぁぁあ……!!!」

 

自分はなんてことをしてしまったのだろう。

自分はどうして全てを諦めてしまったのだろう。

ずっと支えてくれた。

知らなくても、もう一人の自分はずっと手を伸ばしていた。

 

「ごめ、ごめん…ごめ、なさ……」

 

「大丈夫だよ……確かに、過去は変わらないし…今ここで行ったこと、も…世間にさらされて…立場は余計になくなった……でも、それでも、未来を…諦めるにはまだ、早いと思うよ…?」

 

「……」

 

「『私』は、諦めたくない……前世ではただの傍観者と言えてしまう、素人のオタク染みた平凡者だったけど…この世界に転生し(うまれ)た……それは『美音』を救けるためでもある、けど……それ以外は何もない……だから自分で決めて、掴むんだ…これから先の物語(みらい)を、夢を…そして………——この恋を

 

幻神の語りに美音はただ涙を流しながら俯いて聞くことしか出来ないでいる。

それでも幻神は何かを言うでもなく、ただ必死に微笑みながら語り続ける。

 

「『美音』だって『私』を通して見て、感じて…わかるんだ……『私』は『わたし』であり、『わたし』は『私』なのだから……だからこそ魅かれたはずだよ…? とても暖かい、まるで()()()()()()()()

 

いつの間にか美音の纏っていた禍々しい姿は消え去り、元の姿に戻っている。

同時に幻神を突き刺していた光束の刀剣もシェム・ハの腕輪も消えていた。

 

「……——そう、だよ…『神獣鏡(シェンショウジン)』を使用したあの日、『わたし』は『幻神』と同じ意思で、想いで、彼を救けたい一心だった……『わたし』も彼が好きになった…!!」

 

陽だまりと日陰、どちらも太陽あってこそ存在する。美音は自身がAFOの日陰だと言い聞かせていた。だが一度思えば、魅かれてしまえばなかなか消えないのがでもある。

AFOと再会する前に、美音は感じ、見つけた——

 

 

——本当の太陽(緑谷出久)に出会ったのだ。

 

 

幻神は身体を少しだけ離し、手を繋いだまましっかりと美音の目を見た。

 

「『美音』…あなたの本心を聞かせて? オール・フォー・ワン、ヒーロー、世間関係なく、あなた自身どうしたいのかを……!」

 

「『わたし』、は……」

 

「『私』は…これからも繋ぎ合っていきたい……転生者とか、そういうの関係なく…『天堕幻神』として…! 『美音』と、みんなと生きていきたい……!!」

 

それを聞いた美音は、ついに心に秘めて、圧し潰していた本心をさらけ出した。

 

「『わたし』は……『わたし』はッ! 誰にも囚われず、自分の意志で決めて、自分で道を選んで、この胸にあるたくさんの歌を歌って、()()()()()()()()()()()()()ッ!!!」

 

美音は涙を流しながら全ての本心をさらけ出す。

だがその言葉はどこか妙であり、1()()()()()を隠していた。

それを聞いた幻神は最高の笑顔になるが、その妙な言い回しには()()()()()()()

 

「なら繋いで、一緒に歌おう! 自分だけの物語(みち)を切り開いて、進んでいこう。胸の歌と一緒にッ!!」

 

そう言ってもらえた美音は、泣きながらも笑顔になり大きく頷いた。

そしてついに繋ぎ合い、分かり合えた2人の想いに呼応し、『具現化』の輝きが2人を包み込む。

周辺にも色鮮やかな輝きが、光の粒が現れ出した。

 

 

——◆——

 

 

「「「……」」」

 

輝きに包まる2人の少女。

それを見る現場にいるヒーローはいつの間にか黙り、ただ見ていた。

 

「今なら殺れるか?」

 

「あぁ…殺る——ゴッ!?」

 

公安直属ヒーローである者たち、今が絶好のチャンスだと思い、動こうとするが、突然頭部に大きな打撃を受け、1人を除き全員が気絶した。

 

