機動戦士 ガッターロボ號   作:しんしー

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第16話 アラスカの死闘

 修復されたガッターのコクピットはパイロットシートに至るまで新品に置き換えられていた。

 ゴウは万感の思いで出力レバーを静かに押し込む。

 ガッターの腹の底から、エネルギーを産み出すプラズマ・ボムス動力炉の振動が心地よく響いてくる。

 ゴウが待ち焦がれていた、戦う力だ。

 

「…ガッターだ」

 

 思わずゴウはその言葉を口に出す。

 

「ああ。ガッターロボだ」

 

 ガイが静かに力強く言葉を返す。

 ミチルダは何も言わないが、彼女もまた、握りしめた操縦桿と身体を包むパイロットシートの程よい硬さにガッターへの帰還を実感していることだろう。

 

『…宇宙軍のポンコツメカもようやく元気になったようだな』

 

 シュワルツが悪い口でゴウたちに語り掛けた。

 

「ああ。おれたちとガッターロボが揃ったからにはテメーらに出番はないぜ。全て任せとけってもんだ」

『頼もしいが、あの大軍団を見てもそんなことが言ってられるのか?』

 

 ボブ中尉の言葉を受けて、ゴウたちは渓谷の先を見つめた。

 奇怪な生物メカたちがこれでもかと言わんばかりに近づいてくる。

 

『あの大軍団を俺たちだけで30分も足止めするのかよ…』

『サム、ドラゴントータスのスピードが上がってる…そんなには要らないかもしれないわ』

 

 ティラミス中尉が固い声で答えた。

 

「シュワルツ、デプ・ロッガーはどうなんだ。ランパートは戦えるのか?」

 

 ゴウの言葉を受けてシュワルツはランパートの生体反応データを確認した。

 生きているのが奇跡のような数値だ。

 シュワルツはそのデータを黙殺した。

 

『うるせえ、栄えある連邦地上軍が宇宙のサルどもに心配される筋合いはねえ!』

「だけど、シュワルツ中尉!」

 

 シュワルツはミチルダの不安気な顔を映すサブモニターから目をそらし怒鳴った。

 

『黙れ、ここは戦場だ! いつまで恋愛ごっこしてやがる! 死ぬも生きるも、そんなことは俺たち連邦地上軍が決める!』

 

 ゴウはシュワルツの覚悟を受け取った。

 ガッター號のデュアルアイの瞳がぎろりとモビルビースト軍団をねめつける。

 

「どのみちデカい花火を打ち上げなきゃならねんだ。派手にいくぜ!」

 

 ゴウの雄叫びとともに、スーパーガッター號はスラスター全開でモビルビーストの群れに飛び込んだ。

 

『なにをする、ガッター!』

 

 サム・ホスナ―中尉が叫ぶ。

 

「敵の陣形をバラバラにしてやる。行くぞ、ガイ、ミチルダ!」

「任せてください」

「うひょ!」

 

 スーパーガッター號に、モビルビーストが放つ120ミリ機関砲の銃弾、ミサイル、熱線放射があらゆる方向から襲い掛かる。

 だが、スーパーガッター號の追加装甲はその破壊力を全てはねのけた。

 

『…なんて防御力だ…』

 

 ボブ・ホスナ―中尉が思わず呟く。

 だが。

 

「いらん!」

 

 ゴウが叫んだ。

 

「同感です!」

 

 ミチルダも叫ぶ。

 

「そういうと思ってたよ! ゴウ、赤いボタンだ!」

 

 ガイの言葉にゴウは外付けされた赤いボタンをぶっ叩いた。

 スーパーガッター號は身にまとったすべての追加装甲をパージした。

 ガッター號は2号機のブースターで力強く、しかし軽やかに敵陣のさらなる奥へと飛び込んでいく。

 

『バカか、てめえぇらは!』

 

 シュワルツが叫んだ。

 

「うるせえ! おれたちは勝つために戦うんだ! 守りの装備なんざいらねえ!」

「これがあるとガッターの本当の能力が発揮できません!」

「そういうことだ、よく見ていろ、連邦地上軍!」

 

