機動戦士 ガッターロボ號   作:しんしー

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第20話 ハ虫人類の出現

「…おう、アムロか…。

…ガンダムの戦果はどうだ? 順調なのかな? 

…うむ、来るがいい…。

ほら、何をしている、入って入って。

…ジャンク屋という所は情報を集めるのに便利なのでな。ここに住み込みをさせてもらっている。

…こいつをガンダムの記録回路に取り付けろ。

ジオンのモビルスーツの回路を参考に開発した。すごいぞ、ガンダムの戦闘力は数倍に跳ね上がる。持って行け、そしてすぐ取り付けて試すんだ。

…研究中の物がいっぱいある。また連絡はとる。

ささ、行くんだ…。

…ん? んん。戦争はもうじき終わる。そしたら地球へ一度行こう。

…急げ、おまえだって軍人になったんだろうが!」

 

 息子が部屋を飛び出していくのを見送り、テムは椅子に腰かけ、深いため息をつき、眼鏡をはずして目頭を揉んだ。

奥の扉が開いて、ゴウとケイが部屋に入ってくる。

 

「酸素欠乏症のフリも大変だな、テムのおっさん」

「あの子をこっちの戦争に巻き込まないためだ。私は何だってやるさ。…ただなぁ」

「なんだよ」

「アムロに渡したあの回路だよ。君の乗っていたガンダーの戦闘記録から作った。あれをガンダムに取りつければガンダムの性能は本当に数倍跳ね上がる…アムロがわたしの言うことを信じてくれればいいのだが…」

「…お宅の家庭の事情まではわからねえよ。ところで、だ」

「なんだ」

「宇宙に上がってまずここへ行けとジンさんに言われてきた。ここは何なんだ?」

「連邦軍の秘密施設だよ。ガンダー専用の整備工場の一つだ」

「地下のとんでもなく贅沢な整備工場を見てきたよ。中立コロニーにそんなもんがあるなんて…てなことは言わねえがよ、ガッターは確かに相当な金食い虫だな」

「その機体を大破させたのは何処のどいつだ」

 

 ははは…とゴウは笑ってごまかした。

 

「ところで、おれたちがわざわざこんなところまで来た理由だがよ」

「ジン君から連絡を受けている。調べておいたよ」

 

 テムは机に広げていた偽の研究資料や作りかけの電子回路のパーツを乱暴にかき分け、一枚のメモをゴウに渡した。

 

「サイド6、11バンチの……そんなに遠くじゃないな。ここにそいつがいるんだな?」

「なかなか気難しい男のようだ。気をつけて行きたまえ」

「助かったぜ。…ケイ、行くぞ」

「私の方が上官よ、命令しないで」

「へいへい…じゃあな、テムのおっさん」

「ああ。…ゴウ」

「なんだ」

「老婆心で言っておこう。死ぬなよ」

「ああ」

 

 息子と同じドアから出ていく若者二人を見送り、テムは椅子に腰を下ろし、またため息をついた。

 

 

 ゴウとケイは、サイド6・13バンチの山間部…森の中でオフロードエレカを走らせていた。

 このコロニーは地球各地の自然を再現しており、鏡の『河』によって区切られたこのエリアはニホンの山間部を再現している。

 ゴウはむっつりとした顔で黙ってハンドルを握っていた。

 助手席に座っているケイも同様だ。

 二人はこの任務に就いてから幾度目かの口論を終えたところだった。

 真ガッターロボについての言い合いだ。

 ゴウはジオンが繰り出すサイボーグゾンビとモビルビーストに立ち向かうには真ガッターロボ以外にはないと言い張り、ケイはそれを危険だと否定する。

 どちらも、相手の言い分を理解はしていた。

 だが、自身が折れて意見を変えることはできない。

 だから、この議論はいつまでも平行線なのである。

 エレカは山道を徒歩で行く3人組を追い越した。

 剃髪した男二人が、前を歩くやはり剃髪したジュニアハイスクールに通うくらいの少年に付き従って歩いている。

 

「…宗教関係の人かしら」

 

 ケイが呟いた。

 

「最近あんなのが増えてるからな…」

 

 ゴウは反対側の林を横目で見ながらにたりと笑みをこぼした。

 木々の合間から、法衣をまとい錫杖を手にしてこちらを観察している数人の影を見たのだ。

 顔を隠すように山笠を被っていて、ゴウの嗅覚はその影が血を騒がせる面白いものだと訴えている。

 

「この山…なんか楽しいところへ来ちまったようだぜ」

 

