機動戦士 ガッターロボ號   作:しんしー

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第22話 ニュー・ヒューマニティ教団

「ハ虫類野郎! こんなところまで出やがったのか!」

 

 山笠を捨てた3体の影はハ虫人類の正体を現し、それを見たゴウは思わず叫んだ。

 

「ハ虫類だと?」

 

 竜馬の目つきが暗く鋭くなった。

 

「ナガレ・リョウマ! 貴様らガッターロボに拘る者どもを此処で根絶やしにすれば我らの計画は完成したも同然! 大人しく死ぬがいい!」

「ふざけるな、このトカゲ野郎! てめぇらまだ生き残ってやがったのか!」

 

 竜馬がトカゲの山伏に跳びかかろうした瞬間、本堂の背後の床が大きな音で軋んだ。

 床板を破り、頭部や四肢を巨大な爪で武装した軽トラックほどもある恐竜が姿を現した。また一人、逃げそびれた烏竜館四天王がその爪にかかり絶命した。

 

「うおおー、てめぇら俺の仲間を!ぶっ潰してやる!」

「バカ言うな、素手であんなもんどうする気だ! 逃げるぞ!」

 

 ゴウは我を失い武装恐竜に跳びかかろうとする竜馬の襟首を捕まえ、強引に引きずり後退する。

 

「邪魔だ! 奴らの狙いは俺だ! おまえらとっとと逃げろ!」

 

 ケイがアサルトライフルで援護した。

 濡れ縁を奥へと逃げると、その先の暗闇に人影がある。

 

「敵か?!」

 

 ゴウたちの背後からは武装恐竜が濡れ縁を破壊しながら追いかけてくる。

 

「やべー、挟み撃ちか!」

 

 しかし、暗闇からゴウたちの前に現れたのはハ虫人類ではなかった。

 この廃寺に来るまでに見かけた剃髪した三人組だ。

 

「チィィッ、お守りが増えちまった!」

 

 ゴウはケイからマシンガンを受け取り武装恐竜を振り返る。

 

「やめなさい!」

 

 トリガーを引こうとした瞬間、少年のものとは思えぬ叱咤の声が飛び、ゴウたちはおろか、武装恐竜までもがその動きを止めた。

 

 一行のリーダーらしき少年は静かに恐竜に近づくと、その目を見つめながら静かに手を伸ばした。

 獰猛な恐竜が、子猫のように少年になつき甘え始めた。

 

「…なに、どうなっているの、これは?」

 

 戸惑うケイの言葉が終わらぬうちにゴウとハヤトが少年と恐竜を飛び越し、追いかけてきていた山伏姿のハ虫人類の頭を蹴り潰した。

 二人の本気の蹴りはハ虫人類でさえ一撃で叩き潰す。

 

「やめなさい!」

 

 もう一度少年が叫んだ。

 ゴウが睥睨する。

 

「ああん? 何もんだ、おまえは?」

 

 少年の部下と思しき剃髪の男の一人がゴウたちの前に立った。

 

「無礼な! この方をどなただと思っている? 穢れた地球も、宇宙さえも救うためつかわされたニュー・ヒューマニティ教団の教祖、メシア・タイール様なるぞ!」

 

 その言葉は、しばし一行を呆然とさせた。

 

「ニュー・ヒューマニティ教団って…『人類の革新』を謳って急速に信者を増やしているっていう新興宗教の…? こんな少年が教祖だったの?」

 

 一行の中で唯一世情を把握しているケイが言った。

 それを聞いたゴウが鼻で笑う。

 

「ハッ。助けてもらった礼は言う。ありがとよ。だが、おれたちゃおまえの信者でも何でもないんでな、好きにやらせてもらうぜ」

 

 ゴウはアサルトライフルの弾倉を詰め替えながらメシア・タイールに宣言した。

 

「私が言っているのではありません。五月女博士が言っているのです」

 

 メシア・タイールは動じることなく答えた。

 竜馬の形相が代わる。

 メシア・タイールは三人を見回した。

 

「五月女博士からの命令を伝えます。ガッターロボ出撃準備完了、全員、すみやかに五月女研究所へ集合せよ!」

 

 

 時を同じくして、並行して起こっていた事象がある。

 

「ジンさん! 真ガッターロボが! 勝手に起動しようとしている!」

 

 緊急警報を受けて駆け付けてきたハヤトは、五月女研究所の格納庫に静かに立つ真ガッターロボをガイとともに見上げた。

 それだけで、真ガッターの全身にエネルギーが駆けまわっていることが見て取れる。

 

「ガイ、誰がコイツを動かしているんだ?!」

「わからねえ! エネルギーゲインが勝手に跳ね上がってる! ヤバくないか、ジンさん!」

 

 真ガッターロボの貌に瞳が宿った。

 

 

 ジオン本国と、グラナダの間で極秘のレーザー通信が行われていた。

 ギレンと、キシリアである。

 