 ガイも叫んだ。

 猛スピードのまま、ガッターは3機に分離した。

 モビルビーストの間をかいくぐり翻弄する。

 次の瞬間、ガッターは右腕に巨大なドリルを備えたガッター翔へと姿を変えていた。

 初めて目の当たりにするガッターの真骨頂に、シュワルツたちも驚きの声を上げた。

 ミチルダは手近にいた蛸の下半身に乗ったザクの腹をドリルで突き破った。

 ザクの身体を突き抜けたドリルの先端からルナ・チタリウム製の弾丸を撒き散らし、数体のモビルビーストを蜂の巣にする。

 

「ジャッ!」

 

 ガッター翔は上空から跳びかかってくるモビルビーストに引き抜いたドリルを向けて突貫し破壊した。

 そのまま数体の飛行型モビルビーストを引き裂いていく。

 そして再びガッターは3機に分離した。

 雪原にガッター凱が出現した。

 

「オレも暴れさせてもらうぜ! うぉりゃああああ!」

 

 ガイは肘のアーマーからガッターハンマーを作り出し、振り回して円を描いた。

 鉄球部分にバーニアを追加されたハイパーハンマーは推進力を大幅に強化されている。

 回転力にさらなる加速を乗せて群がるビーストを抉り破壊した。

 ガッター凱はコアファイター2号機のクローラーで、雪原をものともせず走りながら敵をなぎ倒す。

 

「グ…ギャォ…!」

 

 悲鳴を上げて倒れたモビルビーストを、キャノン・ローラーが両肩の240ミリ低反動キャノンで粉砕した。

 ガッターは再度分離合体しガッター號になる。

 上空から舞い降りてきたデプ・ロッガーに背中を預け、ハンディマシンガンを乱射した。

 デプ・ロッガーもその腕に持った大型のマシンキャノンで、もはや敵の位置すらつかめなくなったモビルビーストを破壊していく。

 別の方向では、ジム・ビームが屹立したまま頭部を庇うように腕を組む。

 全身から、数千発の小型ミサイルが発射され、煙を引きながらアラスカの熱い大気を引き裂いた。

 ジム・ビームは超小型のメガ粒子砲では破壊力に乏しいと判断され、代わりに全身にミサイルポッドが装備されたのだ。

 ボディカラーも敵を引きつけるため赤に変更され、新たなペットネームもつけられた。

『ブラッティ・タイタン』。

 爆砕したモビルビーストのオイルと言う体液を浴びた血まみれの巨神は次なる獲物を求め戦場を走る。

 キャノン・ローラーもまた巨神を凌ぐさらなる巨体をきしませモビルビーストに近づいていく。

 巨大なローラーが動けなくなったビーストたちを圧殺し、地球連邦軍戦闘メカ軍団の前哨戦は終わった。

 

「さて…ここからだな」

 

 ゴウは渓谷の先に現れた巨大な壁を睨みつけた。

 高さ100メートルを超えるドラゴントータスの艦首部分が、雪を溶かし湯気としながら轟音とともに接近していた。

 

「アイダホはまだ来やがらねえのか…!」

 

 シュワルツが呟いた。

 

「あんな化け物を足止めできるのか?」

「ビビるな、ガイ! できるに決まってるだろうが、命を懸けりゃあな!」

 

 ゴウは自らに喝を入れるように叫んだ。

 

 キャノン・ローラーが戦闘メカ軍団の先頭に立った。

 

「そして、そいつはまず俺たちの役目だ。おまえたちは下がってな」

「でないと奴らと一緒に引き潰しちまうぜ」

 

 ボブ・ホフナーとサム・ホフナーが操るキャノン・ローラーがドラゴントータスの艦首のドーザーに取りついた。

 出力全開でドラゴントータスを押し返す。

 

「たかが戦艦一つ!」

「キャノン・ローラーで押し返してやる!」

 

