アラスカ戦線で大破したガッターロボはハコフグに回収された。
ガッターを一目見るなり、ソノバ技師長とナント整備士は修復には半年以上かかると判断した。
再びの完全復活には相当かかると予想はしていたものの、ゴウは落胆せずにはいられなかった。
ハコフグは救助した兵士たちを乗せシャード・スノー基地へと向かった。
彼らを基地に降ろし、ジャブローへ向かう。
それはミチルダとの別れとなった。
ミチルダは連邦宇宙軍と地上軍の間で橋渡しの役目につくことにしたのだ。
また、ランパートを欠いたシュワルツのデプ・ロッガーにはもう一人パイロットがいる。
公私混同するミチルダではないが、シュワルツの存在が関係ないとも言えないだろう。
ジャブローで、ゴウたちはハヤトと再会した。
ハヤトはジャブローで『マンジュウ』無力化のためのロシアンルーレットの真っ最中であったが、ニホンで一体だけ異なる動きを見せる『マンジュウ』の報告を受けるなり、すべての作戦を一時中断しニホンへと向かった。
ゴウとガイは否応なく随伴させられた。
そして、接近する『マンジュウ』の無力化に成功し、ゴウ、ハヤト、ケイ、ガイの4人は朽ち果てた五月女研究所に立ち入った。
「ゴウとケイはここで待て。ガイ、おまえはついてこい」
ハヤトとガイは暗い基地内の通路の先に消えた。
「いったい此処はなんだってんだ?」
ゴウは金属の内装がむき出しの通路をハンドライトで照らしながら言った。
手近の扉のノブを捻ってみたが、扉そのものがコンクリートで固められているのかびくともしない。
ケイが固い声で呟くように言った。
「…何か普通じゃない。何かが外へ出てこないように封じ込めようとしているみたい」
「何かってなんだよ」
「…核施設。ミノフスキー核融合炉が造られる前の」
「…暴走した核施設を封じ込めてるってのか?」
「わからないけど…きゃぁっ!」
ケイは悲鳴を上げてゴウにしがみついた。
「なんだ、どうした?」
「あっちにオバケが!」
ゴウはケイが指さす方向を見た。
「なんだよ、なにもいねえじゃねえか」
「…なにか見えたのよ」
「何かってなんだよ」
「白衣を着た…がっちりした体格のおじいさん…科学者みたいだった」
「へえぇぇ、こんなところでラブシーンがしたかったのか」
「バカ言ってんじゃないわよ、…っていうかイヤらしいわね、放しなさい!」
「ここはどうやら研究所らしいが…いったい何の研究をしてたんだ?」
ゴウはすっとぼけた顔で、腕の中で暴れるケイを離さない。
「昼間から隅に置けないな」
防護服を身に着けたハヤトとガイが戻ってきた。
「ジンさん。ここは本当に無人なのか? …人の気配を感じるぜ」
ゴウはケイを放り出して尋ねた。
「ああ…ここはよく出るんだよ。二人ともすぐにこれを着ろ。奥へ向かう」
ハヤトの台詞を受けて、ガイが抱えていた2着の防護服を床に投げた。
「ここで一体何があったんだ?」
「おまえたちが考えているよりずっと凄いことだよ。ここから先はなにが起こるかわからん。油断するなよ」
ハヤトは静かに答えた。
「へええぇ…なんか、楽しそうじゃないの」
ゴウは狂暴さと興奮を秘めた眼差しであたりを見渡し、防護服に手を伸ばした。
★
完全防備した4人は研究所の奥へと進んだ。
ハヤトは頑丈な鉄扉をハンディパソコンでハッキングし開錠する。
ゆっくりと鉄扉が開いた。
ハヤトを除く三人は息を呑んだ。
「どうなってんだ此処は…あたりが結晶化していやがるぜ」
ゴウの言うとおり、金属で造られている筈の武骨な通路の壁面、天井、床、すべてが水晶のようにきらめいていた。
奥へ進むにつれその純度はますます上がっていくようだ。
もはやハンドライトの灯りすら必要なく、結晶化した通路そのものが光を発している。
ゴウが触れてみると結晶は崩れ、粉になってゴウの掌から落ちた。
ハヤトは作業ドックの指示室らしき小部屋に入った。
ゴウたちも後に続く。
