機動戦士 ガッターロボ號   作:しんしー

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第21話 収斂する歴史

 

 15年前。

 竜馬、ハヤト、ムサシの三人は真ガッターロボのコクピットで目覚めた。

 ハヤトとムサシの二人は、最後の戦いの趨勢はかろうじて覚えていた。

 空が落ちてきたかと思うほどの超々々巨大戦闘艦の艦首が、空間を破って五月女研究所の天にあった。

 これが地表に達すれば、研究所どころか地球が消滅する。

 しかし、五月女研究所の地下3000メートルで地獄の窯の蓋が開いた。

 凄まじい量のガッター線の放出が超々々巨大戦闘艦の艦首を包む。

 光とエネルギーの暴走が、超々々巨大戦闘艦を消滅させた。

 のみならず、その光は五月女研究所を壊滅させ、すべての所員たちを消し去った。

 …そこまでは、ハヤトもムサシも覚えている。

 それから先、なにがあったのかはわからない。

 気がつけば真ガッターロボは五月女研究所の格納庫で静かに眠っていて、三人は各々の操縦席で目覚めたのだ。

 

 

「ハヤト、ここが何処なのかわかったのか」

 

 太肉の青年が、五月女研究所の指令室の端末を操作するハヤトに声を掛けた。

 ハヤトと同年代と思われる20歳過ぎの青年は柔道の達人だ。

 

「…ムサシ、外はどうだった」

「外から見たこの研究所はボロボロだな…廃墟だよ。なんでこの指令室が普通に動いてるのか不思議だぜ」

「俺たちは…相当な年月、ガッターの中で眠っていたようだ。どうやら今は宇宙世紀という時代らしい」

「宇宙世紀? なんだそりゃ…とんでもない未来ってことなのか?」

「わからん。正直、何がどうなっているのか見当もつかん」

「…リョウの方はどうだ?」

 

 ムサシが問いかけ、ハヤトも竜馬に目をやった。

 少し離れた端末操作席に腰掛けている竜馬は恐慌状態こそ起こしていないものの、視線は定まらず、小さく震えてさえいる。

 

「さっきの暴れっぷりは凄かったな…おれとハヤトの二人がかりで押さえつけなきゃならねえとは思わなかったぜ…」

「…相変わらず記憶が混乱しているようだ。俺たちは同じようにガッターの操縦席で眠っていた筈だが、リョウだけは何かあったのか…」

「記憶喪失か…? オレたちの知るリョウとは違いすぎるよな、ハヤト」

 

 ムサシは軽く溜息をついて言葉を続けた。

 

「…なぁハヤト。昆虫野郎たちとの戦いの最後…覚えてるよな? 研究所を飲み込んだあの光、ありゃあ何だったんだ?」

「地下のガッターGが地球を…いや、人類を守ろうとしたんだろうな」

「それは…ベンケイか?」

「…かもしれん」

 

 ムサシは自分同様に体格のいい後輩を思い出し顔を曇らせた。

 かつての恐竜帝国との最終決戦。

 ある限りのメカザウルスが投入された総力戦を、リョウマ、ハヤト、ムサシの三人は初代ガッターロボを駆って撃退したが、ムサシは瀕死の重傷を負った。

 そして、恐竜帝国に代わり地球を征服しようと百鬼帝国がその牙を剥いた時、新ガットマシン3号機・ポセイドン号に乗り戦い抜いたのがクルマ・ベンケイだ。

 百鬼帝国を宇宙に放逐し平和が訪れたのち、未来からの昆虫軍団の侵略が唐突に始まった。

 研究所の危機を救うため、ベンケイはガッターGの動力炉を暴走させ研究所を守った。

 しかし、ベンケイはガッター炉心のメルトダウンを起こしたガッターGとともに地下深くへと消えた。

 あれからどのくらいの月日が流れたのかわからない。

 最後に確認された情報では、ガッターGはガッター線で繭を作っていた。

 その中で、まるで進化するかのように胎動を繰り返していたと言う。

 その時、指令室内に緊急アラートが鳴り響いた。

 ハヤトが再びコンソールパネルを叩き、レーダーが捉えた反応を分析する。

 

「…恐竜帝国だ」

「なに?」

「この反応は間違いない。モニターに出すぞ」

 