「はぁ…はぁ…!!」

 

「ギ、ア…きさ、ま…!!」

 

「娘たちの、感動の邪魔は、させない…!」

 

「ガッ!!」

 

気絶させた者は負傷し、"個性"を奪われたギアだった。そして最後の1人を気絶させる。

ギアは気絶したのを確認してからすぐに2人の元へ向かおうとするも、脚を一歩前に出しただけで崩れ、倒れる。

だがそのギアをすぐにエンデヴァーが支えた。

 

「無理に動くなっ! 貴様はもう……」

 

「でも…! ッ!? 炎司!! すぐに2人を守って!!」

 

「? それはどういう…——ッ!?」

 

ギアは2人を再び見た途端。

慌てた様子でエンデヴァーに守るよう叫ぶ。

何故急にと思い、2人を見れば驚き、すぐに向かおうとする。

 

「避けろッ!! 天堕少女ォ!!!」

 

オールマイトが2人へ叫んだ。

 

「ッ! 『美音』ッ!!!」

 

「ッ!?」

 

そして幻神は気づき、美音の手をそのまま引き、横へと投げ放す。

それに驚く美音だが、次の瞬間——

 

 

「~~ッ!!!」

 

 

——幻神は、歪で尋常じゃないほど肥大化し、尖った刃物状や鋲状の突起物が腕や拳の表面に生えている右腕に身体全体を一撃で殴られ、地上に叩き潰される。同時に美音も『ファウストローブ』を纏っていない為地上に落下し、少し転げながらも身体を立ち上がらせた。

 

「『幻神』ッ!!」

 

「この際だ……」

 

「ッ!?」

 

そして男性の低く、機嫌の悪い声に気づき、恐る恐る声の方に視線を向ける。

そこには——

 

 

——君たち2人、まとめて僕の(もの)になってもらおう」

 

 

——人1人分ほどの、尋常じゃないほどに肥大化し、まさに凶悪と言える形へとなった右腕になっている、AFOがそこにいた。

 

 

——◆——

 

 

「オール・フォー・ワン…!」

 

「くっ!!」

 

AFOが動き出したのを見たヒーローのうち、グラントリノが駆け出す。

エンデヴァーもギアを座らせてから後に続き駆け出した。

 

「うぅ…『幻神』…!!」

 

美音は身体の痛みに耐えながら、地面に叩き潰され未だ倒れている幻神の元へ歩き出す。

 

「…ッ! 嘘……!?」

 

だが、美音の目の前に…否、AFOの後方と他周辺の一部の宙から水音が鳴り出し、銀色ともいえるような黒い泥の液体が現れる。

そしてそこから、新たな脳無たちが無数に現れた。

 

「なっ!? 脳無だと…!?」

 

「BARの方で捕えた奴らで全員ではなかったのか!?」

 

次々と現れる下位と中位。

あらゆるタイプが現れ、中には羽を生やし宙へ羽ばたくタイプも数十体いる。

 

「キェェェエエエッ!!」

 

その中で、美音の目の前に現れた脳無は美音を認識した途端、その腕からドリルを出し、回転させて美音を貫こうとする。

美音は"個性"を発動するにも間に合わないと悟ってしまう。

 

「ギャッ!!」

 

「えっ!?」

 

だがその脳無は、()()()()()()()()()()()()()()()。美音は驚きながら伸びる巨大な腕の伸び先を見れば、そこにはボロボロで息を荒くしているMt.レディがいた。

 

「行きなさい…! 早く…!!」

 

「…~ッ! ありがとう、ございます…!!」

 

Mt.レディは美音を行かせるために脳無を倒したのだ。なぜ(ヴィラン)として堕ちたはずの自分にそんなことをしてくれるかはわからないが、美音はそれでもお礼を言い、重い足を動かし走り出す。

他にも、ベストジーニストのような重傷者を除き、AFOにやられ気絶していたヒーローたちが目を覚まし、動けるものは次々に戦闘を得意とする。

もしくは戦闘でも充分活躍できるヒーロー達が前線に駆け出し脳無の相手を始めていた。

 

