この"沢山の歌声"で、"曲"で、ヒーローを目指します   作:伽華 竜魅

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ちびたXtreme様、誤字報告ありがとうございます!




獣となり果てた陽だまり

 

 

 

 

歪な空間の中、禍々しい殺意と憎悪とともにその身を黒に染める獣。

 

「――ヴゥ”ゥ”ア”ァ”ァ”ア”ア”ッ!!!!!」

 

獣は目の前にいる獲物めがけて、四つん這いで駆け出す。獲物…もとい治崎は地面を瞬時に分解。

そして修復させることで棘を創り出し、獣へと差し向ける。

それに対し獣は駆け出しながら背面に大型ミサイルを1本形成させ、即座に点火し発射させる。

大型ミサイルと棘がぶつかった瞬間大爆発が起こり、再び歪な空間には煙幕が充満していく中、獣はそれでもと構うことなく煙幕の中に入っていき、治崎へと距離を詰めていった。

 

「ガッ!!!」

 

だが獣は自身の足元から瞬時に生えた棘によって腹部を貫かれ、血を流しながらそのまま天井へ激突する。

 

「(なんなんだあれは…!? なんなんだこの殺意は、肌に伝わる憎悪は……!!!?)」

 

一方で治崎は身体に蕁麻疹が出ているが、それ以上に鳥肌が今まで以上に立ち、汗が出始めている。

その理由は治崎自身も知らない、奥底の自身の人間として、生命としての本能によるものだ。

 

『弱肉強食』という言葉があるように、今の幻神は目の前の獲物を殺すために地の果てまで追いかけ続けるだけの獣となり果ててしまっている。

 

故に今の幻神は百獣の王すら腰を引いてしまう程の危険な獣であり、"個性"という力を持っている人類といえど、元をたどればかつては力を持たない人間であるが故、奥底には生物としての本能がある。

その本能が訴えているのだ。

 

 

——逃げろと。

 

 

だがそんなのお構いなし。

獣は己の腹を貫く棘を殴り壊し、そのまま棘を伝って駆け出す。

その際貫いていた棘を引き抜き、空洞として奥が見えてしまう腹は一気に再構築されていき、何事もなかったように元に戻された。

 

「ア”ァ”ア”ア”ァ”ア”ア”ア”ッ!!!!!!!!!」

 

獣は駆け出しながら右腕を突き出す。

すると右腕そのものがガトリングへと再構築され、回転と同時に激しく弾丸を獲物へと放つ。

治崎は壁を創り出し防ぐが、一発一発の弾丸の威力が凄まじすぎる故かその壁は1分も立たずに粉々にされていく。

 

「(完全に理性を失って暴れている……さっきの負傷が噓だったかのように治っているけど、精神的ショックで"個性"が暴走したのか? 止めたほうがいいのかもしれないけど、身体が、足が動かない……!!)」

 

一方で獣と治崎の戦いを離れた位置で壊理を守りながら見守っていた通形は今の現状を必死に把握していた。

だが心の本能は「今近づけば確実に死ぬ」と訴えており、通形自身身体を動かせずにいる。

 

「ガァ”ァ”ア”ア”ァ”ア”ア”ァ”ア”ア”ア”ッ!!!!!!!」

 

響き渡る獣の咆哮。

壊理は反射的に両耳を両手で押さえ、瞼を強くつむり涙を漏らす。

 

「やめて…やめて……!!」

 

そしてただ懇願するだけだった。

だがそんなの知るかとばかりに獣は咆哮をし、左腕を肥大化させその爪で治崎に振るう。

治崎はギリギリの差でその爪を避け、逆にその肥大化させた左腕を己の手で掴む。

すればパンッ!!!と音とともに左腕は一瞬にして分解された。

 

「ヴァ”ァ”ァ”ア”ア”ァ”ア”ア”ァ”ァ”ッ!!!!!!!」

 

「ぐぅ…!!!!」

 

獣はそれでもと、そのまま治崎の肩に己の牙を立て、食らいつくすように噛みつく。

噛まれた治崎の肩から血が溢れ出し、骨も含め嫌な音が治崎の耳に入った。

獣は離れまいと両足を治崎の身体に回しホールドするように拘束する。

さらに左腕を再び再構築させて復元し、右腕含め治崎の手首を掴むことで"個性"を使わせないようにした。

 

「(なんだこのパワー…!! 腕が、握り潰される…! 両腕とも失えば"個性"が使えなくなる……!!!)」

 