 そのささやかな異常事態を、ドラゴントータスの操舵手は気づいた。

 

「マ・クベ大佐。艦首に何者かが取りついたようです」

「かまわず前進せよ。何があろうと止まることは許さん」

 

 キャノン・ローラーも、止まると言うことを知らなかった。

 ローラーの中の8機のガンタンクの熱核タービンエンジンが暴発せんばかりに出力を絞り出す。

 だが、ボムとサムはキャノン・ローラーの胴体とローラーをつなぐシャフトに亀裂が入る音を聞いた。

 ドラゴントータスの速度は変わることなくただ前進を続ける。

 艦首にへばりついた障害物が巨大なドーザーと地面に挟まれ圧殺されていくことなど意にも解さない。

 

「ボブ! サム!」

 

 キャノン・ローラーのコクピットはすでに圧縮され半壊していたが、通信機はゴウの叫びを二人のパイロットに確かに届けていた。

 

「ガッター、来るな」

「あばよ」

 

 コクピットが潰れた。

 キャノン・ローラーはドラゴントータスに轢き潰され爆発した。

 

「艦首ドーザー部分で爆発!」

 

 報告する操舵手にマ・クベは冷たい視線を送った。

 

「ドラゴントータスの前進に何か支障はあるのか」

「ありません」

「つまらぬことを報告するな。ドラゴントータスの速度を上げよ」

 

 傷一つついていないドラゴントータスの巨大なドーザーが、ガッター號に迫りつつあった。

 

「ゴウ、ガッター翔のドリルで中から攻撃しよう」

 

 ガイが通信機越しに言った。

 

「無理です。チベ級の装甲程度ならともかく、ドロス級の外装を破るだけの力はガッターのドリルにはありません」

 

 ミチルダの答えに、ゴウは狂気の笑みを浮かべた。

 

「なら…ボブとサムに先にやられちまったあの手しかねえな…」

「ああ…ゴウ、俺に変われ。何としてでも奴を止めてやる」

 

 ガイもにたりと笑って答える。

 その時、ガッターの上空を大きな影が駆け抜けていった。

 飛行モードに変形したデブ・ロッガーだ。

 

『おまえたちばかりに良い格好をさせるか。ここは俺たちの見せ場だ! ランパート、前方だ! 全弾ぶっ放せ!』

 

 ランパートの腕が全力で動き、ゆっくりとコンソールパネルを叩いた。

 デブ・ロッガーの機体前部から小山を吹っ飛ばさんばかりのミサイルが発射された。

 

「何事だ!」

 

 ドラゴントータスの巨体を揺るがす衝撃に、艦橋でマ・クベ大佐が叫んだ。

 

「オペレーター、状況を報告せい!」

 

 艦橋の隅に控えているランバ・ラル中佐の冷静な怒声が飛ぶ。

 

「右舷前方、攻撃を受けました!」

「損傷はどのくらいだ」

 

 マ・クベ大佐が尋ねる。

 

「わかりません」

「地球人類どもが…ドラゴントータスを決して止めるな! 前進せよ!」

 

 マ・クベの怒声にあわせるように、さらなる衝撃がドラゴントータスを襲った。

 大量のミサイルで損傷した装甲に、デプ・ロッガーが特攻したのだ。

 ドラゴントータスは艦内に敵の侵入を許した。

 

「ランパート、もう一度だ、全部ぶっ放せぇ!」

 

 ランパートの腕が、コンソールを叩き、それを最後に力なく落ちた。

 ランパートの命と引き換えに、デプ・ロッガーのミサイルがすべて放たれた。

 艦橋で操舵手が叫ぶ。

 

「ドラゴントータス左舷前方、内部から爆発です! 損傷甚大です!」

「駄目だ! 止まることは決して許さん! このまま突き進むのだ!」

 

 マ・クベのそれはもはや狂気だ。

 いや、最早この戦場にいるすべての者が狂気に身を任せていた。

 

『ガッター、どうした! おまえらに死ぬ気はないのか!』

 