美音はその激しい戦いの中を駆け抜けていき、幻神へと向かい、ついに辿り着いた。

 

「『幻神』!!」

 

コヒュー…コヒュー…

 

だが幻神の状況を見て絶句する。

AFOに叩き潰されたことで、これまでの傷から再び液体が漏れ出している。それだけではない。

BURNING・EX-DRIVEもノイズのようにジリジリと乱れて消えかけており、幻神の息も小さく、そして瞳に反射する光も消えかけていたのだ。

これまでの戦いで蓄積されていったダメージと、装置の影響で消耗が大幅に軽減されてたとはいえ減り続けていた幻神の使用するエネルギーが今、大きく反動として身体中に渡り、そして幻神の魂と言える生命力も底を尽きかけている。

むしろこれでまだ意識もBURNING・EX-DRIVEも保っていること自体がおかしいと言えるだろう。だが、その答えを美音は一瞬で理解した。

 

「(本体である『わたし』が生きてるから…それで……でも、このままじゃ…)」

 

同時に、ホムンクルスとして具現化させた身体を依り代として魂を移した幻神には、とんでもなく危険なデメリットが存在した。

 

 

——依り代がなくなれば、そのまま魂も消滅する。

 

 

人は、生命体は自身が生きる身体を失えば魂だけとなり、そして魂はあの世へ導かれてしまう。

人工知能AIであれば、身体を失えどその魂と言える核は生存できる。

だが自然体…生命体は不可能である。

だからこそ己の魂をホムンクルスとして具現化させた別の身体に移すのは危険すぎる荒業なのだ。

それを美音は知っている。無論幻神もだ。

 

つまり、幻神がこの状態で依り代を失えば、完全に死んでしまうのである。

 

美音は幻神の傍でしゃがみ込み、幻神の上半身を抱き上げ自身に寄せる。

そして幻神を見るが、やはり少しでも意識を放せば死ぬ状態である事がわかる状態。

 

「……」

 

美音は己のせいだと自分を心の中で責める。

もし口で言っても、幻神はきっと「責めないで」と言うだろうわかっていた。

そしてヒーローを志し、前世ではオタク染みたただの凡人であろうと、その奥には自己犠牲の精神がある幻神は、きっと()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

「……だとしても…だからこそ…」

 

 

だがそれを美音は許さない。

 

 

「『わたし』は…『黒換美音』は……!!」

 

 

彼女の心はもう救われていた。

 

 

「この歌で……!!」

 

 

ずっと求めてたヒーローが来てくれた。

 

 

「『天堕幻神(わたしのヒーロー)』を…その()を…」

 

 

ならば今度は自分の番。

 

 

「救い、紡ぎ……そして——」

 

 

今この時、『黒換美音』はその歌で己の命、身体、"個性"、その全てを糧に……——

 

 

「——明日の未来へ繋ぐッ!!」

 

 

——『()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

♪【Xtreme Vibes】♫

 

 

♪ 胸に手を当てて 思い出すことは ♫

♪ 苦しみのことや 涙じゃなくて ♫

♪ 手を繋いだこと 一人じゃないってこと ♫

♪ 分かり合えた日々のことだよね ♫

 

美音は【Xtreme Vibes】を歌いだす。

それに呼応、共鳴することで美音と幻神の身体が七色の音色と共にその色を輝かせる。

 

♪ 始まりの日から 終わりの今日まで ♫

♪ この物語に 意味があったこと ♫

♪ やり切ったんだと 胸を張れるよ ♫

♪ みんなと会えてよかった ♫

 

「この歌は…?」

 

「小娘…一体何を……!?」

 

「…今までと、何かが、違う…!?」

 

その綺麗で、明るく、暖かい七色の歌声は全員の耳に入る。それは現場だけに飽き足らず、日本全体に。今の状況を見ている人々、知らずに眠ってる人はテレビそのものを見ていない人々の耳にまで届いていた。

