烏竜館のある山の中腹では、ジオン公国の軍服を着た多くのハ虫人類が展開していた。
馬ほどの大きさの二足歩行の恐竜に騎乗し木々の間を苦も無く進んでいく者、鱗に包まれた装甲車ほどの巨体に迫撃砲を何門も搭載した四足の恐竜。
たまたま山に入っていた民間人のエレカを踏み潰し、もはや正体を隠す気のないジオンのハ虫人類軍団は着実にゴウと竜馬たちを包囲しつつあった。
烏竜館を望める崖の上から、武装恐竜の背中に装備された迫撃砲が火を噴き白煙が尾を引いた。
烏竜館の門と本堂が消し飛ぶ。
「ひえええ…派手にやってくれやがる」
近くの雑木の影から様子を窺っていたゴウが呟く。
生き残っているのはゴウ、ケイ、竜馬、タイール、四天王の二人とニュー・ヒューマニティ教団の二人の男。
一行の足元には、ゴウと竜馬に頭を叩き潰されたハ虫人類の兵士の身体がぴくぴくと痙攣している。
ハ虫人類の兵士はゴウと竜馬なら素手でも勝てる相手ではあるが、不利は否めない。
他にこの戦いの戦力になりそうなのは銃器を手にしたケイを合わせて三人か。
「…ったく、なんなんだ、あのハ虫類どもは…」
ゴウの呟きに竜馬が応じた。
「ハヤトから何も聞いていないのか? あいつらしいな」
「リョウマさん、アンタ事情を知っているのか?」
「15年前…いや、宇宙世紀とやらが始まるもっと前だ。奴ら恐竜帝国を打ち破り地下のマグマ層に追いやったのは俺たちなのだよ。完全にぶっ潰したと思っていたが、まだ地上…どころか宇宙にまで未練があったらしいな」
「その恐竜帝国って奴らは、あんたを狙って襲ってきてるのか」
「そうだ。俺と離れていりゃおまえたちは助かる。さっさと行け。俺はあいつらを一匹残らずぶっ倒す」
「じゃあ、遠慮なくそうさせてもらうぜ。行くぞ、おまえら」
ゴウは後ろのケイたちに言った。
「待て、おまえたち師範を一人にして逃げるつもりか?」
四天王の一人がゴウに抗議する。
「当たり前だ。こんな訳も分からねえ因縁に巻き込まれてたまるか。女子供を死なせるわけにゃいかねえだろうが」
ゴウの言葉を聞きながら、竜馬は両の拳を鳴らし臨戦態勢を整えた。
「そういうことだ。みんな行け、俺が囮になって暴れているうちに山を下りるんだ」
「逃げても無駄ですよ」
タイールが静かに言った。
「彼らの目的は私たち全員の命です。正確にはガッターロボに拘る人間すべて。ここはなにが何でも戦って生き延びるほかありません」
「…ハッ!」
ゴウが鼻で嗤った。
「ニュー・ヒューマニティ教団? 人類の革新? 超能力者だかなんだか知らねえが、なんでテメーみたいなガキにそんなことがわかるんだ」
「なんでかはわからない。でも、ぼくには昔から目に見えないものが見えたり、聞こえないものが聞こえたり…時の狭間の長い瞬間を感じたりすることができたんだ」
「ああー、わかった。ネットのアングラで見るニュータイプとかいうアレだな。額に電気がスパークするらしいが、どうやらアタマが光って眩しいだけじゃねえのか?」
「おい、貴様、タイール様になんと失礼なことを! タイール様は神がおつかわされた現世でただ一人、人類を平和に導かれるお方だ!」
タイールの信者の一人がゴウに声を荒げた。
「タイール様の教えはすでに百万人以上…その教えは今この瞬間にも世界中に広がっているのだ!」
「うるせー! どうせテメーら、このガキで一儲け企んでるだけなんじゃねえのか?」
図星を突かれた二人の信者はタイールに阿った。
「タイール様、こんな奴ら放っておいて教団に戻りましょう」
「どうか私たちを導きお助けください」
「…うーん」
タイールが初めて年相応の少年らしい顔をした。
