機動戦士 ガッターロボ號   作:しんしー

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第12話 ダグ・スネーク渓谷

 旧世紀に北米大陸を分割していたアラスカとカナダの国境線近くに、その渓谷はあった。

 複雑な地形の中にある幅わずか100メートル余りの渓谷。

 『ドラゴントータス』の進路を確保するべく、ランバ・ラル隊の先遣を務めるモビルビーストの一団が渓谷を進んでいた。

 その進路を、突然ダムのような巨大な壁が遮った。

 

「ナンダ、コレハ…?」

 

 つたない思考でサイボーグゾンビたちが訝しむ中、高さ30メートルはあろう巨壁がローラーとなってモビルビーストに襲い掛かった。

 逃れようのない一本道で、先頭にいた数体のモビルビーストがローラーと地面の間に引きずり込まれ圧殺されていった。

 

「テキダ、ウテ、ウテ!」

 

 モビルビーストが内蔵あるいは手持ちの火器を乱射するが、鋼鉄のローラーはすべての攻撃をはじきながら、その中心線から左右に割れた。

 ローラーを脚部にみなし、中から人型の上半身が現れた。

 240ミリ低反動キャノンを両肩に乗せたガンキャノンだ。

 しかしその両腕は4連装ポップミサイルランチャーに換装され、赤いボディの左胸には白字でC-109と機体番号が書かれている。

 

「ナンダコレハ、もびるあーまーカ?!」

 

 モビルビーストの部隊もやられるだけではなかった。

 上空から攻撃しようと数体のモビルビーストが飛び上がる。

 超巨大なガンキャノンの背後から痩身のジムが跳躍して現れた。

 空中で機体を丸めたジムは回転しながら全身のメガ粒子砲を全方位に発射した。

 それは戦場を彩るミラーボールである。

 モビルビーストの軍団は無数の破壊痕を穿たれた。

 動けなくなった悪魔たちの機体を、キャノン・ローラーが無慈悲に粉砕していく。

 

「ダメダ、ゼンメツスル!」

 

 連邦軍の奇怪な兵器に背を向け遁走するモビルビーストの前に、ゴウたちの乗るデブ・ロッガーが立ちふさがった。

 デブ・ロッガーの両腕のミサイルランチャーから白煙がのび、その先ですべてのモビルビーストが沈黙した。

 

「どうだぁ、ざまあ見やがれジオンの怪物ども!」

「…バカが、やったのは俺たち地上軍のデプ・ロッガーだ」

 

 戦いは新たな局面を迎えようとしていた。

 

 

 進軍を続ける『ドラゴントータス』の上甲板に哨戒艇ルッグンが着艦した。

 その機体に乗る男を知る者ならば違和感を拭えなかっただろう。

 その男が乗るならば、古代中国の白磁を思わせる航空機には不似合いな装飾がされている筈だからだ。

 格納庫に収められたルッグンから、地球侵攻軍総司令マ・クベ大佐が静かに『ドラゴントータス』に移乗した。

 

「ラル中佐。マ・クベ大佐がお着きになられました」

 

 大スクリーンには敵味方の配置を描いた地形図が投影されている。

 艦長席からスクリーンを睨んでいるランバ・ラル中佐に、クランプ中尉が声を掛けた。

 

「待たせておけ」

 

 ランバ・ラルは不機嫌さを隠さず答えた。

 

「何を悠長なことを言っている、ランバ・ラル中佐」

 

 人を見下した静かな声がラルの背後からかけられた。

 マ・クベ大佐である。

 

「この期に及んで戦略の見直しか? それとも尻尾を巻いて宇宙へ逃げ帰る算段でも探しているのか?」

「ようこそ、とは申し上げられませんな、マ・クベ大佐。この『ドラゴントータス』はギレン閣下から任された儂の艦だ。誰であろうと勝手な乗艦を認めるわけにはいきませぬ」

「この北米戦線は第二次地球制圧作戦の要だ。そんな重要な戦線で、貴公はそのギレン閣下の貴重なモビルビースト部隊を全滅させたのだぞ。キシリア様がそのような無様を許されると思うか?」