 擱座したデブ・ロッガーからシュワルツが叫んだ。

 

「ゴウ、ガイ、私が行きます。チェンジを」

 

 ガッター號は空でガッター翔に変形すると、デプ・ロッガーが作った傷口からドラゴントータスの内部に突入した。

 ドリルの破壊力と圧倒的な推力に任せて巨大な艦内を抉り破壊する。

 艦内のサイボーグゾンビたちがドリルの回転に摺り潰され、焼かれ、破壊されていく。

 

「ミチルダ、艦橋か動力炉を探せ! そこに突っ込めばアイダホを待たなくてもおれたちの勝ちだ!」

 

 ゴウの叫びが終わらぬうちに、ガッター翔は巨大な空間に飛び出した。

 高さは100メートル以上、奥行きも数百メートルはあろうという巨大な格納庫だ。

 そこには、百体以上のモビルビースト整然と並べられていた。

 

「…ジオンのやつら、まだこんなにモビルビーストを持ってやがったのか!」

 

 ゴウは知らずと操縦桿を強く握りしめた。

 ガッターの機体の背部から強い衝撃が来る。

 コアファイター3号機が分離したのだ。

 

『ゴウ、ミチルダ、俺はいったん外れる。おまえたちは先に行け!』

「おう! あとから必ずついてこい、ガイ!」

『ミサイル一発も残さずばら撒いちゃる!』

「ミチルダ、突っ込めぇ!」

 

 ゴウはガッター翔の両脚を構成しているコアファイター1号機をマニュアルで操作し、足首を折りたたんだ。

 露出したスラスターを全開する。

 ガッター翔が広大な格納庫の天井を破り突き進んだ。

 残されたガイはコアファイター3号機に背面飛行をさせると、双胴に収められたミサイルランチャーを解放した。

 数百発のペンシルミサイルが豪雨となってモビルビーストに降り注ぐ。

 地獄の轟音を背に特攻を続けるガッター翔は再び広い空間…格納庫へと飛び出した。

 眼下にはやはり、無数のモビルビーストが並んでいる。

 

「ったく、モビルビーストのバーゲンセールか。ミチルダ、エンジンか艦橋だ。そこを潰しておれたちが勝つ!」

「この艦は大きすぎます。今、私たちが何処にいるのかすらわかりません」

「だな…しっちゃかめっちゃか暴れるしかねえか…ミチルダ、右だ!」

 

 ミチルダはゴウに言われるまま反射的にガッター翔を操り、右からの巨大な質量の塊を回避した。

 自分で確認しようと一瞬でも動きが遅れていれば、飛んできたガッターの全長ほどもある巨大な腕に直撃されていただろう。

 

「…なんだコイツは!」

 

 ガッター翔は格納庫に立つ巨大な機体を見上げた。

 その機体の全長は50メートル以上ある。

 楕円形の円盤状の胴体に一対の長く巨大な足が生えていた。

 ガイがいれば、これがジャブロー攻略のために造られた『ビグ・ザム』というモビルアーマーを基にしていることを見て取っただろう。

 だが、これはモビルビーストだ。

 円盤部分の側面…本来のビグ・ザムならばサブ・メガ粒子砲が装備されている箇所に、筋肉質な人間の腕を艶めかしいまでに再現した巨大なマニュピレーターが何本も装備されていた。

 ガッターに襲い掛かった1本の腕が、ワイヤーで巻き取られ元の位置に戻る。

 

「こりゃまた…随分変態的なモビルビーストだな…」

「見たところ格闘戦仕様の機体ですね」

「いや…冷静にそう言えるアンタも相当だぜ…しかし、どう攻めたもんだかな」

 