「…どういうことだ? ここは結晶化が全く進んでいない。まるで…誰かがそうしているみたいじゃねえか」
ゴウの言うとおりだった。
この部屋はまったく結晶化することなく、今でも使用できそうなコンピュータ端末が並んでいる。
ただし、キーボードなどのインターフェイスはどこか古めかしい。
ハヤトは肩にかけていた測定器の数字を確認した。
「ここのガッター値は正常に戻っている。マスクをはずしていいぞ」
ゴウ、ガイ、ケイの三人は慎重にマスクをはずした。
「…どうなってる? なんだかえらく清々しい空気だ」
ガイが呟き、ゴウがハヤトに問う。
「ジンさん。今アンタ、ガッター値って言ったな。なんだそりゃ」
「…どのくらい昔のことなのか俺にもわからん。わからんが…かつてここはガッター線計画の最前線基地だった。俺は15年前、ここで目覚めたんだよ」
ハヤトの答えに、ゴウはボリボリと頭を掻きむしった。
「…どっから突っ込んでいいのかわからねえんだが…まず、ガッター線てのはなんなんだ」
ゴウはハヤトに問うた。
「宇宙から降り注ぐ未知のエネルギーだ」
ハヤトは指令席と思しき机の上にあった写真立てを手に取った。
ゴウたちが覗き込む。
自分たちとさして違わぬ齢のハヤトが、仲間と思しき数人の老若男女と写っていた。
「…あ、この人、さっき見たオバケの」
ケイが声を上げた。
「五月女博士だ。ガッターエネルギーを発見したこの計画の第一人者だ」
「ちょっと待て。なんでガッターロボと同じガッターエネルギーなんだ? 俺は思いつきでガッターって名付けたんだぞ」
ゴウが声を上げた。
「あの時、俺はぞっとしたよ。これが運命ってヤツなのかとな」
ハヤトは写真を机に戻し、壁際のコンピュータ端末の一つを手慣れた手つきで操作し始めた。
「ガッター線は宇宙からごく少量地球に降り注ぐ放射線だ。ガッターエネルギーを研究した五月女博士は、大胆な仮説を打ち立て発表した」
「なんだ、そりゃ」
「太古、地球上に大量のガッター線が降り注いだ時期があり、それが地球上を制圧していた恐竜を絶滅させたと言うもので、さらにはこのガッター線が哺乳類の進化をうながしてきた…と言うものだ」
「じゃあ、その放射線がなければ人間は猿のままだったって言うのか…?」
「そこまでは俺にもわからん。五月女博士でさえガッター線のすべてを理解していたわけではないからな。ただ、ガッター線はエネルギーとしてすごい力を発揮した。無公害で無限に降り注ぐ次世代のエネルギー源としてその研究は急がれていた。…しかしガッター線にはまだ未知の力があった」
キーボードを叩いていたハヤトが顔を上げた。
壁の向こうから、動力源が動きだす重い音が響いた。
照明が灯り、部屋の中の機器に一斉に灯がともる。
「…あの戦いがなければ…」
ハヤトの頬を脂汗が流れた。
ハヤトのらしからぬ様子にゴウたちは唾を呑んだ。
「ここからは見た方が早い。おまえたち、ついてこい」
一行は奥の扉から部屋を出ると階段を下り、通路を進んだ。
例によって鋼鉄製の重い扉が道を塞いでいる。
ハヤトが再びハンディパソコンで扉の開閉を操作した。
「開くぞ。マスクをつけろ。ここから先はなにがあるか、本当にわからん」
ゴウたちは開いた鉄扉の向こうへ足を踏み入れた。
そこは、天井が見えないほどの高く広い格納庫だ。
その中央に、巨大なモビルスーツ…いや、巨大ロボが静かに立っていた。
赤と白で塗り分けられた巨体。最も目を引くのは頭部を挟み込むほど太く巨大な両肩だ。
間に挟まれた頭部も特徴的な一対の真紅の角があり、様々な図形が人の顔を模したように精悍に配置されている。
そして額に取りつけられているガッター號のそれによく似た3本角のアンテナ。
体躯はどこかガッター號を思わせるが、ガッター號に比べ全体が曲線で形作られており、機械らしさよりも人あるいは生物的な柔らかさを感じさせる。
「ゴウ、ガイ。これが、これが本当のガッターロボ…真ガッターロボだ!」