 ゴウは興奮を隠さず呟いた。

 それから数十分ほど山道を走り、二人は目的地へ辿り着きエレカを止めた。

 烏竜館。

 木造の廃寺である。

 この13バンチができて間もない頃に建てられたであろう朽ちた木造っぽい寺だ。

 見かけに反して相当に贅沢な建造物である。

 今は格闘術の道場として使われているらしい。

 ゴウとケイが重いバッグを担ぎ門をくぐると、道着を纏った4人の屈強な男が立ちふさがった。

 

「…なんだ、あんたたちは」

 

 ゴウが尋ねると、リーダー格と思われるひと際大柄な男が一歩前に出た。

 

「何処の借金取りかは存ぜぬが、黙ってお引き取りいただきたい」

「ああ? おまえたちの借金なんか知らねえよ。おれたちはここの道場の師範に会いに来ただけだ。道場破りって訳でもねえから安心してすぐ取り次いでくれ」

「師範はどなたにも会わん。大人しくお引き取りいただけねば、我ら烏竜館四天王の技が暴発する」

 

 ゴウは黙ってバッグの中からアサルトライフルを取り出し、男の額に突き付けた。

 

「おれたちゃこれでなかなか時間がねえんだ。早く取り次がねえとコイツが暴発するぜ」

 

 ゴウが空に向けてアサルトライフルを乱射すると、ビビった四天王はあっけなく白旗を上げた。

 二人を寺に上げ、本堂へと案内する。

 

「あんたたち、いつもあんな風に借金取りを撃退してるのか?」

「見てのとおりビンボー道場でして…」

「…こんなところに真ガッターを乗りこなせるようなヤツがホントにいるのかよ」

 

 ゴウとケイは本堂に着いた。

 中を覗くと、大柄な男がこちらに背を向けて寝そべっていた。

 無精の果てに伸びたのだろう長髪を無造作に結わえ、道着の背中には大きく『竜』の一文字が描かれている。

 傍らには空になったと思しき酒の瓢箪がいくつも転がっていた。

 昼間から酔いつぶれているこれがはるばる訪ねてきた目的の男かと、腹が立ってきたゴウは思いきり怒鳴った。

 

「ナガレ・リョウマ! ジン・ハヤトの命令で迎えに来た!」

 

 男がぴくり、と反応した。

 流竜馬と呼ばれた男はゆっくりと身体を起こし、ゴウたちに向き直った。

 年の頃は30代前半…ハヤトと同じくらいだろう。

 ゆったりとした道着を纏っていても、これ以上なく発達し鍛えられたしなやかな筋肉が伺える。

 顔面にはいくつもの古傷が浮かび、ハヤトのそれとはまた違う狂獣の眼がゴウを見据えた。

 

「…ジン・ハヤト、だと?」

「ああ、そうだ。力づくでも連れてこいと命令されている。大人しくついてきてもらおうか」

 

 ゴウはアサルトライフルの銃口を向けて言った。と、同時に流竜馬の姿が消えた。

 

「!」

 

 背後に気配を感じたゴウは身体ごと振り返った。

 その腹に、ゴウが反応できない速さで流竜馬のとてつもなく重い蹴りが入った。

 ゴウの身体は数メートル吹っ飛ばされ、本堂の古い板張りっぽい壁を突き破り崩れ落ちた。

 

「師範…」

 

 四天王の一人が、言外にやりすぎではないかと声を掛ける。

 

「俺は寝る。つまらんことで起こすな」

 

 げっぷをしながら本堂から立ち去ろうとする竜馬は、自分の名を呼ぶ声に足を止めた。

 

「…待てよ、ナガレ・リョウマ」

 

 ゴウはもう一度、竜馬の名を呼んだ。

 ゴウは駆け寄ってきたケイを振り払い静かに立ち上がった。

 

「…おれはおまえを連れてこいと命令されているんだ」

 

 口から血を流しながらそう言ったゴウの眼もまた狂獣のそれになっていた。

 

「バカな…師範の蹴りをまともに喰らって立ち上がるなんて…」

 

 驚く四天王の前で、二匹の化け物が視線を合わせた。

 

「ジンさんの旧友だと言うから手加減してりゃ図に乗りやがって…意地でもついてきてもらうぜ」

 

 瞬きする間に竜馬は距離を詰めていた。

 ゴウの間合いのはるか先から、まるで腕が伸びたかのようにゴウの顔面に掌底が入った。

 ゴウが大きくよろめく。

 ゴウの懐に入った竜馬の肘がゴウの顔面を捕らえた。

 腹に膝蹴りが入り、ゴウは両膝をつく。

 竜馬はゴウをサンドバックのように一方的に殴った。

 シュワルツのパンチが鉄の塊とするなら、この男のそれは太く重い丸太で突いてくるような破壊力だ。

 