「ソロモンが落ちたな、キシリア」

『サスロ兄も戦死しました』

「まさか…兵を救うために自ら特攻するような愚かな真似はしておらんだろうな」

『このグラナダへ向けて退却中に追撃され逃げきれなかったとのことで』

「ならばよい。指揮官は必ず生き残るものだ。それでこそ、死んだ兵たちを無駄にせぬと言うことだ」

『連邦軍の次の標的はア・バオア・クーかと思われます。いかがいたしますか』

「私が行く」

『兄上が…?』

「私とて前線に立たねば兵どもの士気が上がるまい?」

『しかし』

 

 ギレンはモニター内のキシリア…妹の顔を少しの間だけ見つめた。

 

「…キシリア、おまえは私の代わりにジオン本国へ入れ。父上を諫めるのだ」

『どういうことです?』

「ア・バオア・クーの戦いは我が軍のソーラ・レイの発射から始まる。時すでに遅い和平交渉などでソーラ・レイの射線軸に居られてはたまらんだろう?」

『…御意に』

「家族殺しの悪名なぞ私とて背負いたくはないよ」

『…兄上らしくもない』

「あ奴らが動き出したようだな」

 

 ギレンは突然、あらぬ方向へと話を変えた。

 

『あ奴らとおっしゃいますと?』

「とぼけるな。ハ虫人類だよ。トカゲともが、陽の当たる世界に這い出だそうとついに蜂起したようだ」

『それは…厄介なことになりますな』

「なに、我が一族が力を合わせれば何の脅威にもならんよ。…だが、身の回りには気をつけることだな、妹よ」

 

 ギレンは何処か憐れみを見せながらキシリアに言った。

 

『…兄上も。…では』

 

 通信が切れた。

 

「セシリア。コーヒーを頼む」

 

 セシリアは軽く頭をさげ退出した。

 ギレンは少しだけ、遠くを見つめた。

 キシリアはもはや当てにならない。あれはすでに死んだ。

 ギレンはコンピュータ端末を叩きメッセージを刻む。

 宛て先はエギーユ・デラーズ大佐。

 本文はたった一行だ。

 

 星の屑作戦を遂行せよ。

 

 

 無人の筈の五月女研究所で、真ガッターロボの発進準備が進んでいた。

 ハヤトとガイの立つ足元が勝手にせり上がり、昇降台となって二人を真ガッターの操縦席へと誘う。

 

「…誰がガッターを出撃させようとしているんだ、ジンさん!」

「ガイ、見ろ!」

 

 ハヤトに言われたガイは数十メートル離れた床を見下ろした。

 そこには、いる筈のない大勢のスタッフがガッターの発進準備を進めていた。

 

「ジンさん…誰だ、こいつ等は? いままで何処にいたんだ?!」

 

 ハヤトは真ガッターの足元から自分たちを見上げている、白衣を纏った初老の科学者に気がついた。

 

「…五月女博士?」

 

 五月女博士は力強い眼差しでハヤトを見つめていた。

 その目は行け、と語り掛けている。

 

「博士、貴方たちは生きているのですか?!」

 

 五月女博士に問いかけるハヤトはその場から飛び降りかねない勢いだった。

 ガイが必死でハヤトを押さえる。

 冷静さを取り戻したハヤトは真ガッターの操縦席に座った。

 複座の後部席にガイも転がり込んだ。

 アサマヤマを揺るがし、廃墟の研究所の前の地表がゆっくりと割れ始めた。

 真ガッターロボが、床とともにせり上がり地表にその姿を現す。

 

「ジンさん、コレどうなってんだ、いったい?」

「わからん、自動操縦が解除されない!」

 

 真ガッターロボの脚が軽く床を蹴った。

 音もたてず数百メートルを飛びあがり、真ガッターの背中から悪魔のそれに似た獰猛な翼が展開され、巨体が中空に止まった。

 

「なんだ、どうなるんだコレ!」

「しっかりつかまっていろ!」

 

 突然、真ガッターの機体が真横に飛んだ。

 予備動作もない一瞬での横移動だ。

 そして、瞬きする間に真ガッターは停まった。

 また同じように、今度は後ろ上方へ移動し停まる。

 あちこちの方向へ、真ガッターは超高速の移動と瞬間停止を繰り返した。

 慣性を無視して飛ぶそれを、旧世紀のショーワを生きていたハヤトは知っている。

 UFOだ。

 そして、遥か彼方の宇宙を見据えて真ガッターは止まった。

 真ガッターは探していた何かを見つけたようだ。

 

「勘弁してくれ、こんな動き…人間に耐えられるもんじゃねえよ…」

「ガイ、身体に力を入れろ、本番が来るぞ」

 

 ハヤトはコンソールパネルの情報を読み取った。

 

「…月の方向、323500キロ…? そこは!」

 

 真ガッターロボは、五月女研究所の上空から消えた。

 

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