「儂はキシリア殿は好かん」

「聞かなかったことにしよう。だが、この艦の指揮は一時的に私が預かる」

「なんだと?!」

「キシリア様はギレン閣下の立てられた北米大陸奪還作戦の遅れに大変心を痛めておられる。ゆえに、この私がギレン閣下を喜ばせて差し上げようと言うのだよ」

「東ヨーロッパ戦線はどうされるのだ?」

「レビルの相手などウラガンに任せておけばよい。あのような戦線はこちらの戦いを欺くための囮だよ」

「ふざけないでいただきたい。貴公にこの戦線のなにがわかると言うのだ!」

「ウラガンは貴公をこう評していたよ。戦バカ、とな。この私が大局的なものの見方というものを教えて差し上げよう、ラル中佐」

 

 マ・クベ大佐は陰湿な笑いを浮かべてそう言った。

 

 

 デブ・ロッガーはへビィ・ホーク級陸上戦艦『アイダホ』の格納庫に収容された。

 『アイダホ』は格納庫と艦橋がある胴体部分をはさむように双頭の艦首が前方へ伸び、その間には特設された超大型メガ粒子砲が搭載されている。

 ゴウは甲板に出た。

 『アイダホ』の傍らに駐機されている異様なガンキャノンを見下ろしながら思わず呟く。

 

「…なんだこりゃ、ガンキャノンって言っていいのか、こいつは?」

「あれは連邦陸軍が開発した超重量型対地制圧兵器『キャノン・ローラーT8000』だ」

 

 ゴウが振り向くと、ビア樽のように太った双子のパイロットと、きつい目をした長身の女性パイロットが立っていた。

 

「俺たちはキャノン・ローラーのパイロット、ボブ・ホフナー中尉とサム・ホフナー中尉だ」

「私はジム・ビームのパイロット、ティラミス中尉。よろしくね、宇宙軍のお嬢さん」

 

 ティラミス中尉はミチルダに濃厚なハグをした。

 

「あー、ティラミス、おまえの嗜好をどうこう言うつもりはないが、彼女がそういう趣味とは限らねえ。しばらくは控えておけ」

 

 ゴウたちの背後から、松葉杖をつきながらやってきたシュワルツが声を掛けた。

 

「いいじゃないの、ねえミチルダ中尉。この戦争は愚かな男どもが始めたものよ。なら、私たち女性がこの戦争を終わらせる。そうでしょう?」

 

 ティラミス中尉はミチルダの耳元で囁くようにそう言った。

 

「なんだ、あの女は?」

 

 ゴウの問いにサム・ホフナー中尉が答える。

 

「気にするな。パートナーの好みが俺たちとは違うってだけだよ。悪い奴じゃない」

「大丈夫か、ミチルダ?」

 

 シュワルツはミチルダに歩み寄ってためらいがちに声を掛けた。

 ゴウが敏感に察してシュワルツに噛みつく。

 

「おまえも何言ってんだよ、シュワルツ。テメ―、宇宙軍は嫌いなんじゃなかったのか」

「いや、俺は彼女が…ミチルダが気になったから」

 

 動揺しながらそう言ったシュワルツはミチルダから離れた。

 ボブとサムの二人がこらえきれずに笑い出す。

 

「これは…驚いたな」

「シュワルツのヤツ、完全にイカレいかれちまってるな。あいつのあんな目つきは初めて見たぜ」

「あいつ、女にはモテるくせに絶対に近寄らせなかったからな」

 

 ゴウはミチルダの様子を窺った。

 

「なんですか、ゴウ」

 

 きょとんと答えたミチルダにゴウは気勢を削がれた。

 

「いや、えーと…何でもない。おい、このキャノン・ローラーってのはどうやって作ったんだ? こんなバカでかいローラー、どうやって動かしてんだ」

「こいつはジャブローの地盤を支える支柱を転用したんだ。地球上であれより頑強なものはないってくらい丈夫だぜ」

 

 ボブ・ホフナー中尉が自慢げに答える。

 

「…へえー…」

 

 甲板を歩いてキャノン・ローラーを横から眺めたゴウはその足を止めた。

 

「…なあ。あのローラー部分、中はがらんどうみたいだが…なにか入ってないか?」

 