 ゴウたちの躊躇いの隙を突くかのように、格闘戦型ビグ・ザムの腕が円盤状の胴体側面を滑って回転した。

 後方から現れる腕にはモビルスーツ用の実体弾バズーカが握られている。

 ガッター翔のいた場所にバズーカの弾体が破壊痕を穿った。

 ガッター翔は格闘戦型ビグ・ザムの足元へと回避していた。

 巨大な敵機の懐に飛び込む回避は決して悪い手ではなかっただろう。

 ただ、格闘戦型ビグ・ザムがそれを想定していたと言うだけのことだ。

 これも艶めかしいラインを描くビグ・ザムの左の脹脛の装甲がはじけ、射出されたワイヤーがガッター翔を捕らえた。

 ビグ・ザムが左脚を蹴りだし、その勢いにガッターは絡めとられたワイヤーごと引きずられた。

 激しい勢いで天井に叩きつけられる。

 その衝撃に、さすがのゴウとミチルダも動きと思考が止まった。

 落下するガッター翔を格闘戦型ビグ・ザムの腕の一つが捕らえた。

 ガッターの機体が軋む。

 ミチルダはガッターを握りしめたビグ・ザムの掌から逃れようとするが、3号機の出力に欠ける今のガッター翔にはそれだけのパワーを絞り出すことができない。

 

「ゴウ、分離して離脱できますか」

「無理だな…がっちり捕まっちまってる」

「!」

 

 ゴウとミチルダを横からの急加速が襲った。

 28本装備された腕が、円盤の外周を高速で回転し始めたのだ。

 

「…この程度のGに負けるおれたちか…ぐっ!」

 

 腕の回転が急停止した。

 すかさず、逆回転し始める。

 ゴウとミチルダの脳が頭蓋骨内でシェイクされた。

 急加速からの停止と逆回転の攻撃が繰り返される。

 機体を傷つけずパイロットだけにダメージを与える攻撃に、ゴウとミチルダは限界を迎えつつあった。

 

『二人とも、次に動きが止まったら歯ァ食いしばれ!』

 

 ゴウとミチルダそれぞれのコクピットにガイの声が響いた。

 ビグ・ザムの腕の回転が、反転するために止まる。

 その時、ガッター翔が貫通させた床の破壊口から、コアファイター3号機が飛び出してきた。

 ガッター凱への合体形態…頭部と腕だけの形態に変形している。

 ガッター凱の剛腕がラリアットをかまし、ガッター翔を捕らえたビグ・ザムの腕をへし折った。

 ビグ・ザムの腕は床に落下し、その衝撃でガッター翔は拘束から解放された。

 

「大丈夫か、ミチルダ、ゴウ!」

「なんとか…助かりました、ガイ」

「…舐めた真似かましてくれやがって…叩き潰してやる!」

 

 ゴウとミチルダは機体を分離させ、三機はガッター號へと合体した。

 

「野郎、覚悟しやがれ…!」

 

 充血して真っ赤になったゴウの眼光は鋭く、鼻血を拭くこともなくビグ・ザムを睥睨した。

 

「ゴウ、ガッターの装甲はG鉱石を使った超硬合金ガンダリウム・ニューZに換装されてる。滅多なことじゃダメージは受け付けない。徹底的にやれ!」

「承知したぜ!」

 

 ガッター號は両肩のトマホークで二刀流の型を取った。

 

「ゴウ、そいつも新装備だ。マニュアル、3秒で読め!」

「…おお、行くぜ、てめぇーら!」

 

 ガッター號はビグ・ザムへ向けて飛んだ。

 最も死角と思しき脚の付け根だ。

 ゴウは空中でダブルトマホークを作動させた。

 両刃となったトマホークの柄の先端からミノフスキー粒子が放出され、刃部分に内蔵されたIフィールド発生器により長さ10メートルほどの幅広の光の剣が生成される。

 ガンダーRX-76はガンダムより早く開発され完成していたがゆえに、手持ちのビーム兵器の完成が間に合わずにいた。

 それが、ようやく完成したのだ。

 

「ソードトマホーク…悪くねえなコイツは!」

 

