ソーラ・レイが発射された。
直径6キロメートルのレーザーは地球連邦軍宇宙艦隊の1/2を消失させた。
その戦果を、デギン・ザビは乗艦グレート・デギンの艦橋で苦々しく聞いていた。
消失した艦隊には連邦軍の総大将・レビルの乗艦があった筈だ。
和平への道は潰えた。
生き残った連邦軍艦隊は決死の覚悟で闇雲にア・バオア・クーへ突入してくるだろう。
だが、それこそギレンの思惑通りだ。
ア・バオア・クーの戦いは、ジオンの最終作戦から連邦軍の目を欺くための囮に過ぎない。
星の屑作戦。
約一年前、開戦直後に遂行されたコロニーを地球に落着させる人類史上最大の殲滅作戦を再度行おうと言う悪魔の所業だ。
息子のギレンは、あの作戦をもう一度実行しようとしている。
サイド1・ルウムのコロニーに核爆弾を満載し地球に落着させ、地上を壊滅させようとしている。
ギレンの中では、人類がスペースコロニーという人工の大地で生きられるように進化した以上、地球など資源採掘場に過ぎない。
まして今、人類はハ虫人類という人間とは根本的に違う知的生命体との生存権をかけた戦争も行っている。
星の屑作戦でハ虫人類をも駆逐することができるなら、この作戦はそれほど非道なものではないだろう。
ギレンはそう考えている。
そして、デギン・ザビは、だ。
「…娘を殺したトカゲどもにかける情けなどあるものかよ、なぁキシリア」
デギンは膝に置いたキシリアのヘルメットを愛おし気に撫でた。
デギンは先程、娘に成り代わって近づいてきたハ虫人類を射殺したところだ。
老いたとはいえ、デギンもまたジオン・ダイクンを謀殺しジオン公国を自身の意のままにまとめ上げた男だ。
また、偽のキシリアがギレンに言われ自分のもとを訪れたと言うことは、息子はキシリアに化けたトカゲを排除しろと言っている。
自分さえも道具にするかと忌々しく思いながらも、これからのザビ家の繁栄を思えば心強いことこの上ない。
★
「――ハッ!」
ゴウはアサマヤマ山麓の仮設基地医務室のベッドで目覚め飛び起きた。
連邦軍の女医がゴウの身体を調べようとする。
強引に振り払った。
「どうやら彼は大丈夫な様子ね。彼も精神力が強かったのでしょう…」
「他の連中はどうした?」
ゴウはともにガッターに乗っていた仲間たちのことを尋ねた。
「全員、生命は無事です。ただ…」
「ただ、なんだ?!」
ゴウは二つの病室に案内された。
一つ目の病室では、ケイがベッドに横たわっていた。
眠っているのではないことは、ゴウにも一目で理解できた。
「身体的にはまったく以上ないわ。しかし彼女は目覚めようとしない…仮死状態と言っていいでしょう」
二つ目の部屋は病室とは言い難かった。
何もない真っ白な個室に寝台だけがあり、ガイが其処に腰掛けていた。
頭を抱え、何かを呟いていた。
「嫌だ…此処は地獄だ…誰かオレを此処から出してくれ…」
「…ガイ、大丈夫か…しっかりしろ」
「…大勢の人間が死んだ…オレたちが殺した…!」
罪悪感と恐怖でガイは身体を大きく震わせた。
「…ガイ」
「話しかけても駄目です。自分の殻に閉じこもっていて…先程の彼女も…おそらく意識が戻ることはないでしょう」
ガイとケイ。
二人の戦友の姿にゴウは決意を固めた。
★
「なにぃー! コロニーが地球への落着コースに乗っているだと!」
ハヤトが叫んだ。
五月女研究所の指令室で、ハヤトは恐ろしい情報を手に入れていた。
一年前と同様に、サイド1・ルウムのスペースコロニーが地球に向けて動いていることが判明したのだ。
「クソ…ソロモンとア・バオア・クーはこいつを隠すための囮だったか…!」
連邦宇宙軍の戦力は星一号作戦…ア・バオア・クー攻略にすべて振り向けられ、しかもソーラ・レイにより指揮系統は混乱している。
さらに、だ。
オペレーターの一人が報告する。
「ジン大佐、落下軌道のコロニーの速度が異常に速い…ア・バオア・クーの攻略をあきらめて残存艦隊が向かってもコロニーの破壊には間にあいません!」
ハヤトは臍を噛むほかなかった。
「ギレンめ…恐竜帝国と手を組んだのはコロニー落としに使える技術を手に入れるためだったか」
そんなハヤトに、別の兵士が至極まっとうな問いを口にした。
「しかしジン大佐、コロニー落としは南極条約で…」
「あのコロニーに核が満載されていれば地上は滅びる…条約違反を咎める者も一人もいなくなる。ついでに恐竜帝国のやつらも地上に出ることができなくなれば一石二鳥の作戦だ」
人類は滅亡の淵にいることをハヤトは痛感した。
「ジン大佐!」