「助かるかどうかはわからないな―。ここはみんなで力を合わせてなんとかしないとダメだよ」
「…おまえら、いつまでもゴチャゴチャ言ってないで早く逃げろ」
しびれを切らした竜馬が言った。
その声を受けてケイがアサルトライフルをゴウに手渡そうとした。
「駄目だ。デカい音を出したら一発で奴らが集まってくると言っただろう」
「わたしはこの子を信じることにした。みんなで協力してこの山を脱出しましょう」
ケイがタイールを見てそういうと、タイールはまた少年らしい笑顔を見せた。
「なんだよ、ケイ、おまえまでこいつらの信者になっちまったのか」
言い返そうとするケイは足元のおかしな感触に目を向けた。
倒したはずのハ虫人類の兵士の尾が、ケイの足に絡みついていた。
「ぎゃあッ!」
ケイは思わず悲鳴を上げアサルトライフルの弾丸をハ虫人類の屍に叩きこんだ。
悲鳴と銃声は周辺のハ虫人類の兵士たちを集まらせた。
「くそったれ!」
竜馬は跳びかかってきたダチョウのような騎乗用の恐竜の頭を拳で挟み叩き潰した。
乗っていたハ虫人類の兵士をゴウがアサルトライフルで蜂の巣にする。
「おまえら、死にたくなけりゃはぐれずについてこい!」
竜馬の怒声を受けて、一行は山の斜面を必死で駆け下りた。
車ほどの大きさの肉食恐竜が茂みを踏み潰しながら現れ、烏竜館の四天王にかぶりつき丸ごと噛み殺した。
「…チィッ!」
一行は敵の気配が乏しい方向へと逃げる進路を変える。
木々の上に、怪獣のように大型の肉食恐竜が姿を現した。
「くそ、囲まれてきてるぞ!」
「ああ…助けてくれー!」
恐怖に囚われた教団の信者の一人がゴウたちから離れて逃走した。
ステゴサウルスのような四足恐竜が茂みから現れ、その上半身にかぶりついた。
咀嚼しながら、背びれがミサイルとなってゴウたちに放たれる。
生き残っていた四天王と信者の二人が四散して死んだ。
竜馬とゴウは野獣の勘で逃げる先を選び、ケイとタイールは必死にその後を追う。
雑木と茂みが途切れ、やむを得ず岩場に飛び出した一行は、高い崖の上に追いつめられた。
「やべぇ、どんづまりかー!」
背後の茂みから、5メートルから10メートル級の中型の武装恐竜が三体、ハ虫人類のジオン兵が10数体。
ゴウたちは完全に追い詰められた。
武装恐竜が襲い掛かろうとためを作り、兵士たちも重火器を構える。
「来やがれぇ!」
「なろー、タダじゃやられねえぞー!」
竜馬とゴウは戦意を滾らせる。
最後の衝突が起ころうとした瞬間。
ゴウたちの背後の崖にそれが現れた。
赤い一対の角。
図形が形作る精悍な顔。
真ガッターロボが、数万キロを瞬時に移動して現れた。
真ガッターロボは、その巨大な右腕を振るって一体の武装恐竜を薙ぎ払った。
その暴乱な動きはゴウたちの頭上すれすれをかすめていく。
「バカヤロ、おれたちまで殺す気かー!」
ゴウが真ガッターを見上げて叫ぶ。
真ガッターの操縦席では操縦桿を掴んだハヤトが冷や汗をかいていた。
真ガッターのパワーは高めに見積もっていたつもりだが、その出力は予想を超えて高い。
地球からの超音速の飛行で、後ろの操縦席ではガイが気を失ってのびている。
真ガッターは左拳を振り下ろし小型の武装恐竜と数体のハ虫類兵士を叩き潰した。
巻き添えを喰わないようゴウたちは必死で逃げる。
真ガッターの両肩から、その巨体ほどもある杖が射出された。
先端がほどけるように展開し両刃の巨大な斧となり、振り下ろされた刃が残った大型の武装恐竜を両断した。
その余波はハ虫類兵士たちをも屠った。
「…なんてパワーだ…!」
ゴウは呆然となった。
その傍らで、竜馬が怒りを滾らせていた。
「ハヤト…どうしてゲッターを動かした! 貴様、世界を滅ぼすつもりかー!」