 指令室の大スクリーンに、空を覆わんばかりの怪物たちの姿が映った。

 巨大なハ虫類…その身体に機械と武器を埋め込んだ改造恐竜・メカザウルスの大群だ。

 

「フッ…懐かしい客の来訪だな」

「ああ…前に奴らが決戦を挑んできた時とそっくりだ。…だがハヤト。おかしくねえか? 恐竜帝国が総攻撃をかけてくるのが、オレたちが目覚めて間もない今このタイミングってのは出来過ぎじゃねえか?」

「俺たちは奴らにとっちゃ恨み骨髄に徹するだろうぜ。おおかた五月女研究所を見張り続けていたんだろう」

「何十年…下手したら100年単位でか?」

「…なんせ三億年も生きている奴らだ。気は長い方だろう」

 

 ムサシの言いたいことはハヤトも承知していた。

 恐竜帝国が戦力を立て直し攻勢に出る国力を蓄えたというなら、わざわざ自分たちが目覚めた…反撃される可能性のあるこのタイミングである必要はない。

 真ガッターが眠り続けている間に攻め込み、研究所ごと破壊すればいいことだ。

 思案の後、ハヤトは答えた。

 

「一番納得がいく答えは…たまたまだな」

「あ?」

「トカゲどもの戦力が整いもう一度地上制圧に打って出るタイミングに、たまたま俺たちが目覚めた。…いや、あるいは逆か…奴らをもう一度滅ぼすために俺たちが目覚めたのかもしれん」

 

 今度はムサシが沈黙する番だった。

 

「いずれにしてもムサシ、俺たちはあの大軍団を何とかしなくちゃならん…」

「ハヤト、真ガッターは動くのか?」

「…うんともすんとも言わん」

 

 ハヤトの額を脂汗が伝う。

 

「メカザウルス…! 恐竜帝国のヤロウどもか?!」

 

 突然、竜馬が叫んだ。

 

「リョウ! わかるのか?!」

 

 竜馬はムサシを押しのけ大スクリーンを見上げた。

 

「メカザウルスの大軍団…見たことがあるぞ」

「…ああ、オレもだリョウ。 あれを見てると初代ガッターで闇雲に飛び出した決戦を思い出すよな」

 

 ムサシは竜馬に優しく語り掛けた。竜馬はムサシに向き直った。

 

「…待て、ムサシ、どうしておまえは生きてるんだ?」

「…あ?」

「おまえは…俺の目の前で…俺のせいで死んだはずだ…!」

「リョウ…何言ってる? オレはこうしてピンピンしてるぜ?」

「…何を言ってる、ムサシ? …おい、ハヤト!」

「ムサシの言うとおりだ。俺もムサシもこうして生きてる。昆虫軍団との戦いでさえな」

「昆虫軍団…? 何のことだ?」

 

 竜馬は足元の大地が喪失していくようなとてつもない恐怖感に囚われた。

 あらためて見るハヤトとムサシが、自分の知る二人とはまるで別人のようだった。

 だが、それが逆に竜馬を冷静にさせた。

 竜馬は黙ってハヤトに近づくと、ハヤトが腰のホルスターにさしていた銃を抜き、まっすぐにハヤトに向けた。

 

「ハヤト、ムサシ。おまえたちさっきからガッターガッターと言ってるが…それは何のことだ?」

 

 竜馬の奇行に戸惑いながらムサシが答えた。

 

「何言ってんだ、リョウ? おまえ、ガッターロボのことも忘れちまったのか?」

「ガッターロボなんて知らねえな。俺が乗っていたのはゲッターロボだ」

「…ゲッターロボ? いや、それは、ガッターロボの間違いだろ?」

「間違えてるのはおまえたちの方だ。ハ虫人類どもの弱点で、奴らを地下に追いやった宇宙からの放射線はゲッター線…そいつをエネルギーにして動く巨大ロボはゲッターロボだ」

「何言ってんだ、リョウ? それがガッター線でガッターロボだろ」

 

 竜馬はため息をついて少し考えた。

 

「ムサシ。『手に入れる』を英語で三段活用だ。答えてみろ」

「…あ?」

 

 竜馬の突然の問いかけにムサシは戸惑った。

 

「えーと…ゴット、ゴッター、ゴッティスト…かな?」

「バカに聞いた俺が悪かった。ハヤト、答えろ」

「答えてもいいが、バカに答えてわかるのか?」

「…。いいから答えろ」

「gat、got、gatten だ」

 