治崎は腕を振りほどこうとするも、獣は潰すように握ってる故、振りほどくことができずにいた。

そして獣は一度肩から牙を離せば、再びその牙を立てて食らいつく。

 

「(こう、なれば……仕方ないッ!! 壊理の"個性"でなら、消滅した後も復元できる可能性は十分にある!!) 音本ォォオオ!!!!」

 

治崎は叫ぶ。

側近の1人にして忠実。

そして信頼できる部下の名を。

すれば通形の耳に、弾を装填した音が届いた。

通形は咄嗟に振り返る。

そこには再び消失弾を己のリボルバーに装填した音本がおり、照準を獣へと向けていた。

 

「ッ! ダメだ!! 避けるんだ天堕さん!!!」

 

通形は叫ぶ。

だが獣は目の前の獲物にしか眼中にないかのように、聴く耳を持たない。

 

「ァ”ァ”ァ”ア”ア”ア”ア”ア”ア”ア”ッ!!!!!!!」

 

獣が叫ぶその瞬間。

歪な空間の、その1つの壁が突然外側から破壊された。

 

 

「——幻神ァ!!!!」

 

 

その壁から現れる数人の人影。

その1つ、緑の稲妻を纏い閃光のごとく輝いている人物。

緑谷出久……ヒーローデクが獣へとその名を叫んだ。緑谷の後ろにはイレイザーヘッドとサー・ナイトアイもいる。

 

「ア”ア”ッ!!!?」

 

「うぉぉぉおおおッ!!!!」

 

緑谷は獣へと体当たりし、治崎から引き離しそのまま自身ごと奥の壁へと衝突した。

その隙にイレイザーヘッドは『抹消』を発動させ治崎の"個性"を封じる。

 

「ナイトアイ! 要救助者を!!!」

 

「ッ! ミリオ!!」

 

ナイトアイは現場を見て顔を険しくする。

歪な空間にここに来るまでに倒れている側近。

そしてボロボロの治崎と通形。

 

「壊理ちゃんは……後ろに、います」

 

ナイトアイは通形へ駆け寄り、壊理含めて2人を抱きしめる。

 

「……もう大丈夫。凄いぞ、凄いぞ…ミリオ!」

 

現在の状態になるまで戦い続けた通形

だが通形は振り絞り、状況を伝えた。

 

「サー、たちよりも早く……天堕、さん…が、来て…治崎の攻撃を受けて、暴走して……」

 

「ッ!? それは本当かミリオ!」

 

「はい……治崎を、追い込むほど、暴れて……でも、自我を保って、いませ…ん……」

 

それを近くで聞いていたイレイザーヘッドは緑谷と幻神の方を見る。

 

「(じゃあ緑谷が治崎から引き剥がしたのは…!) なら"個性"を一度消さないと——」

 

イレイザーヘッドが動こうとする瞬間。

禍々しい憎悪の黒きオーラとイチイバルの輝き、そして緑に輝く【フルカウル】の稲妻が爆発と共に広がった。

イレイザーヘッドたちはそれを見て固まる。

なぜならば……——

 

「――ヴァ”ア”ア”ッ!!!!!!」

 

「——止まれェッ!!!!」

 

——獣となり果てた幻神と【フルカウル】を纏う緑谷が、仲間同士でありながら戦闘を繰り広げているからだ。

実際、幻神の暴走を知る者は限られている。

イレイザーヘッドは幻神の暴走を、職場体験並びに演習試験にて知っただけであり、実際に目の当たりにしたことはない。

 

ナイトアイなどは見たこと以前に、それらを知っているわけではない。

それらが偶然か必然か、この中で暴走を目の当たりにしたことも、親や政府などを外し幻神の"個性"を一番知り、一番隣に立っていたのは緑谷出久だ。

 

彼らの持つ『OFA』と『紡心(アクシア)』は、どちらも『AFO』による派生で生まれたもの。

それらを2人はそれぞれ己の身体に内包し、使用している。

 

幻神は緑谷を太陽と思い、緑谷は幻神を陽だまりと感じ、さらに幻神は緑谷に未だ片思いだが恋焦がれている。

 

さらに緑谷は完全ではないものの、幻神の身に何かが起きているのが、胸の歌として感じ取れるようなことが時々起きていた。

故に彼は焦り、急ぎ、駆け付けた。

 

 

——獣へとなり果てた陽だまりを救うために。

 

 

「ヴッ!!!」

 