 ガッター號はビーム剣を掲げてスラスターを全開にし、ビグ・ザムを股間から頭頂まで貫きその上部装甲に立った。

 そのまま、ガッターを襲ってくるビグ・ザムの腕を片っ端から切って落とす。

 ビグ・ザムの上面に何門もの対空機関砲が現れガッターを撃つが、ガッターの装甲は歯牙にもかけない。

 ハンディマシンガンでことごとく返り討ちにした。

 対空機関砲が立て続けに爆発を起こし、その爆炎がゴウたちの視界を奪う。

 その隙にビグ・ザムの装甲が割れ、ガッターの体長をも上回る巨大な腕が出現し、その掌がガッター號を襲った。

 

「二度も捕まるか、バカが!」

 

 捕まった。

 ジャンプしてかわしたガッター號だったが、逃げきることができなかった。

 ガッターの右脚を掴んだビグ・ザムの腕は大きく振りかぶり、ガッター號の脚を手放すことなく壁面に投げつけた。

 右脚をビグ・ザムの掌に残し、ガッターは壁に叩きつけられ、床に落ちた。

 動きの止まったガッターの胸部を、ビグ・ザムの巨大な脚が踏みつけた。

 ガッターの機体各部が軋む。

 

「…調子に乗るな!」

 

 ゴウはソードトマホークでビグ・ザムの片脚を撫で斬った。

 巨体がバランスを崩し倒れ、耳を破壊するような轟音を上げる。

 脱出したガッター號は背中の2号機のスラスターで中空に立った。

 

「ゴウ、ガッターに超高出力メガ粒子砲が装備された。そいつをぶちかませ!」

「メガ粒子砲だ?」

「マニュアル、一秒で読め! 額に装備されてるハイメガキャノンだ」

「ハイメガキャノン…なんだその安直なネーミングは!」

「知るか!」

「なんでもいいです、ゴウ、この気色悪いモビルビーストをぶっ飛ばしましょう!」

「おうよ! …よし、マニュアル読んだ!」

 

 ガッター號の額のアンテナ部分が上にスライドし、メガ粒子砲の発射口が現れた。

 光の粒が凝縮され、溢れ出し、ガッター號の頭部が輝く。

 

「喰らえぇ、ガッタービームだぁぁッ!」

 

 臨界点を超えた粒子が、ガッターロボの体躯を凌ぐほどの光の奔流となって放出された。

 超高温のビームは格闘戦型ビグ・ザムを溶解させ、ドラゴントータスの内部を貫き、艦体下部に敷き詰められたダブテ陸戦艇を数機破壊した。

 その爆発が周囲のダブテ陸戦艇を誘爆させる。

 ドラゴントータスが大きく揺れた。

 それは戦場に疎いマ・クベをして、ドラゴントータスが尋常ならざるダメージを受けたとわかる損壊の衝撃だ。

 

「マ・クベ大佐! 中央艦底で爆発! ドラゴントータス、減速しています! 駄目です、停止します!」

 

 歯噛みするマ・クベに別の管制員が叫ぶ。

 

「本艦左舷後方、距離1400メートル! 巨大な艦影が接近中!」

 

 ヘビィ・フォーク級陸上戦艦アイダホだ。

 ミノフスキー粒子を散布することは、逆にそこに自身がいることを知らせることになる。

 アイダホの艦長は目視やレーダーの利きにくい地形を利用し、ミノフスキー粒子を散布しないことで接近を気づかせなかったのだ。

 アイダホに搭載された砲塔、ミサイルランチャーが満を持して火を噴いた。

 ドラゴントータスも反撃の砲火を浴びせる。

 真正面からの総力戦に、アイダホは火力に劣ることを承知で怯むことなく前進する。

 

「敵艦、停止しません! 衝突します!」

 

 ドラゴントータスの管制員の悲痛な叫びの数秒後、これまでで最大の衝撃がドラゴントータスを襲った。

 ドラゴントータスの左舷後方に、アイダホの双頭の艦首が食い込んでいた。

 

「…艦長、敵のエンジン部分には届かなかったようです」

 

 壁に叩きつけられたアイダホの副長が痛みをこらえつつ立ち上がり、艦長に伝えた。

 