 ゴウは目をこすりながらボブ・ホフナー中尉に尋ねた。

 

「ああ、それはガンタンクだ。キャノン・ローラーはあれがローラーの内部で前進することで走行するんだ。陸戦強襲型ガンタンク、ガンタンク試作1号機、量産型ガンタンク、局地戦型ガンタンク、ガンタンクⅡ…左右のローラーに4機ずつ、計8機のガンタンクがアイツの動力源だ」

「…はぁ~、まさかの回し車かよ…地球人の発想もものすげえな…」

「あちらのモビルスーツ…あれはジムですか?」

 

 ミチルダが尋ねると、リンダ中尉が答える。

 

「あれは私の『ジム・ビーム』…機体のあらゆる箇所に超短砲身・超小口径のメガ粒子砲が装備されている、モビルスーツをベースにしたビーム砲台よ。極限まで収束率を高めてレーザーのようにしたメガ粒子を機体を回転させながら、ミラーボールのように一斉発射することで無差別に敵を撃ち抜く。射程も威力も決して高いとは言えないけれど敵の足を止めるには十分よ」

「そこを俺たちのキャノン・ローラーが踏みつぶすって寸法だ」

「フン、出力をメガ粒子砲に振り向けるために機体を軽くしようってんで装甲はないに等しいがな」

 

 ティラミス中尉はちらりとシュワルツを見た。

 

「敵の攻撃なんて当たらなければどうってことはないわ。空軍さんの可変モビルスーツみたいに物量で力押しの機体とは違うのよ」

「デブ・ロッガーをモビルスーツなんて子供の玩具みたいな名前で呼ぶんじゃねえと散々言ってるだろうが!」

「元気そうだね、パイロットの諸君」

 

 柔らかい声に一同が振り向くと、壮年で豊かな髭をたくわえた温厚そうな将校が立っていた。

 

「私がこの艦の艦長だ。アイダホへようこそ」

 

 ゴウは差し出された手を素直に握り返した。

 初対面の人間にはいちいち狂犬のように噛みつきたがるゴウにそうさせてしまう、不思議な包容力を持った男だ。

 

「地上軍はこんなすげえ移動基地を作り上げていたのか…艦体の真ん中にあるあの巨大なメガ粒子砲にはたまげたぜ」

「ジブラルタル砲と名付けられていてね。標準的なメガ粒子砲の5倍以上の射程と破壊力がある。小さな町なら丸ごと消滅させてしまうほどの破壊力だ。宇宙で使えばスペースコロニーを2つまとめて貫通させるくらいは何でもない」

「地上軍もとんでもねえな…」

「この艦が戦う相手…『ドラゴントータス』は小島のような巨大な移動基地だ。そいつは今、北西2000キロの位置から北米大陸を南下している」

「そんなヤツと戦うためにこの艦は造られたってことか? この艦も相当なもんだとはわかるが…」

「なに、顔を見ることができればどんな敵とも互角に戦う自信はある。問題はいかにそれまで発見されることなくしのげるか…だ」

「艦長!」

 

 アイダホの兵士が艦長の背後から声を掛けた。

 

「北北西20キロの地点に敵影らしき物体が2機、確認できます」

「フム。見張りのシャトナー中尉を偵察に出させたまえ」

「了解しました」

 

 兵士が通信機に声を掛けると、キャノン・ローラーの陰から61式戦車が姿を現した。

 妙に、デカい。

 ゴウが訝しむ間もなく、61式戦車は突然立ち上がり人型を取った。

 

「あ、あれも地上軍のモビルスーツか?!」

「SG-25ブラント。陸軍航空部隊の可変戦車だ」

「戦車でモビルスーツなのに航空部隊なのか…?」

「パイロットのシャフナー中尉は優秀な元戦闘機乗りだよ」

 

 艦長は柔らかな笑顔でゴウに言った。

 その言葉が終わるのを待っていたかのように、人型に変形したブラントは脚部の熱核ジェットエンジンをバーストさせ、アラスカの空へ消えた。

 

「本当だ…」

 

 ゴウは、自分たちのガッターも相当なものであることを忘れ、アラスカの青い空を見上げたまま呟いた。

 

 

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