「…ッごめん! 痛いだろうけど我慢して!!」

 

緑谷は胸を痛めながら、陽だまりのような温かさをくれる幻神の身体を【シュートスタイル】にて蹴り殴り、蹴り飛ばしたりしていく。

 

「ヴゥ”ゥ”ゥ”…!! ア”ァ”ァ”ア”ア”ア”ッ!!!!!」

 

緑谷の拳と獣の爪がぶつかり合い、凄まじい程の衝撃波が発生する。

やがて2人もまた互いの衝撃で吹き飛ぶ。

 

「ア”ア”ア”ッ!!!!!!」

 

獣は四肢で着地し勢制を直せばすぐさまを腰部の装甲をスライド展開し、ミサイルを緑谷へと放つ。

 

- MEGA DETH PARTY -

 

- MEGA DETH PARTY -が緑谷へと向かっていく。

それに対し緑谷は足を構えながら飛び上がり、O()F()A()()()()()()()()()()()()

 

【20%・スマッシュッ!!!!】

 

インパクトの瞬間にのみ出力を20%まで引き上げ、足蹴りによる風圧を放つことで迎え撃つ。

その風圧により、全てのミサイルが軌道をずらされてしまい、壁や天井、地面へと着弾し爆発する。

だがその場にいた者たちには当たることはなかった。

 

「(煙で見えない…!) デク! 今そっちに行く! お前もアカシアをこっちに連れてこい!!」

 

「ッ! はい!!」

 

イレイザーヘッドの『抹消』であれば"個性"を、暴走を止められる。

理解した緑谷はイレイザーヘッドへと向かい駆け出す。それを見た獣…幻神は逃がさんとばかりに緑谷を獣のごとく駆け出し追いかける。

 

「(治崎の"個性"が一瞬解かれるが、天堕を止めてからすぐに見れば——)」

 

イレイザーヘッドは幻神へ『抹消』を発動しようとする。だがそれは叶わず、イレイザーヘッドの脇腹を毛先が大きな矢印の髪が貫いた。

 

「ぐっ…!」

 

「先生!!」

 

途端、イレイザーヘッドの動きはカタツムリにでもなったかのように遅くなる。

そんなイレイザーヘッドの斜め背後、その少し離れた位置に倒れているフードを被った側近がいる。

その側近のフードが破れ、毛先が大きな矢印となっている髪をイレイザーヘッドへ伸ばしていた

 

「仲間同士での打ち合いならこちらにとってはある意味勝機。【"個性"殺し】の暴走は止めさせない」

 

その正体は治崎の側近の1人『玄野(くろの)(はり)

"個性"『クロノスタシス』

髪先の先端、長針を対象に当てることで、その対象の動きをカタツムリと同等の動きの速度にする。

 

「(まずい…! 今のでまばたきが……くそ、止められない!!!)」

 

『抹消』発動前にも瞬きを一度する必要があるが、動きが遅くされている状況。

再度"個性"を発動するにも、そのわずかな瞬間に治崎が"個性"を発動し妨害してくる可能性は十分にある。

 

「——全て無駄だァ!!」

 

そしてイレイザーの瞼が完全に閉ざされたことで『抹消』が解除され、治崎は"個性"を発動させ、地面全体に棘を一斉に構築。

そのまま玄野はイレイザーを取り押さえ、治崎の意図的に開けた穴へと落ち離脱。

緑谷たちは食らわないよう避け、音本は宙に舞い治崎の元へ飛ばされ、幻神は身体中に棘が複雑に突き刺され、身動きが取れなくなる。

 

「……音本、お前は本当によくやってくれたよ……お前は俺のことをよく理解してくれている…だからお前なら——俺のために死ねるだろう!!!?」

 

——瞬間、治崎が自身と音本ごと分解させ、己の身体を歪な形へと構築し形成させた。

 

「——潔く認めよう、ルミリオン。お前は確かに俺より強かった。だが、やはり全ては無に帰した」

 

治崎の変わりないはずのその姿は両肩に音本の腕が歪な異形で生え、ペストマスクも顔と融合し、先の戦い、通形と幻神によって傷つけられた負傷もすべて完治させ、音本と融合させた姿を表とする。

 

 

「――さぁ、壊理を返してもらうか」

 

 

第二形態。

人によってはそう言えてもおかしくない姿へ治崎は変貌した。

 

「(自分と仲間を破壊して、融合した……!?)」

 