「副長、ジブラルタル砲の発射準備せよ。そして生き残った全乗組員に退艦命令を。5分だ」

「…了解しました」

 

 副長は艦橋要員の兵士たちに全乗組員へ退艦を伝える命令を出させた。

 ジブラルタル砲の発射準備を整え、艦長席を仰ぎ見る。

 

「君も退避しろ。ジブラルタル砲の発射は私一人で十分だ」

「…了解しました」

 

 逡巡する副長に、艦長はもう一度言った。

 

「行きたまえ」

 

 副長は最後の敬礼をし、踵を返し走り出す。

 

「…ああ、副長」

 

 柔らかな声音に変わった艦長の呼び掛けに副長は彼を振り返った。

 

「今まで幾多の戦闘の指揮を執ってきたが…この戦闘は今までの戦いの中で一番充実していたよ。ありがとう」

 

 艦長の柔和な顔に別れを告げて、副長は一心に、アイダホからの退避を開始した。

 ドラゴントータスの艦橋では、マ・クベ大佐が大笑していた。

 

「やりおるわ、地上の人間ごときが! このドラゴントータスにここまでの被害を与えるとはな!」

「誰がそうさせたのだ、マ・クベ大佐…いや、マ・クベ!」

 

 特攻の衝撃で床に叩きつけられたランバ・ラルのダメージは大きい。

 だが、痛みをこらえながら立ち上がったランバ・ラルは、その掌に握った拳銃をマ・クベに向けていた。

 

「わしは散々言った筈だ。貴様が愚かな指揮を執らねばこのようなことにはならなかったのだ。この責任、どのように取るつもりだ!」

「貴様だよ、ランバ・ラル」

 

 マ・クベは嗤いながら答えた。

 

「貴様の無能さがこのような醜態をさらさせたのだ。ギレン閣下にはそのように報告しておく」

「…貴様だけは許すことができん!」

 

 ランバ・ラルの放った銃弾がマ・クベの額を撃ち抜いた…と思われた。

 22口径の弾丸が、マ・クベの額に突き刺さっていた。

 

「そんなものでこの私が殺せるとでも思っているのか? 私は不死身だといつも言っているだろう?」

 

 前髪をいじるような手つきで、マ・クベは額に刺さった弾丸を払った。

 ランバ・ラルは弾倉内のすべての銃弾をマ・クベに叩きこむ。

 肩口に突き刺さった弾丸を、マ・クベは舌を伸ばし舐めるようにして床へ落した。

 

「…貴様、化け物か!」

「ならばどうする?」

「貴様はジオンのためにならぬ。この私が差し違えても始末しよう!」

 

 ランバ・ラルは床を蹴りマ・クベの瘦身にタックルした。

 ラルの渾身の体当たりをマ・クベは悠々と踏みとどまる。

 ラルは素早くマ・クベの背後に回り、両腕でその首を捕らえた。

 

「御免!」

 

 ラルの太い腕がマ・クベの頭骨をあらぬ方向へと捻じ曲げた。

 ランバ・ラルは戦慄する。

 マ・クベが笑ったのだ。 

 

「私は不死身だと言っているだろう?」

 

 腕が肉に食い込む音がした。

 ラルの身体が硬直する。

 マ・クベが腕を回し、五指に生えた凶暴な爪でラルの脇腹を抉っていた。

 ランバ・ラルの腹の中で、マ・クベはぐちゃり、と内臓をかき回す。

 ラルの口からごぼり、と血の塊が吐き出された。

 

「…貴様、人間か…?」

 

 崩れ落ちるランバ・ラルの右手がマ・クベの顔を掴み、渾身の力を込めた。

 しかしその身体は力尽き、マ・クベの顔の皮膚をはがしながら崩れ落ちた。

 

「誰でもいい、誰か、こいつを殺してくれ…!」

 

 自分を見下ろすマ・クベの顔の半分は、ハ虫類の皮膚をしていた。

 