 

♪ 何 て ♫

 

「……(()()()…?)」

 

意識が朦朧としている中で、美音に抱き寄せられている幻神はその歌に気づいた。

 

♪ 生 る ♫

 

幻神は気づく。

美音がやろうとしていることに。

その歌に込めた美音の覚悟に、想いに。

 

「ダ…メ……!」

 

幻神は片腕を震えながら、美音を止めようと伸ばすも、逆に美音はその手を取り、ギュッと優しく握った。

 

♪ あら ♫

 

——大切な両親を失ってから、全部悪夢としてしか感じられなかった。

 

♪ こに ♫

 

——でも、『(あなた)』の記憶を見ていた時間はそれを忘れるぐらいとても楽しかった。

 

♪ 生た ♫

 

——それと同じように、『(あなた)』を通して見て、知っていった太陽である彼とたくさんの友達……。

 

♪ みて ♫

 

——『わたし』が一方的に知っているだけで、彼らは『わたし』の方は知らないだろうけど……『(あなた)』の友達なら、『わたし』にとっても友達って言うのは…わがままで贅沢だと思う。でも、許されるのなら、そうであってほしいと強く願う。

 

♪ あら ♫

 

——本当はね、嘘ついてた。『(あなた)』に本音を明かしたけど…「生きたい」とは言ってないんだ。だって……それを世界は許してくれないと思う。でもね……。

 

♪ 振る ♫

 

——それ以上に『(あなた)』と太陽(かれ)…そして友達、みんなの未来が消えることの方がよっぽど嫌なの。

 

♪ 飛に ♫

 

——だから泣かないで? これは『わたし』の…『黒換美音』の最初で最後の(ねが)いの歌。

 

♪ 涙う ♫

 

——どうか…どうか……。

 

♪ そに ♫

 

「み…ね……ッ!!!!」

 

 

 

「——生きて…わたしのヒーロー……」

 

 

 

——Gatrandis babel(終焉の) zigguat edenal(メロディが)——

 

——Emustolronzen(残響に変わる) fine el baral zizzl(その時)——

 

——Gatrandis babel(戦姫の歌は) ziggurat edenal(幕を閉じ)——

 

——Emustolronzen fine el zizzl(旅立ちへと消える)——

 

 

「これが『黒換美音(わたし)』の——」

 

 

 

——【絶唱】だァァァアアアッ!!!!!!!

 

 

 

七色の音色、輝きが2人の涙を流す少女を包み込む。

 

輝きはそのまま天へと昇っていき、天と地にもその輝きを広げていく。

 

その場にいる全員がその光景を目を奪われ、動きを止める。

 

そして輝きは勢いを弱めて消えていく。

 

ついに輝きが全て消え、そこには1()()()()()()()()()()()

 

「…幻神……?」

 

身体の傷を抑えながらギアは思わずその名を呼ぶ。

 

「……まさか!?」

 

AFOは少女に何が起きたのか理解した。

 

その少女はAFOに着せられていた堕天使を思わせる漆黒のウェディングドレスを身に纏い、首に"個性"増幅装置が装着され、髪は夜空を印象付けるような青みがかった全体の黒髪で腰より下まで伸びているロングに綺麗な『月白(げっぱく)色』一色のインナーカラーが入っている。

 

それだけ見れば『黒換美音』だろう。

だが彼女の地に着けてる両手の間に、涙がポタポタと落ちている。

その涙を流す目には、瞳は星の柄がない『つつじ色』の瞳。

 

「生きようって、歌おうって言ったじゃん……」

 

それは『黒換美音』ではない。

 

「うぅ…あぁぁ…ぁぁあぁああ……——」

 

その正体は『黒換美音』から全てを完全に譲渡され——

 

 

 

——美音ェェェエエエッ!!!!」

 

 

 

——継承した『天堕幻神』だった。

 

 

 

 


使用楽曲コード:50075802,73430463,N00597455

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