「…ジンさん、リョウマさん。悪りィが再会を喜ぶのはそのくらいにしてくれねえか」
その背中をなで続け、ようやく吐くものがなくなったガイから離れたゴウは、殴り合いを続ける竜馬とハヤトに声を掛けた。
ゴウをぼろ雑巾のように痛めつけてそれを手紙代わりにしようと言う連中だ。
10数年ぶりの再会のスキンシップが殴り合いにもなろう。
だが、さらなる敵の接近をタイールが一同に告げていた。
真ガッターロボが自らの意志…があるかのようにこの地に駆けつけたのは、おそらくそちらが本命の敵なのだ。
「…みんな、ガッターに乗り込め」
ハヤトが一同に指示を出した。
真ガッターロボには3つの操縦席があり、各々複座型になっている。
1号機に竜馬とタイール、2号機にハヤトとガイ、そして3号機にゴウとケイが乗り込んだ。
「ゴウ、あんたこのメカの操縦わかるの?」
「うるせぇ、こんなものはノリと勘と勢いで何とかなるんだ!」
数キロ先の空に虫の大群が見えた。
地球から飛来した真ガッターがコロニーに突入する際に開けた穴から侵入してきた、コロニーの空の一角を塗りつぶすほどの蟲の群れ。
それは見る間にゴウたちに接近してくる。
「リョウマさん、早くガッターを宇宙へ出せ! こんなところで戦ったらこのコロニーの住民が全滅しちまうぞ」
「わかってる…コクピットが少し違うな」
操縦席内を観察しながら呟いた竜馬は、何故俺はそんなことを思うのだと自問する。
「大丈夫ですよ、竜馬さん。ガッターの操縦は心です。自分を信じて操縦してください」
タイールが後ろから諭すように言った。
「…行ってみるか」
竜馬は静かに操縦桿を倒しペダルを踏み込んだ。
真ガッターロボの50メートルを超える巨躯が静かに空中に浮かび上がる。
しかしその姿勢はうつ伏せのような、あるいは四つん這いのような不自然な態勢だ。
「…こいつのバランス回路はどうなってる…?」
「大丈夫なのか、リョウマさん?」
3号機の操縦席からゴウが問うた。
「今、昔の勘を取り戻すところだ…」
「リョウマさん、落ち着いてレバーを入れてください」
タイールの声に竜馬は呼吸を整えてレバーを押し込んだ。
ふわり、と空中で真ガッターの機体が制御された。
真ガッターは虫の群れの方へ飛び、突き抜けて、来る時に開けた地面の風穴から宇宙に飛び出した。
「うお…なんだこりゃ…」
ゴウは思わず声に出した。
「どう見てもジオン公国のメカとは思えないわ…」
ケイも呟いた。
蟲の群れの…母艦、だろうか、全長1キロ以上はある、ドロス級の宇宙空母を遥かに凌駕する巨大なアンモナイトがガッターのモニターに映っていた。
真ガッターは追ってきた蟲の一群に取りつかれた。
人間ほどのサイズの蟲が真ガッターの装甲に噛みついてくる。
「なんだコイツら、ガッターを喰おうってのか?」
思ってもみない攻撃にゴウは思わず声をあげた。
「大丈夫だ、真ガッターの超合金はこんな蟲たちには破られない。リョウマ、ビームを発射しろ!」
2号機の操縦席からハヤトが叫んだ。
「駄目だ、ビームじゃ目先の虫しか倒せねえ」
「ストナー・サンシャインです、リョウマさん。右の赤いボタンを」
タイールが竜馬に声を掛けた。
「おまえ、何を言ってる?」
「ぼくが言ってるんじゃありません。五月女博士が…いえ、真ガッターロボがそう言っているのです。心を落ち着けて、ゆっくり出力レバーを押し込んでください」
「…ええい!」
竜馬は赤いボタンを叩いた。
目を閉じ、呼気とともに真ガッターを操作する。
真ガッターの軽く広げた両掌の間にエネルギーの球体が作られつつあった。
光球が放出するエネルギーが、真ガッターに纏わりつく蟲たちを消滅させていく。
人間大ならサッカーボールほどの大きさに完成した光球を、真ガッターは腰だめに構えた。
エネルギー球…ストナー・サンシャインが発射された。
蟲の大群の中心で光塊が爆発する。
閃光がおさまった時、蟲たちはそのすべてが消滅していた。
「…すげえ破壊力だな…」
ゴウは驚きを通り越して呆れたように言った。
その間にも、1号機の操縦席ではタイールが竜馬に真ガッター操縦の術を伝える。
「リョウマさん。落ち着いて、心で操縦するのです」
言われるまでもなく、竜馬はすでに真ガッターの操縦を体得していた。
感情を込めて、真ガッターのパワーを引き出す。