野望のためなら部下の命を奪うことも厭わない。

そんな治崎に緑谷は冷や汗を垂らす。

 

「悲しい人生だったなルミリオン。壊理と俺に関わらなければ、"個性"を永遠に失うこともなかった」

 

治崎の発言にナイトアイと緑谷は驚愕し、言葉を失う。

 

「関わらなければ夢にかかったままでいられた。失ってなお粘って、その結果が仲間を巻き込み、全員死ぬだけなんてな!!!」

 

「――ァ”ァ”ア”ア”ア”ア”ッ!!!!!」

 

そんな治崎を見た幻神は怯むことも怯えることもなく、己の身体を複雑に貫く棘を咆哮にて破壊し、即座に禍々しいエネルギーを集中させ再構築。

傷を治した幻神はそのまま治崎へと駆け出した。

 

「そうだったな…お前にもいい加減首輪をかけないとだよなぁ……【"個性"殺し】ィ!!!」

 

治崎は4本の腕全てを地に着けて分解させ、幻神は飛び上がり大型サイルを形成させて互いに攻撃しようとする。

 

「ッ!!」

 

「ギャッ!!」

 

瞬間治崎の片腕と幻神の顔に印鑑が放たれる。

ナイトアイは通形に壊理を連れて離脱するよう指示し駆け付けていた。

 

「コイツの相手は私がする! 貴様はアカシアを止めろ!!」

 

「了解です!!」

 

ナイトアイは治崎。

緑谷は幻神へと駆け出す。

本来であればナイトアイは緑谷に通形と壊理を託し1人で相手する気だったが、暴走している幻神がいる以上それは難しいと判断。

抜け道に2人を案内した後、自分は治崎の相手をし幻神は緑谷に任せることにしたのだ。

 

「イレイザーをどこへやった!? 側近もいないのは!?」

 

「"個性"を消すヒーローには興味があるんでね! VIPルームに案内しといたよ! それとあそこで身動きが出来ずにいる【"個性"殺し】もまた、俺の計画を完遂させるのに必要なものでね!!」

 

ナイトアイは『予知』にて治崎の動きを先読みしながら交戦する。

 

「ガア”ア”ァ”ァ”ア”ァ”ア”ア”ァ”ア”ッ!!!!!!!!」

 

「止まれ幻神ァ!!!」

 

そして緑谷もまた幻神を止め、正気に戻させるべくぶつかり合う。

 

「ア”ア”ア”ア”ア”ッ!!!!!」

 

「ぐぅ…!!!」

 

押し合い。

緑谷はこれ以上幻神を暴れさせないと必死に抑え込もうとする。

だが暴走故にタガが外れている幻神の怪力、速度は本人以上に引き上げられている。

それでもと緑谷は負けじと力み、対抗していた。

 

幻神は背面から大型ミサイルを形成させ、すぐさま点火させる。

緑谷はそれをさせまいと、両手で押さえたまま下半身を上にするように飛び、大型ミサイルを蹴り飛ばす。邪魔されたことが癪に障ったのか、幻神は咆哮し緑谷への怒りを表す。

 

「目を覚まして幻神!!」

 

「ドケェェッ!!!!!」

 

「ッ!? 意識が辛うじて…うぐっ!!」

 

暴走したまま喋り始める幻神。

思わず緑谷は驚くがその僅かな隙を見逃すわけがなく、幻神は緑谷に頭突きする。

 

「……ゆ、うか…!!」

 

「アイツハッ!!! アノクズハ私ガ殺スッ!!!!!」

 

「そうか……治崎が壊理ちゃんにやってきたこと怒りが、その暴走を促進させてるんだな…!!」

 

幻神は緑谷へ飛びかかり、爪を立て突き出す。

緑谷その攻撃を避けるべく跳躍する。

そして幻神の攻撃が地に激突すれば、大きく破壊され崩れた。

 

「オ前モッ!! アノクズ共ト同ジカ!? 邪魔スルノカ!? ダッタラ殺スッッ!!!!!」

 

「……違うだろ、違うだろ!!!」

 

「ッ!?」

 

緑谷は天井を足場代わりにするように着き、幻神へ真っすぐ飛ぶ。

幻神は腰部の装甲をスライド展開し、ミサイルを緑谷へと放つが、緑谷はそれらをすべて避けていった。

 

「君の"個性"は!! 胸の歌は復讐や殺すための力じゃないだろ!!!」

 

「ヴァ”ッ!?」

 