「もうやめて!」

 

 ケイの叫びに竜馬はようやく動きを止め、ゴウの身体が床に突っ伏した。

 

「娘。こいつを連れて帰れ」

 

 ケイに語りかけたその顔は意外にも少年のような笑顔だった。

 竜馬はゴウの後頭部をわし掴みにしてゴウを引きずり起こした。

 

「ハヤトにこれが俺の答えだと伝えてくれ。俺とハヤトのやり取りはこの方がわかりやすい。俺は二度と五月女研究所には戻らん」

 

 竜馬の手のうちで、ゴウがぴくりと動いた。

 

「…じゃ、何か…おれの身体が手紙代わりだとでもいうのか? ふざけるなよ」

 

 血まみれのゴウがゆっくりとそう言った。

 間髪を入れず、竜馬は再びゴウの顔面を床に叩きつけた。

 ゴウの顔面が床板を破った。

 

「手紙があまり元気じゃ俺の決意がハヤトに伝わらねえ。あいつの性格はしつこいからな」

「ゴウ、大丈夫?! …どうしてこんなにひどいことを!」

 

 ケイは竜馬に向けて叫んだ。

 

「最近のゲッターはこんな程度のヤツでも乗れるのか。ゲッターロボも底が知れるぜ」

 

 竜馬はあらためて本堂を離れようとする。

 

「師範…」

 

 四天王の一人が竜馬を呼び止めた。

 

「心配するな。ハヤトが送り込んできたヤツだ。このぐらいじゃ死ぬこともないだろう」

「…師範」

 

 四天王の男は竜馬の後ろを見ていた。

 

「…ああん?」

 

 竜馬が振り返る間もなく、ゴウが重火器満載のバッグを全力で竜馬に叩きつけた。

 さすがの竜馬をして、ゴウがまだ立ち上がることに驚きの声を上げた。

 

「…最近のガッターはこんな程度で乗れるのかとかぬかしやがったな! おお、どんな程度か見せてやろうじゃねえか!」

 

 ゴウは全力の頭突きを竜馬の顔面に叩きこんだ。

 壁板までぶっ飛ばされた竜馬を追撃し、顔面に両足を揃えた蹴りをぶちこむ。

 着地すると同時に、両の拳の連打を竜馬の顔面に叩きこんだ。

 竜馬が反撃の前蹴りを放った。

 ゴウはその脚を抱え込む。

 その動きを読んでいた竜馬はゴウの身体ごと片脚で跳躍した。

 数メートルは上にある頭上の梁にゴウを叩きつける。

 

「んがッ! この程度で手を離すか!」

 

 二人は頭から床に落ちた。

 身体を起こし、膝をついたまま顔面を殴りあう。

 その拳の勢いは普通の人間なら一発で死ぬレベルだ。

 

「あんたたち、この二人を止めて!」

 

 ケイが烏竜館四天王に叫ぶと、彼らをして怯む殴り合いが止まった。

 

「手を出すんじゃねえ!」

「この戦いに水を差す奴ぁ誰であろうとぶっ飛ばす!」

 

 言いたいことを叫んだゴウと竜馬は再び殴り合いを始めた。

 

「…何が何でも研究所に引っ張って行ってガッターに乗せてやる!」

「死んでも俺は乗らねえ!」

「真ガッターに乗れるヤツはもうほかにいねぇんだ!」

「知ったことか!」

「…何故そんなにガッターに乗るのを嫌がる!」

 

 二人の殴り合いが止まった。 

 

「…こう見えて俺の精神は繊細なんだ。15年前、俺が目を覚ますと大勢の仲間が消えていた。何処だかわからねえ世界に放り出された。その時に、俺は俺を見失ったのだよ!」

「訳わからねえこと言ってんじゃねえ! 今、真ガッターを動かさなけりゃもっと大勢の人間が死ぬ!」

「知ったことか! 俺はこの世界には関係ねえ! おまえらで勝手にやりやがれ!」

「ジンさんはあんたじゃなけりゃ駄目だと言っている! ジオンの連中を何とかしなけりゃ人類は滅ぶかもしれねえんだぞ!」

「…かもしれぬではない」

 

 静かな声とともに、本堂の床にごろりと何かが転がった。

 それは四天王の一人の首だった。 

 

「貴様ら人類はここで滅ぶのだ!」

 

 首を転がしたもの…それはいつの間にか本堂に現れた山伏姿の、ハ虫人類だった。

 

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