真ガッターは巨大なアンモナイト型要塞に接近し、もう一度ストナー・サンシャインを発射した。
アンモナイト型要塞の装甲で光球が炸裂する。
だが、その威力を以てしても、そこそこのダメージにはなれど致命傷を負わせるには至らない。
真ガッターは次々とストナー・サンシャインをアンモナイト型要塞に打ち込んだ。
アンモナイト型要塞が反撃に転じる。
渦巻き状の装甲の先にある頭部の触覚が蠢き、発生したエネルギーが真ガッターを捕らえた。
ゴウ、ケイ、ハヤト、ガイは真ガッターの体内を駆け巡る衝撃波に全身を焼かれた。
「まずい、こいつは強白電帯だ! 計器がやられるぞ!」
衝撃と電撃を受けながらハヤトが叫んだ。
「駄目だ、計器すら見えねえ!」
3号機の操縦席でゴウも叫ぶ。
「リョウマ、ここは引け! 一度脱出するんだ」
ハヤトが竜馬に叫んだ。
「計器など関係ない」
強白電帯の攻撃の中で、竜馬は静かに答えた。
真ガッターの機体の中を、増幅された竜馬の意志のエネルギーが走る。
エネルギーは真ガッターロボを核にストナー・サンシャインの光球を生成していく。
そして、操縦席では武骨なメカが増殖し、蕩け、6人の搭乗者を取り込みつつあった。
真ガッターロボはその全身を包み込んだストナー・サンシャインを両の掌の中に移した。
竜馬は、光球をアンモナイト型要塞に叩きつけた。
太陽が落ちたような光爆にあたりは包まれた。
光の中、ゴウはストナー・サンシャインを受けたアンモナイト型要塞が消滅していく様を見た。
それだけではなく、11バンチコロニーの1/3が、エネルギー球に取り込まれ消失していた。
直径6キロメートルの断面で宇宙と繋がった11バンチから、何百万人の住民が塵のように宇宙へと吸い出されていく。
「うおおおおーっ!」
絶叫しながら、ゴウは気を失った。
★
意識が少しずつ戻ってきた。
ゴウは闇の中にいた。
身体が重い。
“身体が重いのではない。心が重いのだよ”
「誰だ…」
ゴウは呟いた。
灯りが欲しかった。
「…体が痛い…」
“身体が痛いのではない。心が痛いのだよ”
灯りが欲しい、ともう一度思った。
ゴウの視界が…意識が突然開けた。
圧倒的な機械に包まれていた。
ゴウの身体のほとんどが、機械に取り込まれていた。
手足はすでに無機質で武骨な無数のメカと同化し、自身の意志で動かすことは出来なかった…いや、すでに手足はなくなっていた。
“なんだ此処は…ガッターの中か?
「あああああー!!」
機械の中からガイが絶叫しながら現れた。
ゴウと同様、その身体は機械に侵されていた。
心は恐怖に食い潰され、その顔は狂気の塊だった。
「誰か助けてくれ! オレを此処から出してくれ!! もう嫌だ! 地獄だ! 此処は地獄だ! オレは生きたまま地獄に墜とされた!」
傍らの小さなモニターに、赤子のように身をすくめて眠るケイの姿が見えた。
ケイは少女の姿へと戻り、幼女へ、赤子へ、胎児へと戻って行った。
恐怖から逃れるために退行化しているのだとゴウは悟った。
光が爆発した。
ゴウの眼前に、生命誕生の記憶、絶滅の記憶、戦い、冒険、戦争、幸福…ありとあらゆる地球と人類の歴史が激流となって迸った。
“これは進化の記憶の一部だ…”
声がそう言った。
「誰だ! 誰がいる!」
また閃光があり、ゴウは宇宙空間にいた。
空間の先に、巨大な意思の貌があった。
「貴様…ガッターか?! おまえは意志を持っているのか?!」
“すべてのものに意思はあるのだよ。生物にも、風にも、大地にも、水にも火にも、時間にも空間にも意志と記憶がある!”
「ガッター…貴様はいったい何者なんだ…?!」
“ゴウ、時間がない。…今人類は破滅の淵にいる。このまま行けば人類はその種子をばらまくことなく自らを滅ぼすだろう。全てを司る意思はそれを許さない。ゴウ、我々は新たなる進化の時を迎えたのだ”
「何を言ってやがる! ふざけるな! ガッター、おまえに意志があるなら聞け! おれは多くの人を一瞬で殺したおまえを許さない!」
”何も心配はいらない。すべては元の空間に戻っただけなのだよ“
ガッターの意志はその掌に銀河を見せた。
“忘れるな、ゴウ。進化の時は近い!”
ガッターの意志はゴウを銀河へと飛ばした。
星の渦の中の小さな星・地球にゴウは落ちていく。