機動戦士 ガッターロボ號   作:しんしー

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第15話 死地へ

 ドラゴントータスはその速度を上げていた。

 20時間後にはサーモンパークと呼ばれる峡谷を通過する。

 

「マ・クベ大佐。何故ドラゴントータスの速度を上げるのです。危険すぎる!」

 

 ランバ・ラル中佐は艦長席に座るマ・クベ大佐に声を荒げて抗議した。

 

「こちらの侵攻は連邦も確実に把握している。にもかかわらず何の動きを見せないのは策を弄しているに間違いない。進軍を遅らせ様子を見るべきだ!」

「何度も言っているとおり、貴官が敬愛するギレン閣下の北米大陸奪還作戦は大きく停滞している。それでよいのかね、ランバ・ラル」

「だが、連邦のやつらは明らかに何か企んでいる。それがわかるまで様子を見るべきだ」

「フフ、戦バカも戦場の風を読めなくなったようだな。大丈夫だよ。このドラゴントータスの前方にはモビルビーストの軍団が先行している。連邦軍が何を企んでいようとすべて蹴散らして見せよう」

 

 マ・クベ大佐はハ虫類のように感情のない顔に余裕の笑みを浮かべた。

 

 マ・クベの戦略は結果的には的外れのものではなかった。

 ドラゴントータスの進軍速度が上がったことにより決戦の場であるサーモンパークに、アイダホが間に合わなくなる恐れが出てきたのだ。

 連邦の戦闘メカ軍団に死に場所ができた。

 サーモンパーク渓谷の北北東10キロの地点。ここでドラゴントータスの足止めをする。

 その時間はわずか30分でいい。

 だが、自分たちが死ぬには十分すぎる時間であることをシュワルツ以下パイロットたちは理解していた。

 アイダホ内の、格納庫に通じる通路にゴウとミチルダはいた。

 デプ・ロッガーはじめほかの戦闘メカたちは出撃の最終準備に入っている。

 だが、ゴウたちのもとにガッターロボはまだ現れない。

 

「ガイのヤロウ、何やってやがる…せっかくガッターが修理できてもこの戦いに間に合わなけりゃ何の意味もねえぜ」

「今は待つしかありません…ありませんが、しかし…」

 

 ミチルダもゴウと同じ気持ちだった。焦りは抑えきれない。

 

「ミチルダ」

 

 声の主はシュワルツだった。

 

「なんだシュワルツ、またおれたちをコケにしに来やがったか?」

「そう絡むな。おまえとバカをやるのもこれで最後かもしれん」

 

 シュワルツはいつになく真面目な顔で呟くように言った。

 

「なんだと?」

「今度の作戦はきつい。生還率は10パーセントに満たないだろう。俺たちはアイダホが奴らに接近する時間を稼ぐ囮だ。敵の全戦力をこちらに引きつけ、その隙にこのアイダホがドラゴントータスに仕掛ける。このアラスカ戦線最大最後の戦いになるだろう」

「シュワルツ、何をやってる! 早く出撃準備をせんか!」

 

 シュワルツの背後からランパートが怒鳴りつけた。

 その勢いで傷が痛んだのか悲鳴を上げ、付き添っていた衛生兵に介助されている。

 シュワルツはわずかに苦笑いを浮かべながらミチルダに向き直った。

 

「おまけに俺の相棒はあの調子だ。とても生きては帰れねえ。…最後になりそうだから言っておく。ミチルダ、俺はおまえが好きだ」

 

 ミチルダは表情を変えずにシュワルツを見据えている。

 

「俺は宇宙軍のサルどもは今も好きになれない。…奴らもやるだけのことはやって、それでもコロニーが落ちた…そんなことはわかっている。悪いのはジオンの連中だ。だがな、地球にいてあの大惨事を目の当たりにした人間は…それでも宇宙人どもを許せねえ。たとえ友軍であってもな。だがおまえは…シャード・スノー基地で体を張って俺を助けてくれた。宇宙で生きてる奴らも俺たちと同じ人間だってことを身をもってわからせてくれた。初めてスペースノイドを尊敬したよ。そして、あんたは俺のタイプだ」

 

 シュワルツは真面目な顔で、柔らかにそう言った。

 何も言わずシュワルツを見つめるミチルダの態度に、ゴウは悟った。

 

「最後に別れのキスの一つもしたいが、気にする奴もいるだろうからな。そうもいかんだろう」

 

 シュワルツは静かに右手を差し出した。

 ミチルダもゆっくりとその右手に自分の手を重ねようとする。

 

「だーっ、なにモタモタしてんだおめぇら! やりたきゃさっさとやりやがれ、この幸せもんどもが!」

 