緑谷は遠心力を乗せた踵落としを幻神の頭部に放ち、幻神は諸に受ける。

 

「言ったはずだ! 胸の歌で困ってる人を救けたいって!! 自分や美音さんたちのような苦しんでる子たちを救いたいって!!!」

 

「ヴル”サイッ!!!!」

 

幻神は憎悪、怒りのままに叫ぶ。

 

 

「――()()()()()()()1()()()()()!!!! ()()()()()()()()()()()()()()()()()()使()()()()()()()()()ッ!!!!!!!!」

 

 

緑谷は違和感を感じた。

その言葉は何を意味し言っているのか。

幻神が言っているはずのその言葉はまるで——

 

——()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「イツカ絶対アイツラ”モ”殺ス……!! ソノ前ニアノクズヲ殺スッ!!! ダカラ”ァ”………邪魔スル”ナ”ァ”ァ”ァ”ア”ア”ア”ッ!!!!!!!」

 

「ッ!」

 

その違和感に気を取られてる隙に、幻神は緑谷へ襲い掛かる。

緑谷はハッと気づき受け止めるも、僅かな誤差が生じたために幻神は緑谷の肩、正確には首筋に牙を突き立て喰らいついた。

 

「(さっきの言葉は今は考えるな…今は…!!)」

 

緑谷は幻神の背に両腕を回し、強く抱きしめた。

 

「絶対に止める…! 絶対に救けるッ!!」

 

幻神は牙を更に尖らせ深く刺すが、緑谷は緩ませることなく強くする。

 

「……わかるとは言わない。でも、何となくわかってた……幻神、君はずっと美音さんを救えなかったことを悔やんでたんだろ? 無事って言っても、奥底ではまだ後悔があったんだろ?」

 

「ヴゥ”ゥ”ゥ”ゥ”ヴヴヴゥ”ゥ”ヴヴッ!!!!!!!」

 

「僕だって悔しかった! あの日君を、君たちを救けられなかったことが!! 何もできずただ見守ることしか出来なくて、悔しかった!!」

 

緑谷は自身の首筋に喰らいつく幻神へ言葉を掛ける。己の未熟さ、神野区の日に何もできずただ戦いを見守る事しか出来ずにいたことを、彼はずっと悔やんでいた。

 

「もう、これ以上何もできないなんて嫌なんだ…壊理ちゃんだけじゃない、君も救けたい!!」

 

だが幻神は片腕を上げ、肥大化と同時にガトリング砲へと変形させる。

されど緑谷は片手を幻神の後頭部へと移し、さらに抱きしめた。

 

「(もうこの手を放すものか…もう二度と、離れるものか!! 救けるんだッ!!)」

 

 

——僕の、陽だまりをッ!!!!

 

 

瞬間。

緑谷出久の『OFA』が奥底からあふれ出るかのように出力が上がり始める。

同時に暴走しているにもかかわらず幻神の『紡心(アクシア)』が呼応し始めた。

 

——それはまるで、繋ぎ合うためかのごとく。

 

緑谷から九つの輝きが溢れ出し、幻神の禍々しいオーラを包み込む。

 

九つの輝きの奥から七つの輝きが現れ、次第に大きくなっていき、九つの輝きと1つに混ざり合うようになる。

その輝きは歪な空間全体に広がり、すぐに薄く消えていく。

そして輝きの中心点にいた2人の姿が露になる。

 

 

そこにはギアも解除され元の姿となっている幻神と、その幻神を未だ抱きしめたままの緑谷がいる。

 

 

「——……幻神?」

 

緑谷がゆっくりと身体を離した瞬間、ガクッと幻神は力が抜けたように倒れかけ、緑谷は咄嗟に支える。

 

「幻神!?」

 

幻神は瞼を閉じ、気絶している。

それを見た緑谷は安堵した。

 

「ッ……ごめん、辛いときに傍にいれない僕で」

 

緑谷は気絶している幻神に謝罪しながら、壁沿いに移動しそっと座らせる。

 

「(すぐにナイトアイの加勢と、通形先輩と壊理ちゃんを——)」

 

 

——サァァァアアアッ!!!!」

 

 

突然の通形の叫び。

その叫びが耳に入ったことで緑谷は驚愕の表情一色に染まり、バッと治崎とナイトアイを見る。

そこには——

 

「……ッ!!!」

 

 

——棘によって腹部を貫通され、左腕も引き裂かれたサー・ナイトアイの姿があった。

 

 

 

 






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