 あと5分での脱出命令はゴウたちにも届いていた。

 ガッター號は残された最後の力を全開にして脱出を図る。

 

「ゴウ、デプ・ロッガーだ!」

 

 擱座したデプ・ロッガーの屍があった。

 

「ガイ、シュワルツたちの生命反応はあるか?!」

「ランパートは駄目だがシュワルツは生きてる」

「世話のかかるバカだ!」

 

 ゴウが操縦席から飛び出すより早く、ミチルダがガッターから飛び降りていた。

 ガッターの腕を滑り、デプ・ロッガーの半壊した機体を駆け上りシュワルツのいる操縦席へとたどり着く。

 

「ハッチを開けなさい、シュワルツ!」

 

 ひしゃげた装甲が、ゆっくりと動き操縦席を解放した。

 

「なぜ来た、ミチルダ…」 

 

 ノーマルスーツを血に染めたシュワルツが力なく問うた。

 

「…こんな私を好きだと言ってくれた人に目の前で死なれてはいい気持ちはしません。捕まって」

 

 ミチルダはシュワルツを担ぎ上げ、ガッターへと走った。

 ゴウが機体を操り2号機の操縦席をミチルダの前に導く。

 

「ミチルダ、使えるスラスターはおまえのところだけだ、全力で飛べぇ!」

 

 満身創痍のガッター號が障害物を撥ね飛ばしながら飛んだ。

 アイダホの艦内から脱出した兵士たちも必死で雪原を走る。

 多くの兵士たちが、まだ安全圏と言える距離まで逃げることはできていない。

 だが、5分だ。

 アイダホ艦長はジブラルタル砲発射のトリガーを引いた。

 双胴の艦首に挟まれた大口径のメガ粒子砲が、アイダホのすべてのエネルギーを吸い尽くし、ドラゴントータスのエンジンめがけて爆光を放った。

 

 アラスカの雪原を強烈な光が襲った。

 

 遅れて、空が裂けるほどの轟音と衝撃。

 

 雪原が溶け大地がむき出しになった。

 地獄の光景を生む爆発の数秒前、マ・クベ中佐の乗るルッグンがドラゴントータスから離脱していた。

 

 

 ドラゴントータスとアイダホがあった空間に、アラスカの凍えた大気が流れ込んでいく。

 全てを消し飛ばそうとする瞬間が終わった。

 

「…誰か…助けてくれ…みんな死んじまう…」

「大丈夫だ…助けが来る。救援が来るまでの辛抱だ…」

「死んじまう…助けが来る前にみんな死んじまう…!」

 

 かろうじて命をつなぎ止めた連邦地上軍の兵士たちが蠢き始めた。

 無傷の者はいなかった。

 四肢を失った者、背中に無数の鉄片を植え込まれた者、身体に穿たれた傷から骨や内臓が溢れ出た者…紙一重で死を免れた者たちが、既にこと切れた同志たちの中で生を望む。

 雪煙の中に巨大な影が動いた。

 

「ガッターだ…」

「ガッターロボだ…! 俺たちはまだ助かるぞ!」

 

 爆心地に吹き込む風がガッターの姿を露わにした時、兵士たちの希望は絶望に変わった。

 人に例えれば丸太ほどもある四散したドラゴントータスの残骸が、ガッター號の腹を貫いていた。

 デュアルアイに宿っていた瞳はもはや動かない。

 操縦席のすべてのコンソールパネルが死んでいた。

 闇に包まれた中でゴウは力尽きていた。

 ギリギリのところで生き延びたことに安堵しているだけだ。

 戦う意思はなくしていない。

 だが、戦う力を失った。

 

「畜生…戦いはこれからだってぇのに、もう鼻血も出ねえ…」

 

 サブモニターに一筋のノイズが走った。

 映像の奥にそれがいた。

 

「うあっああああああー!」

 

 ゴウはたまらず叫んだ。

 機械で造られた悪魔の使者は、ゴウの知覚の中に直接現れた。

 それはゴウ・ジュウモンジを新しい地獄へと導く。

 

 

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