 ゴウは二人の頭を掴むと強引に唇を重ねさせた。

 

「シュワルツてめぇ、これで生き残ったらただじゃおかねえからな!」

 

 

 サーモンパーク渓谷北北東10キロ地点。

 デプ・ロッガー、キャノン・ローラー、ジム・ビーム。

 作戦行動予定どおりなら、あと数十分でわずか三機の決死隊が戦場となる大地に立つ筈の時間だ。

 アイダホの艦橋で、ゴウとミチルダは戦況をただ推測するしかない。

 

「よし。アイダホ、第一エンジン点火! 続けて第二、第三エンジン点火! 全速でサーモンパーク渓谷へ進軍する!」

 

 艦長の命令にアイダホの熱核ジェットエンジンがうなりを上げ、ホバークラフトにより中空に浮かび上がった。

 アラスカの密林をなぎ倒しながら、巨体がゆっくりと移動を開始する。

 

「すげぇ! これならジオンのやつらがどんな武器を持ってようと蹴散らしてやれるぜ!」

 

 ゴウは興奮のあまり叫び声をあげる。オペレーターの一人が緊迫した声で声を上げた。

 

「艦長、デコイ部隊からの連絡が途絶えました!」

「デコイ部隊って言うと、シュワルツたちを援護する部隊か?」

 

 ゴウの言葉にミチルダが答える。

 

「戦闘メカ部隊が囮だと言うことに気づかせないためのさらなる囮部隊です。渓谷の河の合流地点で西から攻撃するデコイ部隊と、正面からの戦闘メカ軍団が敵を挟撃する…オペレーターの方、通信が途絶えたと言うのはミノフスキー粒子の干渉によるものではないのですか?」

「違います! 通信の途中で明確に途絶えました!」

「艦長、これは…」

 

 ミチルダは艦長に振り返った。

 

「こちらの作戦は読まれたな…デコイ部隊は通常戦力の部隊だ。襲ったのはドラゴントータスから先行しているモビルビースト軍団の斥候の部隊だろう…少数だろうが、デコイ部隊はすでに全滅したな…」

「そりゃ…ジオンのモビルビーストの大群をシュワルツたちだけで何とかするってことだな? すぐに連絡しねえと奴らもやられるぜ!」

「駄目だ」

 

 艦長は目を閉じ冷静に言葉を繋げた。

 

「こちらから発信すればこのアイダホの存在を奴らに悟られる。どんな犠牲が出ようとそれだけは避けねばならん」

「なら、おれたちが行く!」

 

 ゴウは格納庫へと駆けだした。ミチルダも後に続く。

 

「畜生…ガイ、早く来やがれ…!」

 

 

 その頃、ガッターロボはハコフグを護衛してシャード・スノー基地へと向かっていた。

 

「ガイ少尉、ここまで来ればこちらはもう大丈夫だ。戦線へ…ゴウたちのもとへ向かってくれ」

 

 ソノバ技師長があちこち損傷したハコフグの機体を調べながらガイに言った。

 

『了解。これよりゴウたちと合流します』

 

 スーパーガッター號はハコフグと進路を違え、戦場へと飛翔した。

 

「待っていろ、ゴウ、ミチルダ…ガッターロボが、今行く…!」

 

 

 ハイボールでシュワルツたちのもとへと向かったゴウとミチルダは、錯乱した戦闘メカ軍団を目の当たりにした。

 

「あのバカどもー、また幻に惑わされてやがる」

「ゴウ、また照明弾を」

「補給してねえ、弾切れだ」

「なら!」

「ああ。幻のおおもとをぶっ倒す!」

 

 ハイボールは機体を倒し上部スラスターを後方に向けると全力で噴射した。

 機体下面の針を伸ばし、人の顔だけのモビルビーストの幻惑光を放つ巨大な目に向けて特攻する。

 が、巨大な口の中から手が伸びてきた。

 ハエ叩きのようにハイボールを叩き落そうとする。

 出力任せで突っ込んでいるハイボールに回避の術はない。

 

「駄目か!」

 

 一瞬早く、空から落ちてきた何かが巨大な顔を粉砕した。

 それを、ゴウとミチルダが見上げる。

 

「遅くなったな、ゴウ、ミチルダ! ガッターロボ、参上だ!」

 

 通信機越しにガイの声が力強く響く。

 戦闘兵器に似つかわしくない派手な裃をまとったガッターロボが、ゴウとミチルダを見下ろしていた。

 

「てめえ、この野郎…出待ちしてやがったな!」

 

 叫びながら、ゴウは全身に新しい力が漲ってくる感覚を覚えた。

 

 

 

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