指令室に駆けこんできた兵がハヤトの名を呼んだ。
「後にしろ!」
しかし、兵士は強引に預かってきた状況報告をした。
「なにぃー、ゴウが?!」
★
バズーカ砲を担ぎ、たくさんの手榴弾をぶら下げたゴウが格納庫に向けて通路を歩いていた。
その顔は怒りと決意で静かに煮えたぎっている。
真ガッターの格納庫の手前に、竜馬とタイールが立っていた。
「おまえらもあの地獄から生きて帰ってたのか」
ゴウは静かに言った。
「ああ。あいつはとんでもねえ化け物だ」
腕組みをしたまま、竜馬が答えた。
「そんな物騒なものを担いで何をするつもりです、ゴウさん」
ゴウはタイールをぎろりと睨みつけた。
「決まっている。あの化け物を…ガッターロボをこのおれがぶち壊す」
一歩前へ出た竜馬に、ゴウは銃口を向けた。
「ガッターは出撃させてはならねえ。コイツは地球と人類を滅ぼす。そんなことになる前におれがコイツをぶっ壊す!」
「…ゴウ、やめろ。おまえにはできねえ」
竜馬が静かな声でゴウに言った。
「リョウマさん。アンタだって真ガッターを動かすことに反対してたじゃねえか」
「俺は今でもこいつを動かすことには反対だ。だが、今、地球と人類を守れるのはコイツしかいねえ。だったら動かす以外にねえんだよ。俺はガッターに乗ってそれがわかった」
「ガッターが人類を救えると思ってるのか? コイツは人を殺し人間を狂わせるメカだ! ケイとガイのあの姿を見たのか!」
「…ゴウさん。感情を殺しなさい。でなければ見えるものさえ見えなくなる」
タイールが静かにゴウを諭した。
「うるせえ、偉そうな口をきくな。小坊主に何がわかる」
「ゴウさん」
タイールがもう一度ゴウに呼びかけた。
「私たちはガッターを選んで乗ったんじゃない。ガッターロボに選ばれた人間なのですよ」
「知ったことか!」
「ゴウ、今はこの俺がガッターを壊させやしねえ!」
竜馬が怒鳴る。
「うるせえ! おれは本気だぞ!」
ゴウはあらためて銃を構えた。
「おお、撃ちやがれ! ただし、一発でやらねえとおまえが死ぬことになるぞ!」
その頃、別の通路から真ガッターの格納庫に立ち入る男の姿があった。
狂った鬼人の形相のガイが、ゴウ以上の爆薬を持って真ガッターに向かっていた。
そして、ガッター格納庫から爆音が響く。
「なんだ?!」
ゴウたち三人はガッターの格納庫へと駆けこんだ。
真ガッターの開かれていた胸部の搭乗口に爆炎が上がり、煙の中に血だらけとなったガイがいた。
「ハハハ、やったぞ! オレは人類を…地球を滅ぼす悪魔をやっつけたのだ! これでオレたちは救われる!」
ガイを異変が襲った。
破壊されたガッターの胸部から、内部のメカが増殖を始めたのだ。
質量を増やしていくガッターの内臓は、ガイの身体を取り込み始めた。
ガイの身体がメカに侵食され、人ならざる姿へと変じていく。
「ガイ!」
ゴウはクレーンから垂れていた作業用のチェーンにキャットウォークから跳んだ。
振り子のように宙を移動し、ガイが吸収されようとしている真ガッターの胸部に取りついた。
「ガイ、死ぬなぁぁー!」
ゴウは絶叫する。
ガイはすでに全身をガッターに取り込まれ、顔だけが、人面祖のようにこちらの世界と繋がっていた。
そのガイが、何かを口にしていた。
それは歓喜の言葉だ。
「ガイ! こんなところで、こんな形で死ぬなんておれが許さん!」
「大丈夫だ、ゴウ…オレは死なないよ。ただ元の形に戻るだけだ…オレはバカだったからわからなかったが…ガッターの中に入ってすべてがわかった。時間と空間…世界とオレの関係、それはすごく簡単なことだったんだ。1+1はどうして2なのか…いや、2だと思っていたのか…小さい頃オレのお婆ちゃんが死んだ理由も…すべてわかるぞ…」
「ガイ、しっかりしろ、今助け出してやる」
「いいんだよ、ゴウ…オレも、おまえも…あの光の中に戻っていくんだよ…そうだ、光だ。命の光だよ…」
「ガイ、気をしっかり持て!」
「ゴウ…時間がない。今わかったことを教える。今、核を満載したコロニーが地球に向かっている…大気圏に突入して地表にぶつかり爆砕されて…地球全土に放射能を撒き散らす。それまであと44分38秒だ。止められるのはガッターだけだ。ガッターを壊すのはそれからでいい…それに、みんなここにいる。ケイも…」
ガイ・ダイドーはガッターに吸収された。
何事もなかったように滑らかな装甲を取り戻したガッターの胸部からゴウは転落する。
その腕を、クレーンの昇降台で駆けつけた竜馬が掴んだ。
「…まったく、世話の焼ける奴らだ」