 ハヤトは冷静な眼差しを向けながら答えた。

 竜馬は静かに息を呑んだ。

 そして、戸惑いと恐怖に抗いながらハヤトに尋ねる。

 

「ハヤト…貴様…誰だ?」

「ジン・ハヤトだ」

「嘘をつくな」

「嘘じゃない。…おまえこそ誰だ?」

「なんだと?」

「おまえは俺たちの知るリョウマじゃない」

 

 ハヤトは竜馬を見つめたまま動かない。

 竜馬は銃を床に投げ捨てた。

 

「よくわからねえがわかった。ここは俺の生きてた世界じゃねえ」

「何を言ってる?」

「わからん。だが、そういうことだ。俺はここを出ていく」

「何処へ行くと言うんだ?」

「さぁな。だが、ここは俺のいるべき場所じゃねえ」

「…リョウマ」

 

 竜馬が振り返る間もなく、ムサシはその太い腕を竜馬の首に絡めた。

 隙を突いたムサシの裸締めで、竜馬は落ちた。

 

「完全に記憶が錯乱してやがる。今研究所の外に出たらメカザウルスの餌食だぜ。どうしちまったんだ、リョウのヤツ…」

 

 それはハヤトにもわからない。

 

「…さしあたり、俺たちが今どうするか、だ」

 

 ハヤトは大スクリーンを見上げながら答えた。

 

「ハヤト、真ガッターは本当に動かないのか?」

 

 ムサシがハヤトに尋ねた。

 

「エネルギー残量はゼロだ。宇宙から降り注ぐガッター線だけじゃいつ起動できるか見当もつかん。五月女博士はエネルギー増幅装置としてガッターGを使ったが…ガッターGはベンケイ共々、地の底だ」

「…真ガッターが動けば何とかなるのか?」

 

 竜馬を傍らの端末操作席に預けたムサシが、妙に真面目な顔でハヤトに尋ねた。

 

「やれる。真ガッターならこの危機を乗り越えられる」

「…何とかなるかもしれないぜ、ハヤト」

「なに?」

「麓のガッター博物館に『初代』があった。傷一つなくピカピカに修復されてたぜ」

「…無理だ。『初代』のパワーじゃあのメカザウルスの大群には太刀打ちできん」

「だから、何とかするぜ。ハヤト」

 ムサシはにやりと笑った。

だが、その瞳は笑っていない。

 

「…!」

 

 ハヤトはムサシの悲壮な決意を受け取った。

 

 

 目覚めた竜馬が見たもの。

 それは自ら暴走させたガッター炉心を腹から引きずり出し、メカザウルス軍団を溶解させている『初代ガッターロボ』の姿だった。

 ガッター炉心が放出する高濃度のガッターエネルギーは『初代ガッターロボ』の全身も溶かしていた。

 

『うおおお…ガッター炉心をフル稼働させたらこんなにすげえとは思わなかったぜ…!』

 

 通信機から届くムサシの言葉がハヤトの心を穿つ。

 ガッターロボの外装があれだけ溶け崩れているのだ。

 内部にある操縦席は地獄の惨状だろう。

 

『…ハヤト』

 

 初代ガッターの操縦席と繋がっている筈のモニターはすでに死んでいる。

 声だけが、かろうじてハヤトと竜馬をムサシと繋いでいた。

 

「なんだ、ムサシ…」

 

 ハヤトが声を絞り出した。

 

『こいつらが…恐竜帝国の大軍団が現れた理由が…今、わかったぜ』

「ムサシ…?」

 

 ハヤトは問い返しだ。

 

『俺がここで死ぬためだよ』

「何を言ってる、ムサシ?」

『そうだ…俺が死ぬことが、あるべき歴史なんだ。未来のために、こうならなきゃいけなかったんだ…』

「ムサシ、…しっかりしろ!」

 

 竜馬が、ハヤトから通信機のマイクを奪い取った。

「ムサシ…ムサシ、おまえ、また俺の前で死ぬのか?!」

『…リョウ、ハヤト…さらばだ。後を頼むよ』

「ムサシ!」

「…バカめ」

 

 ハヤトはうなだれてそう呟くほかはなかった。

 

「死ぬな、ムサシ!」

 

 

 竜馬の絶叫にあわせるかのように、『初代ガッターロボ』はメカザウルスの大群を巻き込み、自爆した。

 

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